雪の軌跡・リメイク 作:玻璃
独自設定が多数炸裂しますご注意。
では、どうぞ。
シェラザードに財布の中身をむしられた次の日、アルシェムは再び掲示板を見ていた。現在アルシェムが受けられる依頼は2つ。子猫の捜索と手配魔獣である。アルシェムはまず子猫の捜索から終わらせることにして遊撃士協会から出た。行先は居酒屋アーベントのテラスである。
アルシェムがその場に辿り着くと、いかにも困っています、という風情を醸し出した女性が立っていた。アルシェムはその女性に話しかける。
「初めまして、遊撃士のアルシェムです。イーダさんで間違いないでしょーか?」
「あ~、ブレイサーさんね?」
「はい。何でも、子猫をお探しとか。特徴を教えて頂けませんか?」
何ともゆっくりとした話し方をする女性だが、アルシェムは辛抱強く言葉を待った。
「ええっとねえ~、とおってもカワイイ顔をしてて~、性格も良くって~、それで、秋の夕日に照らされた小麦畑みたいな色をしてるの~」
「そーなんですか。分かりました、すぐに見つけてきますのでここで待ってて下さいね」
「お願いね~」
アルシェムは内心でイーダの話し方を鬱陶しいと思っていたが、顔には出さないでおいた。依頼の達成には関係ないだろうが、少しでも心証が良い方が望ましいからだ。アルシェムは一礼してイーダの前を辞すと、ゆっくりと気配を探りながら子猫を探し始めた。
子猫は比較的早くに見つかった。時計台の前にそれらしき子猫がいたのだ。アルシェムは気配を消して子猫に近づいた。もう少しで確保できる、とアルシェムが思ったその時。
「にゃぁお~ん」
子猫はさっと後ろを向いてアルシェムを視認すると駆け出した。アルシェムは子猫に追走し、市街から出ないよう、また袋小路に追い詰められるように誘導していく。しかし、子猫は必死に逃げ、とうとう建物の中に逃げ込んでしまった。場所は、七耀教会である。
「……全く。メルせんせーにも手伝ってもらおーかな……」
アルシェムはそうぼやきながら子猫を追った。気配を探り、動かなくなった場所へと向かう。すると、そこには金髪のシスターが子猫を抱いてあやしていた。
「にゃ~ご。にやゃゃあ~」
「にゃ~ご。にゃお?」
しかも、無駄に似せた鳴き声で猫と会話までしているではないか。ふと机の上を見ると、『猫語日常会話入門・上級者編~これであなたも猫マスター~』と題された分厚い冊子が置かれていた。アルシェムは呆然としながらメルに声を掛けた。
「あー、メルせんせ?」
「にゃっ!? いつからそこに……!?」
「さっきから。あー、うん……見なかったことにする」
アルシェムが目を逸らしながらそう言うと、メルは顔を真っ赤にしながら殴りかかってきた。その碧眼にはわずかながら涙が浮かんでいる。どうも猛烈に恥ずかしかったようだ。
「い、いるなら声を掛けて下さいと何度も言ったでしょう!」
「や、まさか猫と戯れてるとは思わないから! しかも、捜索対象の猫と!」
「ふしゃーっ!」
いかにも猫っぽく威嚇してくるメルを宥めつつ、アルシェムは彼女に伝えるべきことがあったのを思い出したのでこう告げた。
「メルせんせー、いや、メル。わたしがロレントから去ったらルーアンへ転属して。今のロレントを見張る意味はないから」
「……分かりました。監視対象はあの方になるんですね?」
「勿論。あと、『ジョゼット・ハール』についても調査をよろしく。それ以外にも何かあれば教えて」
アルシェムはメルにそう指示をすると、くるりと踵を返した。メルはそのアルシェムの背に頭を下げ、次いで思い出した。未だ自分が猫を抱えたままだということに。メルはアルシェムに子猫を渡そうとしたが、何を思ったのかアルシェムはメルを連れ出した。
「そーいえば子猫って柔らかいよね。潰しそうだよね。とゆーわけでメルせんせー、手伝って?」
「いや、普通に扱えば潰しませんから……」
メルに懐いている子猫は大人しく抱かれているのだが、アルシェムが手に取ろうとすると思いっきり威嚇してくるためにこの処置である。基本的には動物に好かれていないのを今更ながらに思い出したアルシェムは地味に傷ついていたとか。とにかく、アルシェムは無事にイーダに子猫を届けることが出来た。
アイナに苦笑されながら報告を終え、アルシェムは次なる依頼へと向かった。場所はエリーズ街道。依頼の内容は、ライノサイダーと呼ばれる魔獣の討伐である。先日駆逐しすぎたミルヒ街道とは違い、エリーズ街道には魔獣が跋扈していた。
