雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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 この章が終わるので閑話。誰得。

 次の章からストックに余裕がなくなったので月三回更新にします。あしからず。


閑話・とある男が野望を抱くまで

 とある男の話をしよう。夢にあふれ、果たせず、敗れ去った男の話を。そして悪夢に囚われ、悪夢の主となった男の話を。本来は純粋で、純朴だった彼が悪魔のような悪辣な人間に成った話をしよう。彼の名は――否、愛称は、ヨギといった。本名を明かすことは、ここではしないでおこう。何故なら彼は今から舞台上に上がるのであり、そんな背景があるのだとこれを観測している□□□には知られてはならないからだ。――もっとも、知られたところで□□□はヨギを見捨てるのだろうが。

 ヨギはかつてクロスベルで生まれ、エレボニア帝国で育った。といっても、一般家庭に生まれた普通の男の子だったというわけではない。エレボニア帝国の貴族エメリッヒと、クロスベルの娼婦ジョディとの間に生まれた少年だった。エメリッヒは妻アルベルティーナがいるにも拘らずジョディを溺愛していた。アルベルティーナが持たないものをジョディが持っていたからだ。

 その答えは、エメリッヒ本人がヨギに教えてくれた。

「お前が我が貴き戦軍の紋を継ぐ者だ、ヨギ。お前以外に継げる者はいない。精進するが良い」

「はい、とうさま」

 そう。アルベルティーナには子がいなかった。そもそも産めないというわけでもなかったのか、運が悪かったのかは分からない。だが、確かにエメリッヒとアルベルティーナとの間には子がいなかった。対するジョディにはヨギという息子がいた。貴族の跡取りに足る、聡明な少年だった。ヨギは見たものを一字一句間違うことなく記憶できるという特技を持っていたのだ。優秀すぎる程だった。

 そんな優秀な子を持つ娼婦が自分の傍にいて、あまつさえ一応は高貴な血を引いているはずの貴族令嬢を差し置いてまでエメリッヒの寵愛をほしいままにしている。それをアルベルティーナが赦せるわけがなかった。アルベルティーナはジョディを敵視し、陰湿ないじめが始まるのにそう時間はかからなかった。形式上ジョディの立場は妾ではなく屋敷のメイドだ。彼女を特別扱いしないようメイド長に言うだけでジョディにとっては嫌がらせとなり得る。

 ある日ヨギは傷の増えたジョディに問うた。

「どうしてかあさまはそんなに傷だらけなの?」

「それは仕方のないことなのよ、私の可愛いヨギ。あの人は、アルベルティーナ様はエメリッヒ様の妻で、私はただの妾なの。つまり邪魔者なのよ」

「そんなのおかしいよ! だって、かあさまはとうさまが好きで、とうさまはかあさまが好きなんでしょう?」

 世の中には好きあっていても片方が邪魔者になることなんて普通にあるのよ、とジョディはヨギに語った。ただの娼婦だったジョディがヨギを孕んだことで貴族の屋敷に引き取られることになるなど、本人すら思ってもいなかったのだ。子供が出来て、どうしても堕ろせなくてエメリッヒに告げた時でさえ、堕ろせと言われるに違いないと思っていた。

 だが、そうはならずジョディは今ここにいる。それがなぜなのか、ジョディが知ることはなかった。いずれヨギは知ることになるが、ジョディにはついに告げられなかったことだ。ヨギはそれを知った時、ジョディの生まれのことを、遂に本人に告げることは出来なかった――あまりにも気持ち悪すぎて。嫌悪感にさいなまれながら数日間引きこもったくらいだ。

 ジョディの身体に生傷が増えて、それを心配したエメリッヒがジョディを虐げるメイド長を追放し、アルベルティーナがその様子を見てジョディへの嫌がらせを強める。それをヨギが察せないはずがなく、彼もまたアルベルティーナに対する疑問を深めていった。ヨギは、アルベルティーナに直接問いただして後悔することになる。世の中はそんなに単純ではないのだと、彼が知ったのは五歳の時だ。

