雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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エピローグ

 あれから、どのくらいの時がたったのだろうか。新たに建造された壮麗な宮殿の中で、アルコーンはひっそりと暮らしていた。既にクロスベルの首相は代替わりを繰り返し、最早元々のアルコーンという存在について知っているものはいなくなっていた。ただ、いるだけの象徴。それが今のアルコーンの状態である。

 アルコーンが『アルシェム』であったときの知人は子孫を残して皆死んでいった。当然だろう。アルコーンは数えるのを止めていたものの、既に外では百年もの時が経っていたのだから。

 

 キーア。キーアは元々人造人間として造られていたこともあり、生命維持を《至宝》としての力に大きく依存していた。そのため、程なくして衰弱していった。一応は罪人であり、《至宝》であったという複雑な状況を鑑みて、キーアは拘置所に軟禁されていたというのも大きかったのかもしれない。キーアはロイド達に看取られて静かに逝った。とはいえ最後は笑みを浮かべていたらしい。

 

レオンハルト・アストレイ。彼はカリンを庇って死んだ。度重なる共和国と猟兵からの襲撃を潜り抜け、片腕を失ったことで退役。親衛隊に配属される。しかし、首相を狙うものも多く、その流れ弾から妻をかばって彼は死んだ。カリンのためだけに生き延び、カリンのために復讐者となり、カリンのために第二の人生を手に入れた男はそうして死んだ。

 

 カリン・アストレイ。カリンはレオンハルトが死ぬ直前に身ごもっており、夫に庇われて生き延びはしたが精神的には衰弱。周囲に心配をかけぬよう隠居していたが、それにも限界が来たようである日リベールを訪れる。そして高名な遊撃士となっていたヨシュア・ブライトに息子を託し、レオンハルトの墓の前でひっそりと息を引き取った。

 

ティオ・セイクリッド。ティオはヨナと結婚した。子は出来なかったものの、常にヨナを尻に敷く形でこき使い、クロスベルの治安維持に一役買った。そうすることでアルコーンの支えとなれると信じていたのだ。ゆえにこそ全力で働いた。しかし、その影響かエイオンシステムの使い過ぎで脳に負担がかかってある日突然に倒れ、そのまま亡くなった。

 

 リオ・オフティシア。リオは生涯を独身で通し、数多の求婚者を物理的に薙ぎ倒していくことで《破城鎚》の異名を広げていった。周辺国で《破城鎚》の名を出そうものなら全員が震え上がって逃げだすほど、リオは恐れられていた。しかし、そんなリオにも弱点はある。悪辣な猟兵団が子供に爆弾を持たせて首相を狙ったことがあった。リオはそれを察知し、爆発は免れ得ないと見るや子供を守るために爆弾を奪い取り、自らの腹の下に押し込んで覆いかぶさった。そうして、リオは爆死した。

 

 ランディ・オルランド。彼はクロスベル中立国の建国一周年に軍部のミレイユと結婚し、それを機に前線からは遠のいて完全に指揮に回った。やがて彼の娘が成人するとその娘も軍部に入り、クロスベルの国防に大いに貢献することになる。しかし、猟兵がランディの娘のことを知ると彼の人生は灰色に包まれる。ある日娘は戦場で連れ去られ、無残に殺されて発見された。それを見たランディは怒り狂ってその猟兵団に喧嘩を売り、制止を掛ける軍部を無視して単独で猟兵団を狩りつくし、相打って死んだ。

 

 レン・ヘイワーズ。レンはハロルド氏たちと仲直りし、週に一度はプライベートで会う仲にまでなっていた。レンも独身で通し、いつしか人型にまで魔改造された《パテル=マテル》と同棲、同じく人型になった《トーター》に囲まれて幸せに暮らしていた。しかし、幸せは長くは続かない。ある日、クロスベルで大規模なテロが行われた。それに巻き込まれて両親と弟は死んでしまう。レンはアルコーンに奏上し、アルコーンはレンの意志を認めた。そうして、レンは各国を飛び回って猟兵団を殺しつくす《殺戮天使》と呼ばれるようになった。決定的な致命傷を負ったレンは《パテル=マテル》に依頼してアルコーンのもとまで帰還、アルコーンに看取られて亡くなった。

 

 シズク・マクレイン。シズクはアリオスが生きている間だけ拘置所で過ごす、という契約をもとに拘置所に勤務していた。しかし、アリオスが獄中で病死したことで晴れて自由の身となる。そこからのシズクは各地を旅し、弱きを助け、強きをくじく遊撃士となった。二つ名は《黒雫》。大勢の人間を救った英雄として祭りあげられた。しかし、任務中に変死したとアルコーンは聞かされている。突然倒れ、眠るようにしてシズクは逝ったという。

