光あるところ闇はあり。

闇より出でたる、人の邪心もろとも命をむさぼる魔物あり。

されど案ずるなかれ。

守りしもの、光より参じて我ら救わん。

その者たちの名を。魔戒騎士という。

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加筆して、投稿しなおしました。


魔戒騎士鎧伝 焔怒

「貴方、うちでアイドルやってみない?すぐに売れっ子になれるわよ」

「えっ…あの、私…ですか?」

 

とある街角で少女は、サングラスをかけた女性に声をかけられた。

つい先日上京してきたばかりの、まだまだあか抜けない少女にとっては寝耳に水の出来事だった。

あたふたと慌てつつも、少女はサングラスの女性の話を熱心に聞いている。

 

「じゃあ、近くで何か食べながら話しましょう。大丈夫、悪いようにはしないわ」

「わ、わかりましたっ」

 

少女は疑いを持つ暇もない、といった風にサングラスの女性の背中を追う。

無垢な少女を背に、女は舌なめずりをした。

 

 

 

 

 

 

「あー腹減ったぁっ!!」

 

買ったばかりのホットドッグを両手に持ち、男はどすんとベンチに腰掛ける。

黒の長髪、頬に一文字の傷。夏日なのに赤みがかった黒のコート、首元に女性の顔を象った装飾がついたネックレス。

そして腰には長剣と実に怪しい恰好だ。道行く人々は訝しげに彼を見ては去っていく。

 

「朝から歩き詰めだったからなぁ…」

 

そう呟いてはホットドッグにかぶりつき、二口ほどで一つを完食する。

そして、もう一つに口をつけようとした時。

 

『お楽しみのところ申し訳ないのですが、“的”が動き出しました』

 

首元のネックレスについた女性の顔が口を開いた。

その声に、男はホットドッグを一口で食べ終え応える。

 

「やれやれ、ようやく動き出したか。新しい獲物でも見つけたかな?」

『そのようです、陣。我々も行きましょう』

「了解。…そいじゃ」

 

ホットドッグの包みを丸めてゴミ箱に放りつつ、陣と呼ばれた男は立ち上がる。

 

「お仕事の時間だな。」

 

 

 

 

 

 

女性客で賑わう喫茶店の屋外テラスに少女とサングラスの女はいた。

少女の前にはオレンジジュース、サングラスの女の前にはアイスコーヒーが置かれている。

 

「ごめんなさい、自己紹介してなかったわね。私、ジャパンスタープロダクションの雪村と言います」

「あ、えっと…鈴村…カナ、です」

 

サングラスの女性…雪村は、いかにも都会に出たてといった感じのカナの姿を見てそっと微笑む。

 

「私ね、今はこうしてスカウトマンしてるけど…あなたと同じで、地方から出てきたの」

「そう…なんですか?」

 

黒いスーツを着こなす雪村の姿に恐縮していたカナだったが、地方出身と聞くと途端に興味を持ったように目を向けた。

その姿を優しく見つめ、サングラスを外す雪村。

 

「カナちゃん、私ね…いろんな女の子を見てきたけど、あなたを初めて見た時ビビっときたのよ。

陳腐な表現だけど電撃が走るっていうのかな。あなたなら一番になれる…って自然に思えたのよ。」

「……。」

 

雪村はカナの手を取り、その目を見つめ…諭すように声をかける。

 

「カナちゃん、私と一緒に…輝いてみたくない?」

 

カナはしばらく目を閉じて考えたのち、目を開いて意を決したように言葉を紡ぐ。

 

「よろしく、お願いします…っ」

「ええ…!こちらこそ、よろしくお願いします」

 

カナの答えを聞いた雪村の手は、カナの手を強く握っていた。

その後、話にひと段落がついたころ…注文していたパスタとシャーベットを持ってウェイターが現れた。

 

「お待たせいたしました。…それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」

 

カナはふと、去っていくウェイターに目を向けていた。

そのウェイターは頬に一文字の傷がついていた。

 

