雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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二日目です。
ここで少しだけ変更点が入るので予めご報告を。

この日にドルン・カプアは――出ないッ!

では、どうぞ。


武術大会二日目

 武術大会、二日目。店で装備を整えたエステル達は、ジンとオリビエを連れて王都の地下水路へと訪れた。その際、王国軍人にいぶかしげな顔をされたものの、ジンが武術大会の出場者であることを見て取ると手のひらを返したように応援してくれた。

 複雑な気分になりつつも先日はほぼ確認できなかった連携とお互いのクラフトの効果を見せ合って作戦を練るエステル達。幸い、クルツ達はここにはいないし特務兵たちも周囲にはいない。空賊など言わずもがなである。おかげで存分に打ち合わせることが出来た。

 その後、地下水路を出たエステル達は軽く腹ごしらえしてから王立競技場に辿り着いた。先日のように控室に入ろうとすると、今回もまた知り合いに会った。

「あ~、エステルちゃん達だ~」

 ゆったりとした喋り方の、その女性はドロシー・ハイアットという。リベール通信社の凄腕カメラマンであり、ほぼエステル達と共に各地を旅してきたように感じられるほど出会った女性だ。

 他愛無い話――にしてはイロイロと物騒な言葉を並べ立ててくれる彼女との会話をエステルは何とか終わらせ、控室に向かう頃には精神的に疲れ果てていた。というのも、ドロシーがツァイスでの一件やあれやそれを何も知らないジンやオリビエの前で話そうとするからである。それを阻止するのにとても疲れてしまったのであった。

 控室に入ると、そこには誰もいなかった。まだゆっくりしているのだろうか、と思いつつ待つが、くる気配すらない。ヨシュアは眉を細めてこちらの控室に来るのが誰なのかを推測しようとした。特務兵たちだったら即座に逃走するかしらばっくれるつもりで、である。

 そして、試合開始直前になって――控室に現れたのは、何と空賊たちだった。キールにジョゼット、そして名も知らぬ空賊たち二人。彼らが警備兵たちに連れられてやってきたのである。

「……何だよ。こっち見んなよ」

 かすれた声でジョゼットはエステル達にそう告げた。目の前にいるのは、ジョゼットの兄ドルンが捕縛される原因にもなった遊撃士たちがいる。今、ドルンは一人でレイストン要塞の個人牢に入れられているのだ。毎日毎日『俺が全部指示した。全責任は俺にある』と言い続けて。だからこそ、ジョゼットは――特にキールは、実行犯でありながらも保護観察処分となっているのだ。あの時ドルンが暴れたからこそ、彼は恐怖で手下たちを支配していた残虐非道な男ということになっているのだ。

 そんなジョゼットの状況も知らず、エステルはジョゼットに向けてこう告げた。

「そんな青い顔してるんだから見ないわけないでしょ。何でそんな顔色悪いの? ちゃんと食べてる?」

「うっさい。アンタには関係ないだろ」

 エステルの言葉を一蹴するジョゼット。エステル達が悪いわけではないのは本当は分かっている。だが、割り切れるものではない。エステル達に捕まらなければ。《リンデ号》を襲撃しなければ。黒装束の男達――特務兵の言うことを聞かなければ。ジョゼットがロレントに行かなければ。リベールで稼ごうとしなければ。そもそも空賊に等ならなければ。あの男が――カプアに狙いを定めなければ。そうすれば、こんなことにはならなかったのに。

 ジョゼットとエステルの会話を見ていた警備兵たちは眉をひそめ、エステル達にこう告げる。

「申し訳ないが、彼らとはあまり口を利かないでほしい。面倒を起こされては困るのだ」

「面倒を起こす気はないけど……」

 そのエステルの反応を警備兵は見ていない。彼らは基本的にエステル達を信用する気はないのだ。ここの警備を任されているのは、リシャールに敬服している兵士達だけなのだから。多少漏れ聞こえる噂――本来ならば部外秘のはずなのでわざと洩らされているのだろう――を聞きかじったところによると、年若い遊撃士の扮装をした人間達が各地で暗躍しているらしい。そして目の前にいる遊撃士――特に、エステル達――は、いかにも該当しそうなのだ。

