雪の軌跡・リメイク 作:玻璃
メリクリ代わりに特別話でもなんでもない普通の話をぶっこむスタイル←
では、どうぞ。
空賊のアジトに乗り込み、首領たちのいる部屋に侵入したエステル達。言い争いをしていた彼らの隙を縫って動き始めたのは、ヨシュアだった。
「あ……」
しかも、ヨシュアは一目散にジョゼットに突っ込んでおり。
「あわわわわ……!」
「じょ、ジョゼット! ボーっとすんな!」
キールがジョゼットに危害を加えさせないようにすべく爆弾を投げるも、導火線をヨシュアが切り裂いて不発にさせられてしまう。ヨシュアはそのままジョゼットの懐に突っ込んで双剣の柄でジョゼットを無力化していた。
「チ……!」
それを見てヨシュアに斬りかかろうとするキール。しかし、そんなキールの死角からエステルが滑り込んで剣を弾き飛ばす。キールはそのままヨシュアに無力化された。後は、ドルンだけ。
しかし、そのドルンが問題だった。ジョゼットとキールが無力化されたと見るや彼女らに攻撃を仕掛けたのである。
「え、ど、ドルン兄!?」
「おい、何すんだ兄貴!?」
「……使えねえ奴らだな」
ドルンの瞳には、微かに赤い光が浮かんでいた。なおもドルンは彼女らに攻撃を仕掛けようとするため、犯人を死なせないためにエステルとアルシェムに指示を出すシェラザード。
「エステル、キールの方を護りなさい! アルはジョゼットの方、良いわね!?」
「分かった!」
「りょーかい、シェラさん」
その指示に従ってエステルとアルシェムはそれぞれキールとジョゼットの前に立つ。実はまだ導力銃を返して貰っていないアルシェムはエステルと同じく棒術具を手に持っていた。導力銃ならばこの場から援護できたのに、と歯噛みしながら攻撃の方法を観察する。
そんなアルシェムを愕然と見ながらジョゼットが声を漏らした。
「あ、アンタ……」
「黙って守られててよ? 流石に痛いものは痛いから」
アルシェムはジョゼットに一瞥もくれることなくそう返した。
アルシェムとエステル以外の人員――ヨシュアとシェラザード本人はドルンに向かって攻撃を再開した。ヨシュア以外に前衛がいないためにヨシュアが真っ当にドルンに接近して導力砲の軌道を変え、シェラザードは中距離から導力砲を奪うべく鞭で攻撃を繰り出しつつアーツを使って必死にヨシュアの回復を行う。
それを見つつジョゼットはアルシェムにしがみ付いて懇願した。
「こ、こんなこと言うのは筋違いだって分かってる。でも……あんなの、いっつも優しくて不器用なドルン兄じゃない。だから……」
「アレ、やっぱり正気じゃないわけかー……ものっそい陰謀の臭いがしてきたなーこれ……」
アルシェムは溜息を吐きつつエステルの背後にジョゼットを押し込んだ。ジョゼットは身をよじらせて抵抗する。
「あ、ちょっと何すんのさ!」
ジョゼットはアルシェムに護られるのは良くてもエステルに護られるのはなぜか癪に障るようだった。アルシェムはそれを意に介さずにエステルに告げる。
「エステル、この場は任せたよ」
「分かったわ。絶対守り切ってみせるから、無茶はしないでね?」
そう言ってエステルは気合いを入れなおして棒術具を握った。それを見たアルシェムはエステルにひらりと手を振り、次の瞬間猛然とドルンに特攻した。それに気付いたヨシュアが導力砲の軌道をアルシェムの方向から逸らす。
「取り敢えず、恨み晴らさでおくべきかー!」
そして、アルシェムは棒術具でドルンの顎を跳ね上げた。いきなり顔を跳ね上げられて頭を揺らされたドルンはたたらを踏む。その時点でようやくアルシェムに気付いたシェラザードは怒鳴った。
「幽霊じゃないのよ! てか、何で出て来たの馬鹿アル!」
「ヨシュアの適性は前衛じゃなくて遊撃だからです!」
「そうじゃなくて! 何無茶してんのって言ってんのよ!」
シェラザードは敵の眼前でアルシェムに詰め寄った。取り敢えずしばいて良いだろうかコイツ、とアルシェムは思った。敵を完全に無力化したわけでもないのにアルシェムにかまけて注意をしていない。
「あのままジリ貧で全員お陀仏よりましでしょう。それより油断しないで下さいって、シェラさん」
アルシェムの視線の先では、ドルンが起き上がろうとしていた。油断せず棒術具を構えていると――
「……あん? こりゃあ、どういう状況だ……?」
きょとんとした様子のドルンが起き上がった。正確に言うのならば、洗脳が解けたというべきなのだろう。正気に戻ったドルンは油断なく武器を構えるヨシュア達を見ながら首を傾げていた。
「おおい、ジョゼット、キール、どこだ? 一体何が起きてる?」
