雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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閑話・歴史の影で蠢くモノ・終

 ディーター・クロイスの独立宣言から一ヶ月の間。クロスベル各地で、ある人物が目的を持って動き回っていた。勿論アルシェム扮する神父であり、その目的は『クロスベルを守る』ために『各々で出来ることで助けてほしい』というものだ。それに対して応諾してくれる者も、拒否する者もいた。その動きにはもはや□□□は気づけない。彼女が知らないうちに、□□□よりもアルシェムの力の方がわずかに強くなっていたからだ。

 ただ、知らなくとも彼女が決めたことはある。『アルシェム・シエル=デミウルゴス』の排除だ。ここまでは生きていても良い。ただ、この先に彼女が生きていると邪魔でしかなくなるのである。死んでもらうタイミングはいくつか用意した。全てを潜り抜けようが、最後には□□□が直接手を下すことができる。だからあまり心配はしていなかった。

 ここまでさんざん利用してきていたが、これで最期だ。これ以上生きて――否、自身の意志を保ったままでいてもらっては困る。ただの人形のように唯々諾々と従うだけの存在になってもらわなければ困るのだ。そうでなければ、最後まで□□□は救われないのだから。彼女は救われるためにここまで苦心してきた。それを全て台無しにされたくはないのだ。

 今から街道に出現する『幻獣』に殺させるのも良いだろう。プレロマ草を採取するときに直接死のイメージを叩き込めば殺せるはずだ。もがき苦しみ、死ぬだろう。その時にロイド達が悲しむかと言われれば否だろう。あれほどまでにキーアに嫌悪感を表すアルシェムに対し、嫌悪が湧いてきているのは既に確認しているのだから。そこまで悲しまないに違いない。

 そこで殺せなかったにしても、いくらでも方法はあるのだ。『魔人』に殺させても、《紅の戦鬼》に殺させても、《血染め》に殺させても良い。何なら、列車に轢かせたって良いのだ。ただ、何かしらの因果がそこにない限り彼女を殺すどころか干渉できないというのはネックではあるのだが。最悪、アルシェムが今からずっと部屋に籠り続けたりすれば殺すことは不可能になる。

 ただ、それはしないだろうと□□□は判断していた。アルシェムはいい意味でも悪い意味でも出しゃばりなのだ。自分が闘いさえすれば解決するのならば、すぐにその手段に訴える。ある意味では稚拙で幼稚な思考。ただ、今まではそれが限りなく有効であり都合がよかったのも事実である。優秀な手駒だったが、棄てるのは惜しくない。

 そもそもこの駒を作り上げるのに、□□□は優に五百年をかけている。その間の苦労がようやく報われるのだから、思い切り残酷に殺してやりたくもなる。何せ手間がかかった。普通の子育てよりももしかすると手がかかったかもしれないアルシェムの育成は、彼女にとってはもう二度とやりたくないことでもある。思い通りに動かなさすぎて因果を操作するのが本当に大変だったのだ。

 

 □□□は、その薄いようで濃い育成を思い返した。

 

 ❖

 

 まず、□□□が必要としたのは、自身の代わりに《至宝》となるべき存在を生み出すことだった。そうしなければどうあがいても『クロスベルの滅亡』は避けられず、『ロイド達の不幸』も避けられないのだ。クロスベルは《至宝》なくしては成立しないのである。土地の位置もそうであるし、周囲を取り巻く環境を見れば分かる。何か超常現象でも起こさない限り、クロスベルが平穏を手に入れるのは不可能に近いのだ。

 そして、□□□こそはクロスベルの《至宝》であった。それは誰にも変えられない事実である。ただ、□□□が必ずしも《至宝》にならなくてはならないわけではない。□□□はそれを盲信していた。そうでなければ、自身はあまりにも救われないからだ。誰かに利用され尽くし、ぼろ雑巾のように棄てられる人生。そんなものは二度とゴメンだった。

