問題児たちと『黄金の回転』が異世界から来るそうですよ?   作:あかひ

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お ま た せ



9.ハンティング

 ———箱庭第二一〇五三八〇外門”ノーネーム”本拠。

 屋敷の廊下にキコキコと車輪の回る音が響く。日が昇ってから数刻、早朝と呼ぶにふさわしい時間で空はまだうっすらと色づいたところだった。

 音の主、ジョニィジョースターは小さくため息をついた。つい先日まで彼はSBRレースに参加しており日の出と共に起床する癖がついてしまっていたようだ。むしろゆっくりと寝すぎた程か。

 

「ここの厨房………、まあ勝手に使っても問題はないか」

 

 本拠一階にいくつかある厨房の一つに入る。

 およそ半年の間アメリカ大陸で野宿をしてきただけあり最低限の料理は――なんならまともな調理器具が無くとも――できる。無難にパスタをゆで、食堂まで移動する。

 広い食堂でもくもくとパスタを口に運んでいると、閉まりきっていなかった食堂の扉からひょコン! と狐耳が頭をのぞかせた。

 

「あ! ジ、ジョニィ様、おはようございます!」

 

「君は………えーと、確か………」

 

「リリと申します。ジョニィ様は朝お早いんですね」

 

「……見ての通り僕の分の朝食はいらないからな」

 

 しまった、年端もいかない少女に対し冷たい物言いだったか。と気づき言い直そうと彼女の方へ顔を向けると、リリは百点満点の笑顔を向けていた。

 

「わかりました! またお腹が空いたときはいつでも言ってください」

 

「あ、ああ。その時は頼むよ」

 

「はい! 今日は頑張ってください!」

 

 どうやら彼女には気にならないようで、その前向きさと早朝からの元気いっぱいな姿に少しばかり尊敬の念を抱き、ジョニィは食堂を後にした。

 

 

 

 

———箱庭第二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場前。

 ”フォレス・ガロ”の居住区画へとむけて移動していた”ノーネーム”の面々は”六本傷”の旗が掲げられた昨日のカフェの前で声をかけられた。

 

「あー! 昨日のお客さん! もしや今から決闘ですか?」

 

『お、鉤尻尾のねーちゃんか! そやそや今からお嬢達の討ち入りやで!』

 

 ウェイトレスの猫娘は近寄ってくると一礼した。

 

「ボスからもエールを頼まれました! この外門にいて連中に不満のない人なんていないくらいですよ! どの区画でもやりたい放題でしたもの! 二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

 力強くエールをおくる鉤尻尾の猫娘に飛鳥は苦笑しながらも強く頷いて返した。

 

「もちろん、そのつもりよ」

 

「おお! 心強い御返事だ!」

 

 満面の笑みで返す猫娘だったが、急に声を潜めてヒソヒソと呟いた。

 

「実は皆さんにお話があります。”フォレス・ガロ”の連中、今回のゲームを舞台区画じゃなくて居住区画で行うみたいなんですよ」

 

「居住区画でですか?」

 

 返答したのは黒ウサギ。初めて聞く単語にジョニィ達は首をかしげるがそれを見たジンが補足をした。

 

「舞台区画というのは居住区画とは別にギフトゲームを行うための区画です。ほかにも様々な区画がありますが、今回のようなギフトゲームは舞台区画でやるのが普通なんですが………」

 

「しかもですよ! 傘下に置いているコミュニティや同士をみーんなほっぽり出してるんですよ!」

 

「………それは確かにおかしな話ね」

 

「でしょでしょ⁉ 何のゲームかは知りませんが、とにかく気を付けてくださいね!」

 

 熱烈な応援を背に”フォレス・ガロ”の居住区画へと向かった一行はその有様を見て目を疑った。というのも、その居住区画が森のように豹変していたのだ。

 ツタの絡む門をさすり、鬱葱と生い茂る木々を見上げて耀は呟く。

 

「………ジャングル?」

 

 ジンはそっと木々に手を伸ばす。その樹枝はまるで生き物のように脈を打ち、肌を通して体動のようなものを感じさせた。

 

「やっぱり———”鬼化”してる? いや、まさか」

 

「ジン見ろ、”契約書類(ギアスロール)だ。ここに貼ってある、門のところ」

 

 馬上からの声につられ|契約書類«ギアスロール»に集まる面々。門柱に貼られた羊皮紙には今回のゲームの内容が記されていた。

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 ”ハンティング”

