雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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 旧124話終盤~125話までのリメイクです。

 ※この団子三兄姉弟に血縁関係はありません。

 では、どうぞ。


リベールの団子三兄姉弟

 映像が消えた。扉が消え、アルシェム達はケビンの待つ場所へとはじき出される。ケビンは地味にいじけながらもきちんと守護してくれていたようで、周囲に数匹分の魔獣の死骸が残されていた。それを見た一同の顔色は暗い。一人だけ懐かしそうな顔をしている人物もいるが、すぐに悲しそうな顔に変わった。いくら映像で見ようとも、彼らは既に道を違えている。そのうちの一人は――既に、死んでいるのだ。

 複雑そうな顔をしたメルが口を開き、ティオに告げる。

「まさかとは思っていましたが……貴女もでしたか」

「……その、あまり公言したいことではないので……」

「気持ちはよく分かります。《影の王》の悪趣味も程々にしていただきたいですね……」

 沈んだ顔をしたティオは、メルの言葉に一瞬だけ疑問を持った。貴女も。それはアルシェムとレンの同類であることを指していると思っていたのだが、どうやらそれだけではなさそうだったからである。しかし、彼女はそれきりその疑問を思い出すことはなかった。それよりもいじけているケビンが立ち直って先に進めるようになったことに気を取られたのだ。

 現れた転移陣に乗ると、蒼耀石の石碑の前まで引き戻された。それに加えて行ける場所が増えているらしく、それを示すように琥耀石の石碑が輝いていた。そこに記されていた文言は、『刀の乙女、不動なる空気、光り輝く娘、狩り残された双剣、銀色の露出狂。全てに通ずる銀の鍵を携えよ』。間違いなくこのまま先には進めないと分かった――『刀の乙女』は恐らくアネラスである――ため、一度拠点に戻る。

 そして、ケビンは石碑に記されていた文言を出すことなく連れて行く人物を呼び出す。文言を出せば間違いなく怒り狂うと流石のケビンでもわかったからである。『刀の乙女』ことアネラス、『不動なる空気』ことジン、『光り輝く娘』ことエステル、『狩り残された双剣』ことヨシュア。そして、『銀色の露出狂』シェラザード。アルシェムはそのまま連行されればいいようなのでその場で待機していた。

 ケビンに集められた一行はそのまま探索に出かけ、そして――石碑の文字を見てしまう。そこに記されたある意味残酷な真実は、同行していた二人ほどの心を的確に抉った。そう――ジンとシェラザードである。

「……空気……」

 ジンは落ち込んだ顔で指を突き合わせていた。全く以てかわいくないのでやめて頂きたい、とアネラスは思ったという。確かに落ち込むのも分かる気がするが、それを表すのに乙女っぽいやり方を選ぶ必要が何処にあったというのか。

 それとは対照的に、シェラザードの方は怒り狂っていた。

「だ、だ、だ、誰が露出狂なのよ!?」

「あは、あははははは……」

 苦笑いを零すことしか出来ないケビンは、目線だけでアネラスを促す。アネラスはケビンの視線に気づくと軽く頷いて石碑に手を当てた。すると――またしても別の場所に転移させられてしまう。その場所は、湖畔の研究所(仮称)であった。ただし鏡写しで左右反転しているが。どうやら次はここで探索しなければならないようである。

 この場所を訪れたことがあるための複雑な顔をしながらエステルは進む。この先に行って何が起きるか何となく推測出来てしまったからだ。同じくその状況を予測できたのはあの時同行していたケビンとシェラザードのみだ。もっとも、もしかしたら程度で確証には至っていないのだが。操られた遊撃士たちが出現したとしても対応は出来るだろうが、あまりやりたいものではない。

 そのエステル達の推測を裏付けるような人物が現れる。あの時と全く同じ。一階の最奥で待ち受けていたのはグラッツだったのである。ただし操られてはいないようで、自我はあるようだ。

