雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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 旧226話~228話半ばまでのリメイクです。


西ゼムリア通商会議・上

 その日は西ゼムリア通商会議が始まる日。ある意味では運命の日だ。《アルセイユ》から戻った後に《特務支援課》はティオが戻ってようやく揃い、準備は万端である。会議に備えるべく午前中に支援要請を終わらせた一行は、それぞれがそれぞれの持ち場に着くべく動き始めた。アルシェムは市内の巡回と称して《赤い星座》を尾け、ジオフロントD区画へ。それ以外の特務支援課の一行は会議場へ。そしてアルシェムからの指示を受けた一行もまた、指定された場所へと移動した。

 会議場に辿り着いたロイド達は、そこに遊撃士のアガットがいることに気付いた。どうやら高位遊撃士として支える篭手の紋章の下、この会議を公平な立場で見守るために派遣されてきたようだ。もう一人アリオス・マクレインもその場にいたが、ロイド達が先に気付いたのはアガットの方だった。それもまた必然だろう。アリオスが守っていたのは会議場で、アガットはその周囲を巡回していたのだから。

 アガットはロイド達を見つけると、手招きしてこう告げた。

「警備か、お疲れ様だぜ。……気をつけた方が良い、アルテリア代表の護衛が姿を消してやがる」

「それは……」

「ああ、奴が何か破壊工作をするってわけじゃない。こういう微妙な空気を読むのが至極得意な男でな。……とにかく、警戒は怠るなよ」

 その鋭い視線で言われてしまえば、ロイド達にそれを拒否することは出来なかった。何かが起きる。その予感をもとに、ロイド達は念入りに巡回をしていく。ただ、何も見つからないということだけが不気味に感じられた。ティオにも何も感じられないこの状況は、何かしら予想外なことが起きそうで警戒すべきだとロイドに警鐘を鳴らし続けている。

 ただ、それが起きている場所は会議場ではなかっただけの話だ。

 

 ❖

 

 ジオフロントC区画では、微妙な空気が流れていた。そこにいたのは《銀》、ヴァルド・ヴァレス率いる元《サーベルバイパー》、そしてレオンハルトだ。全く以て意味が分からないメンツである上に普通であれば会話があるような連中ではない。故に無音であるかと言われれば、そうではなかった。敵を待つ以上は無音であった方がいいのだが、どうしても聞かなければやっていられなかったからだ。

 彼女――《銀》が口を開く。

「……何故お前は、そうやって平気な顔で表の人間の前に立てる?」

 その問いを発された相手は無論のことながらレオンハルトである。さしもの《銀》も《剣帝》の人相くらいは知っていた。遠目で見たことすらある。その時はまだ彼女は《銀》を継いでいたわけではなかったが、視界に入れていたはずだ。何せ《銀》装束の父の後ろにいたのだから。もしばれてしまっているのならば、命を賭してでも消さなければならない相手である。

 会話を足がかりにして油断を誘おうとした《銀》だったが、レオンハルトの答えに油断を誘われたのは彼女の方だった。

「罪は罪だ。赦されるとはこれっぽっちも思ってはいないさ。……だが、俺は償いのためだけにここにいるのではないのでな」

「では、何のために?」

「復讐だ。俺が生きること、そのものが奴に対する復讐になる。そして、俺の生きる方法はこうやって戦うことしかない。だから――彼女のために戦うと言いながら自分の復讐まで達成させようとする俺はまだまだ外道なのだろうな」

 その考えは、《銀》には理解出来ないもので。それでも、覚悟だけは見て取れた。あの外道神父の言いなりになって彼はここにいるのではないことで多少は安堵したのかもしれない。その時が来るまで、《銀》は静かに待った。

 

 それが、《銀》の『死』につながることなど――この時の彼女は知る由もなかった。

 

 ❖

 

