雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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今話は旧3話の半ば~4話までのリメイクです。
リメイクしてると、どれだけ短くて未熟だったかよく分かる。
まあ、今も未熟なんでしょうけどね。

では、どうぞ。


最後の研修

 シェラザードはエステルにリベール王国における基礎知識と遊撃士の心得、そしてオーブメントについての研修を行い、エステルはそれを真剣に聞いていた。アルシェムにとっては随分昔に叩き込んだことばかりなので同じことの繰り返しにはなる。それでも一応は真面目に聞いておいた。減点されてエステルと共に遊撃士になれなければ困るのはアルシェム自身なのだから。座学の研修はすぐに終わり、次は実地での研修となった。因みに実地での研修であると聞いたエステルのテンションの上がりようは周囲がドン引きするほどであったとか。

 エステル達は実地研修に取り組むべく遊撃士協会の1階へと降りた。そして、そこで掲示板を見て依頼を受けるという遊撃士の一番基本的な行動を覚えた。その次はオーブメントについての研修である。エステル達は遊撃士協会の正面にあるオーブメント工房《メルダース》に向かった。

「やあ、エステル、ヨシュア、アルシェム。シェラザードさんから聞いているよ。早速説明を始めようと思うんだけど良いかな?」

「お願いします」

 エステル達は工房の跡取り息子、フライディから説明を受けようとしたが、それを制止したものがいた。

「待て、アルシェムはこっちじゃ。別に聞かんでもわかっておるじゃろ?」

「や、あの、形式って必要でしょー?」

「問答無用、作品を見せてくれ」

 アルシェムだけを連行したのはメルダースであった。シェラザードはそれを止めることはしなかった。というのも、アルシェムにはもう必要のない説明だったからである。アルシェムは引き取られてから半年後にツァイスに留学し、1年もの間オーブメントについて学んだ経験を持つ。故に、オーブメントは既に持っていてアーツを使うためのスロットは全開放され、クオーツもそろっているのである。まさに今更な説明であった。

 エステル達が講習を受けている間、アルシェムはメルダースに妙な作品は作っていないのかどうなのかとひたすらせっつかれていた。以前作っては見せていたのがあだとなったようである。因みに一番最近のものは『くるくる舞うお人形さんNo.9』であり、風属性の七耀石と時属性の七耀石を組み合わせて作られたものである。ネーミングセンスは全くない。

 そうこうしているうちに講習が終わったようである。アルシェムはメルダースに断りを入れて話を中断させた。すると、シェラザードがエステルに向けてこう告げた。

「さあて、次はお待ちかねの認定試験ね」

 その言葉を聞いた瞬間、エステルは顔をひきつらせた。まるでそんなことは聞いていないとでも言いたげであるが、残念ながら先日シェラザードから宣言されていたことである。エステルは引き攣った笑いを浮かべながらこう告げた。

「そ、そうだっけ……あ、あたしお腹が痛くなってきたかも……」

「こーら、昨日も話してたでしょーが。全く、ガキじゃないんだから……」

「本気で忘れてたんだったら賞賛ものだよ、エステル。昨日さんざん言ってたはずだし、今朝も試験があるって言ったばかりじゃないか」

「そ、そうだっけ……」

 きょとんと首を傾げるエステル。どうやら本気で忘れていたらしかった。そんなエステルを見てヨシュアとシェラザードは呆れている。無論アルシェムも呆れていたが、昨日のエステルは眼をぐるぐる回しながら勉強していたので忘れていてもおかしくないとは思っていた。要するに、テンパっていたのである。

 シェラザードはエステル達にこう告げた。

「ホント、期待を裏切らないんだから……まあ良いわ、とにかく試験場に行くわよ」

「え、ちょ、ちょっと待ってシェラ姉、まだ心の準備が……」

 笑顔で後退するエステル。しかし、シェラザードは容赦なくエステルの首根っこを掴んで歩き始めた。

「ほらっ、きりきり歩きなさい!」

「ヨシュア、アル、お助け~」

 エステルは情けない声を上げてシェラザードに連行されていく。ただし、あの状態では歩こうとしても歩けないのではないか、とどうでも良いことをアルシェムは考えていたので追いつくのに遅れた。