「どうしてお義母様がアルベルティーナ様で、母様はメイドなの?」

「黙りなさい下賤の子が! お前如きが貴族の真似事をしていられるのはエメリッヒの慈悲があるからよ、わたくしは認めていないわ! こんな汚らわしい子がこの古き一族の跡取りだなんて――! わたくしが妻よ! わたくしがエメリッヒの妻で、わたくしの子が継ぐのよ! 決してお前のような穢れた者が継ぐことなど認めないわ!」

「でも、僕にはお兄ちゃんも、お姉ちゃんも、弟も、妹もいないよ?」

 彼女には子供がいないのに。そう言っただけで、ヨギはアルベルティーナから頬をぶたれた。辺りのものを手当たり次第投げつけられ、地面にうずくまれば腹を蹴られ、殴られ、あまりの痛みに涙する。だが、周囲にいたメイドたちは誰も助けてはくれなかった。ジョディはその場にはおらず、エメリッヒも外遊に出ていて半年は帰ってこない。つまり、メイドたちが助けてくれない限り誰も助けてはくれないということだ。

「やだ、やめて! ごめんなさい! ごめんなさい! 誰か助けて!」

 声を限りに泣き叫んでも、誰も救ってはくれない。母も来ない。父も来ない。どれほど祈っても――空の女神だって助けてはくれない。結局その日はアルベルティーナの気が済むまでいたぶられ、次に気が付いた時には手当された状態でベッドに寝かされていた。周囲には誰もいない。母も父も横にいてくれることはなく、一人ぼっち。それは確実にヨギの心をむしばんだ。

 父が外遊から返ってくるまではそれが続き、帰ってくれば手厚く看病される。このせいでヨギは病弱であるとエメリッヒから思われていた。そんなことは有り得ないのに。体に傷があるのはアルベルティーナのせいなのに。だが、それをいくら父に訴えようと父は聞く耳を持たなかった。うわごとだと思われたのだ。故にエメリッヒはヨギの身体の傷については知らなかったのである。

 それが十回ほど繰り返された頃にはヨギももう認めていた。アルベルティーナは自分が嫌いで、邪魔なのだと。邪魔だからこうして傷つけるのだと。要するに――自分も同じことをアルベルティーナにしても良いのだと。誰も彼には教えてくれなかった。自分のされて嫌なことは他人にしてはならない、ということを。彼にだって出来る反抗はある。アルベルティーナのせいでろくに鍛錬も出来ないが、彼には頭脳という武器があるのだから。

 いつものように虐げられそうになる、その直前。ヨギはアルベルティーナに向けて言い放った。

「見苦しいですよ義母上」

「黙りなさい、あの泥棒猫の息子の分際で!」

「おや、おかしいですね。僕は父上直々に貴き戦軍の紋章を身に着けることを赦されているというのに……それすらない義母上に何を言う権利があると?」

 そうやって帝国でも古い一族だったはずの戦軍の一族の内部は爛れていく。ぎすぎすした空気。ヨギ自身、何度アルベルティーナから毒を盛られそうになったか知れない。そしてヨギも何度アルベルティーナに毒を盛ったかも覚えていられないほどだ。ヨギが十七歳を迎えるまで二人が生きていたのはほとんど奇跡に近い。それほどの数と量をお互いがお互いを殺すために仕込んだ。

 そんな時だ。毒に侵されたのがよかったのかどうなのかは分からないが、アルベルティーナが出産したのは。といっても本当にアルベルティーナが子を産んだわけではない。実家から贈られてきた赤子を自分の子供だと言い張ったまでのこと。丁度毒で倒れ、長期間部屋に籠っていたことを妊娠していたのだと偽れば、疑問は持たれるだろうが確証を得ることはもはやできない。そうやってもたらされた赤子は、あろうことかエメリッヒによって受け入れられたのだ。

 瞳孔が開き、異様な雰囲気を纏いながらエメリッヒはヨギに告げた。

「我が愛しの息子、ヨギよ――否、卑しい娼婦の息子よ。貴様はもう用済みだ。母親ともどもとっとと出ていくが良い」

「な、何故ですか父上!? 僕はここまで――」

「うるさい! さっさと出ていけ! それとも何か? 貴様は娼婦の息子の分際でこの私の家に居座り、貴き戦軍の紋を穢すつもりか? 流石は娼婦の子だ。薄汚い、穢れた子め!」