「うーん、それにしても……パインプラントに、ライノサイダーか……」
アルシェムは魔獣を駆逐しながら考え事に没頭していた。内容は、先日狩った手配魔獣・パインプラントと今回の手配魔獣・ライノサイダーについてである。この二者の魔獣はともにミストヴァルト、という森に出現する魔獣である。パインプラントは偶然かも知れないが、ライノサイダーまで出て来てしまってはミストヴァルトで異変が起こってしまっていると言っているようなものだ。その原因の1つは心当たりがあったものの、アルシェムの知る原因だけではないはずである。アルシェムの知る原因は、二年ほど前からあるもので今回いきなり異変を引き起こすようなものではない。つまり、ミストヴァルトに何かしらの異変が起こったということである。
これは調査する必要があるかも知れない、とアルシェムは思った。今何かしらの異変が起こっているとして、他人に調査されてアルシェムがミストヴァルトに隠している物体を見つけられては困るのである。対処方法がないこともないが、できれば自分の目で確かめておきたかった。
アルシェムは手配魔獣を難なく片付け、遊撃士協会へと向かった。
「あら、もう手配魔獣を狩ってきたの?」
「はい、それでちょっとばかし気になることがあるんですけど……」
アイナはアルシェムの懸念を聞いて眉をしかめた。魔獣の生態系が崩れただろう場所では何か異変が起こっている、という考え方は確かに以前からあったし、半々くらいの確率で原因が見つかるからだ。アイナは暫し考え込み、そしてアルシェムに言った。
「こんなことを準遊撃士に頼むものでもないんだけど……協力員としての経験を持つ貴女になら任せられるかもしれない。……準遊撃士アルシェム、貴女にミストヴァルトの調査を依頼します」
「分かりました、承ります。今から昼食を取って出かけますけど……もし、夕方になっても戻って来なかったらシェラさんに連絡をお願いします」
「ええ、分かったわ」
アルシェムはアイナに行ってきます、と声を掛け、居酒屋アーベントで軽くサンドイッチをつまんでから再びエリーズ街道方面へと向かった。すると、街道に向かおうとする蒼い髪の少女を見かけた。先日アルシェムがぶつかったジョゼットである。アルシェムはジョゼットに近づいて声を掛けた。
「そっちは街道ですけど、何か用でもあるんですか?」
「ふえっ!?……あ、あら、アルシェムさん……だったかしら。御機嫌よう」
「ご機嫌よー」
飛び上がったジョゼットはそれでも優雅なカーテシーをアルシェムに向けて行った。アルシェムも返礼しておく。ジョゼットはそれでは……と言いながらそそくさと逃げ出そうとするが、アルシェムはそれを引き留めた。
「どこに行くんですか? ジョゼットさん」
「え、ええ、少しミストヴァルトに行ってみたいなあ、と思いまして……」
ジョゼットの顔は若干引き攣っている。内心ではとっとと行きたいから離せバカ! と思っているのだが、アルシェムは知る由もない。イライラしているのは分かっていたが、何を焦っているのかわからない状況だ。
ここで、ジョゼットはある失態を犯してしまっている。それは、アルシェムの前で行先を告げてしまったことだ。ミストヴァルトには何かしら異変が起きている可能性がある。そして、その場所に行きたいと言うということは、よっぽどの変人でない限りミストヴァルトの異変に関わっていると宣言しているようなものである。
アルシェムは疑いを顔に出さずにジョゼットにこう言った。
「そうなんですか! わたし、今からミストヴァルトに行く予定があるんです。良ければ護衛しましょうか?」
その言葉に、ジョゼットはあからさまに引いた。これはもしかするとばれているかも知れない。懐の中にひそませたとあるものに無意識のうちに触れながらジョゼットはそう思った。もしばれていなかったとしても、アルシェムは遊撃士である。もしもミストヴァルトの奥にあるアレが見つかってしまえば取り返しのつかないことになる。そうなる前に、この遊撃士をどうにかしなければならない。そこまでジョゼットが考えた時だった。
「ジョゼットさん?」
唐突にアルシェムから声を掛けられて、ジョゼットは飛び上がった。そして、あからさまに挙動不審になってこう答える。
「あ、ええと、じゃあお願いしますわ」
