雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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旧55話のリメイクです。
連続投稿の真ん中です。最新話から来た人はお気を付けくださいな。
一話で全部終わらせるのには無理があったのです……
なのでもう一話この後投稿されまっす。

では、どうぞ。


白き花のマドリガル・中

 照明が切り替わり、執務室のような舞台装置とアルシェム、そしてエステルが照らし出された。エステルの顔には苦悶の表情が浮かんでいる。ゆっくりと、エステルが口を開く。

「……帝国を止めた騎士よ。黎明の騎士ブラッドよ。……私は、どうすればいい……?」

 生憎と、アルシェムはその答えを教えることは出来ない。というか知らない。ただアドバイスめいたことを言うだけだ。

 アルシェムは無表情のままにエステルに返答した。

「オレに聞いてくれるな。その答えを出すのはお前とオスカーでなければならん」

「しかし……」

 瞳を揺らして迷うエステル。ユリウスとしては、誰も犠牲にせずにこの事態を治めたい。しかし貴族派の重鎮の嫡男としては――オスカーを殺すべきだと心が告げていた。

そんなエステルに、アルシェムは告げる。

「お前は誰かに決められた道を歩みたいと思うのか? 己の意志で何一つ決められぬような愚物には教えることなど何もない」

「……そう、ですね……失礼します」

 エステルはそのまま舞台袖へと退場していった。因みにヨシュアがアルシェムを刺すような眼で見ていたりする。エステルを泣かせるな! と最初は何度言われたことか。流石に生徒達の正面で言われたことはないが、二人きりになった時に絶賛責められた。

 そして、そのままアルシェムは右手側へと移動してオスカーとも問答を始めた。

「ブラッド殿……自分は……」

「ユリウスにも言ったが……己の意志で何一つ決められぬような愚物には教えることなど何もない」

 迷った瞳をしたクローゼに、アルシェムはそう告げて懐からティアの薬(小道具であるが、中身は本物)を取り出して投げ渡した。そして、アルシェムは退場する。

 アルシェムが舞台上から退場するとともに、舞台は暗転した。半分の用意は終わっていたものの、もう半分の用意が終わっていなかったためである。アルシェムとクローゼが全力で手伝い、準備を終わらせたところで舞台上にはエステルとヨシュアが立った。

 そして、舞台に照明が当たる。

「お久し振りです、姫」

 口火を切ったのはエステル。ヨシュアはそんなエステルに向き直って冷たく言い放った。

「ええ、本当に久しいですねユリウス……今日はどうしたのですか?」

「国中に流れるかもしれない血を、最小限にするためにお願いに参ったのです」

 神妙に、厳粛に、悪く言えば無感情にエステルはそう告げた。何度も何度も悩み、これ以上の結果を出せなかったユリウスとしてエステルはヨシュアにそう告げたのである。

 ヨシュアはそれに対してまた冷ややかな声で応えた。

「それは、ユリウス。貴男とわたくしが結婚せよということですか?」

 しかし、エステルは静かに首を振ってそのヨシュアの言葉を否定した。それでは流血を止めることなど出来ないからである。エステルはじっとヨシュアを見つめてこう告げた。

「確かに私は貴女をお慕いしております。今ここで貴女に伴侶として選ばれればどれほど嬉しいでしょうか。しかし……それでは、流血の惨劇は免れないのです、姫」

 そのエステルの言葉に、ヨシュアは目を伏せて答えた。

「……平民たちの不満が爆発してしまうでしょうね。それはオスカーを選んでも同じこと……何が言いたいのです、ユリウス」

 目を開いてエステルを見据えたヨシュア。その真意を抉り出すかのような表情に、しかしエステルは怯まない。

エステルはそれに臆することなく答えた。

「私と、オスカー。我々が国民の前で決闘を行います。誰の目にも勝者と敗者が分かるように。そして、その勝者に……姫の夫たる幸運をお与えいただきたいのです」

 その言葉に、ヨシュアは息を呑んで絶句し、後ずさった。それを合図にしてハンスは照明を暗転させる。それを契機に舞台袖から役者たちが出来るだけ静かに舞台装置を変え始めた。