 エメリッヒの背後でアルベルティーナがほくそ笑んでいた。それでも、ヨギはアルベルティーナをこの瞬間直接的に殺すことはしなかった。何故なら、ジョディの命がかかっていたからだ。ヨギはそのままジョディと共に屋敷を叩きだされ、路頭に迷った。誰も貴族に見捨てられた娼婦とその息子など守る気はなかったからである。お家騒動にすら使えないし、使えるような駒でもなかった。

 程なくしてジョディが死んだ。エメリッヒの屋敷を出る前に散々痛めつけられた傷が癒えなかったのだ。娼婦を穢れたものだとみる七耀教会にも埋葬を拒否されたジョディの遺体は、ヨギが一人でこっそりエメリッヒの屋敷の近くの森に埋葬した。死体遺棄の罪に問われる可能性はあったが、どうしてもヨギには母を埋葬しないという選択肢が取れなかったのだ。

 母を埋葬し、失うものがなくなったヨギはもう容赦するつもりはなかった。母を虐げ、自分に毒を盛ったアルベルティーナも。それを知らず、最後には屋敷から叩き出したエメリッヒも。自分からその立場を奪い、のうのうと生きている弟も。メイドたちも、それに連なる全ても。ヨギに全てを赦すつもりはなかった。赦す必要性すら感じなかったのだ。

 彼ら全てに屈辱的な死を。それを胸に、ヨギは行動を開始した。最初に屈辱を味わわせるのは――エメリッヒからだ。幸い、使える醜聞には心当たりがある。ヨギは顔を変え、社交界を渡り歩きながらエメリッヒとその一族を徹底的に貶めた。心無い噂を流し、周囲から孤立するように仕向けて。たとえば、使っているメイドは全て娼婦だとか。幼い子供と正式な妻がいるのに屋敷ではメイドたちとの酒池肉林が繰り広げられているとか。人間性を疑われるような噂をしつこく流した。

 そうやって社会的な地位を貶めたことにより、十五年でエメリッヒは降格を余儀なくされた。あまりの屈辱に自室で避けに溺れているところを冷静に観察していたヨギは、口さがない噂を流されて追い詰められたメイドに最後の追い打ちをかけてエメリッヒを殺させた。彼女は噂のせいで婚約者に逃げられ、実家に帰れなくなったのだ。そのままその場で自害したのを冷静に見ていたヨギは、それを無理心中に見えるよう工作して隠し部屋へと潜む。

 隠し部屋の隙間から見ればエメリッヒに縋りついたアルベルティーナが豚のような悲鳴をあげて、ヨギは笑みを隠せず呟いた。

「いい気味だ」

 ざまあみろ、である。次はメイドたちだ。この混乱に紛れて賄いに毒を混ぜ、落ち着いたころに殺す。アルベルティーナに散々当たられたメイドたちは何の疑いもなく賄いを食べ、悶絶して死んでいく。あっけないものだ。人間はこんなにも脆い。そして、助けを求めたところで誰かが助けてくれるわけでもない。知っていた。分かっていた。そんなことは、ヨギが十分体験してきたことなのだから。

 毒で苦しみ、声を漏らすメイド。

「助け、て」

「残念でした。助けなんてあるわけないよ、メイドさん。……だって、誰も僕を助けてなんてくれなかったじゃないか」

 くつくつと嗤い、ヨギは次に殺すべき人物のところに向かった。次は弟だ。アルベルティーナは最後。全てを喪ってから死んでもらおう。そうでなければヨギ自身が救われない。十五年間も育ててきた殺意は、名も教えて貰えなかった弟をも簡単に殺せる。そう思っていた。彼にも絶望を味わわせてから死んでもらおう。父が死んでショックを受けているに違いないから、それ以上に絶望を教え込んで。

