雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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 旧146話~147話までのリメイクです。
 100話まできてしまった。
 では、どうぞ。


それは野を這いずり

 セレスト曰く、《幻影城》と名付けられたその場所に辿り着いた一行は、《影の王》の指示に従ってどの門から誰が入るのかを決めていた。右門には、金の巨人。左門には、黒の幻想。正門には、紅き聖獣。そして、大門には世界の意志が待っているらしい。大門に関してのみケビンとリースが必要なのは確定のようだ。文字から類推しつつ、誰がどの扉に入るのかを決めていくのだが――ここで、一つ問題が起きた。

 本来ここにいるべきではない人物たち――アルシェムとその従騎士達、そしてティオである――は、どの門からも侵入を拒まれてしまったのだ。取り敢えずは彼女らは居残りということにしてそれぞれ分かれていく。因みにギルバートも弾かれていた。ギルバートに関しては文言が後から付け加えられたので、正式にその場にとどまっていれば良いという大義名分を得ていた。

 そして、彼女らは以下のようにわかれる。右門には、ヨシュア、エステル、ティータ、レン。左門にはアネラス、ジョゼット、オリヴァルト、ミュラー。正門にはアガット、クローディア、ユリア、リシャール。そして、大門にはケビンとリース、そしてシェラザードとジンである。ティータとアガットが離れる際にひと騒動起こしかけたのだが、それはそれ。やはりアガットはロリコンだったということである。

 ひと騒動を無事におさめた後、緊張も少々ほぐれた一行は気合いを入れて彼ら彼女らが揃って門をくぐっていった。その瞬間――アルシェム達は足元の地面の感覚がなくなるのを感じた。

 それにパニックを起こしてわたわたするティオ。

「えっ、えっ、こ、これどうすればいいんですか!?」

「何で元市長秘書が落下を免れてるのかから聞きたいんだけど……ほい、ティオ捕獲」

 アルシェムはパニック状態のティオを掴んで周囲を見回した。他に対応できていない人物はいないとは思うのだが、念のためである。案の定カリンはレオンハルトが捕獲しているのを確認したし、メルはリオが捕獲しているのを確認した。着地できないこともないだろう。あの時のように重力に従って落ちているわけではないからだ。故に、アルシェムは《聖痕》を使ってすらいない。

 そうして着地した先には、波打つ銀色の髪の少女が待ち受けていた。

「……どうして来たの? このままここに留まっていれば、貴女は幸せになれるのに……」

 悲しそうな顔をして。哀れんだ顔をして。少女はそう告げる。少女からしてみれば、ここにはアルシェムの望むものが全て手に入るはずなのだ。それなのにそれを棄てるような行為に走るアルシェムが理解出来ない。少女には、アルシェムの望むものが手に取るように理解出来てしまっているだけになおさらである。ここにいれば、アルシェムは幸せになれる。少女からすれば、それは真理だった。

 しかし、アルシェムはその言葉を完璧に戯言だと切って捨てた。

「ここにこのまま留まる? んなことしたら現実が全力で浸食されていくわけだけど、それ本気で言ってるわけ?」

「貴女の望むものはすべてここにあるんだよ。貴女が望むなら、何だってここには在れるのに。貴女が願うなら、何にだって成れるのに」

 少女は知っていたのだ。最初から、『アルシェム・シエル』という女の望みを。何故ならアルシェムは少女にとっての□□□であり、世界に求めた□□なのだから。故に、少女とアルシェムは□□だともいえるのだ。だからこそ少女はそう告げられる。本来ここに存在しなかったはずの存在であるのは、少女とて同じなのだ。この場所には存在せず、しかし少女の場合は別の場所に存在していられる。それだけがアルシェムとの違いであり、それが決定的に相容れない要素でもある。

 目に涙をためて少女は告げる。

 

「貴女の望みは、ヒトに成ること。貴女の願いは、普通の人間に成ること。貴女の祈りは、幸せを求めている。それなのにどうしてそれを否定するの?」

 

 ――それは、事実だった。アルシェムの心の奥底に沈められた望みは、願いは、祈りは全て言い当てられていた。アルシェム・シエルは人間ではない。だからこそヒトに成ることを望んでいた。アルシェム・シエルは普通の人間ではない。だからこそ普通の人間に成りたいと願っていた。アルシェム・シエルは幸せではなかった。だからこそ、幸せになりたいと心の底では祈っていた。