 舞台装置を次の場面に備えて動かす中、語り部役となったジルは、準備しているのが見えないように幕の前に立って本を広げた。それをきっかけにハンスがジルにピン・スポットライトを当てる。

 ジルはスッと息を吸ってゆっくりと語り始めた。

「ユリウスの要請を受けたセシリア姫は、決闘を承諾しました。そして、自らの名の下にユリウスとオスカーが決闘を行うことを広め、仲介人としてブラッドを指名しました」

 舞台上ではまだ作業が続いている。そして、ジルのセリフもまだ残っていた。

「また、セシリア姫は水面下で動き始め、この決闘の結果でこの国の将来を決めるとラドー公爵、クロード議長らに宣言。決闘までは争いを禁じました」

 あともう少しで準備が終わるのをはた目に見ながら、ジルは少しだけ話す口調を遅くした。このままでは話し終わっても準備が終わらないからである。

「緊迫した情勢の中、ただセシリア姫だけが二人の無事を祈っていました。決闘を赦しておきながら、セシリア姫はどちらにも死んでほしくなかったのです」

 そこで言葉を切ったジルは、最後の言葉を告げるべく息を吸った。

「そして、決闘当日――様々な勢力が見守る中、セシリア姫の名においてユリウスとオスカーは戦うこととなりました」

 ジルはそう言い終わると、本を閉じて大仰に一礼した。頭を下げたままでいると、スポットライトが消えるのを感じた。スポットライトは当たっていると熱いのだ。だからこそ、消えればその熱がなくなるのでわかる。たとえ視界を封じられていても、だ。完全にスポットライトが消えると同時に舞台に照明がつき、ジルはそのままゆっくりと舞台袖へと消えて行った。

 舞台上では、真ん中にアルシェムが、右手にクローゼが、そして左手にエステルがいた。アルシェムの背後に景色状態でラドー公爵役の女子生徒やクロード議長役の女子生徒、平民男性役の女子生徒に貴族女性役の男子生徒、見るに堪えない侍女達と七耀教会の司教役の女子生徒が並んでいる。因みにヨシュアは王立競技場を模した舞台装置の一段高いところから見守る形になっていた。

 そして、口火を切ったのはアルシェムだった。

「ユリウス、オスカー、前へ」

 その言葉と共に、エステルとクローゼが腰から剣を抜いて一歩進み出た。剣を構え、お互いを睨み据える。ピリッと空気が変わった。

 先に口上を述べたのは、エステル。

「我が友よ。私の剣には全てがかかっている。そして、それは君の剣も同じだ」

「ああ……分かっている。王国の未来と、姫との未来……分かっているさ、こうしなければ綺麗には解決できないのだと」

 少しばかりまだ迷っているように見えるクローゼに、エステルから叱咤の声が飛ぶ。

「臆したか、オスカー!」

「いいや。君と戦わずして未来はない……皆が、笑いあえる未来のために自分は戦おう!」

「ああ、私もそうだ……それでこそ、やりがいがあるというものだ!」

 エステルは不敵に笑った。対するクローゼは真剣な顔のまま、気持ちを切り替えていく。

 戦意が最高潮になったところで、アルシェムは剣を天に掲げ、告げた。

 

「さあ、剣を以て運命を切り開くのだ、若き騎士達よ! 彼らの気高き魂、空の女神も照覧あれ! ……いざ、始め!」

 

 そうして、エステル達は決闘を始めた。エステルが剣を巧みに操ってクローゼを壁際まで追いやると、クローゼもすかさず隙を見て反撃。エステルを反対側の壁まで追いつめる。何度かその攻防を繰り返し、鍔競り合ったところでクローゼが零した。