 とにかく、工房の主たちに挨拶をしてヨシュアとアルシェムはシェラザード達に合流した。シェラザードの行先は七耀教会の裏であり、アルシェムはその場所が下水道に通じる場所であることを知っていた。シェラザードはエステルを直立させて説明を始めた。

「さあ、研修も大詰めね。これから3人に認定試験を受けてもらうわ。今までの成果が発揮されることをとっても期待してるからね」

「はい」

「りょーかいです」

 ヨシュアとアルシェムは返事をしたのだが、エステルは周囲を見回して首を傾げていた。さしずめ、なぜこんな場所で認定試験を行うのだろう、といったところか。やがてエステルは呆然と声を漏らした。

「……ねえ、シェラ姉。もしかして……試験って、ペーパーじゃないの?」

「はあ? エステル、あんたさっき掲示板見たでしょうが。アレが最終試験よ」

 シェラザードはエステルの言葉に困惑しつつそう返した。すると、見る間にエステルの瞳に活気が戻っていく。踊り出しそうになりながら、エステルは大げさにこう言った。

「……ああ、空の女神様……地下水路を作って下さった情け深いお心の感謝を捧げます……! ひゃっほーい、筆記じゃないって最高!」

 そのままくるくる踊りだす。因みに比喩ではない。周囲にいた鳩が驚愕してバサバサと飛び去っていった。その光景を見てシェラザードがヨシュアに耳打ちする。

「……大丈夫なの、アレ……」

「ええ、多分。テンションが上がっているだけだと思います……」

 ヨシュアは頭を抑えながらそう答えた。流石にこの行動は恥ずかしいものがある。溜息を吐きつつエステルの奇行を見ながらヨシュアは思った。何で僕、エステルのことが好きなんだっけ……と。そのくらい間抜けな光景だった。

 すると、その一連の行動を見ていたアルシェムがエステルの脳天にチョップをかました。ゴスン、と小気味いいとはお世辞にも言えない音が鳴る。それを受けてエステルがアルシェムに抗議した。

「いった~い、何すんのよアル!」

「落ち着かないエステルが悪い。ほら、シェラさんお待たせしちゃってるから」

「ううっ……最近あたしの扱いがひどくなってる気がするぅ~……」

 エステルは涙目で頭を抑えながらそう言った。エステルの扱いがひどいのではなく、エステルの反応がおかしいだけである。もう少し大人っぽくなって欲しいというのがアルシェムの願いでもあった。大人らしく、と言えば良いのだろうか。とにかく、女性としての落ち着き――と言えば差別につながるかも知れないが――をエステルには身に着けてほしかったのである。

 それはともかく、シェラザードは呆れたように口を開いた。

「はいはい、そこまでよ。落第したらキツイ補習を受けさせてあげるからね?」

「う……でもでも、実地なんでしょ? じゃあ大丈夫だってば。シェラ姉だってあたしが実践が強いの知ってるでしょ?」

「実践と本番は違うのよ。自信があるなら結果で証明して頂戴」

 そして、シェラザードは認定試験の中身を説明した。内容は、地下水路内にある宝箱の中身を回収することである。そして、念のためにと七耀教会謹製のティアの薬とこれまでに出会った魔獣を記載する魔獣手帳を手渡した。アルシェムは以前持っていたのだが、遊撃士協会に返却した後なのでもう一度貰っておく。これはアルシェムが以前遊撃士だったことを意味しない。アルシェムはツァイスに留学していた際、遊撃士協会の協力員として動いていた時期があったのだ。そのために遊撃士協会から魔獣手帳を支給されていた。

「じゃ、行ってらっしゃい」

「うん、シェラ姉! さ、行こう2人とも!」

「りょーかい」

「慎重にね」

 3人はシェラザードに見送られながら地下水路へと降りて行った。あまり広さはないものの、そこには魔獣が跋扈している。遊撃士が週に一度は掃除しているはずなのであまり大量には湧いていないのだが、それでも魔獣はいた。

 エステルは自らの得物である棒術具を持ち、ヨシュアはエステルが傷つかないように黒塗りの双剣を構え、アルシェムは二丁の導力銃を魔獣に向けた。あくまでも慎重に、それでも確実に魔獣を狩って進んでいくエステル達。その中で、アルシェムはあくびをかみ殺していた。暇だったのだ、ありていに言えば。

