雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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旧48話のリメイクです。
後半にはエステル達視点もあります。

では、どうぞ。


ルーアンでの掲示板の依頼・下

 エア=レッテンから戻ったアルシェムは、武器屋に寄って導力銃の試作品を探しているはずの研究者に会っていた。彼の名はカルノー。かつてアルシェムがツァイスに留学していた際に会ったことのある人物である。カルノーはアルシェムが遊撃士になっていたことを祝ってくれ、また少しばかり残念そうにしていた。カルノーはアルシェムの技師としての技術を買っていたのである。

 アルシェムはカルノーに遊撃士の方が性に合っていることを伝え、武器屋を後にした。残っているのは燭台の捜索とお宝捜索という依頼だけである。後で用事のある場所で待っているらしいお宝捜索の依頼を後にして、アルシェムは燭台の捜索にかかることにした。――といっても、遊撃士協会で報告を終えてからだが。

 遊撃士協会で報告を終えると、すれ違いそうになったエステル達からきちんと昼食をとるように念入りに言われてしまったため、軽く昼食をとる。そして、そのままダルモア邸に向かって歩き始めた。

 ダルモア邸に辿り着くと、アルシェムは庭で作業をしている人物がいたので話しかけた。一応ダルモアも容疑者ではあるのだ。ルーアンの中で観光名所を作るとして、一番得をするのはダルモアなのだから。

「こんにちは。素敵な御庭ですね」

 心にもないことを言いつつアルシェムは庭師を見た。すると、庭師は少しばかり照れつつこう返してくれた。

「ああ、ありがとう。ところで何の用だい?」

 そこでアルシェムは準遊撃士として依頼を果たしに来たことを伝えた。すると、庭師は屋敷を振り仰いでからアルシェムにこう答えた。

「ああ、今はいらっしゃるからこのまま入ると良い。……ま、最近はやたらとお偉方の出入りが増えたからもしかしたら中断させられるかもしれないけど」

 その言葉に、アルシェムは眉を動かした。お偉方がルーアン市長邸に訪れるのは珍しいことではない。しかし、この時期に増えたとなれば――かなり、怪しいだろう。白か黒かと聞かれれば黒に近いと言わざるを得ない。ジェニス王立学園の学園祭関係で増えたとも考えられるが、流石にまだ時期が早過ぎた。

「そうなんですね、ありがとうございます」

 アルシェムは庭師を適当にあしらってダルモア家に足を踏み入れる。すると、何故か秘書が玄関先で待ちかまえていたので、アルシェムは彼に話しかける。

「済みません、盗難事件の捜索依頼で来ました、準遊撃士ですが」

「ああ……って、君かい!? もうけがは大丈夫なのか?」

「えー、まー。ご心配をおかけしました」

 ぎょっとした様子のギルバートにアルシェムは苦笑しながらそう返した。一般人ならばいざ知らず、アルシェムは頑丈に出来ているのである。それに七耀教会の秘術が加われば、大けがをした次の日に全快しているなど造作もないことだ。

 引き攣った笑みを浮かべているギルバートは、盗まれたものの詳細を伝えてくれた。何でも、ダルモア家の家宝である『蒼耀の灯火』が何者かに盗まれたらしい。そして、盗んだ犯人はとあるカードを残して行ったとか。

 そのカードをギルバートから受け取って見たアルシェムは、盛大に顔をしかめた。

「……『怪盗B』、ねー……」

「ええと、知っているのかい?」

 ぎこちなく問うてくるギルバートに、アルシェムは遠い目をしながら答えた。

「国際的な犯罪者ですよ。死蔵されている宝石から女性まで何でも盗んでいく、ね」

「え、じょ、女性まで……?」

 アルシェムはこの犯罪者を知っていた。そして、その犯罪者の手口までも。というのも、この『怪盗B』なる人物とアルシェムは会ったことがあるのだ。一時期に至ってはアルシェムが彼に師事していたことすらある。

 小さな宝石から、女性まで。さまざまなものを盗んでいく『怪盗B』であるが、盗まれるモノには得てして共通点がある。それは、『日の光が当たらないモノ』であるということ。もしくは、『持ち主がその物品を持つのにふさわしい人物ではない』ことである。今回の場合は恐らく後者であろう。