 警備兵たちはキールたちに向けて釘を刺した。

「分かっているとは思うが、ここには一個中隊の兵が警備についている。逃げようなどと思わないことだな」

「あんたらは勘違いしてるんだろうが、何度でも言い続けるぜ。俺達は、絶対に兄貴を見捨てない。だからと言って兄貴を助けて逃げられるかっていわれると恐らく不可能だ。今も、この先もな」

「ふん、どうだか」

 そう言い捨てて、警備兵たちは出て行った。後に残ったのは暗い雰囲気のみ。キールたちは誰も話すことはなかった。話す気分にもなれなかったのだ。

 そんなジョゼット達の様子を見てエステルはジョゼットに近づき、小さく声を掛けた。

「あたしを罵るのは別に良いんだけど、一つだけ教えてくれない?」

 しかし、ジョゼットはエステルの言葉に反応しない。黙って前を向いたままだ。エステルはそれをポジティブに肯定と取って話を続けた。

「あんた達を出場させたのって、誰?」

「……何とかっていう公爵の温情で、勝ったらその分だけ減刑するんだって。何でそんなこと気にするんだよ」

 その言葉を聞いたエステルは眉をひそめた。間違いなく公爵はそんなことを言わないと直感したのだ。彼は空賊事件が起きたことは知っているが、事件が解決した時点でいかにも興味を無くしそうである。というか、覚えていられるわけがない。ルーアンで二度目に彼に会ったとき、デュナンはエステル達に誰何の声を掛けたのだ。

 では、それが何を意味するのか。エステルはジョゼットから離れてヨシュアを手招きした。そして、小声で問う。

「ね、ヨシュア。あの公爵さんがジョゼット達のこと覚えてて温情で出場させるって有り得るかな?」

「多分有り得ないね。減刑するっていうのもフィリップさんが止めないのは変だ。とするなら……情報部が口封じのために恩赦を与えたいのかもしれない」

 それを聞いたエステルが息を呑む。エステルでもわかる。恩赦を与えられるのは国王のみ。そして、この場合アリシア女王が恩赦を与えるのはおかしい。つまり、彼らは――デュナンを本気で国王に据えようとしているのだろう。

 エステルは暫し考え込んでからこう告げた。

「じゃあ、やっぱり情報部の被害者ってことよね……うん、決めた」

「えっと、どうしたんだいエステル?」

 首を傾げるヨシュアに、エステルはこう宣言する。

「絶対この件、どうにかしましょ。大佐に何をやらかしたのか全部吐いて貰って、ついでにジョゼット達が減刑されるんなら御の字よね」

 すると、ヨシュアは瞠目した。確かにジョゼット達は情報部の被害者だろう。しかし、起こしたことは起こしたことだ。減刑されるべきではないし、ヨシュアとしては出来れば抹消するか利用するかしておきたい。

 だが、内心を押し隠したヨシュアはエステルにこう答えた。

「うん、そうだね」

 その様子を、ジョゼット達は醒めた目で見つめていた。

 

 ❖

 

「南、蒼の組。先日はチーム《レイヴン》に勝利した遊撃士と自称音楽家の混成、カルバード共和国出身の遊撃士にして武術家ジン選手以下4名のチーム!」

 司会の声に従って、エステル達はアリーナへと足を踏み入れた。相手は特務兵かクルツ達。どちらが当たろうが強敵であるのは間違いない。緊張はしていないが、武者震いはしていた。

 そして、司会が相手チームを読み上げる。そのチームは――

「北、紅の組。先日は猛者ぞろいの精鋭部隊をチームワークで降した正統派遊撃士、遊撃士協会グランセル支部、クルツ選手以下4名のチーム!」

 クルツ達だった。ここで遊撃士同士を潰し合わせて城に入れないようにしたいのかとヨシュアは勘ぐってしまう。恐らくジョゼット達では特務兵には勝てないだろうから、どう終わらせるかはすべてあちらの裁量次第ということになりそうだ。

 両チームが開始位置についたのを確認した司会は、開始の合図をした。

「勝負始め!」

 その合図と同時に、エステル達は作戦通りに動き始めた。クルツ達のチームの要は間違いなくクルツで、その次のキーマンはカルナであろう。だからこそ、スピードで翻弄できるヨシュアがクルツの元まで滑り込み、ジンがアネラスとグラッツを抑えてエステルがオリビエを護衛する形になる。