 その頃、ジオフロントD区画では。

「暇」

「いや、アルシェム? 確かに暇だけどさ……これから暇じゃなくなるじゃん。その微妙に何か作り始めるの止めなって」

 アルシェムは市内の巡回に出ると称してジオフロントに侵入した挙句、そこに待ち受けていた装甲車を制圧したことで暇を持て余していた。よってその余暇をそこの装甲車の分解及びそこから取れる材料を駆使してのオーブメント細工作りに精を出していたのである。効果が微妙なモノから、ある意味凶悪なものまで。それらをどうするのかと問われるとまた困ることになるというのに、手持無沙汰な彼女は止まることを知らない。

 結局彼女が止まったのは、そこにテロリストがやって来る直前だった。

 

 ❖

 

 会議場内を巡回し、異常がないかを確認していたロイド達は突然呼び出しを喰らった。一人はギリアス・オズボーン。そしてもう一人はロックスミス大統領だった。どちらにも人となりを掴まれ、いかに宗主国としてのクロスベルに関する権益を自国が得るべきかを語られたロイド達は精神的に疲れていたが、それでも巡回を怠るわけにはいかない。

 そして。だからこそ、とでもいうべきなのか。そうやって職務に忠実であることは、警察関係者からの情報が早く入手できることと同義でもあったのだ。ダドリーから入手した情報は、自治州の境――エレボニアと、カルバードの境にあるレーダーが突如故障した、というものと《黒月》と《赤い星座》の主要メンバーの失踪だった。それはつまり空から何者かが侵入してくる可能性が上がったことを意味する。それも、テロリストが。

 それは当然、深く考えるまでもなく異常事態だ。その異常事態が何を意味するのか。それは、その事実にその時点で昼食を終えた各国代表がもう一度会議室に集まっているという事実を加えれば、窓の外から飛空艇によって会議場が襲撃されるという答えをはじき出すのにそう時間はかからなかった。ロイド達は顔を見合わせ、会議場へと向かい――そして。

 

 窓の外に浮かぶ、飛空艇を。見つけた。

 

 長ったらしい口上を要約すれば『死ねオズボーンとロックスミス』。その口上が終わるや否やアリオスの警告によって床に伏せる一同。その直後に始まる銃撃。ガラスが割れ、その銃撃が一同に襲い掛からない。その場を守る者として、アガットがその銃弾を重剣で斬り落とすというわけのわからない技術を発揮していた。ロイド達はそれを視認するや否や駆け出し、会議場の出入り口へと急ぐ。そこから逃げられてしまえば敵は目的を果たせないからだ。当然そちらにも敵がいる可能性が高い。

 そして、そこに辿り着くとほぼ同時に隔壁が降り、人形兵器が襲来した。

「……あら、ここにレンがいるって分かってないのかしらね? お馬鹿さん、《十三工房》。こんなの――一撃で終わらせてあげるわ!」

 裂帛の気合と共に放たれた大鎌は、過たず人形兵器を切り裂き、隔壁に弾かれて戻ってきた。それを眉を顰めてレンは見ていた。レンの大鎌は昔と同じもの。《外の理》によって作られたもので、斬り裂けないものなど本来ありえない。ならばあの壁は一体何で出来ているのか、と思索にふけりそうになるがそれどころではないと思い直してティオを仰ぎ見た。

 すると、彼女は軽く頷いて端末を弄り始めた。隔壁をハッキングして開けるための操作をするためだ。しかし、一瞬で出来ると思われた作業は難航している。どうやら隔壁を閉めておきたい側にもクラッカーがいるようだ。かといって、今の状況でロイド達に全ての人形兵器を任せられるかと問われると首をかしげざるを得ない。今のレンは戦うことしか出来ないのだ。人形兵器は間断なく追加されているのだから。

 レンは普段の余裕をかました態度からは想像できないくらい鋭く人形兵器を睨みつけていた。

 

 ❖

 

 そして、この事態を何となく理解していた少女がいる。IBCビルの内部から、アガットに危険がないようにハッキングを仕掛けて会議の様子を盗み見ていたティータだ。この時点で犯罪行為に聞こえるだろうが、生憎クロスベルではまだその行為は犯罪ではない。だからこそ自身に付き合ってまで危険な場所に来てくれたアガットのために彼女もまた動くのである。

