雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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寒中お見舞い申し上げます。その理由は察してください。

まさかの帝国遊撃士協会襲撃事件のあらまし。
トヴァル氏の口調なんて分かんねえですよ。

まあ、それはさておき……どうぞ。


閑話・カシウス及びリオの大冒険

「さて――行くぞ、リオ」

「はい、ブライト卿」

 定期飛行船《リンデ号》に乗ったカシウスとリオはまずルーアンへと向かった。リンデ号の中でカシウスとリオは色々なことを話した。出身、生い立ち、今までどうやって生きていたのか――そして、帝国の情報まで。カシウスの話をリオは興味深く聞いたし、カシウスもリオの話を興味深く聞いていた。

 ルーアンへと降り立つと、カシウスはまっすぐ遊撃士協会へと向かった。

「ああ、カシウスさん! お久し振りです、今日はどうしたんですか?」

「ああ、久し振りだな、ジャン。アガットはいるか?」

 ルーアンの遊撃士協会の受付ジャンは笑顔でうなずき、そろそろ依頼から返ってくる頃だと告げた。すると、タイミングよく――

「ジャン、終わったぜ……って、ゲッ、オッサン!?」

「久しぶりだな、アガット。お前に頼みたいことがあってな……ジャン、二階を借りても?」

「勿論です!」

 ジャンの満面の笑顔に見送られたアガットはカシウスに遊撃士協会の二階へとドナドナされていった。ジャンに事情を話したリオもそれについて行く。

「いきなり何だよ?」

「実は、国内に不審な黒装束の男どもがいてな……そいつの調査を頼みたい」

 その言葉に、アガットは息を呑んだ。その依頼は確かカシウスにしか受けられないと言われた依頼のはずだからである。その依頼を自分に任せるということは――何かが起きた、ということだ。

「一体何があった、オッサン」

「何、少しばかり厄介なことになっていてな……詳細は省くが、今その件にかかずらっていられる場合ではなくなった」

 カシウスは真剣な顔でそう告げた。アガットはその顔を見て尋常でない事態が起きたのだと気付いた。しかも、そちらをアガットに任せないということは、それこそ事態が緊迫しているということ。

 アガットは何故か付いて来ている得体の知れない女――シスター服を着ているものの、ただ人ではないことが分かっている――に疑念の眼を向けた。

「それは、隣の女と関係あるのか?」

「彼女は協力関係にあるだけだ。……受けてくれるか?」

「当たり前だろうが。いざとなったら頼れそうなやつにでも頼るさ」

「……済まんな、頼む」

 アガットはカシウスの殊勝な態度に、事態の緊迫さ加減を見て取った。手伝おうか、と一瞬思ったものの、恐らく手伝えるような事件ならば先に言っているだろうと思えた。

「ああ、どこに行くかは知らんが……気をつけて行って来いよ」

「勿論だ。……ああ、あと……うちの娘たちが準遊撃士になってな。そのうち会うだろうからよろしく頼む」

「そうか……分かった」

 そこでカシウスは立ち上がった。これ以上ここにいる意味はなく、アガットにも用事を伝え終えたからである。リオも続いて立ち上がり、ジャンと言葉を交わすとルーアンの空港へと向かった。そこで反対周りの定期飛行船《セシリア号》に乗って今度は王都グランセルへと向かった。

「……カシウスさん、少しばかり大聖堂に寄っても良いですか?」

「ああ、大使館に寄っている間に済ませてくれ」

「分かりました」

 カシウスはリオと別れてエレボニア大使館へと向かい、リオはそのままグランセル大聖堂へと向かった。

 エレボニア帝国大使館へと向かったカシウスはダヴィル大使にこれから帝国遊撃士協会襲撃事件についての応援に帝国に向かうことを告げた。

「そ、そうですか……貴男ほどの方が動いてくださるとは、光栄です」

すると、ダヴィル大使はそのことに複雑な顔をしながらも歓迎してくれ、また帝国へも連絡してくれた。どうやら、遊撃士協会にあまり良い印象がないようだ。もしくはカシウスという駒が動いたことによる動揺か。カシウスはそれを見極めるべくダヴィル大使の言動・行動を観察していた。