 

 

 

 

 

夜になり、雪村とカナはとあるビルの最上階にあるジャパンスタープロダクションのオフィスにいた。

 

「こんな時間まで連れまわしてごめんなさいね」

「い、いえ…」

 

カナは大きな黒いソファーに腰を下ろし、オフィス内を眺める。

このオフィスには雪村以外に人間が見当たらない。そのことにカナは一抹の不安を覚えていた。

 

「せっかくだから、他のスタッフにもカナちゃんを紹介しないとって思ってね」

 

そう言って雪村は部屋を出る。そのときに鍵を閉めていた。

それを見て、カナの不安はどんどん大きくなっていく。

 

「や、やっぱりこれって…その…」

 

カナの脳裏に浮かぶもの…おそらく自分はいかがわしい映像に出演することになるのではないか。

これから屈強な体の男たちが次々に部屋に入ってきて、自分にいやらしいことをするのではないか。

そういう想像が頭をよぎる。

 

「に、逃げようにも鍵かけられちゃったし…携帯持ってないしぃ…」

 

自分みたいな田舎者がスカウトされるなんておかしいと思ったのだ、裏があるんだと

涙目になりつつあーだこーだ考えるカナだったが、扉が開き再び雪村が現れた。

 

「お待たせ。じゃあ、こっちの部屋に来てくれるかしら」

「…は、はい…」

 

もはや観念するしかないのか…と暗い顔の少女を見て、不思議そうな女性。

 

「…どうしたの?」

「…あの…、私えっちなことされるんでしょうか…?」

 

少女の疑問に吹き出した女性は、彼女を安心させるようにその肩をぽんとたたいた。

 

「そんなことしないわよ、安心して。

疑うのはわかる。でもね、これは本当なの。あなたはアイドルになれるのよ

 

カナの肩に手を置き、何も心配することはないと言うように優しく微笑む雪村。

 

「そ、そう…ですか」

 

雪村の微笑みを見て、カナは先ほどまでの自分を恥じた。

この人は初対面の自分にこんなに可能性を感じてくれたのに、自分は疑ってばかりだと。

こんなことではダメだ、とカナは決意を新たにした。

 

「この部屋でみんな待ってるわ。皆、これからのあなたの仲間よ」

「…はいっ」

 

雪村に案内され、奥の部屋に通されたカナを迎えたもの…それは。

 

「……えっ」

 

まるで冷凍庫のような冷気と…数体の氷漬けの死体だった。

 

「………ひ、ひぃぃっ!?」

 

 

 

 

 

 

死体が腐らないように一定の温度に保たれた部屋。

そしてその部屋に積まれた死体はそのすべてが、連れ込まれた少女とほとんど同世代のものだった。

 

「彼女たちが貴方の仲間。あなたも…彼女たちと同じように輝くのよ」

 

雪村は、氷漬けの死体のうちのひとつを愛おしそうに撫でて…そのままかぶりついた。

肩口からもぐ、もぐと食べ進み、首の付け根まで食べたところで死体から離れた頭を持ち、カナに近づいていく。

 

「ただの女の子じゃだめ…あなたみたいに希望と夢にあふれた、無垢な女の子じゃないと…」

 

舌なめずりしながら近づく雪村の姿に、カナは腰を抜かしてしまう。

逃げようにも部屋のドアはまるで動かない。足がすくんでいうことを聞かない。

 

「逃げようとしてもダメよ?一緒に輝きましょう…?」

「や、やだ…こ、こないで…」

 

涙があふれ、恐怖にゆがむカナの顔を恍惚とした表情で見つめる雪村。

そのまま、腰を抜かしたカナの首に手をかけようとした…その時。

 

「…そうはいかねえんだな、これが」

 

突如ドアが開き、女は後方に吹き飛んだ。

 

少女が振り返ると、そこには喫茶店のウェイターが立っていた。

 