 

 ・プレイヤー一覧

  久遠 飛鳥

  春日部 耀

  ジン=ラッセル

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は”|契約≪ギアス≫によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 ・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、”ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

  ”フォレス・ガロ” 印』

 

 

 

 

「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で打倒⁉」

 

「こ、これはまずいです!」

 

 ジンと黒ウサギが悲鳴のような声をあげる。

 

「あいつを始末すればいいわけだろ? 討伐ならそう難しくない」

 

「確かに御二人であれば討伐も容易でしょう。問題なのはルールの方です。このルールでは飛鳥さんのギフトでも、耀さんのギフトでもガルドに危害を加えることができない事になります…………!」

 

 理解が追い付かない面々に十六夜が補足をする。

 

「つまりその”指定の武具”でしかあいつを討伐できないってことだ。他の方法で攻撃しても”契約(ギアス)”の力で怪我にもならない」

 

「すいません、僕の落ち度でした。初めに”契約書類”を創ったときにルールもその場で決めておけばよかったのに………!」

 

 ルールを決めるのが“主催者(ホスト)”であるとはすなわち、白紙のゲームでは命を握られたも同然。ジンのギフトゲーム経験のなさに付け込まれたのだ。

 

「だ、大丈夫ですよ! “契約書類(ギアスロール)”には『指定』武具としっかり書いてあります! つまり最低でも何らかのヒントがなければなりません。もしもヒントが提示されなければルール違反でこちらの勝利です! この黒ウサギがいる限り、反則はさせませんとも!」

 

 愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギと“ノーネーム”の面々に各々が気合いを入れ直し、ついに飛鳥達の初めてのギフトゲームが幕を開けた。

 

 

 

 

 ――箱庭第二一〇五三八〇外門。フォレス・ガロ居住区画

 敷地内は木々が(ひし)めき光さえも遮っていた。住居には木の根が絡みつき、樹木に貫かれ倒壊しているものもある。ほんの昨日まで人が住んでいたとは思えない有様だった。

 森の奥には豪華な館があり、ここがフォレス・ガロの本拠であることが見て取れる。とは言ってもこの館も他の住居と同様に木の根に蝕まれており、(さなが)ら主を亡くした別荘と言ったところか。

 ギフトゲームが開始して暫く、久遠飛鳥とジン=ラッセルはその館から少しの茂みに身を隠していた。

 

 「とりあえず、もう一度状況を整理したいわ。ほんとにあれが昨日会った似非(エセ)紳士なの?」

 

 「はい。彼は元々、人・虎・悪魔から霊格を得たワータイガーでした。ですが彼の様子やこの居住区画の様子を見る限り吸血鬼によって人から鬼種に変えられたのでしょう」

 

 二人は先程、本拠の館で対峙した虎の怪物を思い出していた。出会い頭の力強い咆哮、目にも止まらぬ突進から辛うじて逃げられたのはこの場にいない春日部耀が殿を務めてくれたお掛けだ。

 

「そして恐らくは彼が背後に守っていた白銀の十字剣が今回の指定武器じゃないかと」

 

「吸血鬼に銀と十字架……ね。それなら春日部さんと合流したら十字剣を奪う方法を考えなくてはいけないわね」

 

 理性のない獣と化したガルドを相手にどう立ち回れるか、如何にしてあの剣を手に入れるのか。グルグルと思考を回しているその傍で不意に茂みが揺れた。

 

「誰?」

 

「……私」

 

茂みから出てきたのは血だらけの耀だった。

 

「か、春日部さん! 大丈夫なの!?」

 

「大丈夫じゃ……ない。ちょっと本気で泣きそうかも」

 

 右腕を抑えフラフラと歩いていたが、ついぞ痛みに耐えかねその場で崩れ落ちる耀。その手には白銀の十字剣が握られていた。

 飛鳥は崩れ落ちる彼女の様態を見て血の気が引いた。

 十字剣を握る右腕のからの出血が一際目を引くが、しかし怪我は右腕だけではなかった。腹部や背中、脚に至るまで身体中が切り傷だらけでここまで辿り着けた事に驚く程だ。

 

「春日部さん……いったい、何が……」

 

「なにか……変なギフトを持ってる……。床が(ゆる)んで……動きにくくて……」

 

「耀さん! まずは先に治療です! ちゃんとした事はできませんが、応急処置だけでも!」

 