 アルシェムは先日、シェラザードから手加減するようにと言われていた。アルシェムにはツァイスで以前魔獣狩り専門の遊撃士協会の協力員として働いていた実績があるためだ。普通の魔獣から古代種まで狩ったらしいというその噂を、シェラザードは信じてはいなかった。しかし、念のためもある。エステルの実力を見るためだけにこの試験はあるのだから。

 アルシェムが本日四度目のあくびをかみ殺した時、ようやくエステル達は地下水路にある宝箱を発見していた。残念ながらここには宝箱型魔獣はいないのでそういう意味での警戒をする必要はない。もっとも、宝箱の中に潜んでいるのもいるようだが。

 宝箱の前に陣取っていた魔獣をさくっと片付け、エステルは宝箱を開けた。そこには手のひらに載るくらいの小箱が3つ入れられていた。エステルはそれを見て目をぱちくりと瞬かせた。そして、声を漏らす。

「……小箱? 何だろう、開けちゃっても良いかな?」

「ダメだよ、エステル。試験は捜索と回収だけで、中身の確認は含まれてなかっただろう?」

「ま、中身の推測はついてるから後で教えてあげるよ。だから我慢して?」

 エステルはヨシュアとアルシェムの制止に複雑な顔をしたが、それもそうだったと思い直した。何せ、これは試験である。何か迂闊なことをしてしまっては落第してしまう可能性がある以上、下手なことは出来ない。ただ、それでも気になるようでアルシェムに声を掛ける。

「中身って何だと思う? アル」

「エステルが合格したら多分分かるよ」

「むぅ~……分かった、諦める。というより、早く終われば見せて貰えるかも知れないわよね! そうと決まれば急ぎましょ!」

 そう言ってエステルは駆けだした。魔獣のことなど気にもしていない様子で。ただし、蛙の子は蛙と言ったところか、前方にいた魔獣はばったばったと薙ぎ倒されていったが。普通の魔獣ではエステルの相手にもならないのである。ぐんぐん進むエステルを追ってヨシュア達は急いだ。

 エステルはどんどん先に進むが、ふと立ち止まった。何か違和感を感じたようである。

「……あれ? ここ、何かさっきよりほこりっぽいような……」

 そう言葉を漏らすと、周囲を見回す。アルシェムは急速に収束しつつある気配を感じた。それは、まぎれもなく魔獣の気配である。この場所ではめったに出ない魔獣のはずだ。ヨシュアもその気配に気づき、エステルに警戒を呼び掛ける。

「エステル、気を付けて!」

「え……きゃっ!?」

「エステルッッ!?」

 そのヨシュアの警告は遅すぎたのだ。エステルの足元で急速に(ちり)が収束し、エステルの身長ほどもある魔獣が出現した。その場から咄嗟に飛び退くエステル。しかし、その行動でその魔獣には目をつけられてしまった。即ち、戦わないという選択肢はなくなってしまった。

 ヨシュアはエステルを背後に庇って斬撃を繰り出す。しかし、その魔獣を斬ったという手ごたえは伝わって来なかった。歯噛みしつつもヨシュアは手振りでエステルを下がらせる。そこにアルシェムから声が掛けられた。

「ヨシュア、もーちょい注意引いてて!」

「ああ、頼んだ、アル!」

 ヨシュアの返事を聞いたアルシェムはポケットからオーブメントを取り出して水属性のアーツを駆動させるべく準備する。ここで火属性のアーツが使えれば()目的(めてき)にも効果があるのだろうが、残念ながら何故かアルシェムのオーブメントは火属性のクオーツを受け付けない。故に、アルシェムのオーブメントで使えるアーツの中で一番効果があると思われ、かつ塵がまき散らされないようなアーツを選んだのだ。

「ヨシュア、退いて! ……アクアブリード!」

 アルシェムの声にヨシュアは飛びのき、その魔獣に水属性の単体攻撃アーツ、アクアブリードが突き刺さった。魔獣は水でぬれて動きが鈍くなる。アルシェムは次のアーツの駆動の準備をし始めた。それを見てヨシュアは魔獣がエステルを狙わないように攻撃を始める。先ほどまでよりは攻撃は当たるようになったが、まだまだ健在のようである。