 だからこそ、彼女が追い求めたのは『自身が《至宝》ではなくなる方法』だった。それ自体は本当に簡単なことだったのだ。そういう事実を『なかったこと』にすればいいのだから。ただ、それをしてしまえばどうなるのか――□□□はその歴史を作り上げてみた。その結果は陰惨たるものだった。誰も生き残らない。クロスベルには草一本も残らなかったのだ。それは何度試しても同じで。だからこそ、一番単純な手段は諦めた。

 そして考えて、考えて、知恵熱が出るほどに思い悩んだ結果――□□□は至った。

 

自身が《至宝》というくびきから抜け出すために彼らを犠牲にすることは出来ない。ならばどうするか。その答えこそが、自身の身代わりを作り出すことだった。

 

それをどうやって創り出すか。それがまず問題だった。『中世の錬金術師たちが総出で作りだし、唯一成功した人造人間』は須らく□□□となる。それを『なかったこと』にするのは簡単だが、そこにもう一人増やすことは不可能だった。どうあがいてもそこを動かすことは出来なかったのだ。その理由は全く以てわからなかったのだが、動かせないと分かるだけでも良かった。別のアプローチが出来るからだ。

 □□□以外に《幻の至宝》と成れる資格があるとすれば、《虚なる神》の縁者でしかありえない。ならば、それを生み出せばいい。そう考えた。だからこそ□□□は大規模な因果律の操作を行った。小規模ではどうしようもなかったのだ。何せ、『ニンゲンを《至宝》にする』という離れ業を達成しなければならなかったのだから。それを成すためには、《世界》の認識すら欺かねばならなかった。

 最初はそれすら不可能なように思えた。だが、この《世界》は□□□が思っているよりもずっと『認識に依』っていたのである。その『認識』さえ誤魔化してしまえば、後は本当に簡単だった。何でも好きなように弄繰り回せる。極端な話、ロイドを女体化させてロリ捜査官に仕立て上げることすら可能。それこそが《□□□□》の力なのか、と戦慄したくらいだ。ただ、存在するものを全て弄繰り回せるというわけではなさそうだったが。

 たとえば、《鉄血宰相》を弄るとする。『ギリアス・オズボーン』を『存在しなかった』ことにするのは不可能だが、『彼』を『彼女』に変えてみたり、『□の□□□□□□』を分離することは可能だ。その代わり、そのブレは別のところで補完されるようになっている。たとえば彼を女性にすれば『ドライケルス』は『女帝』となり、『リアンヌ・サンドロット』は『リアン・サンドロット』として男性化する。そんな具合に、どこか辻褄が合うような形になっているのである。

 それを踏まえて無理を押し通すのは、かなり難儀だった。ただ、不可能なことではないというその一点において、彼女は『正解』を引き当てたのだともいえるだろう。それらすべての条件を満たし、□□□の願いを叶えるためには途方もなく面倒な作業が付きまとうことになるのだが。それでも、不可能だと思うよりは希望が見えて良い。

 そもそも、《幻の至宝》《虚なる神》は人間の形をした《至宝》であり、女性体だった。ただ、それは子を孕めることを意味しない。まず□□□が取りかかったのは、《虚なる神》を改造して子を孕めるように造り変えることだった。元々は因果律を歪めてこの地に人間が住めるようにするためのAIだった《虚なる神》は、皮肉にも他者から因果律を歪められて一人の女性の脳髄に搭載され、生体同期型の《至宝》となった。

 そして、他者から利用されないようにある時点までは孕まないよう細工し、□□□の望んだときに《虚なる神》は出産した。『白髪』に『灰色の瞳』の赤子だった。その赤子には最初、□□□の望んだ力が受け継がれていなかったのでまた因果律を操作した。何度も何度も執拗に歪めて、ようやくその赤子は幻属性に染まった『銀髪』とどうしてもそれ以外の属性を受け付けなかったために水属性に染まった『紺碧の瞳』を持った。

その後、予定外にその赤子は《空の至宝》と接触した。どうあがいても□□□にはそれを変えることは出来ず、せいぜい行き先が変わっただけだった。補完の力が働いたのであろう。故に一番利用しやすいであろう《空の至宝》にその赤子を預けた。そしてその赤子は肉体に空属性を備えた。その赤子が育ってくれるのならば、□□□にはそんなことなど些事にも思えた。彼女は既に、やっと見えた希望に縋りつくことしか出来なくなっていた。