 

 ワジ・ヘミスフィア。彼は飄々とクロスベルに居座るようになり、ヴァルドといちゃらぶな新婚生活を続けた。ワジとヴァルドは遊撃士代わりに自警団を続けていたが、レマン自治州の進言もあって遊撃士協会クロスベル支部が復活。遊撃士となってクロスベルの治安維持に一役買った。続けるのが体力的に厳しくなると、ワジ達はアルモリカ村に小さな一軒家を買って仲良く暮らすことになる。二人とも天寿を全うして死んだ。

 

 ヨナ・セイクリッド。ヨナはティオの死後呆けていたが、ティオの遺言により一念発起して狂ったようにとある機械を作り上げる。それは《パテル=マテル》や《トーター》等の人形兵器を自動で修繕するシステムだ。永久に残る物はない。しかし、永遠に近いものは作り出せる。そう信じていたティオの願いをかなえ、ヨナはそれを完成させると同時に過労死した。

 

 ミレイユ・オルランド。ミレイユはランディの死後あまりのことに職務が手につかなくなり、ソーニャの勧めで退役。周囲に大いに心配をかけながらついに立ち直ることができず、最期はウルスラ医科大学でセシルに看取られて衰弱死した。彼女の墓には、何者かの手によってランディのスタンハルバードが供えられていたという。

 

 メル・コルティア。メルは最後まで《身喰らう蛇》の残党と戦い続けた。一時はリィンとともに表に戻ってはいたが、自身の中からは憎しみは消しきれなかったのだ。彼女はアルコーンの知らない執行者まで残らず見つけだし、表へ戻るかどうかを確認、戻らないと分かるや否や彼女は執行者たちを狩っていった。そうして、最終的には《劫炎》のマクバーンと相打って死んだ。

 

 リーシャ・マオ。リーシャは《アルカンシェル》の踊り子として大成。一躍時の人となる。しかし、突然引退して世間を騒がせた。引退したのは自分の後進を育てるため、とマスコミには伝えていた。リーシャは二重の意味で後進を育てていたのである。暗殺者としてではなく、誰かを守るための力を教え終えたリーシャは後継者たる子供をアルコーンに引渡した。その後、リーシャは静かに余生を過ごすべくアルモリカ村に移住。ワジ達を辟易とした目で見ながら過ごし、時々昔の血が騒ぐのか古戦場の魔獣を狩りながら日々を暮していた。最期はウルスラ医大に運び込まれ、イリアとシュリに看取られて死んだ。

 

 エリィ・バニングス。エリィはロイドと結婚して二子を儲け、御年八十になるまで首相を務めあげた。それまで支持を集め続けたのはエリィの政治手腕と人柄があってこそ。八十を超えてからは体調を崩すことが多くなり、引退。静かに余生を過ごし、最期をロイドと二子に看取られながら静かに逝った。その死は大いに悼まれ、諸外国からも弔問の客が絶えなかったという。

 

 ロイド・バニングス。ロイドはエリィの死後、一気に老け込む。二人の子供達に労わられつつ立ち直り、子供達が政治家として大成し、首相になるのを見届けると満足そうに息を引き取った。彼に――《特務支援課》にあこがれていた女性はその地位を継ぎ、新生《特務支援課》として活動しており、ロイドはその活動にもかかわっていたそうな。

 

 また、かつてリベールで知り合ったものたちのことも記そう。

 

 クローディア・フォン・アウスレーゼ。クローディアは祖母アリシアの死後すぐに即位し、アリシア死亡の混乱を無事に乗りきったことで評価される。生涯独身で過ごすつもりだったのだが、親衛隊を退いたユリアの勧めもあって王立学園の先輩でありレミフェリアのルーシー・セイランドに振られたレオと結婚。ほどなくして子をなし、その子を生んだ影響で息を引き取った。産み残された娘はやがてクローディアの治世を引き継ぎ、リベールはゼムリア大陸の平和の象徴となった。

 

 カシウス・ブライト。彼は軍のトップに君臨し続け、リベールを侵そうとする対外諸国から守った。彼がいるというだけで相手国は甚大な被害を想定しなくてはならないからだ。カシウスは死ぬ直前まで軍をまとめ続け、最期はエステル、ヨシュアと孫に看取られて大往生した。

 