 そして、犯行時にも特徴があって――彼は、謎かけをして盗んだモノの近くに潜んでいることが多いのだ。その謎が解かれない限り、物品が帰ってくることはない。それは謎が解かれないことをその目で彼が見ているからである。今回の場合は、このダルモア家に潜んでいる可能性がある。

 アルシェムは若干引いてしまったギルバートに声を掛けた。

「まー、それは置いといて。出来れば家宅捜索から始めたいのですが?」

「それはもうやったんだ。家人たちを総動員してね。だから、そのカードに従ってくれないか?」

 そう言うギルバートは、少しばかり慌てているようにも思えた。そんな雰囲気を出されてしまっては、アルシェムとしてはますますダルモア家に疑いの目を向けざるを得なくなってしまう。

 半眼になるのを必死に抑えつつ、アルシェムはこう返した。

「そーですか、分かりました。では失礼します」

 そう言って礼をし、踵を返してダルモア邸の玄関から出る。すると、庭ではいつの間に出現したのか意味不明な人物――身なりだけで言えば、執事のようである――と庭師がおしゃべりをしていた。

「……え、良いんですか? ダリオさん」

「はい、今日はいろいろありましたし……今は手すきなので休憩してきてください」

「ありがとうございます」

 どうやら、庭師に休憩を与えたようである。アルシェムはその執事の背後に忍び寄ると、彼に密着して導力銃をその背に突き付けた。そして、低い声でこう告げる。

「……怪盗B。正直に盗品を出さないと風穴開けるよ?」

 しかし、ダリオと呼ばれた執事のような人物は困惑した雰囲気を醸し出してこう告げた。

「え、ええと……これは何の冗談でしょうか?」

「はぐらかしても無駄かなー。そんな身のこなしの執事がいるわけないし」

 ごり、と導力銃をめり込ませてアルシェムがそう告げると――ダリオ、否、怪盗Bの雰囲気が一気に変わった。少しばかり底冷えのする快楽主義者の気配である。怪盗Bは声色すら変えてこう告げた。

「……何故分かったのか、参考までに聞いても良いかね?」

「何でって……いや、さっきまで庭には庭師さんしかいなかったのに二階にいたはずの執事が玄関も裏口も使わずに飛び出してるってのがオカシイから?」

「相変わらず、気配にだけは鋭敏すぎるのだね」

 たらり、と冷や汗を流しながらそう言う怪盗Bに、アルシェムは冷たい声を返した。

「相変わらずって言われても多分初対面だしね。ま、どーでもいいから燭台返せ」

 すると、怪盗Bは小さく嗤いながらこう答えた。

「君の慧眼に賞賛を込めて進呈しよう」

 そう言って怪盗Bが手渡してきた燭台は、紙に包まれていた。アルシェムがそれを受け取った瞬間、怪盗Bは身をひるがえして逃げていく。

「こら待て! ……っつっても、聞くわけないかー……」

 消えていく怪盗を見て、アルシェムは嘆息しつつ燭台から紙を引きはがして状態を見た。流石に美術品をめでるのが好きな彼らしく、傷一つついてはいない。その包み紙を一瞥して丁寧に畳んでから、アルシェムはダルモア邸へと戻った。

「おや、どうかしたのかね?」

 玄関へ入るなり、ギルバートがそう声を掛けて来た。どうも待ち構えていたというよりは無理に押し入られないようにしたかったらしい。ギルバートはアルシェムを見て、そしてその手元を見るなり硬直した。というのも、そこには盗まれたはずの《蒼耀の灯火》が握られていたからである。

「そーいうわけで、見つかりましたので返却までに」

「は、早かったね……」

「えー、運よく実行犯に鉢合わせましたので。残念ながら燭台を傷つけてしまう可能性があったので追えませんでしたが、よければ侵入経路だけでも割り出しましょーか?」

 ギルバートはそれを口早に断り、この依頼は終了した。余程探られたくないらしい。アルシェムはギルバートたちへの疑念を深めた。

 アルシェムはダルモア邸を後にして遊撃士協会で報告を終え、とあるものを受け取ってから七耀教会へと向かっていた。最後の依頼はお宝捜索という何ともロマンあふれるモノである。アルシェムが遊撃士協会で受け取ったのは、ルーアンを訪れる際に見つけていた海図の切れ端とダガー。もしかしたら関係あるのかもしれないと思ったので受け取ってきたのであった。

