雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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旧77話半ば~77話終盤のリメイクです。
最初は追加エピソード。
そしてトロイメライさんと戦っているだけのお話。

では、どうぞ。


輝く環の守護者

 王都グランセル、王城前――そこには、ロレントとルーアンから動かされた王国軍の部隊が到着していた。門前で守備していた親衛隊員と押し問答になり、一触即発の雰囲気が漂う。女王宮から続く空中庭園に現れた女王はそれを見て息を吸った。

 しかし――その息は、声として吐き出されはしなかったのである。何故なら、そこには――

 

「止めんか、バカ者どもが!」

 

 親衛隊員と王国軍の隊長がもみ合っているところに、棒術具を持った壮年の男性が割り込んだからである。その姿を見た中堅以降の軍人たちは眼を見開いた。そこにいたのは――かつての英雄だったからである。カシウス・ブライト。それが、その男の名だった。

「何故邪魔をなさるのですか、カシウス殿! 陛下を叛逆者の手からお救いせねばならないという時に!」

 そう叫んだのは、ロレントを預かる守備部隊のアストン隊長だった。彼は情報部に踊らされ、女王と王孫女が叛逆者に囚われたという凶報――無論、カノーネが誇張して伝えたものである――を信じていたのである。だからこそ、叛逆者の筆頭たる親衛隊を庇う様子を見せたカシウスを糾弾した。

 しかし、カシウスはそれを意に介した様子もなく頭上を振り仰ぎ、告げる。

「さて、陛下が本当に叛逆者に囚われているのか、それはその目で確かめるとよろしいでしょうな」

 その声に応えたのは――無論、女王だった。

「少しだけ待っていただけますか? すぐに降りますから」

 常と変らぬ落ち着いた声に、兵士達はざわめく。女王は囚われているのではないのか。そうでないのなら、一体何故情報部は自分達を動かしにかかったのだろうか。動揺でざわめく兵士達に、カシウスはタイミングを見計らって告げた。

「さて、取り敢えず武器は置いた方が良いだろう。お前達こそ叛逆罪に問われかねんぞ?」

「し、しかし……!」

「それでは陛下をお救いすることが……!」

 若い士官たちが次々と声を上げる中、アストンは眼を閉じて黙考した。確かに、叛逆罪に問われた親衛隊は信用できない。しかし、だからといってカシウスを信頼できないとは思わない。彼は《百日戦役》の英雄にしてリベールの救世主。かの《剣仙》の技を受け継ぎし《剣聖》。もしも本当に親衛隊が叛逆していたのなら、とうの昔にカシウスが排除しているだろう。

 親衛隊が本当に叛逆者だとすれば即座にカシウスが排除してくれる。アストンはそう判断し、眼を開けて腹の底から声を出した。

 

「鎮まれ」

 

 その声に、身体を震わせて若い士官たちは従った。いつも温厚なアストンがこれほどまでに畏怖を感じさせる重い声を出せるのかと、同輩たちは思った。

 そして――開いたままの城門から、女王が現れる。そこにいつも付き従っているはずの親衛隊の姿はなかった。女王はただ一人でここまで歩んできたのである。武器を持った人間の前に出るというのに、ただの一人も護衛をつけずに。

 それを見てアストンは悟る。女王が親衛隊を護衛として連れていないのは――自分達が親衛隊を信じていないからだと。一国の王が護衛すら付けずに一国民の目の前に現れるなど、有り得ない話なのである。

 女王は兵士一人一人の顔を順々に見回してからゆっくりとこう告げた。

「皆様はわたくしたちが囚われたという報を聞いて集まって下さったのですね」

「わ、我々は陛下をお救いしようと……!」

「バカ、黙って聞いていろ!」

 血気盛んな若い士官が声を上げるが、中堅の士官に拳骨を落とされて黙り込む。それを女王は困ったように微笑を浮かべつつ言葉をつづけた。

「ええ、確かに――わたくしは囚われておりました。ですが、遊撃士の皆さんのおかげで今は解放されています」

 女王は語る。ここにいるすべての人間の心に届けるために。争う必要などどこにもないのだという事実を。同じリベールを想う民たちの間で争い合って欲しくなどないのだから。

「世間ではわたくしは病に倒れただとか親衛隊の皆さんが叛逆しただとかと言われているのは知っています。ですから――誰かから聞くのではなく、皆さん自身の目で確かめてほしいのです」