 一方、グランセル大聖堂へと向かったリオは、そこに配属されている同僚――アルシェムの従騎士、ヒーナ・クヴィッテと接触した。

「巡回シスターのリオです。……シスター・ヒーナ・クヴィッテはどちらに?」

「ああ、奥の告解室におります」

 告解室へとリオが赴くと、そこには黒髪の麗人が待ち受けていた。シスターにしておくのがもったいないほどの美人である。彼女はリオを見るなり手早く情報を流した。

「やはり、帝国では《蛇》が動き始めているようですね。《死線》に、《道化師》。ただ、《鋼》は動き始める様子はありません」

「ありがと、ヒーナ」

「それより……『彼』の様子は?」

 ヒーナは不安そうにその言葉を紡いだ。実際に顔には不安げな色が浮かんでおり、余程その『彼』に執着していることがうかがえる。リオはその『彼』の様子をヒーナに伝えた。

「元気だよ。ただ……」

「ただ、何ですか」

「やっぱり上司と一緒みたいでね。問題はそれに紛れて洗脳が見抜けないことくらいかな」

 その言葉にヒーナは顔をしかめ、次いで涙をこぼした。ヒーナがこれほどまでに案じる人物は、しかしヒーナのことを思い出すことが出来ないのである。小さな情報にまで一喜一憂するヒーナは、本当に『彼』のことを愛していた。

 リオは最近の情報から武装に至るまでをヒーナに全て伝え、ヒーナはそれを涙をこぼしながら聞いた。やがて報告を終え、リオはヒーナの前から辞した。

 その後、リオと合流したカシウスはカルバード共和国大使館を通じて一通の手紙を出した。あて先は、ジン・ヴァセック。カルバード共和国のA級遊撃士、《不動》のジンである。その手紙が早く届くことを願いつつ、カシウスは王都グランセルを後にした。

 王都グランセルを後にしたかカシウスは《リンデ号》に乗船し、ボースからロレントへ向かう最中に突然キャンセルして飛行船から飛び降りた。リオはボースで下船しており、カシウスが偽装工作をしている間に旅行に必要なものを少しずつ買い集めていた。そして、そのままハーケン門へと向かったのである。

 リオとカシウスは終始無言だった。ハーケン門につく前にリオに今後気配を消し続けるようにという指示を出した以外、彼らは口を開くことはなかった。カシウスはハーケン門の執務室にこっそり侵入すると、そこにいたモルガンは溜息を吐いた。

「何をやっておる、カシウス」

「お久し振りです、モルガン将軍。実は――」

 カシウスはモルガンに事情を話した。すると、モルガンは秘密にしておくことを含めて快く了承した。

「貴様が動かねばならんくらいだ、余程緊迫しておるのだろう」

「ええ、まあ。それよりもモルガン将軍、リベール国内で怪しい集団が動いているという報告は上がっていますか?」

 カシウスの言葉にモルガンは眉をひそめた。そんな報告はどこからも来ていない。そういう不審者の情報を持っているであろう情報部からもそんな情報は回ってきてはいない。

「いや……」

 モルガンが首を振るので、カシウスは厳しい顔のままこう続けた。

「そうですか……最近、手紙の返信がなかったので何かしら王国軍の中で起きているとは思っていましたが……」

「待て、手紙だと?」

 モルガンは立ち上がった。カシウスの手紙など、ここ最近受け取ってはいない。ましてやモルガンから送った手紙もこの分では届いていなさそうである。つまり、王国軍の中で検閲を行って手紙を排除した何者かがいる、ということである。

「成程、検閲して捨てられていましたか……」

「思ったよりも、こちらもまずい状況のようだな」

 カシウスとモルガンは厳しい顔をして向き合った。ここ最近情報を分断されていたということは、どこまで敵に知られているか分かったものでもない。今度からは某姫君が使うシロハヤブサでも使わせて貰いたいものだ、とカシウスは思った。