 ひょいと手をあげたグラッツは、アネラスに向けて声を掛けた。

「よう、アネラス。エステル達も。待ちくたびれたぜ」

 しかし、グラッツの言葉にアネラスは応えない。俯き、静かに言葉を紡ぐ。その手には既に刀が握られていた。

「グラッツ先輩……私、学んだんです」

「えっ」

 いきなりアネラスが何かを語り始めたかと思うと、彼女は顔を上げてにっこり笑い、その場から飛び出した。手には刀を。心は常に静謐に。乱さず、いつもと変わらぬ笑みを浮かべたまま――彼女は。

 

「こういう時は、先手必勝なんですよ!」

 

 グラッツに向けて斬りかかった。問答をする気はないらしい。そんな後輩の姿にシェラザードは苦笑しながら後に続く。確かに今ここで問答をする必要はない。そんなことをしている暇があればとっとと先に進んで帰りたいのだ。シェラザードにはまだまだやることがあるのだから。そう、たとえば――まだ死体も見つかっていないルシオラの捜索、とか。そんなシェラザードに触発されたようにエステルとヨシュアも負けじと飛び出した。

 それを見たグラッツは諦めたように覆面の猟兵を召喚して叫ぶ。

「ああもうっ、会話ぐらいさせろよアネラス!」

「嫌です! だってだってここにはぬいぐるみさんがいないんですよ!?」

 アネラスの叫びが切実に響く。彼女にとっては致命的なことのようだ。アネラスの心を占めているのはふかふかのこげ茶色のクマのぬいぐるみ。可愛らしいランドモアの限定品だ。帰ったら是非とも手に入れたい。

 その、アネラスの想念がグラッツに悲劇をもたらした。

「そ、そういう問だ……ぎゃー!?」

 効果音にすればちゅどーん、あたりが妥当なのだろうか。アネラスのぬいぐるみ愛が溢れてグラッツに炸裂したようである。具体的に言えば、巨大なクマのぬいぐるみが現れてグラッツの目の前で爆発したのだ。ふかふかで、こげ茶色の。紛うことなきランドモアの限定品である。アネラスは目を輝かせてそのぬいぐるみに抱き着こうとしたのだが、その直前で爆発してしまってグラッツと同じく吹き飛ばされてしまった。

 一同は手を止めて複雑な顔になり、煙が晴れたところで焦げているグラッツとアネラスを見て拝んだ。アネラスについてはすぐに起き上がったのだが、グラッツは完全にダウンしてしまっているらしい。しかも彼はそのまま消えてしまうという不運に見舞われた。会話したかったのだろうが、残念ながら《影の王》はそこまで赦してはくれなかったらしい。

 哀れなグラッツが消えた後から現れたカードキーを利用し、順序を思い返しながらケビン達は進む。グラッツの惨状はもう見なかったことにするしかない。現実で覚えていないことを祈るばかりだ。むしろここにいるのが偽物というだけで本人に記憶が流れ込まないでいてくれればそれで良い。今の記憶が残ってしまっていればあまりにも可哀想すぎる。

 そして、二階の最奥までさくさく進んだ一行は、そこで待ち受けている女性を目にした。その顔に浮かぶのは呆れだった。どうやらグラッツの様子を把握していたらしい。

 溜息を吐きながら彼女はぼやいた。

「グラッツ、やられるの早過ぎやしないかい……」

 その女性――カルナは導力銃を構えながら覆面の猟兵達を召喚する。とっとと準備を整えなければグラッツの二の舞になると判断したのだ。アネラスはそれが此度の敵らしいと判断して警戒を強めた。

 

 だが、カルナはもう数十人その猟兵を召喚すべきだったのだ。そして、それに紛れて逃げるべきだった。本気で勝つ気があるのならば。

 

 カルナは複雑そうな顔をしたままエステル達に告げる。

「済まないね。手助けは赦されていないみたいだし、こんな機会はめったにない。どれくらい強くなったのか見せておくれ」

 ただしジン、てめえはかかってくんな、とでも言いたげに拘束されるあたり、彼も不運な男である。だが、ジンはすぐにその拘束から逃れることになった。何故なら――

 