アガット・クロスナー。彼はティータと結婚した後に遊撃士を引退し、ティータ専属のボディーガードとなる。ティータが危ないときには必ずアガットが助け、ティータの頭脳を狙う組織を悩ませていた。ティータが研究者としての一線を引いてからも襲い来る組織に辟易としたアガットはウェムラーから山小屋をもらい受け、そこで静かに余生を送った。

 

 シェラザード・ハーヴェイ。彼女はルシオラを捕まえた後に遊撃士に引き込み、コンビを組んで各地を回った。しかし、ある日帝国で不覚をとって殺されかける。そこに颯爽と現れたオリヴァルトとその配下に救われ、不覚にもときめいてしまう。そして彼と結ばれ、后妃兼宮廷音楽家としてエレボニアに仕えることとなった。二子をもうけ、弟皇子をリベールに婿養子入りさせて平和を保った。

 

 エステル・ブライト。エステルは妊娠発覚とともに一線を引き、マーシア孤児院を引き継いでリベールの孤児たちを育てた。もう、レンのような不幸な子が生まれないようにと子供たちに武術を教える毎日を過ごし、天寿を全うしてヨシュアに看取られて最期を迎える。

 

 ヨシュア・ブライト。ヨシュアは遊撃士として有名になり、エステルが引退してからも一線で働き続けた。やがて息子が成人すると彼も遊撃士となり、ヨシュアと組んで年に似合わぬほど活躍する。数々の紛争を止め、民を守り続けたヨシュアは、気配も見せず紛争撲滅に貢献したことから《幻影》と呼ばれるようになった。最期は息子に看取られて天寿を全うした。

 

 ジン・ヴァセック。彼は憔悴しながら共和国に戻ってきたキリカに慰めなさいと襲われ、そのままゴールイン。そして死ぬまで《泰斗流》を近所の子供たちに教え続けた。

 

 ティータ・クロスナー。ティータは結婚できる年になるやいなや、アガットに求婚。戸惑うアガットに襲いかかる。その後、両親と喧嘩しつつもアガットの籍に入る方を選び、ティータ・クロスナーとなる。この際に効いたのがこの言葉。「ラッセル博士が3人もいたらややこしいと思うの!」その後、各国を回りつつ貧しい国に導力革命をもたらしていった。生涯子には恵まれず、アガットを看取った後、攻めてきたティータの研究を狙う組織とともにウェムラーの山小屋で爆死した。

 

 オリヴァルト・ライゼ・アルノール。彼はシェラザードをめとり、アルフィン、セドリックの推薦もあって皇帝に即位する。彼の治世ではオズボーンのような陰謀を巡らせる政治は成されず、その死後はドライケルスに次ぐ最上治と言われるようになる。

 

 ミュラー・ヴァンダールは元《帝国解放戦線》のメンバーとともにオリヴァルトをよく守り、オリヴァルトの死を見届けて静かに息を引き取った。

 

 皆、死んだ。時の流れに勝つことは出来ずに。アルコーンは彼らが死んだとき嘆いたが、因果律を操ることだけはしなかった。死者は甦らない。たとえ甦らせたとしても、それはその人の人生を蔑ろにすることである。やり直しなどきかないのだ。

 そうして、アルコーンは一人ぼっちとなった。それでも彼女は生き続けなければならなかった。アルコーンは《至宝》だから。寿命という概念もなく、ただあり続けるだけの人生。それでも、アルコーンは《虚なる神》のように死にたいとは思わなかった。アルコーンが生き続ける限り、アルコーンの知る友人たちは生き続けるのだ。アルコーンの、胸の内で。

 




 これにて終幕。続きはありません。後日談も投稿されません。
 もう軌跡シリーズでSS(そんなレベルの長さではありませんでしたが)を書くこともないでしょう。整合性も取れなければ、追うだけの価値をもう見いだせないので。閃が出た時点で追えないのは確定事項だったわけですが、出来うる限りの整合性は取ったはずです。一部の奴(レクターとか)は無理でしたが。
 リメイク前を合わせれば実に六年。ここまでかけて何かをしたのは初めてです。とはいえ終わったという感慨はあまりありません。それより原作が恋愛ゲーム化していくのがただただ虚しかったですね。初期のあの感じはどこにいったのかと。ロイドがギリギリセーフでリィンはアウトです。無理。
 原作設定に沿うのが原作への礼儀だとは思っていますが、閃の設定は正直に言って邪魔でしかなく、かといって無視するのも気持ち悪い。その結果がこのリメイクです。
 長い間お付き合い頂きありがとうございました。またどこかでお会いできれば幸いです。

 ……ちなみに更新日で期待しても本当に何も出ません。エイプリルフールでもないですよ。

 針島

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