 取り敢えず、ティータがアガットを助けるために今やらねばならないことは、隔壁を開けていつでも逃げられるようにするためのハッキングだ。アガットはティータに約束してくれた。『絶対にティータのところに帰ってくる』と。だからこそ、そのために出来ることは惜しまない。そして、それを実行して貰うためにはティータだけでは足りない。

だからこそ、近くで『ポムっと!』をして遊んでいたヨナに声をかけた。

「ヨナ君、ヨナ君、ちょっと手伝ってくれませんか?」

「何をだよ……って、お前、何してんだよ!?」

「ハッキングです。で、今ちょっとあっちが困ったことになってるみたいで……ティオさんが危ないみたいなんです」

 ティータがそう言うと、ヨナは目の色を変えて端末を覗き込み、状況を把握した。確かに今のままではティオだけでなく各国首脳も危ない。義憤に駆られるわけではないが、自分が頑張れば助けられる命があるのに放置するのは寝覚めが悪かった。それなら、とヨナも『ポムっと!』をやめて《オルキスタワー》へのハッキングを開始する。

彼女らが関わり始めて二分。それだけで、《オルキスタワー》の状況は一変するのだった。

 

 

ティータ達の協力によって空いた隔壁。それに付随するように得られた情報から、テロリストは地下へと向かったとティオは告げた。それを聞いたカリンは万事計画通りに動いている、と感じた。このまま《特務支援課》を地下に行かせ、この場の安全確保に動くべきだろう。それも、エレボニアとカルバードがしゃしゃり出て来る前に。

だからこそ、私が、と言おうとしたキリカとレクターに向けてカリンは告げるのだ。

「エレボニアの特使殿、それにカルバードの護衛殿。貴方方が離れてどうするのです? 狙われていたのは先の口上を聞く限りでは貴方方の主ではありませんか。私が行きます。ああ、一介のシスターだから爆弾の解除など出来るものかなどと言わなくても結構ですわ。その程度ならばなんとかできますので」

 そしてその場にいた一同に一礼すると、カリンは屋上へと駆けて行った。地下へと駆けていく《特務支援課》とは正反対に。彼女が辿り着いた時点で爆弾はあと数分で爆発する、と表示されていた。しかし、残念ながらカリンがそれを邪魔する構成員達を一瞬で倒し、やすやすと解体したことで爆弾は役目を果たすことが出来なくなったのであった。

 

 ❖

 

 地下まで下りたロイド達と遊撃士達、そしてダドリーは二手に分かれてテロリストたちを追うことにした。C区画に向かったアリオス、アガット、ダドリーは高温のジオフロントを抜け、進んでいく。そしてD区画に向かった《特務支援課》の一行もテロリストを追って進む。その先に何が待ち受けているのか、知っているのはこの場ではレンだけだ。

 

 その先で見たものは、ある意味では惨劇のような光景だった。

 

 ❖

 

 ジオフロントC区画では、ようやくテロリスト《反移民政策主義》がクロスベル脱出のためのルートを抜け出そうとしていた。ここを抜ければ国に帰り、またもう一度移民政策を続けるロックスミスを暗殺する機会がやって来る。彼らは少なくともそう信じていた。そう――目の前に、良く分からない組み合わせの人物たちが現れるまでは。

 一人目は分かる。《反移民政策主義》のメンバーを幾人も暗殺してきた東方人街の暗殺者《銀》。彼ならば確かにここにいてもおかしくはないだろう。ただ、それ以外の人物たちのチョイスの意味が分からない。一人は見るだけでエレボニア人だと分かるアッシュブロンドの男。そして、後の有象無象はトサカのような赤毛の男に率いられているようだ。全く以て意味が分からない。