「はい。じゃー、行きましょーか」
そうして、ジョゼットはアルシェムと連れ立ってミストヴァルトへと向かう羽目になってしまった。ジョゼットとしてはアルシェムを排除してミストヴァルトへ向かいたいのだが、アルシェムには隙がない。しかも、魔獣を見るや否や狙撃して倒していってしまうのである。折角《銀閃》が依頼で外している時を狙ったというのに、こんな兇悪な遊撃士が残っているとは思ってもみなかった。
そこで、ジョゼットに救いの神が現れた。前方から仲間がやってきたのである。ジョゼットはポケットの中に手を入れてその仲間に目配せをした。
アルシェムは呑気に歩いてくる男を見てこうつぶやく。
「……あれ、街道を歩くなんて勇気あるね、あのおにーさん」
「そうですわね」
「あ、ジョゼットさんもだったか……あんまり無謀なことはしないよーにね? 心配してくれる家族がいるのなら、尚更、さ」
アルシェムがそう言った瞬間だった。ジョゼットはポケットの中でオーブメントを駆動させた。
そして、アルシェムに、時属性アーツ・ソウルブラーが複数個アルシェムに突き刺さった。
「……気付いてたけど、やり過ぎ……」
そして、アルシェムは気絶した――ふりをした。本来ならば懐の特殊オーブメントのおかげで状態異常とは無縁なのだが、ジョゼット達の目的を知るために敢えてそうしたのである。これ以上仲間がいるのかどうか、そしてどういう理由でミストヴァルトに向かうのかを知るためである。気絶した振りをしたアルシェムは、こっそりと鞄に穴をあけ、その隙間からネジの入っている袋に穴をあけた。
ジョゼット達はアルシェムが気絶した振りをしているのに気付くことなくアルシェムを担ぎ上げ、そしてミストヴァルトへと向かった。迷いなく奥へと進む一行は、気付かない。アルシェムがネジをばらまきながら運ばれていっていることに。
ミストヴァルトの奥の空間に辿り着くと、そこには野営の後と複数の男達が待っていた。どうやら仲間らしい。そこにはアルシェムに見覚えのある男も交じっていた。ジョゼットは部下らしき男に指示してアルシェムを後ろ手に縛らせた。そこで気絶から回復していたことに気付かれたのだが、既に縛られた後なので問題ないと思ったのだろう。アルシェムが二度目のアーツを喰らうことはなかった。
アルシェムはそれを良いことに起き上がって座ると、ジョゼットにこう問いかけた。
「……で、ジョゼットさんや。何やらかしたの? 七耀石でも盗んだ?」
「なっ……何でばれてるの!?」
「だってさ、鉱山で爆破してくれちゃったヒトがそこにいるんだもん。疑うなってのがおかしーってね」
目ざとくそれを指摘してやれば、ジョゼットは舌打ちをして言った。
「てことは、鉱山でコイツを助けてくれたのはキミってことか……よくも邪魔してくれたなって言いたいとこだけど、それだけは感謝しとく」
「素直じゃないなー、全く……」
「う、うるさいっ!」
ジョゼットは顔を赤らめながら悪態をついた。どうも、猛烈に恥ずかしいようである。アルシェムは苦笑しながら言葉をつづけた。
「あー、そーいえばその七耀石さ、多分買い手付かないよ」
「え……」
「女王生誕祭前のこの時期に、わざわざ遊撃士に依頼してまで取りに行かせる七耀石だよ? 間違いなく保証書がついてるし、多分直筆の署名も入ってるはずだから」
アルシェムがその言葉を吐くと、ジョゼットは慌てて懐から七耀石を取り出した。翠色に輝く翠耀石である。ロレントでは特によく産出する七耀石だ。宝飾品としても、更には飛空艇等の導力源としても貴重なものだ。翠耀石の売り上げはロレント地方の収入の約七割を占めている。
そして、そんな特産品である翠耀石であるが、大振りで、なおかつ宝飾品としての価値が高いものには産地等を保証する保証書が付けられているものが多い。恐らく、この翠耀石も同様であろう。アルシェムはあずかり知らぬことではあったが、この翠耀石はロレント市長クラウス氏よりリベール王国の女王アリシアⅡ世陛下へと献上されるものである。当然保証書はつけられており、クラウス氏は別の場所に保管していた。
「……お、お嬢……」
「……そう言えば、そうだったかもね。確かにミラにはなるけどそんなことまで覚えてらんなかったし……うん、売れないならただの石ころなんだよねえ、これ」