 自信が着ていたローブをなんとか破り、耀の傷に巻き付けていく。多量の出血を防ぐために気休め程度でも止血をするジンを一瞥した飛鳥は、白銀の十字剣を手にスクリと立ち上がった。

 

「ジン君、春日部さんをお願い。今からあの虎を退治してくるわ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 一人じゃ無理です! 悔しいですがここはもう、降参しましょう!」

 

 ジンは、このまま戦えば新たに来た仲間達を失うことになる、それだけは避けなければならないと飛鳥を引き止めた。焦るジンに飛鳥は冷静な声音で返す。

 

「大丈夫よ。知性の無い獣に負ける程ヤワじゃないわ。――それに、悔しいじゃない? 私達が頼りなくて春日部さんは一人で戦ったのよ?」

 

 情けない。あれだけ大口で喧嘩を吹っ掛けておきながら、実際はどうだ? 対峙し、逃げることしかできなかった。

 春日部耀はあの虎と戦うために久遠飛鳥が戦力にならないと、そう判断されたのだ。

 

十分(じゅっぷん)で決着をつけるわ。少しだけ我慢して」

 

「……飛鳥」

 

「大丈夫よ、春日部さん。今は休んでいて」

 

「気をつけて……。あいつは(もぐ)るんだ……壁にも床にも……」

 

「潜る……。ええ、わかったわ。ありがとう、行ってくるわ」

 

 そうして館の方へと進む飛鳥の背を見届け、耀は意識を失った。

 

 

 

 

 ふわりと、いつもと違ったどこか焦げ臭い匂いにふと顔を上げた。

 屋敷の二階に蹲っていたガルド=ガスパーは屋敷の異変に流血の止まらない左足を引き摺りかつての執務室から出た。

 

(屋敷が……燃えている……!?)

 

 咄嗟に屋敷から飛び出す。その胸中に渦巻くのは怒り、恐怖、困惑。私の屋敷が、炎はダメだ逃げなくては、一体なぜ。

 ガルドは炎から逃れるように、血の匂いに釣られるように、森の中、左右に分かれた木々合間を走り抜ける。辛うじて保っていた最後の理性は木々の先、標的の元へ辿り着く頃には既に欠片程も残っていなかった。

 

「……待っていたわ。思っていたより早かったのね」

 

 瓦礫に灯した炎と白銀の十字剣を手に飛鳥は理性をなくした虎(ガルドだったもの)を睨みつける。

 諸手に携えられたそれに、ガルドはジリリと僅かに後ずさりした。理性のない彼の本能からの恐怖だった。

 

「あら、今さら尻込みかしら? ……今の貴方に言葉は通じなさそうね。春日部さんの事もあるし、これ以上時間は割けないの。だから」

 

 炎を脇に投げ捨てる。それを合図に両者は動いた。

 

「一体一です。来なさい」

 

「GEEEEYAAAAaaa!!」

 

 虎と少女、対峙してどちらに軍杯が上がるかなど問題にもならない。しかし、この少女はほぼ手付かずの原石の才能を持っていた。

 原石を一つの方向へ磨き始めた彼女が理性のない獣に負ける道理は無かった。

 

「今よ、()()()()()!」

 

「GEEEYAAAAaaaaaaa!!!」

 

 ――はずだった。

 飛鳥の一喝で鬼種かした木々が一斉(いっせい)にガルドへと枝を伸ばした。一直線に道を絞り、狙いを自分に向け、死角からの拘束。勝利の為に知恵を絞り、必中の状況を作った。

 しかしその枝々がガルドを拘束するその瞬間、()()()()姿()()()()()のだ。

 

「消えた!?」

 

 辺りを見回す。身を隠せる場所など、無い。一体どこへ。

 ふと、足元へ視線が降りる。ズズズと地面が沈んでいた。まるで沼の上のようにゆっくりと沈んでいく。

 

(春日部さんの言っていた現象! 館の中だけでは無いの!?)

 

 耀が気を失う前に残した情報。飛鳥は特殊なギフトを使い館に細工したのだと考えていた。

 

(人の言葉も解らなくなっているガルドが館に細工? そんなわけないじゃない!!)