「やるな、ユリウス……」

「それはこちらのセリフ、と言いたいところだがオスカー……何を隠している?」

 そのエステルのセリフで動揺して少し力が抜けてしまい、じりじりと後退するクローゼ。怪我をしていることを、オスカーはユリウスには悟られたくなかったのである。

 クローゼは額に汗を浮かべながらこう返した。

「何のことだ?」

「とぼけるな。帝国軍を退けた武勲が! この私が憧れ、追い続けたその剣の冴えが! こんなもののはずがないだろう!」

 ギンっ、と音を立ててエステルは背後に下がり、クローゼも同様に下がる。お互いに少しばかり息が上がっているものの、まだ体力の限界ではない。

 クローゼは痛みのあまり剣を取り落としそうになった、という設定で反対の手で剣を握った。

「まさか、お前……!」

「問題ない。戦場ではこの程度、当たり前だろう?」

 それを聞いてアルシェムの背後で決闘を見守っていたラドー公爵役とクロード議長役が言い争う。しかし、アルシェムはこれから来る一番の難所に緊張し始めていた。といっても顔には出していなかったが。そして、クローゼがエステルに宣言した。

「次の一撃で全てを決しよう。自分は……君を、殺すつもりで行く」

「オスカー……分かった。私も次の一撃に全てを賭けよう」

 そして、エステルとクローゼは駆け始める。ヨシュアが観客席を模した場所から飛び降り、アルシェムは腰に差した二本目の剣を抜いて走った。

 

「はあああああああああああああああああああああああああああっ!」

「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「だめ――――――――――――――――――――――――――ッ!」

 

 エステルとクローゼが剣を振りかぶる。エステル達の剣が交差するところに、ヨシュアの身体が滑り込む。ヨシュアの身体の背後で剣が交差する。照明は空間を真っ赤に染め、一瞬だけヨシュアが剣に貫かれた残像が映し出された。そして――照明が、元に戻される。そこで、遅れてアルシェムの剣がその剣たちを跳ね上げた。

「あ……」

 小さく声を上げたのは、ヨシュアだった。それを見て、エステルとクローゼも言葉にならない音を零す。

 その両者の手には、既に跳ね上げられてしまったために剣はない。宙を舞った剣が舞台上でカランと音を立てて地面に落下した。その音を契機に、ヨシュアはゆっくりと回転しながらクローゼの腕に収まるように倒れ込む。

「間に合わなかったか……」

 アルシェムの、悔やむような声に我に返ったようにエステルが叫ぶ。

「ひ、姫――――――――――――――――――――――――ッ!」

「せ、セシリア、どうして……」

 クローゼが問いを発すると、ヨシュアは少しだけ体を起こして観客に顔が見えるように体制を整えながらこう告げた。

「最初からこうしようと……決めていたのです。……皆が争うくらいならリベールなんて、必要ありません……」

 とぎれとぎれでありながらも、声の通りはすこぶるいい。観客を引き込むように発された声は、小さくとも聞き取りたくなるような響きを帯びていた。

「姫……」

 クローゼはヨシュアの体勢が少しばかりつらそうだったので腕でその身体を支えた。エステルは心配そうに覗き込んでいる。ヨシュアは少しばかり楽になった体勢で言葉をつづけた。

「わたくしは、責任を取らねばならなかったのです……わたくしが別の未来さえ、選んでいれば……皆さんから、笑顔を奪うこともなかったかもしれないのに……」

「殿下、そうおっしゃいますな。どこぞの強情張り共さえ歩み寄れれば、殿下が思い悩むこともなかったでしょう」

 アルシェムはヨシュアの言葉にそう返した。強情張り、と言ったところでラドー公爵役の女子生徒とクロード議長役の女子生徒を見てそれが誰なのかを示して。アルシェムに見られたその二人は気まずげに目を逸らした。