 その言葉は、兵士たち一人一人に確かに届いた。彼らはあまりにも――誰かから聞いたことをうのみにしかしてこなかった。情報部から回ってきた情報を疑うことなどなかった。何故なら、味方だから。だが、今回に限ってはそれは間違っていたのかもしれない。ただ、確証は持てない。

 それを見越して、女王はこう告げた。

「皆さんに命じます。各地の守備に支障がない程度に王城に駐留し、わたくしを護衛してください。そして、その目で見てほしいのです。本当の真実はどこにあるのかを」

 しばらく、誰も話すことはなかった。その言葉を呑みこんでいるのだろう。部隊長たちは何かしらを考え込んでいる。これからどう動くべきなのかを考えているのだが、どうするのが最善なのかを判断しかねているようだ。

 一番最初に答えを出したのは、アストンだった。

「申し訳ございませんが、陛下。このアストン、陛下が囚われ遊ばしたと伺って取りも直さず駆け付けて参った次第です。お恥ずかしながらヴェルデ門の守備は今ほぼ誰もいない状況にしてしまったように思います。しかれば、このままヴェルデ門守備部隊はもともと陛下より賜った職務を遂行すべく帰還させていただきたく」

「……分かって下さってありがとうございます。どうか、貴男の思うようになさってください」

 アストンの申し出に女王からの許可が下りると、次々と部隊は引き返して行った。その場に残ったのは、数人の中堅と若手の士官たち。女王が目で問いかけると、彼らを代表して一番年かさの男性が応えた。

「親衛隊の皆さんを疑うつもりはないのですが、どうやら派手にやりあっている様子ですからな。立っているのもやっとという者もいるでしょうし、どうかお手伝いさせてください」

 彼の顔に浮かんでいるのは疑いではなく本心から女王を案じる色だった。親衛隊の服はよく見ずともぼろぼろで、相当長い時間戦っていたものだと思われる。だからこそ、彼らは親衛隊の負担を減らすべくそう申し出たのだ。

 それを理解したからこそ、女王は彼に頭を下げた。

「ご厚意に感謝します」

 そして――女王はカシウスに何事かを耳打ちすると、王城の中へと戻って久し振りの執務に取り掛かったのであった。

 

 ❖

 

 《環の守護者》トロイメライはその活動を開始した。一体はエステル達を襲撃し、もう一体は――

「な、何かアルってやっぱ疫病神にでも憑かれてんじゃない!?」

「否定したいけどしきれないのが何とも言えないかもー!?」

 アルシェムだけを狙っていた。しかも、アルシェムとエステル達を分断しようと動いているのが丸わかりである。分断されたらされたでアルシェムにとる手段がないわけではないのだが、出来れば少しは楽をしたい。楽をしたいのだが、トロイメライはそれを赦してくれそうにない。

 そこでリシャールが叫んだ。

「エステル君、先にこちらの一体を片付けるべきだ!」

「で、でもそれじゃあアルが……!」

「そろそろわたしも楽したいんだけど仕方ないよねー。時間稼ぎしか出来ないから実質二体分全部倒しきる覚悟はしててよ?」

 そう告げたアルシェムは、敢えて分断されるために大きく跳んだ。これでもうエステル達は一体に集中しなければならなくなってしまう。それが分かっていたからこそ、アルシェムはその行動に出た。

 そして、アルシェムは導力銃ではなく棒術具を握る。そうしなければ、攻撃が全くと言って良いほど通らないのだ。導力銃の出力を調整すればどうとでもなるのだが、今はそれをしている時間が惜しい。それに水浸しになったまま整備もしていないのでどの道使えないというのは確かである。因みに薬の効果がまだ残っていれば普通に装甲をへこませるくらいは出来たのだが、生憎薬は既に切れてしまっていたためにその戦法は取れない。

「……まったくもー……何でこー、さー? 押しつぶすとかじゃなくて動きを止めようとして来るかなー……」

 嘆息したアルシェムは棒術具を握ったまま壁を使って跳ね上がり、トロイメライの青いユニットの上に飛び乗った。そしてそれを足場にしてさらに飛び上がり、トロイメライ本体に飛び掛かった。