 七耀教会へと入ると、そこには礼拝堂に似つかわしくない男がそわそわしながら何かを待っていた。十中八九、依頼人のジミーであろう。アルシェムは彼に話しかけ、夢あふれる大海賊シルマーの残した宝の地図を手掛かりに宝探しを依頼された。しかし、アルシェムはその地図を見て苦笑する。というのも、海図の切れ端とダガーを手に入れたのは丁度そこだったからだ。アルシェムはそれをジミーに手渡し、狂喜乱舞するジミーに依頼の完了を念押ししてから彼から離れた。流石に海図の切れ端から別のものを探している時間はないのである。

 そして、一応名目上は元生徒が元先生を訪ねに来たという体を取ってアルシェムはメルに接触した。ロレントでメルに依頼した調査の途中経過を聞く為である。カプア一家と、使えそうな遊撃士と《蛇》関連の情報だ。メルはアルシェムに分かった情報を余すことなく伝えた。リベールにいる主要な遊撃士。《身喰らう蛇》で分かっている構成員の名前。そして――カプア一家の情報までも。

 アルシェムはそれを聞いてメルを労い、とある紙切れを取り出してメルに見せた。

「……これは?」

「信ぴょう性、あると思う?」

 困惑するメルにそうアルシェムが問うと、メルはそれをじっくりと見て頷いた。この紙切れは信頼できるということである。それさえわかればよかったので、アルシェムはメルに礼を言って七耀教会を後にした。

 遊撃士協会に戻ったアルシェムはジャンに盛大に引かれつつも報告を終え、エステル達が戻ってくるのを待つのであった。

 

 ❖

 

 時はアルシェムと別れた直後までさかのぼる。午前中のエステル達はというと――

「ふふ~ん、どんなもんよ!」

 エステルが釣り道具を手に、倉庫の鍵らしきものを吊り上げていた。酔っ払いが海に叩き込んでしまった倉庫の鍵をエステルが釣り上げたのである。普通はそんな器用なことは出来ないような気もするが、エステルは生粋の釣り人。将来かの《釣公師団》にも認められるほどの腕前であるために、少しばかり苦戦はしたものの見事釣り上げることが出来たのであった。

 それを見て、目を輝かせて手を叩くクローゼ。

「凄い、凄いですエステルさん!」

 純粋に凄い技能を持つエステルをほめそやしたクローゼは、そもそも何故エステル達の依頼にくっついているのか。それはクローゼから申し出たことであり、この忙しい時期に遊撃士協会から人手を出して貰うことに対するお詫びでもあった。

 それを知ってか知らずか、クローゼの同行を反対しなかったヨシュアも意外そうなものを見る目でエステルを見た。

「まさか君の釣り好きがこんなところで役立つなんて思ってもみなかったよ」

「ふっふっふ、どうだ参ったか!」

「いや、何と戦ってんのさエステル……」

 ヨシュアは自慢げに鍵に向かって自慢し始めるエステルに向けてそう突っ込んだ。

 その後、倉庫の鍵は無事に持ち主に返され――無論、釣り糸は外してある――事なきを得たのであった。少しばかりざらついているのには首を傾げていたが、海の底に沈んでいたので乾燥して塩がついてもおかしくないだろう。

 とにかく、エステル達は次の依頼へと向かった。次の依頼は整備鞄の配達、のついでにクローネ山道探索の護衛をこなすことにしていた。整備鞄を配達し次第護衛に向かう方針だ。オーブメント工房から整備鞄を受け取ったエステルは、工房の店員からこんなことを聞いた。

「灯台守の爺さんはちょっと偏屈だけどさ、ずっとあそこに一人でいるからなんだ。昔は海に出て《アゼリア・ロゼ》を呑みつつ辛口アンチョビで一杯、とかやってたけど今じゃ出来ないし……分かってあげて貰えると助かるよ」