「こちらの状況は義娘も少しばかり知っているようですから、もし会うことがあれば彼女から聞いてください」

「義娘、というと――あの殿下を襲った不届き者のことか」

 モルガンは顔をしかめた。アリシア女王の孫娘を襲撃した小娘を思い出したからである。かの小娘は操られて姫を襲撃したらしく、襲撃後は記憶を全て消されていたらしい。その義娘が何故ここで出て来るのだろうか、とモルガンは思った。

「ええ。どうやら独自の情報網を持っているようです」

「それを見逃したのか、カシウス」

 かつて王族に弓引いた小娘の怪しい動きを止めなかったという意味では、モルガンの言葉は正しいだろう。しかし、カシウスはその情報ソースが別のところからものであると知っていた。

「いえ、あの子はどうも七耀教会とつながりを持たされていたようですな」

「……貴様の背後の小娘関係か……信頼できるのか?」

 モルガンはカシウスの背後のリオを見ながらそう言った。リオの背には冷や汗が流れている。どちらかというとリオは荒事専門であり、交渉事には基本的に向かないのである。

「今のところは、といったところです。もっとも――あれはあれで結構甘いところがあるのでそこに付け込めば取り込めるかと」

「あー、ブライト卿? 流石にアタシの前でその発言は頂けないんですけど」

 そこでリオが口を挟んだ。すると、カシウスの目が光った。アルシェムが七耀教会と接触したのはほんの数日間である。その短期間で従騎士と仲良くなる期間があったとは到底思えない。つまり、彼女は――

「リオ、お前交渉下手だろう」

「し、知ってますよ! 交渉事に向かう必要がないからアタシがブライト卿につけられたんですから」

 リオは気付かない。自らの失態を。これ以上口を開いてはどんどん墓穴を掘るだけとなっているのに、彼女が気付く様子はない。

「お前が、俺につけられた、ねえ」

「え、あ、今のナシ! お願いブライト卿アタシ後でお仕置きされちゃう!」

 カシウスは気付いた。アルシェムの正体の一つに。それは――星杯騎士の上位、《守護騎士》であるということ。リオに命令が来たように見せかけていたが、恐らくあの場で命じられたことなのだろう。アルシェムは恐らく《守護騎士》なのだ。いつから、とは分からないが。

「全く……一つ、聞かせてくれ」

「アタシがバラしたってあの子に言わないでくれるなら」

「良いだろう。アルシェムに――リベールを害するつもりは、あるか」

 その言葉にリオは瞠目した。それだけはありえないことだからである。確かに少々恨みがあることは否めないが、それだけ。むしろアルシェムの恨みはエレボニア帝国に向いていると言って良い。

「それだけはありえませんね。確かに多少リベールを恨んでることはあっても、リベールが過失をしてあの子が不幸になったわけじゃないですし。ここ、あの子の第二の故郷って言ってましたもん。それに……あの子が恨んでいるのは、多分結社ですから」

「……そうか」

 カシウスは、アルシェムは恐らく10年前の《百日戦役》で孤児にでもなったのだろうと結論付けた。確かに一部分はあっているが大部分は外れている。これ以上時間を潰すわけにもいかないので、カシウスは二言、三言モルガンと話すとエレボニア帝国方面へと忍び込むことにした。

 そして――数日後。

「やれやれ、奴さん達も派手なことをしてくれたな」

 カシウスはエレボニア帝国の帝都ヘイムダルにつくなりこうこぼした。それに追従するリオは、シスター服を着ていない。どこにでもいそうな町娘の格好をしたリオは、気配を完全に消してカシウスについて歩いていた。向かう先は帝都の遊撃士協会。数日前に襲撃された場所である。

 遊撃士協会につくと、カシウスは帝都支部の被害状況を確認した。完全に崩壊していた支部の周りには黄色いテープが張られており、帝国軍が一般市民が入らないようにガードしている。カシウスは遊撃士の紋章を見せて中へと入らせて貰った。