 意気揚々と鼻歌を歌いながら、弟の部屋――元の自分の部屋に向かう。そこにははたして弟がいて、窓の外に向けて膝をつき、祈っていた。

「空の女神よ……何故父上は殺されたのですか。領民を裏切ることもせず、実直に働いていた父が何故……」

 そのあまりにも真摯な言葉に、ヨギは笑いを堪えられなかった。

「あははははははははっ! 何故父が殺された? 娼婦をメイドとして雇ってたからさ! 領民を裏切ってない? そんな訳ないじゃないか。私腹を肥やしてなかったらこんな屋敷になんて住めてないぞ! 実直に働いてたぁ? そもそも実直なんて言葉が似合わない男もそういないだろうよ!」

「だ、誰ですか!」

 そう言って振り返った少年は、驚くほどヨギに似ていた。そのことにヨギは驚かない。彼は父似だったからだ。しかし彼は驚いた。当たり前だろう。いきなり父を侮辱されたと思えば、父に似た中年男性がそこで笑っているのだから。訳が分からなかった。彼が誰であるのか、彼には全く分からなかった。当然だろう。彼はヨギの存在など教えられなかったのだから。

 にやにやと笑いながらヨギは答えた

「お前の兄貴さ。残念だけどあのくそ親父が救われることなんてあるわけがない。だって僕も救われなかったんだからな」

「……兄、様……? 貴男が? 父上を侮辱する貴男が!?」

「おいおい、信じられないって顔すんなよ。ここは元々僕の部屋だ――何なら証拠でも見せてやろうか?」

 そう言ってヨギはこの部屋にある隠し通路を全て言い当て、机の裏に掘られた自分の名前を指し示して見せた。そのことに、彼は信じざるを得ない。誰も知らないはずのことを、父に似た人物が知っている。それは――確かに、父の息子である証拠のような気がしたからだ。

「貴男、は」

「おら、泣けよ」

 呆然と呟く彼を、ヨギは蹴り倒した。かつて昔彼がそうされたように。殴り、蹴り、痛めつけた。泣き叫んでも、どれだけ助けを求めても、赦さなかった。それはかつての再現であり――そして、訣別の儀式でもあった。ヨギが訣別すべきはかつて貴族としてそこに在った彼自身――『Joachim Gunter』だ。彼はあの時殺されたのだ。目の前にいる弟と同じように。頭から血を流し、無様な姿で死んだのだ。

 たった一人の弟は、ヨギの手によって殺された。

「……足りないなあ」

 だというのにヨギはそうつぶやいた。まだ殺したりないのだ。それは本命を最後に残していたからであり――その女こそがメインディッシュだ。弟の部屋で響く破壊音に気付いたアルベルティーナが駆け込んできて、一目散に彼に駆け寄った。

 そして――死んでいることに気付いて、名を呟いた。

「どうして……アルベルト」

 そこで、初めてヨギは弟がアルベルトという名だったことを知った。もっともそんなことはどうでもよく、みじめに泣き叫んでいるアルベルティーナだけが彼の興味を引いている。彼女が苦しみ、自分の手にかかって死ぬことだけを求めていた。この十五年間ずっと。かつての若く、美しい女だったアルベルティーナに女としての屈辱を味わわせてから苦しめ、殺したかった。

 だというのに。

「……何で」

 目の前にいる女は、どこまでもジュディに似ていた。正確には、死の間際のジュディに、だ。頬はこけ、顔色も悪く、髪も白く染まっている。あの時のような豊満な肉体は見る影もない。かつては全く似ていないと思っていたジュディとアルベルティーナは、同じような状態になって初めてかなり似ていることが分かってしまったのだ。

 

 同じ薄い金色の髪。瞳は血のように赤い。アルベルティーナの人目を引くような華やかな美しさは、やつれることによってジュディと同じように控えめな顔になっている。顔のつくりも、肩の形も、シルエットも、何もかもが同じだった。絶対に叶わないとはいえ、二人を並べてみれば双子ではないかと思うほどに。

 

 無論、アルベルティーナが整形をしたわけではない。元々彼女らは似ていたのだ――その、血のつながり故に。アルベルティーナは『Gunter』に連なる家の者で、エメリッヒとは従妹だった。そして、ジュディは彼女の父の時代に没落した『Gunter』の分家の一族で、アルベルティーナとは従姉だった。要するに誰と結ばれたにせよ近親婚だったということだ。