 ヨシュアはクルツの懐に滑り込むと、彼に向かって問いかけた。

「済みませんクルツさん、お伺いしたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」

「今は試合中だから後にしたまえ」

「あ、じゃあ武術大会が終わってからにします」

 ヨシュアはあっさりと引き下がる。物理的にはクルツの周りをちょこまか動いて方術を使わせないようにしているため、カルナ達には支援が追いついていない。それに気付いているカルナはヨシュアを牽制しようとしているが、オリビエからの狙撃で牽制すらさせて貰えない。

「くっ……仕方ない。まずはあんたからだね!」

 カルナの叫びにいち早く反応したのは、アネラスだった。アネラスはジンの横をすり抜けてオリビエに迫る。しかし、それを阻んだのはエステルだった。

「ジンさん、アネラスさんは任せて!」

「済まん、すぐに終わらせる!」

 ジンの答えを聞いたエステルはアネラスと打ち合う。実力はほぼ互角で、手の内もそこそこ分かっているために出し抜くことが出来ないのだ。と、そこでエステルがカルナと撃ち合いを続けるオリビエの護衛が出来なくなったところで、オリビエが一世一代の勝負に出たらしい。

「喰らいたまえ!」

「あんたもね!」

 彼らは同時に撃ちあって同時に戦闘不能となった。

 ――グランセル支部チーム、カルナ。武術家混成チーム、オリビエ。戦闘不能。

 そこで、ヨシュアの猛攻を捌きながらクルツが叫んだ。彼は見ていたのだ。カルナが戦闘不能になったところを。

「アネラス君、下がりたまえ!」

 カルナが戦闘不能になり、クルツが動けない今、セラスのアーツを使えるのはアネラスだけ。だからこそ下がるように言ったのだが、エステルは彼女を逃がさなかった。

「行かせないんだから!」

「え、えーっと……と、通してーっ!?」

 アネラスは叫ぶが、エステルは逃がさない。何度も連撃を浴びせてエステルだけに集中させる。エステルとアネラスの戦いは再び拮抗した。

 一方、ジンはというと――

「ふう、そろそろ終わらせるか」

「出来ればもうちょっと待ってもらえるとうれしいんだけどな!?」

 グラッツが何とかジンの猛攻を防いでいたが、遂に――落ちた。ジンに強烈な一撃を食らわされたからである。

 ――グランセル支部チーム、グラッツ。戦闘不能。

 グラッツが倒されたのを見たクルツは、ヨシュアから抜け出すべく思い切りその場から駆け出した。しかし、ヨシュアは進行方向を邪魔してクルツを進ませないようにする。

「邪魔をしないでくれたまえ、ヨシュア君……!」

「嫌ですね。だってコレは勝負なんですよ?」

 いっそ清々しいほど眩しい笑顔を向けられたクルツは、背後から襲い来た強者の気配に背筋を震わせた。この気配は恐らくジンだろう、と思って背後を薙ぐが――

「何っ!?」

 そこには誰もいない。しいて言うなら、観客たちがいるくらいか。つまり、観客の中に得体の知れない気配があるということで――では、何のために。理由が分からないのが不気味だが、恐らくエステル達が仕込んだものではないだろう。クルツはそう考えながら、落ちた。ヨシュアがクルツを背後から気絶させたからだ。

 ――グランセル支部チーム、クルツ。戦闘不能。

 そして、それを見たアネラスは降参した。これ以上続けても間違いなく勝てないからである。

 司会は、エステル達の勝利を高らかに宣言した。

 

 ❖

 

 空賊たちは、結局ほぼ何もさせて貰えずに敗退した。彼らに返された武器はキールの剣とジョゼットの導力銃だけ。爆弾や煙幕は全て返却されなかったのである。だからこそ、キールは練度の差でほぼ何もさせて貰えずに特務兵の一人と何とか相打って戦闘不能。ジョゼットにだけは攻撃がいかないように空賊たちが頑張っていたので何とか普通の特務兵たちは倒せたものの、ロランスが動き始めた瞬間から総崩れした。

 空賊たちが倒れ、最後の一人になったジョゼットは奮闘した方だろう。ロランス相手に五分持ったのだから。ロランスが四分その場から動かなかったからというのもあるが、結局その間に決定打を入れられずに首筋に剣を突き付けられた。そして、ロランスは彼女に告げる。

「何か言いたいことは、あるか?」

 ジョゼットはその言葉に頭に血が上って絶叫した。

 

「うっさいこの詐欺師! あんたらさえドルン兄におかしなことしなきゃこんなとこにいなくて済んだのに!」

 

