雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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旧73話半ば~74話のリメイクです。
闘いの描写が苦手なのがよく分かる回。

では、どうぞ。


王城解放作戦、決行

 リベールの命運を決める鐘の音が、鳴った。鳴り始めたその瞬間から救国の志士たちは各々の役割を果たすべく動く。それは、誰にとっても例外ではなかった。そう――エステル達だけでなく、自らを救国の志士だと信じるリシャール達も含めて。

 

 ❖

 

 ヨシュア・ブライトは作戦の始まったこの瞬間にあっても冷静であった。否、緊張することはあれど高揚することは出来なかったのである。そういうふうに彼は出来ているのだから。彼らの役割は、王城の城門を開くこと。そして、途中で閉じられないようにそこを確保することである。

 親衛隊の詰所だった場所に彼らが突入すると、サンドウィッチ片手にコーヒーを飲んでいた特務兵たちは驚いてむせてしまった。その間にジンとヨシュアで特務兵を拘束し、オリビエが変態的に縛り上げる。

 それを微妙な顔で見ながら、ヨシュアはジンにこう告げた。

「ジンさん、僕が開閉装置を操作します」

「ああ、頼む。俺はこのままこの場所の確保だな」

 ジンが扉を睨みつけて拳を構え、ヨシュアが城門の開閉装置を操作した。そして――城門が、開く。その音を聞きながら、ヨシュアは双剣を握りなおしていた。ヨシュアの仕事はこれからだ。ここでヨシュアが開閉装置を守り抜いていても一番の特性が活かせない。だからこそ、ヨシュアはユリアたちと相談して決めていた。城内になだれ込んだ親衛隊員と共に特務兵の排除に当たることを。

 詰所から飛び出したヨシュアは、縦横無尽に駆け回って特務兵たちを翻弄し、確実に動けなくしていった。

 

 ❖

 

 親衛隊員たちとクルツ達正遊撃士は正午の鐘と共に城門前にいた特務兵に襲い掛かった。そして、彼女らは無傷で城門前の特務兵たちを拘束することに成功したのである。事前に掛けられていたクルツの方術によって僅かな力場に包まれた肉体は不意打ちに対抗できなかった特務兵たちでは傷一つ付けることは出来なかったのだ。

 内部に侵入したユリアは部下に向かって命じる。

「よし、リオン以下四名は城門前で待機! 特務兵どもにこれ以上この城を荒らさせるな!」

「イエス・マム!」

 親衛隊たちが城門前で門番に成り代わり、ユリアと正遊撃士たちは城内の部屋の安全を一室ずつ確保していく。挟撃や待ち伏せを警戒してであるが、特務兵たちは数はいるもののあまり質が良いとは思えなかった。いつもより少しだけ弱い手ごたえにユリアは言いようのない不安を覚えた。

 まさかどこかに本命の部隊がいるのでは。ユリアの胸中にはそんな疑念が渦巻き始める。しかし、今のユリアには目の前の特務兵たちを片付けることしかできない。ギリ、と歯を食いしばりながらユリアは特務兵たちの排除に努めた。

 そんなユリアの様子を見つつ、方術で支援するクルツも歯がゆい思いをしていた。何せ、今の彼に出来ることは一秒でも長く支援を続けることだけなのだ。その他の戦闘行為は遊撃士協会からも禁止されていた。

 自覚はあるのだ。暗示か何かを掛けられて記憶を消されたということは、何かしらおかしな行動をとってもおかしくないと思われるかもしれないと判断されてもおかしくないことに。だが、敢えてクルツには支援を任された。そして、もしもクルツに不審な動きがあればすぐさま残りの正遊撃士たちによって取り押さえられることになっている。その現状がたまらなく歯がゆかった。

 何故、あの時不覚を取ってしまったのか。何故、あの時話しかけられた人物の顔が思い出せないのか。何故。今考えてはいけないことだと分かってはいても、思考はぐるぐると巡る。