「わたくしが、橋渡しに……どれだけ、考えが違っても……わたくしという緩衝剤を以て、治められていたならば……こんなことには、ならなかったのに……」

「セシリア……もう、もう喋ってくれるな……」

 クローゼの懇願も、ヨシュアは聞きはしなかった。ヨシュアはこほこほと咳き込むと、言葉をつづけたのである。

「司教様……告白いたします。……今日、わたくしは……ブラッド殿を使って、オスカーと、ユリウスを犠牲にして……リベールという国を立て直すつもりでした……」

 司教様、と呼ばれた時点で司教役の女子生徒が進み出てヨシュアから見える位置に立った。完全に観客には背を向けずに、である。それを見てヨシュアは続けた。

「でも……でも、いざ、その瞬間が来ると……勝手に体が動いて……だって、わたくしは……ユリウスにも、オスカーにも死んでほしくなくて……」

「もう良い! もう良いから喋らないでくれ、セシリア……!」

 そして、その時が、やってきた。

「ああ……どうして……わたくしは、ただ、皆に……争って欲しくない、だけなのに……」

 ヨシュアは身体から力を抜き、目を閉じて首を傾けた。それは、即ちセシリアが死んだということを示していた。

 そのヨシュアの様子を確認したエステルは悲痛な叫びをあげた。

「姫……嘘でしょう? またすぐに起きて下さって、その笑顔を見せてくれるのでしょう……? ねえ、姫……返事をしてください、姫!」

「セシリア……?」

 呆然とする二人に、ヨシュアは応えない。この時点では仮死状態になっていることになっているためである。そして、今回の件で利権を得ようとしていたラドー公爵とクロード議長に向かって声が投げつけられた。

「あんた達のせいだ……あんた達が貴族がどうとか平等がどうとか言って、それでセシリア殿下は追い詰められなさったんだ!」

 それは、平民男性役の女子生徒の声だった。それに追随するように、貴族女性役の男子生徒もモブも口々に二人を罵り始める。それを止めたのは――

 

「もうやめてくれないか、皆……セシリアは、皆が争うのを望んではいない」

 

 ヨシュアを抱きかかえていたクローゼだった。エステルに目配せしてヨシュアの身体を任せると、立ち上がって全員を睥睨する。そこには、いかにも王侯貴族のような気迫と威厳が備わっていた。

 それに圧されたように平民男性役の女子生徒がうろたえながら言葉を紡ぐ。

「で、でもよ……騎士様。この人らのせいで、セシリア殿下はお亡くなりになったんですぜ?」

「ああ、そうだ。それは、自分の罪でもある」

 目を伏せて神妙な顔でそれを認めるクローゼ。

「だったら!」

「だからこそだ! だからこそ、我々は争うべきではない! ……セシリアが、何のために飛び出したのか……思い返してくれ」

 沈痛な顔をしてそう宣言したクローゼに、周囲にいた人間は黙り込んだ。それぞれが胸に手を当て、何故ヨシュアが飛び出してまでエステルとクローゼを止めたのかを思い返す。

 その光景を合図に、クローゼは言葉をつづけた。

「セシリアは、橋渡しにならねばならなかったと言った……つまり、それだけ皆の認識がお互いからかけ離れていたということだ。自分も、議長も、公爵も、ユリウスであっても……貴男でも、貴女でもそうだ。我々は、同じ人間だというのに、分かり合おうとすらしなかった……だから、セシリアは言葉をぶつけあえるようにその身を犠牲にした」

「……そう、だな……オスカー。私達も、もっと働きかけるべきだった……父上にも、議長にも」

 エステルがそう告げると、ラドー公爵役の女子生徒やクロード議長役の女子生徒達が次々と言葉を交わし始めた。今までしてきたこと、これから成すべきことを話しあって、分かり合って。

 これで、ようやくリベールはよくなるのだと。観客たちでさえ悟った。




この後は……まあ、分かりますよね?

では、この後(2017/02/25/10:00)も続けてどうぞ。
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