「あれ、カルナさん。今回はその覆面の人に『子猫ちゃん』って言わせないの?」

 

 エステルの無邪気な問いにカルナが轟沈したからである。確かにあの時――エステルとアネラスがレマン自治州のル=ロックルで訓練していた時――は、自分だと悟らせないためにそんな発言もした。だが、今のこの状況でそれを持ち出されるとは思ってもみなかったのだ。思い返してみれば猛烈に恥ずかしい。何が『子猫ちゃん』だ。腕に鳥肌が立った。

 そして見事にカルナは動揺してジンの拘束が外れる。図らずもエステル、ファインプレーである。拘束から復活し、『く、空気とは言わせんぞ!』と叫びながらここぞとばかりに暴れ回るジンの手によって、カルナは数分も保たずに降参する羽目になるのだった。ある意味彼女も哀れである。

 カルナはそのまま次の相手が誰かを警告しようと思ったのだが、このまま教えて万全の対策の上で向かわれてもそれはそれで癪に障る。してやられたのは確かだが、やられたままでいるのもそれはそれで複雑な気分だ。

 そのため、カルナはふてくされたようにこう告げた。

「おねーさんからの最後の意地悪だ。次の相手は教えてやんない」

 そして、頬を膨らませたまま彼女は消えて行った。後に残されるカードキー。それを手に取ったエステル達は次の相手が誰なのか推測が出来ているようである。このパターンで来るなら、次は恐らくクルツらしい。

 アルシェムはその場にいなかったので推測は出来ないのだが、確かに有り得ない話ではないと判断した。だが、同時にある意味苦手とする相手であるため顔をしかめる。流石に右肩の恨みは忘れていないのである。

 そんなアルシェムの顔を見てエステルが顔をひきつらせ、問う。

「えっと、アル? 顔怖いよ?」

「次が本当にあの緑ヘタレだったら瞬殺していー? 文字通り」

「いや、殺しちゃダメだからね!?」

 アルシェムの答えにヨシュアが突っ込んだが、生憎彼女はそれを聞こうとは思っていなかった。本格的に邪魔になれば首を取るつもりである。たとえヨシュアの前であったとしても。

 カードキーを使い、三階に上がった一行は先へと進む。そのあたりの敵はそこまで強くはないのだが、それが逆に不気味ではあった。まるでこの先にいる敵のために体力を温存しろと言われているように思われるのである。

 敵を蹴散らして辿り着いた三階の最奥には、エステル達が思った通りクルツが待ち受けていた。

「……来たか、アネラス君……に、アルシェム君もいるのか……これは苦しい戦いになりそうだ」

 クルツは渋面を作ってそう告げる。自分の不注意で傷つけてしまった少女がいるとどうにも調子が狂うのだ。気後れするというのが正しいのだが、それだけではなかった。何故か――今でも、あの時の判断は間違っていなかったと思ってしまっているのだ。彼女の正体――元執行者である――を遊撃士協会から聞いたからかも知れないが、それだけでもない気がする。

 初めて会った時から、クルツはアルシェムという存在を否定したくてたまらなかった。今でこそ抑え込めているものの、初めて会った時は明らかに怪しい人物であり、かつその胸のうちで鳴らされている警鐘に従って動いてしまった。排除すべき。そう思ってしまうのに、そこにいるのは『ただの』少女なのだ。最大限に警戒し、排除しにかかるのは当時のクルツにとっては当然だった。

 故に、クルツが気を付けるべきなのは――アルシェムを殺さないようにすること。情状酌量の余地もない正当な理由もなく殺人を犯した人物が遊撃士でいられるわけがないからだ。たとえこの場所が夢であったとしても、それだけは心掛けなければならない。今のところ《身喰らう蛇》から足抜けしているアルシェムを、カシウスの家族の前で殺してしまうわけにはいかないのだ。