「……直下に爆弾を仕掛けてドカン、か」

「しかもこの爆薬……《蛇》の可能性が高いですね」

 一通り調査を終えたカシウスは帝都支部周辺で掲示板を立てて依頼をこなしていた遊撃士と合流し、他の支部の被害状況を聞いた。すると、他にも支部が爆破されたようである。カシウスはその遊撃士に爆破された支部に所属する遊撃士に伝言を頼んだ。

 そして、カシウスはひとまず帝都のホテルの部屋を借り、そこを臨時本部とした。

「……ずいぶん派手だが、たかが俺如きのためにここまでするかね、フツー」

 カシウスは溜息を吐いた。というのも――カシウスが動くたびに諜報員と思しき人間がカシウスに付きまとっていたからである。鬱陶しいことこの上ない。そんなカシウスにリオはこう返した。

「謙遜はよしてくださいよ……貴男はもっと自分の評価を知るべきですね」

「やれやれ……」

 カシウスはぼやきながらそこに先ほどとは違う遊撃士――トヴァル・ランドナーを呼び寄せた。この遊撃士は昔運び屋をしていたという奇怪な過去を持つ遊撃士で、自身で改造したオーブメントを駆使して闘う遊撃士である。小説『カーネリア』に登場するトビーとは、彼のことらしい。

「それで、俺はここで囮になれば良いんすね?」

「ああ、頼む」

「最初の指示くらいは出してってくださいよ? 方向性が分からないとどうにも、ね」

 苦笑するトヴァルに苦笑を返しながらカシウスは指示を出した。崩壊した支部の遊撃士は辺境に集まり、そして導力通信の放棄をするように、と。次いで、帝国軍にはいまだ健在な支部を守ってもらえるように要請した。

「今の帝国軍が支部を守るかって言われると、アレですけどねえ」

「やはり、そうか……トヴァル、もしお前が猟兵団だとして――お前なら、どこで補給する?」

 トヴァルはしばし考え、とある地点を複数指さした。

「ここと、ここと、ここっすね」

「そうか……」

 カシウスは黙考した。程よく離れているため、カシウス達だけで動くことは出来ない。そして間違いなくカシウスはマークされている。ならば、誰を動かすべきか。

 そこでトヴァルがカシウスにこう告げた。

「あー、近くにサラがいますけど」

「なら決まりだな。ここにはサラで、ここにはトヴァル、残りはリオだ」

「え、カシウスさん……このお嬢さん信頼出来るんですか」

 若干トヴァルは引きつつリオを見つめる。リオはトヴァルという名に訊き覚えがあったので自己紹介を兼ねて正体を明かすことにした。

「巡回シスターの、リオ・オフティシアです」

「ゲッ……あの女の回し者かよ……」

 リオの言葉を聞いたトヴァルの顔が面白いほどに歪んだ。トヴァルの知り合い、というか命の恩人からの手助けだと分かってしまったからだ。その恩人の名は、アイン・セルナート。《紅耀石(カーネリア)》とも呼ばれる、同名の小説『カーネリア』の主人公でもある。現在は《星杯騎士団》の総長を務める《守護騎士》第一位である。

「そういうことですよ、トビー」

「止めて黒歴史掘り返すの止めて」

 トヴァルは顔をひきつらせながらそう言った。案外いいパートナーになるかも知れない、とカシウスは思った。

 そうして――カシウスはエレボニア帝国の遊撃士たちと協力しつつ《ジェスター猟兵団》と渡り合って行くのだった。そこに《死線》と名乗る女や《道化師》がいたのは言うまでもない。この件で、リオは猟兵団の拠点を次々に打ち壊して行ったことから二つ名がついた。――《破城鎚》。それが、リオの二つ名である。

 裏社会で一躍有名になってしまったリオは、その後見るたびに全力で引かれるようになってしまったそうな。




とまあ、こんな経緯があったわけでして。

では、また。
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