 だがアルシェムはそれらを全て拒否しにかかる。

「その望みが叶わないのも、その願いが叶わないのも、その祈りが届かないのも。全部分かり切ったことだからだよ」

「なら、どうして望みも願いも祈りにも近づこうとしないの?」

「あんたにだけは、言われたくないかもね」

 そうして、アルシェムは導力銃を抜いた。これ以上の会話の必要性が認められなかったからだ。少女にだけは言われたくない。それを、アルシェムは心の底から感じていた。根拠はどこにもない。だが、少女はアルシェムの終生の敵になるだろうと確信出来てしまったのだ。そして、少女も悲しそうにそれを見つめて手を振るった。少女が消えて、同じ場所に極彩色の巨いなる存在が姿を現す。

 極彩色に染まっていても、大きさが依然と異なっていたとしても、その個体をアルシェム達は知っていた。何故なら、彼を狩ったのはアルシェムであり、彼から《輝く環》を断ち切って回収したのも彼女であるからだ。そう、それは――

 

「アンヘルワイスマン――!」

 

 七耀教会内でつけられたものではない俗称を、彼女は叫んだ。あの場にいてそれをしっかり見ていたカリンは、ワイスマンの存在を皮肉ってそう名付けていたのである。《輝く環》を取り込んで、無慈悲な天の使いとなったワイスマン。そもそも破門されて外法認定されていた彼を、カリンは一生赦すつもりはなかった。故に、誰からも失笑される呼称をつけてやったのだ。

 初見の相手ではない。それは、こちらにとって有利となり得る。何故なら――全く攻撃の通らない障壁が張ってあったとしても、対抗手段があることを知っているからだ。アンヘルワイスマンの姿を見た瞬間、レオンハルトが駆け出してその障壁を砕いた。

 そして、怒涛の攻撃が始まる。レオンハルトが前衛で、カリンがその補助を。リオが前衛で、メルがその補助を。アルシェムは固定砲台化しつつティオの護衛に回っていた。このままここでティオを死なせてしまえば国際問題にもなりかねないからだ。

 それに気付いたティオはアルシェムに声を掛けた。

「あの、アル、前に――」

「正直に言ってさ、あの巨体と剣とか棒術具で渡り合うとか考えるだけで力尽きそうだからヤダ」

「え、ええ……」

 ティオは困惑したような表情を浮かべているが、それがアルシェムの本音なのだ。先ほどまでぶっ倒れていたのである。あんな体力と精神力をごりんごりん削ってきそうな相手と等渡り合っていられないのだ。それを従騎士達に任せるというのもどうかとは思うのだが、少なくともアルシェムよりは皆元気なはずである。適材適所という言葉でアルシェムは自身を納得させていた。

 と、その時だった。アンヘルワイスマンが、声を発したのは。

 

『汝を安息の地へと迎え入れん』

 

 その言葉に身の危険を感じたアルシェムは、ティオを抱え上げながらその場から飛び退った。注意深くその場所を見ていると地面が消えてしまっている。その下には虚空が広がっているようにも見えた。流石にアレに巻き込まれれば消滅も免れまい。それを本能的に察したアルシェムはアンヘルワイスマンの行動を見ながら繰り出される攻撃を避けにかかっていた。

 頭のセンサーで空いた穴を測定していたらしいティオがアルシェムに声をかける。

「アル、あれに嵌ると多分庭園まで戻されます……!」

「えー……何て面倒なことしてくれやがるのアイツ……」

 アルシェムが顔をしかめると、アンヘルワイスマンはにやりと嗤った――ように、感じられた。そして、次の瞬間。

 

 これまでとは比べ物にならないサイズの穴が開いた。

 

「え……」

「ちょっ、冗談じゃな……」

 それは、アンヘルワイスマンにまとわりついて戦っていた従騎士達をも巻き込んで庭園へと一行を転移させた。そう、そのはずだったのだ。少なくとも、アンヘルワイスマンにとっては。

しかし、従騎士達の認識は全く違っていた。穴に落とされたと思いきや、アンヘルワイスマンの背後に出現していたのだから。彼女らはその死角から持ち得る限りの最大の攻撃を繰り出した。