 だからこそ、リーダーは問いを投げかけようとした。

「おい、ここで何を――」

「総員、戦闘開始。一人も殺してくれるなよ? 後が面倒なことになるからな」

 ただ、その問いに対しての返答は蹂躙だった。《銀》とアッシュブロンドの男に制圧され、赤毛の男率いる集団に捕縛されるまでに十五分ほどかかっただろうか。それが終わり、異変に気付いた《黒月》のツァオ・リーがその場に現れたころには、彼らの目的は果たせなくなっていた。《黒月》側から見れば《銀》の明白な裏切りに映ったことだろう。

 かくして《銀》という戦力を喪った《黒月》は、圧倒的な戦力を前に撤退することしか出来なかった。

 

 ❖

 

 そして、ジオフロントD区画では。

「いや、うん、やっぱさ。ここはリオ一人でも良かったかもね」

「それはまずいからアルシェムが来たんでしょ」

「そうなんだけどさ……」

 既に制圧された後の《帝国解放戦線》の連中がひとまとめにされていた。後で連行する予定だ。このまま転がしておけば、恐らく《赤い星座》は彼らを惨殺するだろう。故にこうして先に捕縛し、惨殺する理由を奪ったわけなのだが、如何せん暇すぎた。ロイド達がそこに辿り着いた時には既に撤収の準備まで整っていたくらいだ。市内の巡回はどうした、と問われても《赤い星座》の行動が不審だったと言い訳できるアルシェムに隙はない。

 ただ、その理由づけのためには当の《赤い星座》がどこにいるのかを説明しなければならないわけで。そのために、アルシェムは爆発的に膨れ上がった殺気の前に身を晒すのだ。最早使い慣れてしまった棒術具を手に、破壊された壁の破片から背後の人間達を守って。

 驚愕に目を見開くロイドを後目に、アルシェムは彼らに文句を言わせないための文言を吐いた。

「帝国政府からの依頼を受けての警戒、お疲れ様です、《赤い星座》の皆さん。ただ、今なさったことは明らかに器物損壊ですのでそういった行為は控えて下さると助かるのですが?」

「テメェらがテロリストかと思っただけだ。それと、帝国政府からは下手人共の処遇について一任されている。引き渡して貰おうか」

「おや、それは異なことを。相変わらず《鉄血宰相》ドノは皇族の意も汲まずのさばっているようですね。少なくともオリヴァルト殿下からはそういう話は聞いていません。勿論ユーゲント陛下からもね」

 そこに火花が散った気がした。それは勿論比喩表現だ。ただ、ティオとレンの目にははっきりと映った。今ここで迂闊に動けばすべてが破滅する。それを二人は分かっていた。そして、ロイド達もだ。今迂闊に動けば、折角捕えたテロリストたちが殺される。それがはっきりとわかったのだ。そして、彼らにとって全ての事実を明かされることは避けなければならないことだった。

 だからこそ――

「では、会議場にて彼らから事実確認を取りましょう。帝国政府――要するに《鉄血宰相》とオリヴァルト殿下から許可が出れば引き渡します」

 というアルシェムの言葉を、撤回させるために。《赤い星座》の総員はシグムントの意を汲んでその場にいた皆を殲滅すべくブレードライフルを存分に振るい始めた。それはまさに戦場。だが、誰一人として死なせる気のないアルシェムはそれを阻止するしかないのだ。たとえ誰か機に喰わない人間がそこに混ざっているのだとしても。誰か一人でも死なせてしまえば、相手の思うつぼだから。

 幸い、《赤い星座》は深追いしてこなかった。その場にいる人間の中にて誰が混じっていると分かると撤退したのだ。恐らく後から証言を追加してこちらの意見を封殺するつもりなのだろうが、ここで抹殺しなかった時点で彼らの負けだ。この直後にアルシェムはこの事態を最大限に利用するのだから。それを以て、最低な行為を最低な行為で推進させる。その後にクロスベルを乗っ取るつもりだ。

 

 そのために出来ることは、何だってやることにしていた。

 

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