 そんなことを考えているからだろう。クルツの支援が、一瞬だけ遅れた。そしてそこから戦線が崩れ始める。

「く、クルツ先輩!?」

「あ、ああ、済まない!」

 アネラスに声を掛けられ、クルツは慌てて支援を再開した。しかし、崩れ始めたモノは元には戻らない。瞬く間に特務兵たちと混戦状態になってしまった。しかも、女王宮の方から追加で部隊が登場する。このままの状態が続けば、作戦が破たんしかねない。

 それを見て焦るクルツ。どうすれば、と思ったその瞬間だった。クルツの前から一人の少女が飛び出して行ったのは。その少女は混戦状態の真っただ中に飛び込むと、青白い顔に無理に笑みを浮かべてクラフトを発動させた。

「何やってんだいアネラス!?」

 カルナが咄嗟にアースガードのアーツを発動させ、特務兵に切り刻まれんとしていたアネラスの肉体を護る。そして、そのアネラスを中心に特務兵たちが粗方引き寄せられて行った。

 そして、アネラスは――叫ぶ。

 

「我こそは《剣仙》ユン・カーファイの弟子、アネラス・エルフィード! この首、簡単に取れるとは思わないでよねっ!」

 

 それは、完全に死に至る一手だった。しかし、アネラスはためらいもせずにそれを行った。そうしなければ全滅する。それが分かっていたからである。アネラスは全ての特務兵の視線を浴びながら、震える手を押さえつけて刀を振るった。

 そして――そんなアネラスを見たカルナは歯を食いしばってアーツを発動させる。しかし、そのアーツは回復のアーツではなかった。時属性アーツ、ホワイトゲヘナ。それがカルナの発動したアーツである。背後からの不意打ちを受けた特務兵たちはその衝撃で脳震盪を起こして倒れ伏す。

 それに追撃を喰らわせるべく影の薄さを活かしたグラッツが襲い掛かり、数人の特務兵を叩きのめした。ついでに別の方向の一角が崩れたのだが、彼らがその理由を知ることはない。混戦の中ぬるぬると変態的に動き回るヨシュアなど目視できるものではないのである。そこに親衛隊も加わって、アネラスの策ともいえない無謀な行為は実を結んだ。

 遊撃士・親衛隊員優勢になった今――確実に、制圧の時は近づいていた。ついでに、アネラスとクルツがカルナから説教される時も近づいていた。

 

 ❖

 

 そうして――満を持して、特務飛空艇が現れる。それを見上げたカノーネが何かしらわめいているが、操縦している側には全く聞こえないのでどうでも良いことだ。着陸だけクローディアに任せたアルシェムは、飛空艇から飛び出してカノーネの頭の上に着地した。

 微かな振動だったが、カノーネは気づいたのだろう。腕を振り回して頭上に乗っていたアルシェムを振り落した。アルシェムはおちょくるようにカノーネに声を掛ける。

「あ、ごっめーん」

「こ、こ、小娘ェェ……!」

 カノーネは分かりやすく激怒した。こういう手合いは逆上させて手段を狭めた方が扱いやすいことを知っているアルシェムは敢えてそうしたのだが、カノーネはそれに気付いた様子はない。

 アルシェムはそのままカノーネを一撃で昏倒させると、彼女を盾にしたまま特務兵たちの攻撃を封じて無力化した。そして着陸する飛空艇。そこからエステル達が登場し、王城内から飛び出してきた特務兵たちを無力化する。その間、アルシェムは特務飛空艇のオーバルエンジンを引っこ抜いて城門前に迫る特務兵の頭上に投げ落としておいた。悲鳴が聞こえたのは気のせいである。

 女王宮前の特務兵を蹴散らし、内部で待ち構えていたデュナン――手を出すつもりはなかったが、女王を人質にして切り抜けようとしてあっけなく階段の手すりで頭を打ち、気絶してしまった――とそのお付きの特務兵たちも無力化して進む。因みにフィリップと一触即発になりかけたが、何とかクローディアのとりなしで戦闘にはならなかった。