「取り敢えず、腕一本ちょーだいな」

 狙うは右肩。思い切り振りかぶった棒術具を地面に向けて叩きつけるイメージで振り下ろせば、猛烈に硬い手ごたえがあった。どうやらとんでもなく硬い素材で出来ているのは間違いないようだ。恐らくはゼムリアストーン製なのだろう。衝撃は逃がせたが、正直に言って硬すぎる。到底今のアルシェムでは倒しきることなど不可能であろう。――持っている棒術具は一般的なものであるからして。

「硬っ!?」

 アルシェムは宙返りして反動を受け流し、アクロバティックに動き回りながらトロイメライを翻弄することだけに集中した。楽をしたいというのは何だったのかと言わんばかりに跳ね回るアルシェムを見てリシャールは呆れつつももう一体のトロイメライに攻撃を加えていた。

 エステル達の方はと言えば、不気味なくらいに順調であった。我慢を覚えたエステルが後衛で、ヨシュアが遊撃、ジンとアガットが前衛。それに加えて反則じみた速度で動き回るリシャールがいるためである。正直に言ってトロイメライ一体に対しては過剰なまでの攻撃が加えられるのは間違いない。遊撃役のヨシュアも加わって火属性補助アーツを唱えているからこそできる芸当である。エステルとヨシュアのオーブメントのEPが半分を切るまでこの戦法でゴリ押ししようと誰かが言いだしたために実現した光景だ。

「受け取ってジンさん! フォルテ!」

「済まん、助かる!」

 ジンにはエステルが補助することになっている。というのも、ジンに関しては攻撃を受けてもそうそう回復アーツを掛ける必要がないからだ。ヨシュアよりもオーブメントのEP総量が少ないエステルにとっては防御の上手いジンを補助する方が安心感がある。

 そして、アガットの方はヨシュアが補助することになる。

「フォルテ!」

「おっしゃあかかって来いごるぁぁぁ!」

 機械相手に凄んでも意味がない、というのは言わないお約束である。こういうのは気合いがモノを言うからだ。喧嘩は気合いだ! とは彼の座右の銘である。エステルに関しては補助で手いっぱいであるが、ヨシュアはそうではないためアガットの攻撃で出来た隙を埋めるようにトロイメライに攻撃を加えていた。

 リシャールは自前で補助アーツを掛けつつ高速変態軌道で動き回るので誰も補助アーツを掛けようとは思わなかった。どう考えてもリシャールを補助するよりも全体の攻撃力を底上げする方が意義があるように思えたからだ。

 そうして――先にEPに限界が来たのはエステルだった。EPがめでたく半分を切り、それをジン達に伝えると戦法が変わる。エステルが回復を担当し、ヨシュアが補助を担当するようになったのである。それを感じ取ってもトロイメライは戦法を変えない。腹からビームを出し、腕を振り回してエステル達を襲う。ただし、それをエステル達が見切れないわけがないのである。ここまで戦ってきてある程度の癖がつかめたエステル達に死角はない。

 ごり押し戦法で戦うエステル達であったが――トロイメライ一体目を倒せたのは、戦い始めてから優に三十分を超えたころだった。腕・脚・頭は完全に破砕され、見る影もない。エステル達だけでトロイメライに立ち向かっていればこの戦果は挙げられなかっただろう。――トロイメライを五体不満足にしたのはリシャールだったのだから。

 そうして、エステル達がトロイメライ二体目に目を向けると――そこでは、ほぼ無傷で何故か網を振り回しているトロイメライとその網から逃れようと必死に回避しているアルシェムの追いかけっこが繰り広げられていた。

「……突っ込んだら負けかねえ」

 ジンが困惑したように言うが、覚悟を決めたのかトロイメライ二体目に向かって駆け出す。因みにエステル達はその場から既に駆けだした後だった。回復と補助担当のエステル達が何故駆けだしているのかというと、もう既にEPが尽きてしまっているからである。最早フルボッコで倒すしか道は残されていないのだ。

 アガットやジンのオーブメントもEP切れで回復薬も持ち合わせてはいない。だからこそ、この場で一番のダメージディーラーであるはずのジンが気功を利用したクラフトを駆使して総員の回復に当たっているのである。あべこべだとか言ってはいけない。

