問題児たちと『黄金の回転』が異世界から来るそうですよ?   作:あかひ

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8.聖人の遺体

 並行世界の中でひとつの世界にしか存在のしない物はあるのか。

 たったひとつの疑問、しかしそれは彼のギフトに関係する重大な疑問だ。

 

「ふむ……そんな奇妙なものは存在しない。どんな物もあらゆる世界線で姿形が違えども必ず、何かしらの形で存在する」

 

 ここで一度話をきり、白夜叉はジョニィの様子を伺う。

 驚いたような、困惑したような何とも言い表せない表情に白夜叉はやはりな、と一人で納得していた。

 というのも彼女はジョニィの質問の意図を理解していたのだ。ジョニィは知っているのだろう、彼の言う『あらゆる世界線で一つしか存在しない物』を。

 

「……本当に存在しないのか?」

 

「ああ、本当だとも。1本では自立しない爪楊枝も何十、何百と束ねれば自立するように、存在とは多くの世界で同時に存在しなければとても不安定になってしまうものだ」

 

「………」

 

 白夜叉の説明は理解できた、しかし納得ができなかった。

 それならば彼が見たモノは、彼のその身に宿している聖人の遺体(ギフト)は一体何なのだ。

 

「その『あらゆる世界線で一つしか存在しない物』とやらを見せてみよ」

 

 持っているんだろう、そう尋ねられジョニィは悩んだ。彼女には遺体を見せてもよいものかと。

 しばらく黙考し、彼はそっとギフトカードを取り出し、若干の警戒を残しつつ白夜叉に見せる。

 

「成人の遺体:左腕部……これか? 実際にモノを見せてみろ」

 

 ジョニィは静かに左腕を前にだし()()()()()()()()()()()()

 白夜叉もまさか左腕の中に入っているとは思わなかったのだろう。目を見開き遺体を見た。

 遺体を受け取りしばらくの間それを眺めなると、これは……と唸る。

 

「わかったのか? それがなんなのか」

 

「先程も言ったようにギフト鑑定は専門外なんでな、私の憶測も混じっているが………」

 

 無言で続きを促すジョニィ。

 礼儀を知らんやつだ、とは口に出さずどう説明したものかと言葉を選ぶ。

 

「この遺体、たしかにひとつの世界にしか存在しない。……しかし複数の世界に存在するのも確かだ」

 

「…………? ちょっと待ってくれ、一体どういう事だ?」

 

 混乱

 白夜叉の言葉は一瞬前の自分の言葉と矛盾する。

 ジョニィにはその真意を図りかねる。

 

「ああそうだ。仮に遺体のある世界線を基準世界としよう。おんしは何故()()()()()()()()()()と思い込んでおるのだ?」

 

「どういう………意味だ………?」

 

「木の幹から枝が生えるように基本世界から並行世界が枝分かれしている。そしてその木は何本もあるわけだ」

 

 例えばある基準世界では他の基準世界では開催されないアメリカ大陸横断レースが開催される。

 例えばある基準世界では大きく発展した科学知識がある。

 例えばある基準世界では他の基準世界には存在しない大財閥がある。

 

「そしてそれぞれの基準世界からまたさらに細かく並行世界が広がっている。イメージとしてはこんなものだ」

 

あくまでもイメージだと付け加える白夜叉。

事実として立体交差並行世界として詳しく説明しようとなるとこのお茶菓子が少なくともあと1ダースは必要になる。故のイメージだ。

 

「その聖人の遺体とやらが小僧のギフト『立ち向かう者(スタンド)』とやらと関係があるのだろう?」

 

 またも彼は目を見開く。

 一体何度この少女(星霊)に驚かされれば良いのだろうか。

 

「………その通りだ。関係しているさ、僕のスタンドにも。そして、僕はこの脚を治す為にも遺体を集めなくてはならないッ!」

 

 なるほど合点がいった、とようやく白夜叉は彼の質問の本当の意味を理解した。

 

「して、私にその遺体を集めてほしいんだな」

 

「いや、遺体を集めるのは僕だ、僕だけの権利だ。あんたには探してほしい。どこにあるのか、誰が持っているのかを」

 