 それを聞き終えたロランスは、ジョゼットを気絶させて勝利した。観客たちはざわめいていたが、ロランスはそれを否定することなくアリーナから去って行った。それを見て慌てて特務兵たちの勝利を宣言した司会は、ジョゼットの言葉は犯罪者の言葉なので信頼に値しないことを念押しすると、決勝戦のカードを発表して今日の試合を閉幕させた。

 その後、エステル達は一度解散し、ジンとオリビエを居酒屋に放り込んでナイアルと会った。そして、リシャール、カノーネ、ロランスの情報を貰う。そのついでにナイアルは『クローディア姫』に縁談を探している人物がいることを伝えた。その人物とは、リシャール。何故彼がクローディアの縁談を探すのか。それを知るためにも勝ってほしいとナイアルから激励されたエステル達は、これから人と会うことになったナイアルと別れて遊撃士協会へと向かった。

 遊撃士協会では、エルナンから女王誕生祭当日にエレボニア帝国から後続が訪れるという情報と今朝探索した地下水路のさらに奥に進むための鍵を貰うことができた。そこからホテルに帰ろうとすると、何故か街を兵士が巡回している。話を聞くと、テロリスト対策のために夜間の外出を控えて貰いたいとのこと。エステル達は彼らに送られてホテルまで戻り、ついでに武術大会の出場者であることを看破されて激励された。

 ホテルに戻り、部屋の前まで来たエステル達。そこで、エステルは部屋の中から物音がすることに気付いた。ついでに、鳥の羽ばたきの音も。それを聞いたヨシュアの意識が一気に引き上げられる。今このタイミングで接触されるということは、何かしらの後ろめたいことを頼まれる可能性が高い。もしくは、このまま始末されるか。それにエステルを巻き込みたくはないが、大人しく待っているような娘ではない。

 ヨシュアはエステルに小声で臨戦態勢を整えたまま部屋に突入することを告げると、エステルは信じられないという顔をしながらも頷いた。エステルは棒術具を構え、ヨシュアは双剣を構えて――部屋に踏み込む。

 しかし、そこには誰もいなかった。しいて言うならば、鳥の羽と手紙が一枚落ちていただけだ。それを見たヨシュアは、厄介事を頼まれる可能性が高くなったことを察した。それに一人で対応しようとするが、エステルはヨシュアを止めて一緒に行きたがる。

 結局――ヨシュアは、エステルを連れて指定された大聖堂へと向かうことになり、何とか巡回を躱しつつそこに辿り着いた。すると、そこには――ジンと合流する際に助けたシスターがいた。心当たりが完全に外れたヨシュアは警戒を少しばかり解きつつも彼女の正体が分かったことを告げた。すると、彼女は頭布を取ってその顔をさらす。そこに、ユリア・シュバルツがいた。

 ユリアから事情を聴き、アリシア女王に面会して欲しいと頼まれたエステル達はそのために武術大会に出ていること、ラッセル博士からの依頼についても言及した。ユリアは驚いて流石はカシウスの子供達だと感嘆すると、エステル達に彼女からの紹介状を渡して女官長のヒルダ夫人に会うようにすすめた。彼女ならばアリシア女王と引き合わせてくれる可能性が高いらしい。

 話を終えたエステル達は、主要施設の見回りに来たという兵士と鉢合わせしないよう裏口から脱出し、巡回を避けてエーデル百貨店の傍のベンチに座っていた。そこでエステルはヨシュアの『心当たり』について聞こうとするが、途中で止める。エステルはヨシュアが話すまでは過去のことを聞かないとルールを自分に課していたのだ。それに対してヨシュアは今回の件が解決してカシウスが帰ってきたら昔のことを話すと約束し、エステルもまた思い悩んでいることを話すと約束したのだった。

 そして、エステル達はホテルの部屋に戻り、仮眠を取って明日――最早今日になってしまっているが――に備えるのであった。

 

 ❖

 

「信じられないわね……貴女、本当に人間なのかしら?」

 カノーネが告げる。それに、アルシェムは応えることが出来ない。何故なら、体中があの薬に浸されているからである。腕から注射され、食事にも混ぜられ、時には口から直接流し込まれて――だが、彼女はまだ正気を保っていた。

 彼女が陥落するまで、あと少し。




ユリアとの面会はキンクリされました。ご了承ください。

では、また。
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