「………えっ」

「間一髪だったなぁ、まったく。……ひでぇ顔だ」

 

そう言うとウェイターは少女の顔をタオルで拭いて連れ出す。

 

「ちょっと急ぐぜ、しっかりつかまってろよ!」

 

ウェイターはカナを抱き抱えるとオフィスを走り抜け、ビルの出口を目指す。

そしてビルを出たところで、カナを物陰に降ろす。

 

「いいか、ここを動くなよ。これ以上怖いものを見たくなければな?」

 

カナは声も出さず、ぶんぶんと首を縦に何度も振る。

それを見てニッと笑ったウェイターは制服の上着を脱ぎ、裏返して再び着なおした。

どういう仕組みなのか裏返した制服ではなく、赤みがかった黒いコートに変わっていた。

 

「……ぁっ」

 

カナは去っていく男の後姿を見て、気を失った。

 

 

 

 

 

 

「私の邪魔をするなんて、どこのおバカさんかしら」

「いくらでも邪魔してやるさ。それが俺らの仕事だからな」

 

カナを追い、ビルから出てきた雪村と対峙する黒コートの男…陣。

ふと雪村の体が歪に膨らみ、そして弾ける。

 

「つまり、魔戒騎士…というわけねェェェェェ!!」

 

そして現れたのは体中に結晶体を持った白い化け物。その体は陣よりも何倍も大きい。

 

『このホラーはゼルムート。絶対零度を超える魔界の凍気を操るホラーです。』

「なるほど…そりゃ寒いわけだ」

 

ネックレスの装飾……魔導輪・メルヴァの声に軽口で答える陣。

 

ホラーとは、この世のあらゆるものの邪念…“陰我”より現れ、人に寄生し食らいつくす魔物のことであり

白い化け物……ゼルムートもまた、そのホラーの一体であった。

 

ゼルムートは雄たけびを上げながら、体中の結晶を隆起させ…陣に向けて発射した。

 

「おっとっと!」

 

結晶体はすべて回避され、コンクリートの地面に突き刺さる。

突き刺さった部分から徐々に周囲が凍り付いていく。

 

『気を付けてください。ゼルムートの凍気はこの世界の炎ですらも凍てつかせます』

「こいつはこえぇ…絶対喰らいたくねえ」

 

そう嘯きつつ、帯刀していた長剣を抜く。

その姿を見るなり、ゼルムートはその長大な腕を振り乱して襲い掛かった。

 

「ふっ!」

 

凍気を纏う腕を剣でいなしつつ、剣の腹でゼルムートの顔を打つ。

強烈な一撃にゼルムートは顔をゆがめ、怒りを露わにする。

再び雄たけびとともに体中から氷の結晶体を生み出し、陣に向けて発射する。

が、その全ての結晶体は陣に命中する前に彼の振るう剣によって叩き落され、コンクリートの地面に突き刺さっていた。

それを見て、ゼルムートはニヤリと口をゆがませる。

 

「っ!?」

 

気付いた時にはもう遅かった。

陣の立っている地点はすでにゼルムートの凍気に侵され、足首のあたりまで凍り付いていた。

動こうにも動けない陣を前に、ゼルムートが口を開く。

 

「ちっ!」

 

そして吐き出される超低温のブレス。

まともに浴びた陣の体は瞬時に凍り付き、その地点には巨大な氷柱が生まれた。

氷柱の中には立ったままの陣の姿があった。

 

 

凍り付いた死体を好むゼルムートにとって、氷漬けの魔戒騎士などご馳走以外の何物でもない。

舌なめずりをしながら頭からかぶりつかんと、氷柱へ近づいていく。

その時だった。凍り付いたはずのメルヴァが口を開いた。

 

『獲物を前に舌なめずり…三流のやることですね。陣、今回の仕事は楽そうですよ』

「!?」

 