そう言ってジョゼットは空に翠耀石を翳した。太陽の光に反射して翠耀石は煌めいている。ジョゼットはしばらくその煌めきを見つめていたが、ゆっくりと目を閉じて手を降ろした。
ややあって、ジョゼットは翠耀石をアルシェムのキュロットの上に置いた。
「……返しといて」
「捕まる気はない、と……うーん、遊撃士としてはこのまま大人しくお縄につけ! っていうところなんだけどなー……」
「え?」
アルシェムの言葉に眉をひそめるジョゼット。遊撃士としては、という言葉に引っかかったのだろう。アルシェムは紛うことなく遊撃士なのだが、その言い方だと別の立場があるようにも聞こえるのである。
眉をひそめるジョゼットにアルシェムは棒読みでこう告げた。
「どー見てもこの場所、飛空艇か何かを止めた痕跡があるんだよねー。んでもって、多分わたしだけじゃ止めらんないんだよねー」
「何が言いたいのさ?」
「要するに、しばらく抵抗しないであげるから、事情が聞きたいなってこと。何でミラが必要なのか、とかさ。どーせそっちも暇でしょ?」
アルシェムが意味ありげにそう言うと、ジョゼットはしばらくアルシェムをぽかんと見つめていた。そして、ハッと我に返ってこう問うた。
「そ、そんなの知ってどうすんのさ?」
「情状酌量の余地がある気がするんだよね、ジョゼットさん達。根っからの悪人でもないしクズでもない。だから何でこんなことをしなくちゃいけなかったのかの理由が知りたいんだよ」
周囲にいる男達はそんなことを話す必要はない、だのどうするんですかお嬢、だの騒いでいる。しかし、ジョゼットはそれを意に介することなく黙り込んだ。確かに事情はある。ミラをためて、いつか故郷に帰りたい。それがジョゼット達《カプア一家》の目的であり悲願である。ただ、どこかしら甘い兄のせいというべきか、おかげというべきか、凶悪な犯罪に手を染めたことはなかった。この七耀石強奪だってそもそも反対されたのだ。ここにきて、ジョゼットの中で少しずつ溜まってきていた罪悪感が表に出始めていた。
しばらくして、ジョゼットはアルシェムに告げた。
「……暇つぶしだよ。こっちに迎えが来たら終わり。そっちにも迎えが来たら終わりね」
「ん、りょーかい」
そうして、ジョゼットは語り始めた。自らの過去、数年前までの幸せな日々を。
「……アンタだったら多分気付いてるんだろうけどさ、もともとボクは帝国貴族の一員だったんだ。これでも一応貴族のお姫様だったんだよ? 笑えるよね」
「や、笑わないけど。ジェニス王立学園の制服があそこまで似合うのはそーゆー事情があったからかー……」
「べ、別に褒められてもうれしくないからな! ……そ、それで……うん。3年くらい前に……家に、リドナーとかいう男が来てさ。それで、土地を売らないかって持ちかけて来たんだ」
そして、ジョゼットの兄はそれを受けた。土地はリドナーに売られ、何かしら事業が始まるはずが――始まらなかった。その後、土地の権利書は《クリムゾン商会》なる商会に売り払われ、慌てて長兄は買い戻そうとするも交渉に失敗。何度も何度も交渉に足を運ぶたびにミラが失われていった。本格的にマズイと次兄が思った時にはもう遅い。既に残された領地を経営するだけのミラは既になく、心無い使用人は宝飾品等を盗んで逃げ去り、また信用をも失っていた。あったものはと言われれば多額の借金のみ。止む無く長兄は統治権を相談の上、所属するノルティア州の領主ログナー侯爵ではなくバリアハート州の領主アルバレア公爵へと移譲。残った財産を飛空艇を残して二束三文で売り払い、何とか借金だけは返上した。しかし、《クリムゾン商会》は新たな借用書を取り出して借金の返済を迫ったため、長兄はようやく騙されていたと気付いた。というのも、書いたこともない借用書だったからである。慌ててその場を切り抜けて屋敷へと戻り、残していた飛空艇へと次兄とジョゼット、そして最後まで残ってくれた家臣達を乗せてエレボニア帝国を脱出した。
「……それで、空賊をやりつつ今に至るってわけ」
「……成程。うん、やっぱ人が良すぎるわ、ジョゼットさんのお兄さん」
アルシェムは嘆息しながらそう告げた。アルシェムならばその場で復讐に走るだろう。復讐を選ばずにただ愚直に取り戻すという様は、確かにお人好しだった。
少なくともFCに関しては事件に関連のある場所と手配魔獣の元々の生息地って合致してたりするんですよね。
意識的に制作側が頑張ったんでしょうね……
では、また。