 

 思考を回す。

 これはガルド自身のギフト、どんな能力かを見極めなくては。地面が緩い、でも姿を消した事と何も関係がない。春日部さんは潜ると言っていた。なら地面の下!? でも館とは違ってこの下には反対側がないわ、壁や床を通り抜けるのとは訳が違う。

 グルグルと回る思考と相反して、チリチリと焦りが募る。虎と少女、策がなければ負けは必至。耀の怪我もある。時間をかけて不利になるのは飛鳥の方だった。

 理性があろうとも、ただの少女は理性の無い獣には勝てないのだ

 焦り、思考。故に周囲を警戒していても気づけなかった。

 

「GEEEYAAAaa!」

 

「後ろ!!?」

 

 背後からの攻撃に辛うじて十字剣を間に挟み込む飛鳥。ガルドは十字剣を嫌がり即座に距離をとる。

 そして、地面に沈んでいくガルドを目にした。

 

「やっぱり地面の下に!」

 

 尻餅をついた飛鳥は即座に体勢を立て直す。

 泥のような地面を触ってみれば、手触りは何の変哲もない地面だった。普通の地面、なのに沼のように沈んでいく。理解の外にある現象だった。

 

「とにかくこのまま動かないのはまずいわ!」

 

 背後に潜ったガルドから逃れるように走り出した。

 

 

 

 

 息を切らし走り続ける飛鳥は既に満身創痍と言えるほど傷だらけだった。足を止めてしまうほどの重症がないことが不幸中の幸いだが、決して軽傷では無い。

 飛鳥は走りながらもガルドの攻撃を(つぶさ)に観察し、ギフトの能力の当たりをつけていた。

 

(彼の能力。きっとあれはあの前足で触れた物を液状化させる能力に違いないわ。館でもここでも地面に触れてドロドロに溶かしていたんだわ!)

 

 地中や水中などの空気中よりも密度の高い空間は、空気中と比較して音の伝達も早いと言われている。そう考えれば地中からこちらの位置が把握されるのも納得が行く。動物の聴力を持ってすれば尚更だ。

 

「はあ、はあ。もう、逃げるのは辞めましょうか」

 

 ただ逃げていた訳ではなかった。辿り着いたのは元の場所。そこは未だに轟々と焔をあげているフォレス・ガロ本拠の館。

 左右は木々の道、後ろは炎の壁。いくら地中へ潜れようとも、もう攻撃は正面からしか来ない。

 

「GEEYAAAAAAAAAAAaaa!!!」

 

「ううっ!! きゃあ!」

 

 まるで飛魚のような器用さで地中から飛鳥へと飛びつくガルド。来る方向が分かっていても受け止めるのは容易ではない。

 勢いそのままに弾き飛ばされる飛鳥。元から不利な状況だった飛鳥は、背に地面を背負った事でさらに不利な状況となってしまった。

 相対する敵が地に伏せている。負けるわけがない。ガルドは勝利を確信し飛鳥へと飛びかかった。

 

「GEEEEEYAAAAAAAAaaaa!!」

 

 ガルドの体が飛鳥を覆い隠し、そして――

 

「GYA……Aa……」

 

「――よかったわ、上手くいって」

 

 ガルドの頭を白銀の十字剣が貫いていた。

 

「私の力じゃきっと、なんの拘束もない貴方に剣を突き刺すなんて無理だったわ。だからこうして、貴方と私の力比べじゃなくて貴方と地面に力比べして貰ったの」

 

 深々とガルドの頭蓋を貫く十字剣の柄は突っ張り棒の様に地面へと伸びていた。

 

「正直、怖かったわ。失敗なんてできないもの」

 

 冷や汗を拭う飛鳥は、サラサラと灰になっていくガルドに呟いた。

 

「今さら言ってはアレだけど………貴方、虎の姿の方が素敵だったわ」

 

 ガルドが完全に灰となると、周辺の木々も一斉に霧散した。

 樹に支えられていた廃屋が、炎に焼かれた館が、居住区画の建物が倒壊していく音を聞き、飛鳥は達成感と疲労感からか瞼が重くなっていくのを感じた。

 ガルドの灰の中に埋もれた奇妙な遺体が自身の身体へと入り込んでる事に気づく暇もなく、飛鳥の意識はプツリと途切れた。




きっと最後に残ったあの館の執務室が、彼にとってのオアシスだったのだろう。

3年は誤差です。
投稿したので失踪はしてないって事で。
実際7割くらいは前回投稿からひと月位で描き上がってたんで、ね?
さて、次は何年空くことやら……。
空かないように頑張ります
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