 白夜叉は目を丸くして呆気にとられた。彼女ほどの権力があれば箱庭中から情報を集めるどころか遺体の一つや二つ簡単に集めることが可能だ。

 しかし彼はあくまで自らの手で集めるつもりなのだ。

 

「く、くくく………。よかろう、そのくらいであれば協力してやろう」

 

 話をまとめたジョニィはサウザンドアイズ二一〇五三八〇外門支店を後にした。

 

 

 

 

 ガルドは彼の屋敷で頭を抱えていた。

 

「くそ………くそ、くそくそくそこのドチクショウガァ!!!」

 

 彼は身近にあった執務机を持ちあげて窓の外に放り出した。ガラスの割れる音が彼の苛立ちを加速させる。

 黒ウサギコミュニティの”箔”としても”駒”としても彼の欲を満たす玩具としても欲しかった人材であった。しかし彼は先走りすぎてしまったのだ。

 

「あの女………あんなのがいたら勝ち目なんてねえぞ!」

 

 彼の頭痛の原因である女性を思い浮かべさらに頭痛が悪化する。

 直接精神に触れるようなギフトに対して有利に戦えるようなゲームなど彼には皆目見当がつかなかった。

 頭を抱えているガルドに、割れた窓の向こうから凛とした女の声がかかる。

 

「———ほう。箱庭第六六六外門に本拠を持つ魔王の配下が”名無し”風情に負けるのか。それはそれで楽しみだ」

 

「っ、誰だ⁉」

 

 あらわれたのは華麗な金の髪を靡かせた、十六夜達よりも二、三歳年上の女性だった。

 

「テメェ………どこのどいつか知らねえが、俺は今気が立ってるんだ。牙を剝かねえうちにとっとと失せろ」

 

「まあそう言うなよ。私もあの”名無し”には少々因縁があってな。お前が勝てるようにギフトをいくつかやろう」

 

「うるせぇ! か、勝てるわけがねえだろ! お、俺はあのガキ共に手も足も出なかったんだ!」

 

「うむ。今のお前では万に一つも勝ち目はないだろうな。しかしお前が”鬼種”のギフトと神格にも匹敵するギフトを手に入れたとしたらどうする? 勝ち目も出てくるのではないか?」

 

 ここにきてガルドは初めて女と目を合わせた。

 

「………。俺に”六百六十六の獣”を裏切れと? それに神格に匹敵するほどのギフトがそう簡単に存在するわけがねえ」

 

「結果的には裏切ることになるな。たとえ神格の話が嘘だったとしても”鬼種”が手に入るだけでも儲けものだろう?」

 

「………。」

 

 ガルドは冷静さをわずかに取り戻していた。

 しかし、彼女に利用されようとしていることがわかっていても乗らない手がない状況であることも理解していた。

 

「さあ、どうする? ギフトを受け取らずに潔く裁かれるか、ギフトを受け取り無罪を勝ち取るか」

 

「ッチ。選択肢はねえか、いいぜ。けど時間がない。種族そのものを変質させるにはどれくらいかかる?」

 

 金髪の少女は楽し気に頬を緩ませた。

「ふふ、それなら気にするな。今この時、この場の僅かな時間で済む。先にこれを渡しておこう」

 

「何?」

 

 彼女はガルドに人間の下半身のようなモノが渡された。

 ソレを彼が受け取った瞬間ソレはガルドの下半身と同化した。

 

「おい! どうなって———」

 

 ガルドが取り乱した瞬間、金髪の少女の牙は首筋を食い破った。

 

「ギャ、ガッッッ!??」

 

 刹那、細胞の一つ一つが燃え盛るような苦痛に襲われ彼は意識を手放した。

 

「さてさて。どう出る、新生”ノーネーム”」




 お久しぶりです。あかひです。
 いったでしょう、失踪はしないって

 いや、偉そうにすみません。
 いわゆる自粛ムーブでふと執筆欲が沸いて途中だったものを仕上げました。

 さて次の投稿はいつになることやら………。
 楽しみに待っていてください。


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