 ただ、その後の数百年間□□□が赤子を成長させられなかったのも事実だ。手駒にするべく育てるにも、ある程度育ってから幽閉する気だったのに目覚める気配すらなかったのだ。唯一その可能性があったのが《白面》と関わる未来だったため、□□□は容赦なく赤子と《白面》を接触させた。□□□とてエステル達から聞いて《白面》がどれほどの危険人物であったのかは知っていたが、その牙を削ぎ落すことなく微妙に弱体化させることによってその結果を強引に成立させたのだ。

 その結果生まれたのが『カナン』という名の少女であり、彼の根本を歪めるためだけに生み出されて殺された哀れな少女である。『希望の地』という名を授けられた彼女は、皮肉なことに『絶望のるつぼ』を生み出したわけだ。そうやってただの使い捨ての串のように棄てられる命にも、□□□は頓着することなどなかった。ロイド達が幸せでいてくれれば、どれだけ周囲が不幸に陥ろうがどうでも良いのだから。

 《盟主》の手によって《白面》に赤子が手渡された後、□□□はクロスベルにリベールの優秀な人材を引き寄せるため、赤子により強く執着させることを選んだ。その結果が『ヨシュアの両親の死亡』『カリン・アストレイの生存』だ。それは芋づる式に『レオンハルト・アストレイの生存』にもつながった。優秀な人材であることに変わりはないので、□□□は納得して赤子が《ハーメル》に預けられるのを見届けた。

 

 そして、その報酬が得られるからこそ、□□□は《ハーメルの悲劇》を止めなかった。

 

 必要だったのだ。どれほど不幸な目に遭っていたのだとしても、『元執行者《漆黒の牙》ヨシュア・アストレイ』であった『B級遊撃士ヨシュア・ブライト』が。『元執行者《剣帝》レオンハルト』だった『レオンハルト・アストレイ』が。『死ぬはずだったカリン・アストレイ』であった『《星杯騎士団》従騎士のカリン・アストレイ』が。

故に《ハーメルの悲劇》は回避されることなく起きる。《ハーメル》はそのすべてを喪うのだ。《白面》にそそのかされた猟兵崩れに襲撃され、それを鎮圧するために投入された帝国軍が口封じのために村人を含め全てを殲滅した。故に――『アッシュ・カーバイド』など存在しない。そう名乗るはずだった『ヨハン』少年は、その時点で死に絶えた。あるいは彼も共に《執行者》にする手もないではなかったが、ヨシュアほどの因果を絡められる人物ではなかった。

この時点で決定された因果で、『ヨシュア・ブライト』『レオンハルト・アストレイ』『カリン・アストレイ』の駒がクロスベルに来ることは確実となった。だからこそ赤子――『シエル・アストレイ』と名付けられた彼女をそこから追放させ、別の人間をクロスベルに招聘するために移動させた。エレボニアから引っ張って来られる人材はもういなかったからだ。

それに、引っ張って来られたのだとしても□□□はその人物を認められはしなかっただろう。クロスベルに幾度も《列車砲》を撃ち込んでくるようなエレボニアの人間など、最低限しか引き入れたくなかったのである。そんな人間ばかりではないということを、この時点で□□□は失念していた。さまざまな人間がいる中で、国に強い帰属意識を持つ者達ばかりではないのだと。

そして、次に『シエル・アストレイ』を向かわせる先は『ロイド達と敵対することもある《東方人街の魔人》こと《銀》リーシャ・マオ』のところだ。出来れば敵対する可能性を下げ、早期にロイド達と合流してほしいが為の因果付けだ。これは簡単だった。そもそも決定づけられていた『リーシャ・マオの母の死』を利用し、先代《銀》リーロン・マオに『リーシャを半人前にするために必要な命』だと認識させ、拾わせた。