突如、氷柱は炎に包まれて火柱と化した。その熱によって、凍り付いた地面を溶けていく。

そして火柱が消えたとき、そこにはあの黒コートの男が無傷で立っていた。

 

 

 

 

 

 

「なぜ…なぜ生きている!?」

 

驚き、陣から距離をとって威嚇する姿勢をとったゼルムート。

 

「たしかに…すげえ凍気。だが…まぁ、相手が悪かったな?」

『その程度の凍気で陣と私をどうにかしようなど、舐められたものですね』

 

陣は長剣を天へ向けて構え、その切っ先で円を描くように振る。

そして、描かれた光の円に向けて拳を突き上げた。

 

眩い光が迸った後、そこにいたのは……深紅の狼。

 

「業炎騎士(ゴウエンキシ)、焔怒(エンド)……参る。」

 

深紅に輝く狼を象った鎧、まるで鋸のように攻撃的な刃に変化した剣、そして白い瞳を持った魔戒騎士。

魔導火の化身とあだ名される、業炎騎士・焔怒。

 

人を食らうホラーを倒し、牙なき人々を救う“守りしもの”―それが魔戒騎士なのだ。

 

ゆっくりと歩みを進める焔怒。ゼルムートの凍気にさらされていたはずの地面はむしろ焔怒の炎で溶けつつある。

その姿に恐怖を覚え始めたゼルムートは、なりふりかまわず長大な腕を振り回す。

だが、焔怒の剣はそれを軽々と受け止め…いとも簡単に切断する。

 

右腕を失ったゼルムートは、雄たけびをあげながら地面に左腕を突き立てる。

すると、地面から次々に結晶体が生え…そして人型に変化した。

 

「なんだありゃ?」

『ゼルムートは結晶体をつかって、自分の僕を作り出すことができるのです。ですが…』

 

ゼルムートの僕たちはその両腕を鋭利な刃物のように変化させて次々に焔怒に襲い掛かる。

そのうちの一体に向けて、焔怒が魔導火を纏った拳を見舞う。

 

『その程度では足止めにもならないでしょう』

「はっ、違いねぇ!」

 

焔怒の拳を受けたゼルムートの僕はいとも簡単に燃え尽きてしまった。

焔怒は、掌に魔導火を迸らせながらゼルムートらへ向けて剣を構える。

そして、次々にゼルムートの僕たちを切り伏せていく。

あるものは襲ってきた瞬間に串刺しに、あるものは拳で胴体を貫かれ、あるものは近づいただけで魔導火に焼かれて蒸発し

瞬く間にすべての僕は焔怒の餌食になっていた。

 

「グゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

その光景を見てゼルムートは雄たけびをあげながら空へ飛びあがる。

そして、残った左腕に巨大な結晶体を作り出し…焔怒めがけて打ち出した。

 

「はぁぁっ!!」

 

自身めがけて飛んでくる結晶体に向けて、炎を吹き出す拳を突き出す。

その炎を受けて、結晶体は拳に触れることなく蒸発してしまった。

 

焔怒はゼルムートを追って、空へ飛びあがる。

上空で向かい合う両者…。先に仕掛けたのはゼルムートだった。

 

「シャアアアアアアアッ」

「っ!」

 

焔怒に向けて再び凍気を吹きかけるが、全て魔導火でかき消されてしまった。

そして残る左腕も切り落とされて、力なく落下していくゼルムートに向け…

 

「でやあああああっ!!」

 

炎を纏った剣にて、その首を根元から断ち切った。

首を飛ばされた胴体は空中で灰になっていく。

残された首も地面に落ちたと同時に消滅した。

 

 

 

 

 

 

明くる日、カナは公園のベンチで目を覚ました。

夕べ、何があったのかはよく覚えていない。何か恐ろしいことがあったようだが…

 

「…あれ?」

 

手元を見ると、ホットドッグが握られていた。

ホットドッグを無意識のうちに頬張りつつ、カナは不思議そうに公園を後にしたのだった。




また試しに書いてみました。

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