「――鬼炎斬!」

「七耀の裁きを受けて! セレスティ・ホーク!」

「ファイアボルト!」

「貫け、スフィアノヴァ……!」

 最初は言わずもがなレオンハルト。レオンハルトのクラフトはアンヘルワイスマンに痛撃を与えた。その痛みを感じた瞬間に有り得ないと感じたアンヘルワイスマンは振り返ろうとして、リオのクラフトに全身を荒金で削られたように削り取られる。それに苦悶の声を上げれば、エンドレスで続くファイアボルトに全身を焼かれてさらに声なき悲鳴を上げる羽目になった。それが終わるか終らないかという時に、最後のカリンのクラフトが炸裂し、全身のいたるところに突き刺さった法術の弾丸によって引き起こされた様々な状態異常にただ悶えることしか出来ない。

 アンヘルワイスマンには――それを操っていた少女には、理解出来なかった。何故彼ら彼女らがそこにいるのか。そして、彼らが存在するのならば何故アルシェムとティオが存在しないのか。前者の答えは出ないが、後者の答えはすぐに出た。アルシェムは、ティオを抱えたまま少女の背後に存在したからである。

 そして、少女は気づくのが遅すぎた。その胸には、既にアルシェムの持つ剣が生えていたからだ。信じられないものを見たかのような顔で振り返ろうとした少女は声を漏らす。

「な、何を――」

「あんたを殺せば半分は解放されるんだろうからね。ちょっと小細工させて貰った」

 アルシェムはそう言って剣をねじり、心臓――否、少女を構成している『核』のような部分を破壊した。アルシェムがしたことは本当に簡単なことだ。ただ、アンヘルワイスマンが開けた穴の先に辿り着くとされていた庭園をアンヘルワイスマンの背後に位置するように設定しただけなのだから。《影の国》の管理者としての権限を取り戻しているアルシェムにとって造作もないことである。

 そして、アルシェム達が少女の背後を獲れたのも同じ理屈だ。といってもこちらの方は少々複雑、というよりも賭けに近かったのだが。アルシェムは、『アルシェムが穴に嵌れば少女の背後に出る』という法則を付け加えたのだ。そしてわざと穴に嵌り、少女の背後を取ったのである。

 そして、アルシェムは消えゆく少女にこう声を掛けた。

「二度と顔を見ることがなければいいね」

 それに、消滅する間際に少女が口の動きだけで伝えた言葉は――『有り得ない』だった。この先必ず逢うことになるのだろう。そして、恐らくは敵対する。そのことにアルシェムは複雑な顔をして少女の消滅を見届ける羽目になってしまった。

 そうして――アルシェム達はセレスト達の待つ場所へと帰還する。一番先に終わったようで、まだ誰も戻っては来ていないようだった。一同は黙り込んだまま、複雑な顔をして皆を待つ。そうしていないと皆の中で共通認識が生まれてしまうかもしれないからだ。ティオにだけは知らせてはならない。故に、一同は黙り込んでいるのである。

 次に帰ってきたのはエステル達だった。出現したのは金色の《パテル=マテル》だったようで、ロボット大決戦の様を呈していたそうだ。エステルとヨシュアはひたすらティータの護衛に回らざるを得なかったらしい。それも《オーバルギア》を召喚するまでで、《オーバルギア》に乗ったティータはそこそこ無双していたらしかった。あの面白いオモチャ、いつか弄りに行きたいわというのはレンの言である。

 その次に帰還したのはアガット達。帰ってきた瞬間にティータがアガットに抱き着いたのはもうご愛嬌としか言いようがない。好感度がすでに振り切れているのであった。彼らが戦ったのは紅色のレグナートだったらしい。ここはここでカオスだったようだ。土壇場で閃いてしまったクローディアがアガットの口にニガトマトサンドを詰め込んではドラゴンダイブのエンドレス戦法を提案してしまったのである。アガットは今全力で口直ししたいのだが、それを言うとテンパったティータが何を言い始めるのかわからないので――大概この男もムッツリである――黙り込んでいた。

 最後に帰還したのはアネラス達。どうやら全員が初見状態で黒い《トロイメライ》に当たってしまったようで全員がぼろぼろである。それでもミュラーとオリヴァルトだけが綺麗なのはひとえにミュラーの力量が凄まじいと言えば良いだろうか。とにかく疲労困憊ではあったのだが、一応全員が無事だった。

 そして、ケビン達が入っていった門が開いた。どうやらあちらも終わったようなのだが、一向に誰かが出てくる気配もない。いぶかしげに思った一行は不安を押し殺しながら最奥へと駆け付ける。

 そこにいたのは、おろおろとして倒れ伏すケビンとリースを見つめるシェラザードと気功でどうにかしようとしているジンだった。カリンが慌ててケビン達の様子を見に行き、恐らくはもう目を醒ますだろうと断言して皆の不安を沈めたところで彼らは目を醒ました。