「そ、そうなんだ……うん、分かったわ。じゃあ、確かに整備鞄の配達、請け負ったわよ」

「ああ、頼む」

 そうして、オーブメント工房から出たエステルはヨシュアにこう告げた。

「ねえ、ヨシュア。やっぱりこういうときって差し入れとか持って行っちゃ駄目かなあ?」

 それを聞いたヨシュアは、エステルの懇願するような顔に内心だけ全力でテンションを上げながら目を見開いた。そして、応える。

「いや、良いと思うよ。ちょっと出費は痛いかも知れないけど、こういう気配りも大事だと思うし」

「そっか、良かった! ヨシュア、あたし今から《アゼリア・ロゼ》手に入れて来るから辛口アンチョビ買ってきてくれる?」

「お安い御用さ」

 そうして一度エステル達は二手に分かれ、エステルとクローゼでカジノバー《ラヴァンタル》へ、ヨシュアは生鮮雑貨店へと向かった。エステル達は整備鞄から灯台守のところへ行くのを一目で看破した店主が《アゼリア・ロゼ》を無償で譲り渡してくれたので比較的早く済んだが、ヨシュアは生鮮雑貨店で辛口アンチョビを探したものの売り切れていたことが判明した。

 エステル達は合流すると、ヨシュアの報告を聞いて辛口アンチョビはマノリアで手に入れれば良いという結論に達した。おそらくマノリア村の方が在庫はあると思われたからである。エステル達は整備鞄を持ってマノリア村へと急いだ。

 途中の魔獣はアルシェムがこの間あまり狩らなかったので比較的多かったが、エステル達の敵ではなかった。クローゼがいることで戦闘に幅が増えたというのもある。とにかく、エステル達は順調にマノリア村へとたどり着いた。途中でクローゼが孤児院の方角を見てしんみりしたこともあったが、気にはしても捜査は出来ないのでエステル達も少しばかり悔しい思いをしながら通り過ぎた。

 マノリア村に辿り着くと、ヨシュアは早速辛口アンチョビをゲットした。そして、エステルと相談して整備鞄の配達をヨシュアが行い、後からエステル達に追いつく形をとることになった。

 ヨシュアが灯台の方へと去り、エステルはマノリアの端にある家を尋ねた。そこに依頼人がいるはずだからである。

「すみません、ご依頼の遊撃士ですけどー」

「あ……あの、済みません、叔父ったら先に出発しちゃったみたいで……!」

「ええっ!?」

 エステルは依頼人の言葉に驚き、少しばかり事情を聴いて依頼人の叔父を追いかけることに決めた。流石にこのまま放置してしまえば依頼人が哀しむと思ったからである。エステルはクローゼに謝罪しつつクローネ山道へと急いだ。

 灯台までの魔獣はヨシュアが殲滅してくれていたようで比較的早く進めたのだが、その先はまだまだ魔獣が多い。エステルとクローゼは悲鳴か何かが聞こえないか耳を澄ませながら先を急いだ。

 マノリア間道を抜け、クローネ山道に入っても男性は見つからない。エステルは焦りながらも先へと進んだ。そして――

「う、うわああっ!」

 叫び声が、聞こえた。そこにいたのは卵のような魔獣に追われる中年男性。恐らく、あれが叔父なのだろう。

 エステルはクローゼに向けて叫びながら飛び出した。

「クローゼさん、あたしあのおじさんの前に行くから挟み撃ち!」

「は、はい!」

 クローゼもそれに反応し、エステルが少しばかり段差になっているところから男性の前に滑り込んだところで戦闘を開始した。その魔獣――ボイルデッガーRは、火のアーツが得意なようなのでエステルが思い切り吹き飛ばして男性から逸らしつつクローゼがアーツで仕留めるという形で全滅させた。

 全ての魔獣を狩り終わったエステルは、男性に向き直って一言だけ怒鳴った。

「こんな危ないとこ来るのに護衛を待たずに来ちゃダメでしょ!」

「い、いや、うむ……少し入るくらいなら大丈夫だと思ったんだが、甘かったようだな」

 別にこのくらいは何とかなった、といえるほど無謀でもなかった男性はエステルにそう答えた。そして、謝罪の意を示すために頭を下げる。それを見たエステルは男性に用は済んだのかを問い、用がないことを確かめてからクローネ山道を脱出した。途中でヨシュアとも合流し、マノリア村に戻った瞬間。

「次からはちゃんと遊撃士に自分で依頼してちゃんと遊撃士を連れてってよね! それで死んじゃったらアメリアさんが悲しむんだから!」

「う、うむ……」

「返事ははい、よ!」

 そのまま男性はエステルに説教されることとなり、エステルを止めて遊撃士協会へと戻ったころには既に夕方になってしまっていたのであった。




これからもたまにエステル達視点が登場します。

では、また。
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