その様子にシェラザードが困惑する。先ほどまでの敵愾心は一体なんだったのだろうか。今は全く感じられない敵意に首を傾げているのはエステルもだったが。その隙をついてキールが懐から煙幕を取り出し、そして叫んだ。
「事情は後で説明する! 取り敢えず、この場は逃げるぞ兄貴、ジョゼット!」
「え――」
煙幕を投げつけたキールはジョゼットの手を取って走り始めた――つもりだった。ドルンもキールに連れられ損ねたジョゼットに追いついて手を握る。では、キールが手を握っている人物はといえば――
「神妙に捕まりなさいってば!」
エステルだった。即座にキールの手を振りほどいて棒術具で薙ぎ倒す。しかし、その隣をすり抜けようとしていたドルンがキールを拾って駆け出した。ドルンは力持ちなのである。
「待ちなさーい!」
「お、追うわよヨシュア、アル!」
シェラザードは返事も待たずに駆けて行った。ヨシュアもそれを追い、アルシェムも追おうとして――止められた。
「待ちたまえ」
アルシェムの腕を素早くつかんだのはオリビエだった。やけに真剣な目で見て来るのでアルシェムはオリビエの手から自分の腕――既にじんましんだらけである――を引き抜いて軽く睨みつけた。
「何、アレ逃がすとややこしくなるんだけど」
「やれやれ、そんな傷だらけの身体で向かう気かい?」
オリビエはアルシェムの視線にひるむことなく懐からオーブメントを取り出してアーツを発動させる。水属性回復アーツ、ティアラ。ティアの上位版のアーツは瞬く間にアルシェムの傷を癒した。次いで、オリビエはアルシェムに自らの着ていたコートを掛ける。服が少しばかりきわどいところまで破れていたためである。本来ならば茶化すところであったのだが、周囲に他人がいないためにそれは止めておいた。
アルシェムはそれに袖を通すことなく、オリビエに冷たくこう告げた。
「走りにくいからいらない」
「いや、アルシェム君……だったかな。流石にその恰好は眼に毒だから着ていてくれたまえ」
呆れたように言いながらオリビエは先に駆けだした。こうすれば返すにせよ追いつくまでは来ていてくれるだろうという推測の元にそうしているのである。しかし、オリビエの読みは外れた。
「わたしのが足早いから」
ひょい、とコートをかけなおされて追い抜かされるオリビエ。それを呆然と見ながらオリビエはひとりごちた。
「前と変わらずお転婆だねえ……」
コートを着直し、気を取り直してオリビエはアルシェムを追った。
❖
ドルンは逃げながら状況を把握すべくキールとジョゼットに質問を繰り返していた。しかし、如何せん記憶がない。飛行船ジャックなどどこの小説の話だと思ったほどだ。しかし、全て真実。自らがやらかしてしまったことに変わりはないのだ。たとえ、覚えていなくとも。
ドルンは考えた。首謀者は恐らく自分であり、皆は自分について来てくれただけである。少しばかり、というよりも恐らく死刑になりそうな気もするが、全ての罪を自分が負えばキールやジョゼットは助かるだろう。冷酷に彼らに命令していた演技をしさえすればいい。ここまで連れてきてしまった家族を死なせるわけにはいかない。もう、これ以上自分のへまに付き合って貰うのも申し訳ない。
「ど、ドルン兄! 自分で走れるから……!」
「そうだぜ兄貴、降ろしてくれって!」
ドルンはジョゼットとキールを降ろし、先に走ってもらった。彼らに見えないように導力砲を持ちながらドルンは走る。恐らく他の仲間は先ほどの遊撃士っぽい集団に捕まっているだろう。徐々に近づいてくる終わりの時に、ドルンは覚悟を決めた。たとえ誰かが自分を操ってこんなことを起こさせたのだとしても、自分がやらかしたことに変わりはないのだから。
恐らく軍の人間は信じないだろう。ドルンが操られていたことなど。ここはリベール王国である。エレボニア帝国人をリベールの人間がどう扱うかは、手に取るように分かっていた。音に聞こえるアリシアⅡ世女王陛下は人道的だろうが、軍の人間もそうだとは限らない。彼らが自分達の供述を信じることはないだろう。何せ、女王から身代金をせしめようとしていたのだ。女王を敬愛しているであろう軍部の人間がドルンの供述を信じるはずがない。
ドルンはあまり良くない頭で考えた。知恵熱が出るのではないかというほどに考えた。これ以上の最善の手はないかと。そして、どうしてもドルンには考え付かなかったのである。ドルンが犠牲になって他の家族を救う道以外には。
《山猫号》が取り押さえられていて既に軍の人間がいたことに気付いた時は、丁度良いと思った。これで余計な手間は省けるだろう。突破しようとキールが叫んだがもう遅い。
「……済まん、キール、ジョゼット」
ドルンは小さく謝罪して導力砲を構えた。