 やっとアルシェムの傍まで寄れたエステルは彼女に向けてこう問うた。

「アル、大丈夫なの!?」

「とっくの昔に薬切れてるから大打撃とかは無理だけど取り敢えず元気だよ」

 肩で息はしているものの、まだ余裕はありそうなアルシェムはそう答えた。実際、まだまだ余裕はあるのである。純粋に速度で言えばアルシェムの方がトロイメライよりも勝っているため、攻撃を受けてはいないのだから。問題があるとすれば、鎮痛剤の効果が切れたことくらいか。だからこそ途中からアルシェムの動きは鈍く、また武器を振るっての攻撃は出来ないでいる。

 ただし、どう見てもほぼ傷を負っていないアルシェムを見てぼやく男がいるのは仕方がないことである。

「むしろあれを薬なしで翻弄していたというのに驚きなのだが」

「薬盛った張本人が言うな働けタマネギ」

「計画にはうってつけの人材だったのだから仕方がないだろう! 君こそ前科を見直してから言いたまえ」

 軽口を叩くリシャールもまだまだ元気そうである。大佐というのは伊達ではないのだ。ついでに――《剣聖》カシウスの弟子であるというのも。ぶっちゃけて言おう。もしもエステル達がリシャールと正面切って戦っていれば、二体目に入る以前にエステル達は全滅していただろう。九割がリシャールのせいで。残りの一割はトロイメライである。

 それはともかく、単純に腕力だけの戦いで軍配が上がるのはトロイメライである。このままごり押しでやられるほどトロイメライは生易しい存在ではないのだ。だからこそ――皆で順々に切り札を切っていこうとしているのだ。

 まずは、リシャールから。順番に特に深い意味はないのだが、まずは少しでも機動力をそいでもらおうという目論見からである。リシャールのオーブメントもEP切れであるため、先ほどまでの蹂躙っぷりは発揮できないが――

「――ふむ、腕一本か」

「いやいやいや、何ですっぱり切れるんだよ!?」

 腕の一本くらいは斬り飛ばせるようである。流石はリシャールと言ったところか。腕を喪ったことでぐらり、とバランスを崩しかけたトロイメライに対してとっておきを繰り出したのはジン。多段とび蹴りでトロイメライを壁にぶち当て、大きな隙を生み出してくれる。

「アガットさん、今です!」

「分かってる!」

 ヨシュアの声を聴く前から準備を始めていたアガットがそこに向かって飛び上がり、落下時のGをも利用して装甲にひびを入れるのに成功した。リシャールも大概であるが、鉄塊を振り翳してそこまでの破壊力を生み出すアガットもなかなかである。

 アガットがその場から飛び退くと、そこに突っ込んだのはエステルだった。エステルのとっておきをトロイメライに炸裂させている間にヨシュアも同じように攻撃を加えていた――エステルに向けて繰り出されそうなもう片方の腕を破壊するという執念を見せつけて。

 因みにアルシェムは攻撃を繰り出しても意味がないことをわかっていたために攻撃には参加していない。翻弄する方にのみ力を入れていたからである。むしろおちょくっていたのだが、感情のないトロイメライにどこまで効果的だったのかは推して知るべし。

 トロイメライが倒れるまで、あと少し。それは誰が見ても分かったのだが――ここで、全員に限界が来てしまった。まずは、エステル。全力で戦い続けた影響か、膝を付いてしまう。そんなエステルに向けて放たれた攻撃をヨシュアが受け流そうとして失敗。アガットも剣先が下がっている。ジンも肉体を酷使しすぎて顔をしかめているくらいだ。リシャールに関しては汗だくになっていて剣先がぶれ始めている。

 もう、ダメだ。誰かがそう思った。実際に誰かがそう零した。それを認められないのは――ここまで攻撃に参加出来なくて余裕のあるアルシェムのみ。棒術具は強度の問題で使えない。剣については個人的な理由から抜きたくない。導力銃は故障中。ならば――どうすべきなのか。答えは一つしかなかった。

「……出し惜しみ、してたかったんだけどなー……」

 自嘲するようにアルシェムがそう零す。それは――その姿を、特定の人物に見せたくなかったから。だが、そうも言っていられない。このままでは全滅する。それを避けるには――もう、その手段を取るしかない。

 アルシェムは、初めてただ純粋に他人を護るためだけにその双剣を抜き放った。




アストンさん誰とか言わない。
トロイメライ斃しきれてないとか言わない。
ほんっと、申し訳ない。だがいつの間にか(ry

では、また。
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