 ケビン達は自分達に起きたこと――ルフィナの姿を模した《聖痕》を滅した――が気絶した末の出来事だと知って動揺していたが、セレストの言葉によってそれが本当に会ったことだと確認することが出来て安心していた。もしもあれが夢ならば、イロイロと台無しであるからだ。

 このままではこの場所は崩壊する、というセレストは次いで現世への門を開くことを宣言した。そして自らに残された力をほぼ使い切ってその《天上門》を開いたのだ。別れの時が、近づいていた。

 だからといってアルシェムに何かを言えるわけでもない。別れの言葉など、切り出せるわけがなかった。これっきりというわけではないのは分かっている。恐らくまた会うだろう。会いたくないと思っていても、会わざるを得ない状況がきっと来る。だから別れの言葉なんていくらでも出てくるはずなのだ。だが、彼女から別れの言葉は出ない。

 たくさんの追及を避けるためにとっとと脱出しなければならないのに、何故かエステル達に縋ってしまいそうで怖かった。それを理解しているのかいないのか、メルが一歩進み出る。

「年長者から、というわけでもありませんがお先に行きましょうかね。いろいろやることがありますから」

「メル先生……」

 エステルがメルを仰ぎ見た。階段を半ばまで進んでいたメルはその言葉に振り向き、苦笑しながらこう返す。

「いつか言おう言おうと思っていたのですが……エステル。あたし、貴女と四つほどしか変わりませんからね」

「えっ」

 エステルは目を見開いた。それはどっちの意味だろうと取りかねたからだ。流石に十三ということはないだろう。ということはメルは二十一ということで。さして変わらないとはいえ、それだけしか差がないということに純粋に驚愕していた。因みにヨシュアも同じである。まさかそこまで若いとは思ってもみなかったのだ。

 それに次ぐようにリオも年齢を告げて――リオはメルの一つ年下である――去って行った。色々と開いた口がふさがらない一同は、こっそり気配を消していたアルシェムには気付かなかった――ティオを除いて。

 何故ティオは気づいたかというと、アルシェムが話しかけたからだ。

「……戻ったらすぐに七耀教会に行ってくれる?」

「安否確認、ですか。分かりました」

 ティオは微かに頷いた。この事態は恐らく七耀教会の管轄なのだろう。故に、巻き込まれた人物の安否を確認するのは当然のことなのだ。恐らくアルシェムが隠していることは、それに通ずるからそういうのだ。気付いたことを悟らせてはいないが、ティオはアルシェムが星杯騎士かもしれないと分かっていた。流石にあそこまでシスターたちに囲まれていてそうではないと言われるのもおかしな話だ。

 ティオが気付いたことを敢えて隠しているのは、忘れたくなかったからだ。暗示をかけて記憶を消される、というのは何となく理解出来てしまう話だから。実際、ティオが入院しているときにも提案されたのだ。悪夢のような記憶を消して生きていきたいかと。だが、ティオはそれを断った。確かに悪夢のような出来事だったが、全てを忘れてしまえばガイのこともシエルのことも忘れてしまうから。

 そうしてカリンとレオンハルトが門をくぐって行くのを見届けたアルシェムは、ティオと共に門へと向かった。

「皆さん、その……ありがとうございました。あまりお役には立てなかったかもしれませんけど……」

 ティオの言葉にエステルが気にしないようにと声をかける。役に立たないとは思っていない。むしろ、やるべきことをこなしてくれただけ有り難いと思っていた。それに、レンと皆を繋ぐ手伝いをしてくれたこともある。足手纏いだとすら思ってはいなかった。因みにティータがティオにまたお話(専門的な)をしたいと言うとティオは目を輝かせて是非にと応えていた。

 ティオが門の外に去って行き、アルシェムはそれをゆっくりと追った。そこに声をかけて来たのは、エステルだった。

「……アル、その……」

「レン、また――逢おうね」

 だが、アルシェムはエステルの言葉には何も返さない。返す必要すら感じていないのだから。故に、アルシェムはレンに向けての言葉だけを投げて門の外へと向かった。その先に光などないと知りながらも。野を這いずることしか出来ないと分かっていても、アルシェムには進む道しか残されてはいなかった。




 そういうわけで、3rdは終了です。
 意図して100話にまとめたわけではないのでそれなりにビックリしてます。
 では、また次の章で。
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