「武器を捨てて手を上げろ!」
そう、金髪の士官が叫んだ瞬間――ドルンはキールとジョゼットに向けて導力砲を撃っていた。
「なっ……」
「ドルン兄ッ!?」
吹き飛ばされていくキールとジョゼット。これで良い。これで――ドルンは、悪役に徹することが出来る。ドルンは精一杯凶悪な顔を作って腹に力を入れ、叫んだ。
「道を開けやがれこのゴミクズ士官共があああっ!」
そうして導力砲を乱射する。それを唖然とした顔で見つめる弟妹達に、心中で済まない、と謝り続けながら。キールたちを加害者であり、被害者にして恩赦を願うならばこの方法しかなかった。誰かを犠牲にしてその他すべてを救う方法。
士官たちは導力銃を構えてドルンに向けてくる。しかし、ここで死ぬわけにはいかない。最後までドルンは悪役として、黒幕として生きていなければ意味がないからだ。そして――
「あんたは阿呆か!」
ドルンは背後からの回し蹴りに意識を刈り取られた。
❖
急にトチ狂ったように導力砲をぶっ放し始めたドルンに回し蹴りを喰らわせたアルシェムは、意識を失ったドルンを捕縛した。それに次いで、王国軍がキール、ジョゼット、そして奥へとなだれ込んで他の空賊たちを連行していく。
アルシェムは嘆息しながらドルンを王国軍に引き合わせた。正確には、モルガンに。
「……全く、似合わないことして……」
「……これはどういう状況か、説明して貰おうか? カシウスの養女」
厳しい顔でアルシェムに問うモルガン。アルシェムは視界の端で金髪タマネギ頭の士官とその付き人、ついでに何故か新聞記者のような二人組の男女が奥へと消えていくのを確認してからこう答えた。
「ここに手配魔獣が出まして。悲鳴が聞こえたんで乗客乗員の安全確保のために乗り込みました」
「後ろの遊撃士共も一緒に、か?」
モルガンは複雑な顔をしてアルシェムに問うた。アルシェムはモルガンの瞳の中に映っている遊撃士を見ながら苦笑して応える。
「いえ、掲示板の依頼をこなしててたまたま見つけたんで単独で。エステル達は……どーやって来たんだろ? シェラさーん?」
本当はどうやって来たのかを知っていたアルシェムだったが、一応先輩の顔を立てる意味でシェラザードに顔を向けた。すると、シェラザードはモルガンにこう言った。
「空賊の一味っぽい目撃情報があったからそれをたどってそこの飛空艇に忍び込んできたのよ」
「……せめて軍を待てんかったのか」
「あら、空賊にはそちらの情報が筒抜けだったみたいですけど?」
バチバチとにらみ合うシェラザードとモルガン。先に目を逸らしたのは、意外にもモルガンだった。後ろめたいことがあったのは事実であるし、内通者の確認も出来たのだ。それが誰であるかは把握できなかったが。モルガンは鼻を鳴らしてこう告げた。
「……フン。ともあれ――事件解決への協力、感謝する」
「……これも遊撃士の務めよ。こんな危険な賭けになったのはもうしょうがないけど、せめて次からは連携できるようにしておいてほしいわね」
「善処しよう」
シェラザードはモルガンの答えに完全に毒気を抜かれてしまった。ここまで殊勝になられてしまうと責めることも出来ない。シェラザードは呆けたままモルガンを見つめる羽目になった。
そして――空賊たちが完全に確保され、軍の飛空艇に乗せられた。それをぼんやりと見ながらアルシェムは考えていた。どうやって帰ろう、と。自分だけならば崖を飛び降りれば済むのだが、オリビエがいる以上はそれも出来ない。
と、そこに声を掛けて来た者がいた。金髪タマネギ頭の士官である。
「ご苦労だったね、君達」
「あ、リシャール大佐」
士官――情報部司令、アラン・リシャール大佐はエステル達に事情聴取のためにハーケン門までこのまま同行してほしいと告げた。アルシェムが止める間もなくシェラザードは了承してしまい、この場にあってはいけない一番の危険物と共にハーケン門へと向かうことになってしまった。
この場にあってはいけない一番の危険物とは――オリビエ・レンハイムのことである。本名オリヴァルト・ライゼ・アルノール。エレボニア帝国皇帝、ユーゲント・ライゼ・アルノールが実子にして庶子である。そんな彼を厳しく訊問されてはアルシェムとしてもオリヴァルト本人としても困るのだが、今この場で断れるような雰囲気でもない。
そうして、アネラスを加えたシェラザード御一行様は、ハーケン門で事情聴取をされた後、遊撃士協会へと戻ったのだった。――何故かオリヴァルトはあっさり解放されたのだが、その真意を知る者はいない。
というわけで、本日から5、10、15、20、25、30日の更新となります。
やったね倍だよ!
では、また。