「エステル、ひとまずシェラさんに連絡を取らないと……」

「分かった」

 エステルは力強く頷いて出口へと踵を返そうとしたが、エステルは出口へたどり着くことは出来なかった。エステルの眼前にも塵が収束した魔獣がいたのである。

「ヨシュア、こっちにも……!」

「くっ……」

「エステル、使えるアーツは!?」

 歯噛みするヨシュアをよそに、アルシェムはエステルにそう問うた。因みにアーツを駆動中である。エステルは慌ててその問いに応えた。

「ええっと、水属性と、火属性と……」

「火属性のアーツぶちかまして! わたしのじゃ出来ないから、お願い!」

「わ、分かった!」

 そうして、エステルが火属性アーツを魔獣に浴びせるのを見ながらヨシュアはエステルを護衛し、アルシェムは単独で逃げ回りながら水属性と時属性のアーツを魔獣にはなっていた。そのうちシェラザードが異変に気付いて来てくれるだろうと、そう信じて。

 戦況が変わったのはアルシェムの方が先だった。アーツを駆動するためのEPがなくなってしまったのだ。仕方なくアルシェムは跳弾に気を付けて魔獣を狙撃するしかなかったが、何となくで撃ち抜くだけで魔獣はダメージを負っていた。最初からこうしておけばよかった、とアルシェムは思ったものの、油断だけはせずにその魔獣を仕留め終えた。

 そして、魔獣を仕留め終わったアルシェムが背後を見た時だった。エステル達の眼前で魔獣が炎に包まれていた。エステル達は必死で気付いていないようだが、明らかにあの魔獣はエステルのアーツで燃えているのではなかった。アルシェムは舌打ちしてその魔獣を仕留めにかかる。

「アル!?」

「射線上から離れて、エステル!」

「……っ、分かった!」

 エステルも天性のカンでそれが自分の引き起こしたことではないと分かっていたのだろうか。若干ためらいはしたものの壁に張り付く。その瞬間、アルシェムはクラフトを発動させて魔獣を屠った。

「っふー……」

「終わった、かな?」

「多分……」

 エステル達は顔を見合わせてその場から立ち去った。アルシェムだけは手に持っていた小さな紙に何事かを書きつけてその場に置いて行ったが、それにエステル達は気付く様子もなかった。地下水路から上がる寸前、『お節介で悪かったですね』という女の声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 そして、エステル達は地上へと戻った。そしてシェラザードに魔獣のことも含めて報告し、小箱を手渡す。

「うん……本物ね。開いた痕跡も無し、と。その魔獣のことは気になるけど、退治してくれて助かったわ」

「あんなのがいっぱいいたら大変だと思うんだけど……」

「大丈夫よ、元々はあたしが狩ってた魔獣だし」

 シェラザードはしれっとそんなことを言う。ということは、魔獣の掃除をする際に狩り零したということだろうか。アルシェムとしてはぜひとも訊問したいところではあるが、またの機会においておくことにした。今は魔獣程度にかかずらっている場合ではないからである。

 シェラザードはにっこり笑ってエステル達に告げた。

「ま、でも……3人ともおめでとう。認定試験は合格よ」

「まあ、あの魔獣以外は楽勝だったもんね」

「はは……」

 ヨシュアは曖昧に苦笑しながら考えた。あの時放たれたアーツは間違いなくエステルのものではない。そして、アルシェムのものでもなかったのだ。そして、最後に聞こえた『お節介』発言。つまりは第三者があの場所にいたことになる。一体何の目的でそこにいたのか知らなければならない気がした。と言っても手掛かりはアーツのみで他にはない。もしもエステルのストーカーならばこの先会って物理的にお話しできるだろう、とヨシュアは結論付けた。

 ヨシュアが考え込んでいるうちにエステルへの説明は終わってしまったようだ。この先は報告のために遊撃士協会に戻るらしい。ヨシュアは考え事をしながら遊撃士協会へと戻るのだった。




結構端折ってる気がしないでもないです。

では、また。
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