 その代わり、アルシェムは女王の私室に向けて鋭い眼を向けた。いつもならば、アルシェムは感じなかっただろう。だが、今のアルシェムは全てが鋭敏化された状態。その先にいてなおかつ気配を消している男の存在も理解出来る。出来てしまう。

 だから、アルシェムはエステル達を止めようとした。しかし、エステル達の気合いは凄まじく、止める間もなく特務兵を蹴散らして女王宮のテラスまで来てしまったのである。そこには、女王とその護衛をしているらしい男がいた。それは――

「ロランス・ベルガー少尉……!」

「ようやく来たか……」

 ロランス・ベルガーと名乗る男だった。しかしアルシェムは知っている。彼の名はロランス・ベルガーではないことを。そして、こんな場所にいるはずのない人間であることを。

 アルシェムは静かに息を吸ってエステル達に告げる。

「殿下、エステル、シェラさん。……お願いだから邪魔しないでくださいね」

「どういう意味よ?」

 シェラザードがいぶかしげに返すが、アルシェムはもはやそれを聞いてはいなかった。背中から双剣を抜き、テラスに突き刺して一歩進み出て――告げる。

「女王陛下を解放してくれるかな?」

「……今の私は女王陛下の護衛についている、と言っても?」

 不敵に仮面の奥で嗤って男はそう返した。しかし、アルシェムはその言葉を歯牙にもかけない。何を言えば彼が動くのか。それを、彼女はよく知っていた。故郷と思えた場所を喪ったあの時から。

 だからこそ、彼女は告げる。

「今のあんたに与えられた任務が本当に女王陛下の護衛であっても、あんたはそれを絶対に放棄する」

「……ほう? どこからその自信が溢れ出て来るのかは知らんが、それが本当に聞く価値のある話だとも思えんな」

「《ハーメル》」

 アルシェムがその単語を口にした瞬間。ベルガー少尉の気配が変わった。女王もベルガー少尉の背後で目を見開いている。凍りついた空気の中、一番に口を開いたのは――女王だった。

「アルシェムさん、貴女は何を……」

「正確に申しあげましょうか。そこの――《ハーメル》出身の男にも分かるように」

 困惑する女王は、アルシェムの言葉にさらに驚愕した。《ハーメル》というのはリベール王国内では禁忌の言葉。特に――王国軍人の中でも知っているものは一握りに限られるその情報を、彼女は知っていると言ったのだ。

 そして、彼女は宣言した。テラスに差した双剣を握りしめ、音高く抜き放って。

 

「我が名は、アルシェム・『シエル』。かつてクローディア殿下を弑そうとしたモノであり――そして、《ハーメルの首狩り》と呼ばれたモノ」

 

 それを聞いたベルガー少尉は――完全に正体がアルシェムに割れているのを理解した。そうでなければ、今ここでそれを告げる意味がないからである。アルシェムの背後にいる当事者や家族に聞かせるような言葉ではない。

 だからこそ、彼はそのアルシェムの言葉にヘルムを脱いで問うた。

「……どうやら最初から気づいていたと見える。いつから全てを思い出していた?」

「逆に聞くよ。あんた達は本当にわたしが全てを忘れたと勘違いしてたわけ?」

 アルシェムは殺意をベルガー少尉と名乗っていた男に向けた。彼も同じく殺意をアルシェムに向ける。その両者が発する濃密な死の気配に、エステル達は呑まれかけた。その場所で平然としているのは二人だけ。アルシェムと、彼だけである。

「そうやって……全てを欺いてきたのか。家族も、友人も、仲間も……何とも愚かしいことだな」

「あんたにだけは言われたくなかったな、それ」

 両者の間で緊張が高まり、そして――アルシェムが若干剣先を下げた瞬間。彼とアルシェムはその場から飛び出し、切り結んだ。シェラザードでも辛うじて追えないレベルの攻防。それを、エステルは必死に目を凝らして追おうと努めていた。