 それに気付いたのはアルベルティーナが先だった。だからこそジュディを毛嫌いし、苛め抜いたのだ。自分に似ておきながら全てを奪って行こうとする女だから。彼女が追い出されて、死んだことによってやっとアルベルティーナは安寧を手に出来たのだ。エメリッヒがそれを知っていたことを知ったのは、ついさっきのことだった。

 ヨギがそれを理解出来なくて声を漏らす。

「何で、どういう、これって……」

「……ああ、お前がアルベルトを殺したのね。可哀想に――どうせ、エメリッヒの手の上で踊っていたにすぎないのに」

 故に、ぐちゃぐちゃの思考のままアルベルティーナはそう返した。どうせ全員が踊らされていたのだ。ヨギを追い出すためにエメリッヒに使った薬は、もともとエメリッヒの書斎にあったもの。そして、それは昔からずっと受け継がれているもの。それさえ呑ませれば短時間だけ言うことを聞かせられる魔法の毒薬だったのだ。その瓶には素っ気なく《叡智》と書かれていた。

 アルベルティーナがエメリッヒに《叡智》を盛ったことを、彼は怒らなかった。むしろいいデータが取れた、と彼女をほめたくらいだ。あの時点から彼は変わってしまって、何らかの怪しい実験に没頭するようになってしまった。止めようとすれば怒られ、アルベルトを巻き込まないようにしようと思っていても出来なかった。アレは確かに禁断の薬だったのだ。

 しかし、そんなことを知るはずもないヨギはアルベルティーナの言葉を理解出来ない。

「……黙れ」

「黙らないわよ。お前もわたくしも同じ穴の貉なの。諦めて大人しくなさいな。……もう、どうやったって後戻りは出来ないんだから」

 アルベルティーナは知っている。ヨギに盛った毒のうち、彼の把握していない毒が一種類だけある。それこそが《叡智》。そして、アルベルティーナ自身もそれを摂取してしまったことがある。ヨギが盛った毒だ。つまりお互いがお互いに、《叡智》に侵されている。いずれエメリッヒのように豹変してしまうのだろう。それでも――アルベルティーナには貴族としての矜持がある。ただでは死なない。

 ポケットに手を入れ、アルベルティーナは隠し持っていた最後の《叡智》をヨギに叩きつけた。コレは経口摂取するだけでなくともいい。皮膚から吸収も出来る上に、ある程度の閾値を超えると周辺から《叡智》を吸い寄せることすらできる。

「このアマぁ!」

 毒を浴びせられたと思っているヨギがアルベルティーナに襲いかかる。殴られ、蹴られ、内臓を潰され、骨を折られながら――それでもアルベルティーナは笑っていた。誰かに乗っ取られずに死ねることに安堵していた。アルベルティーナは『アルベルティーナ』のままで死にたいのだ。断じて誰かに乗っ取らせたりはしない。誰にも利用されることなく、利用するだけして死にたいのだ。

 ヨギが我に返った頃、アルベルティーナは安らかな顔で死んでおり――そして、彼はそれを知ることはなかった。何故なら、気付いた時には既に屋敷にはいなかったからだ。

 

 彼がいたのは、古い遺跡の中。果たせなかった憎しみを無抵抗な子供達で晴らすため、ヨギは――その集団によって『ヨアヒム・ギュンター』と名付け直された彼は、《叡智》の研究者となったのだった。それは彼の一家の宿命。そして――《叡智》によって疑似的な不死者になったヨアヒム自身の宿命ともなったのであった。




 ちなみにこの先明かされることはないと思うので少々解説。
 彼の姓を明かさないために敢えて使った『戦軍』という言葉。アレは一応彼の姓『Gunter』からきています。元々の形は『Gunthar』あるいは『Gunther』で、古いドイツ語で「戦う」を意味する『gund』と「軍団」を意味する『heri』に由来するそうです。それをちょっと都合よく単語っぽくして『戦軍』。
 まあ、あんまり彼には似合わない気もする姓です。
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