ただ、思いのほかリーシャが『シエル・アストレイ』――『エル』に執着してしまったため、ある程度早期に引き離す必要が出てきてしまった。因果律を弄っても良かったのだが、ロイドの仲間になる彼女にはあまり干渉したくない。故に□□□は方向性を変えることにした。《特務支援課》の皆が持つ闇を少しでも軽減しようとしたのである。

ロイドは兄ガイを喪っている。ランディは友人を自身のせいで失っている。エリィはクロスベルの政治のせいで両親が離散する。ティオは《D∴G教団》のせいで人生を狂わされる。ノエルは周辺各国の思惑で父を喪い、ワジは《アーティファクト》のせいで中途半端な『ニンゲン』にしかなれなくなった。セルゲイも、可能性によっては元妻ソーニャを喪ってしまう。

思考の結果、一番生存確率の低い『ティオ・プラトー』のために『エル』を使うことにした。そのついでに『レン』を闇から救い出してクロスベルに括り付けるための布石とすることにする。そうしなければ彼女は基本的に『レン』から『レン・ブライト』になってクロスベルを守るために全面協力しなくなってしまう。もしくはその前に狂人になって死ぬ。故に、精神的な支柱として『エル』を使うことにした。

そうやって東方人街から『エル』を追い出して《D∴G教団》に送り込み、ティオと面識を作ってから《楽園》へと移送した。その過程で《叡智》を取り込ませ、因果律の支配力を強める、という目的もある。そうやって完全に思い通りになる駒が完成したのだ。いずれどこかで《叡智》と接触させる必要があったため、こういう機会は積極的に使うべきだろう。

そして、《楽園》に移送した後は『十五番』こと『レン』と接触させ、依存させてレオンハルトとヨシュアに救出させた。どうやらそこで遺恨が出来ていたようだが、□□□にとってそれはどうでも良かった。結果的に彼らは必ず『クロスベルに来る』からだ。ならば駒とどれだけ遺恨が出来ようが知ったことではなかった。いずれ死なせる駒だ。惜しいとも思わない。

『シエル』が《身喰らう蛇》に救出され、しがらみを作るために彼女を《執行者》にしようと□□□は企んだ。ただ、そのままではどうやっても『シエル』を《執行者》にするのは不可能だった。そのため、比較的『シエル』と波長の近い人物を犠牲にして『シエル』の能力を底上げすることを考えた。そのために必要だったのが、先で犠牲になった『□□□には必要のない人物たち』の力だ。それをこねくり回して作り上げたのが《聖痕》なのである。

その《聖痕》を『シエル』に植え付けるため、これまた『□□□には必要のない人物たち』をこねくり回して一人の生贄を生み出した。それこそが『エル・ストレイ』の前任者である《守護騎士》の《第四位》、《雪の女王》ユキネ・テンクウだ。存在するはずのなかった彼女を生み出し、殺し、『シエル』を《執行者》にするためだけの贄としたのだ。

 結果、『シエル』はめでたくも《執行者》となった。レンとの結びつきを強くするために《パテル=マテル》とも感応させたのはおまけである。こうしておけばレンは『シエル』からは絶対離れないだろうという確信があったからこそそうしたのだ。その結果、二人は姉妹のように仲良くなった。それを□□□は複雑な気分で見ていることしか出来ない。

 そして、ヨシュアが《執行者》から足抜けしてから、それを追うようにしてブライト家に放り込んだ。その時に、□□□は『シエル』に名前を与えている。その理由は、『シエル』がただの『銀色』だと名乗るたびに悦に入りたかったからだ。他人から慈しまれるべき存在ではないと。ただの駒であると。故に、髪色から取って『アルシェム』。『アルジェム』にしなかったのは流石にそんな名付けをする人間がいるとも思えなかったからだ。

 もっとも、□□□にとってそれはブーメランでもあるのだが、それを指摘する人物はいない。勿論汁物がいないからでもあるが、□□□は、そもそもどこか別の世界の言語で『否定』を表す言葉なのだ。□□□、ではなく□□ □。実に皮肉な名前であると言えよう。全てを『否定』し、自身の思い通りに積み上げていくのだから。まさに□□□を表すのにふさわしい名前だ。