 そこに、エステルが口を挟む。

「クルツさん、一応あたし達もいるんだからね。忘れて貰っちゃ困るわ」

「はは、そうだったね……」

 そしてクルツは槍を構えて覆面の猟兵を召喚する。しかし――その猟兵は、身動きすることすら赦されなかった。その場から消えていたアルシェムが一瞬のうちにその猟兵達を斬り伏せていたのである。

「え」

「遅い」

 困惑したような声を漏らすクルツに、アルシェムが襲い掛かる。クルツはアルシェムの剣を受け止めにかかった。そうしなければ――先ほどまでの覆面猟兵と同じように一撃で終わっていただろう。

 だが、クルツはそこで終わっておくべきだった。ここで最後だと判断したエステル達からのSクラフト祭りを連続で受ける羽目になったのだから。Sクラフトで打ちのめされたクルツは、ダイイングメッセージを遺そうとしつつ消えて行った――カードキーを、残して。

 そのカードキーはまだ先に進めといわんばかりに輝いている。つまり、クルツで最後ではなかったわけだ。一同はお互いを回復させつつそのカードキーを使って先へと向かう。そのあたりを哨戒しているはずの人形兵器が一体もいないというのも疑問だったのだが、この先に誰が待っているのかということの方が疑問である。アネラス関係で待っているとすればカシウスなのだが、どうやら違いそうなのだ。

 屋上に上がって一行が見たのは、黒髪長髪の女性だった。彼女を見て目を見開いたのは、ジン。

 

「キリカぁ!?」

 

 思わず漏らしたその声は、女性の正体を示していた。泰斗流門下生。奥義皆伝《飛燕紅児》キリカ・ロウラン。ある意味で遊撃士協会の最強格の人材だった――既に彼女は遊撃士協会を脱退している――人物がそこに待ち受けていた。

 キリカはふう、と溜息を吐いて声を漏らす。

「そんなに驚くことじゃないでしょう。まあ、そこにいる唐辺木は放っておいて……久し振りね、遊撃士さん達。私が帰国して以来かしら?」

「き、キリカさん……お久し振りです」

 少しばかりキリカを苦手とするアネラスが代表してそう応える。すると、キリカは苦笑して一同の顔を見回した。すると、懐古の色が浮かんでいるのはエステル達のみで、ケビンとアルシェムにはその色がないのが見て取れる。ケビンならば確かに理解は出来るが、アルシェムがそうでないのは少しばかり意外だった。

 その視線に気づいたアルシェムはキリカに向けて告げる。

「帰国した先であんたが何をしようとしてるのかはなんとなく知ってるけど、正直見誤ってたかな」

「あら、貴女に情報が流れているとは思わなかったけれど?」

 揶揄するようにキリカがそう返すが、生憎アルシェムはその情報を仕入れていた。《飛燕紅児》が――あの、キリカ・ロウランがカルバードに帰って国に仕えることになった、という情報を。活人の道を探し求めていたはずのキリカが、よりによって救うべき人間を絞り込んだことに少なからず驚いたものだ。別に節操もなく争いを止めるために動き回れというつもりは毛頭ない。だが、彼女が追い求めるべきはその道であったはずなのだ。

 冷たい目でキリカを見据えつつアルシェムは言葉を投げつける。

「あんたはその選んだ道で絶対に後悔するよ。……あんたが動けば救えたかもしれない命をたくさん見殺しにすることでね」

「さて、どうかしらね」

 はぐらかすようにキリカはそう返すと、他の面々が何も話そうとしないのを見て取った。これ以上の会話は不要ということだろうか。ならば、門番としての仕事を果たすまでだ。

 故にキリカは宣言する。

 

「……さあ、始めましょうか。《泰斗流》門下奥義皆伝、キリカ・ロウラン……第二の守護者の門番としてお相手するわ」

 

 そしてキリカは獣を召喚し、襲い掛かってきた。




 ※なおキリカは含まれない模様。

 では、また。
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