 ベルガー少尉が斬りかかる。それをアルシェムは紙一重で避け、左手の剣でベルガー少尉の胴体に向けて突きを放った。しかしベルガー少尉は半身になって避け、引き戻す途中だった剣でアルシェムの右手の剣を狙う。アルシェムは右手を横にずらすことでそれを避け、左手の剣を引き戻しながらベルガー少尉の手を狙って右手を振るう。

 一進一退の攻防が、続く。アルシェムもベルガー少尉も決定打を放つことは出来ず、その代わり重傷を負うこともない。そんなレベルの高い剣舞のような光景がエステル達の前に広がっていた。

 エステル達はそれに割って入ることも出来ず、ただ歯噛みしながらそれを見ていることしか出来なかった。ベルガー少尉はエステル達が割って入った瞬間、彼女らを無力化して盾にするだろう。

 だからこそ、シェラザードも迂闊には動けなかった。今のうちに女王を確保するのが遊撃士として出来ることだろうが、下手に動けば彼が何をしでかすか分からない。ギリギリのところで保たれているように見える均衡を崩せば、間違いなく押し負けるのはアルシェムだろうと思えたからだ。

 幾度目かの鍔競り合いで、ベルガー少尉がアルシェムに声を掛ける。

「これほどの技量がありながら……何故『闇』から逃げ出そうとしなかった」

「今ドーピング状態だからこれだけ渡り合えてんだけど」

 ベルガー少尉の問いにアルシェムはそう答えると、腕から力を抜いて左に避けた。ベルガー少尉は体勢を崩すことなく剣を引き戻し、アルシェムに袈裟懸けに斬りかかる。ただし、それはアルシェムに掠ることはなかった。彼女は左に避けた瞬間、背後に向けて跳んでいたからである。

 そして、アルシェムは分かりやすくベルガー少尉を挑発した。

「まあでも、あんたの腕もこの程度だったからあの集団に良いように蹂躙されたんだよねえ」

「……貴様」

「一番怪しい人間に愛する女性を託さなくちゃいけなかったのってどんな気持ち?」

 その言葉をアルシェムが吐いた瞬間――彼女はシェラザードに目配せしながら吹き飛ばされた。先ほどまでとは明確に違う、濃厚に過ぎる殺意。それを纏いながら剣を振るうベルガー少尉を、吹き飛ばされてから辛うじて体制を整えたアルシェムはギリギリあしらっていた。

 アルシェムからの目配せを受けたシェラザードは戦いから目を離して女王に眼を向けつつ移動を始めた。何が何だかわからない状態ではあるが、ベルガー少尉の注意が女王から逸れているのは確かだ。だからこそ、今のうちに逃げて貰わなければならない。女王はシェラザードからの視線を受けてゆっくりと移動を始めた。

 じりじりとシェラザードに女王が近づき、女王にシェラザードが近づいて行く。エステルはシェラザードの動きに気付いているが、クローディアの傍から離れるわけにもいかないのでその場で待機していた。

 そうして――アルシェムと、ベルガー少尉の戦いは終盤に差し掛かる。あれだけ斬り合っていればお互いの剣は刃こぼれしていてもおかしくないというのに、どちらの剣も曇り一つない輝きを放っているのはいささか不自然ではあったが、どちらも特別製なのだろう。アルシェムは双剣を構えなおし、ベルガー少尉も腰を落として剣を上段に構え――そして。

 

「鬼炎斬!」

「雪月華!」

 

 お互いのクラフトが炸裂し、相殺し合って生まれた衝撃によって両者は吹き飛ばされた。

 

 ❖

 

 混乱する王都の中を駆け巡る。そして、巡回している特務兵たちを角が立たないようにぶちのめす。それが、今カシウスとリオが成していることだった。

「な、何だ貴様らは!?」

「通りすがりの遊撃士だ!」

 棒術具と素手でぶちのめされ、少しばかり名誉を傷つけられる格好にされて転がされていく特務兵を見て、小さな子供が一言漏らした。

「ままー、あれなあに?」

「しっ、見ちゃいけません」

 薄れゆく意識の中でそれを聞いていた特務兵はこう思ったそうな。無念……と。




※錬金○師じゃないよ!

では、また。
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