 それを、彼女が自覚することはない。そういう道筋にはならない。何故ならば、それを□□□が望まないからだ。それを逸脱することは『アルシェム・シエル=デミウルゴス』にもできない。たとえ彼女が□□□と同じ高みにたどりついたのだとしても、それは絶対に不可能なことだった。もっとも、現状では彼女が□□□と同じ高みにたどりつくことなど不可能なのであるが。

 それはさておき、その後も何かと歴史を破綻させていく彼女を必死に元通りの道筋に戻すのは本当に面倒な作業だった。それも自身が解放されるためと我慢して来たものの、あまりにも酷い。何かを一歩間違う度にエステルが、ヨシュアが、他の『ロイド達の幸せに必要な人達』が死んでいく。そんな現状を□□□が赦せるはずもない。

 たとえばカシウスが旅に出た瞬間、エステルは即座に囚われ、彼への人質に使われて殺される。それを防ぐために□□□はヨシュアを配置し、『アルシェム』をそこから引き離さないために苦心することになった。ヨシュアの警戒心が激しく邪魔だったのだ。それに引っかからないようにエステル達を守るのは、至極大変な作業だった。つかず離れずの距離で、何かが起きてしまえばすぐに駆けつけて解決する。おかげでアルシェムはかなりの『メアリー・スー』になってしまった。

 その後も何かしらの危険が迫り、それを防ぐために『アルシェム』として出来るすべてのことを駆使して彼らを守り抜く。そのパターンが何度も続くようになった。時には彼女の身体を強制的に動かし、彼らを守らなければならなかったほどだ。□□□は気づいていないが、『アルシェム』を使うことで彼らの経験が減っているからこその悪循環である。

 もっとも、彼女はそのことに最後まで気付かなかった。故にロイドたちにも同じことをしてしまうのだが、それも仕方のないことなのだろう。下手に便利すぎる『アルシェム』という駒があるせいで、守るべきロイド達の力をそいでしまっていることに最後まで気付くことはなかったのだ。ロイド達が傷つかないように守るという信念に従って行動した結果がこれである。

 

 そうやって自身の首を真綿で締めながら、□□□は行動して――そして、だからこそ、気付かなかったのだ。最後の最後に至るまで。

 

 ❖

 

 全て、準備は整っていた。『クロスベル独立宣言』が出されたその時から、全ては別のうねりに押し流され始める。それは、ある意味では□□□の望んだものだった。その過程を認められるかと問われると、必ずしもそうではないのだろうが。それでも、□□□が望んだことだからこそ彼女には察知できない動きだったのである。それを狙ってやっているのだ。

クロスベル警備隊からは少しずつ主だった隊員が姿を消して行った。それは辞職したのではなく、形を変えて地下へと潜伏したのである。隊長はミレイユ三佐だ。彼女を筆頭に、いずれ来たるべき時に備えて別の組織を編成していったのである。もっとも、ミレイユが辞職すればランディに気付かれるので彼女だけは警備隊に残ったままだったのだが。

 議会からは、帰国命令を受けた帝国系議員や共和国系議員が姿を消して行った。この現象の理由はまた別だが、その後釜に収まる人物たちの方が重要だ。そのことに誰も気づいてはいないが。そこにいる人物たちこそ、クロスベルを故郷とし、クロスベルのためになることをしたいと願った人物たちだ。彼らが後釜に座り、少しずつ政治のイロハを学んでいた。

 警察署でも、一部の癒着職員たちが消えて行った。周囲の職員たちの圧力を受け、汚職事件として立件されて更迭されていくのである。その代わりに警察学校に通っていた少女が一人クロスベル警察に就職したのだが、それはまた別の話だ。《特務支援課》に憧れている、と本人は常日頃から語っているのだが、彼女が《特務支援課》に配属されるのは遠い未来の話だ。

 

 そうやって少しずつ全てが『クロスベルのため』を願う人々に侵食され。やがて――それは、逆風を跳ね返す大きな力となる。

 

 その代表者となるべく、アルシェムは――いずれ死ぬ彼女は、戦うのだ。

 


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