マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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前編:夢なき街で夢見る少女
SAVE1.夢なき街で夢見る少女


 かくして魔王は勇者に倒され、世界は平和になったのでした。

 

 ありふれたゲームの、ありふれたエンディング。エンドロールが終わり、セーブ画面が現れる。

 セーブ。そしてロード。暗い闇から放たれた世界は、魔王を倒す直前まで巻き戻されている。確かに、魔王を倒した筈なのに。

 当然だ。何故ならこのゲームには、世界を救った先の事は用意されていない。だから何度魔王を倒そうと、世界が先に進むことはないのだ。

 

「ふぅ……」

 

 一体私は、このゲームを何周クリアしたのだろう。いつだって結末は同じ。用意された台本の上で勇者を演じるだけ。

 カーテンを通して入ってくる太陽の光だけがこの部屋を照らしている。私は薄暗い部屋の中でゲームの電源を切り、中学校の制服に着替えた。早起きしてゲームする毎日の日課は終わった。明日から何をしようか。

 

 人生はクソゲー。

 

 そんな言葉を聞いたことがある。確かにそうだ。私の人生もクソゲーだ。毎日毎日、昨日のリプレイを続けていた。

 テストで百点をとったって、体育の授業で1位になったって、世界は変わりはしない。私の不気味な右目は、決して他人を引き寄せない。ここは○○村だよ、なんて言い続ける村人Aのように、私の日常は同じことの繰り返しだった。

 

 だからこそ、私は何よりも望んでいたのだ。

 

 たとえ辛かろうと構わない。たとえ苦しもうと構わない。ただ人生を磨り減らす退屈なんて大っ嫌いだ。

 ふと、足元から声が聞こえた。

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ!』

 

 ある人はそれを悪魔との契約だと言った。

 

 ある人はそいつをペテン師だと罵った。

 

 私にとってそれは、ずっと憧れた非日常への片道切符だった。

 

『……へぇ、駄目で元々だったんだけど、君には僕が見えるんだね』

 

 なにやら含みのある言い方をした、猫のような兎のような何か。いきなり足元に現れたそいつは自分の事をキュゥべえだと言う。キュゥべえが言うに、魔法少女となって魔女と戦って欲しいそうだ。

 

「そうですね、良いですよ」

 

『本当かい?』

 

 そいつは、どんな願いでも叶えてくれると言った。それなら、私の願いは。

 私はとある少女を思い浮かべる。私が憧れた、最高の物語の主人公。

 

「それなら……私に、退屈しない素敵な人生を」

 

『面白いお願いをするんだね』

 

 キュゥべえと名乗ったそいつは頷くと、頭に付いた触手の様なものを私の胸に伸ばした。

 

「っ……」

 

 その触手は私の身体に突き刺さり、何かを取り出す。

 

『君の願いはエントロピーを凌駕した。受けとるといい、それが君の運命だ!』

 

 薄汚いどどめ色の宝石。私はそれを手に取る。それは驚くほど私の手に馴染んだ。

 

「これは……?」

 

『それはソウルジェム。魔法少女の力の源だよ』

 

 私はソウルジェムに集中した。何かの流れを感じる。これが、魔力というものなのだろうか。

 

「……!」

 

 私の身体を光が包んだ。私の着ていた制服は何処かに消え、魔法少女としての姿に変わる。

 

『おめでとう!これで君も魔法少女の仲間入りだよ』

 

 キュゥべえのそんな声を聞きながら、私は鏡で自分の姿を確認した。

 頭にはピエロが被るような先が2つに別れた特徴的な帽子。体は私の憧れた主人公――アリスの服。色は白と黒になっている。胸にはハテナマークに変形したソウルジェム。腰からは4本のリボンが触手の様に生えている。それはキュゥべえの触手に似ているような気がした。

 

「これが……魔法少女」

 

『そう、そして君は君の願い通り、この物語の主人公になったんだよ』

 

 私が、主人公。

 

 何度憧れたことか。子供の頃から捨てきれなかった夢。世界を推し進めていく、最強の『ジョブ』。

 

「そ、それで、どうやって魔法を使うんですか!?」

 

 思わず声が上ずり大きくなる。私は今、何もかもが楽しみだった。

 

『想像してみるといい。君の中から自然と溢れ出る力が、君の魔法なんだ』

 

 私の中から、溢れ出る力……!

 

 私は右手を前に伸ばすと、空間を切り裂くように横に引いた。

 

「これ、は……!」

 

 ワープホール、とでも言うべきか。私が作り出したのは別世界への門。空間に穴が開いたように広がっていて、その先にはどどめ色の混沌とした世界が広がっている。

 

「あ、あはは、あははははっ!」

 

 凄い、すごい、スゴイ!

 

 私が念じると、その空間は閉じる。手で切り裂かなくとも、私の視界の中なら念じるだけで『ゲート』を作り出すことが出来た。

 

『この短期間で能力のコツを掴むなんて、やっぱり君には才能があったみたいだね』

 

「あはは。ありがとうございます、キュゥべえ」

 

 さらに色々と自分の中から溢れ出す力を調べてみる。私が念じると、53枚のカード達が私の周りを囲んだ。

 

「トランプ、ねぇ……。良いですよ、すっごく素敵です!」

 

 私の意思通りに動くカード達は、さながらトランプ兵といったところだ。

 

『満足してもらえたようだね』

 

 キュゥべえは私の身体を伝い、肩に乗る。

 

『それじゃあ、さっそく魔女を退治しに行こうか!』

 

「あ、いや。私これから学校なんです」

 

 能面の様な表情だったキュゥべえが、なんとも微妙そうな顔をした。

 

 

 キュゥべえは学校までついてきてくれた。退屈だった授業も、キュゥべえとのテレパシーで受け流すことが出来た。

 

「お待たせしました、キュゥべえ」

 

『お疲れ様。でも、授業を真面目に受けていないのに学校に来る必要あるのかい?』

 

 キュゥべえは不思議そうに聞いてきた。確かに授業は分かりきってるから退屈だし、友達と呼べる存在も居ない。自分でもたまに、どうして通っているのか分からなくなることがある。

 

「うーん、皆勤賞のため、ですかね」

 

 とりあえずはそういうことにしておこう。実際学校を休んだことは無いのだから。

 私はソウルジェムを手に乗せて、街を歩く。魔法少女が魔女を探すのは、かなり地道らしい。もっと魔法でわーっとやる感じだと思っていたが。

 

『ほら、見るといいよ有栖美亜。ソウルジェムが薄く光っているだろう?』

 

 キュゥべえに言われ、気づく。どどめ色に濁ったソウルジェムはうっすらと光を帯びていた。その光は点滅している。

 

『ここまできたら後はもう少しだよ。ソウルジェムの反応が大きくなる方向に進めばいいんだ』

 

 私はキュゥべえに言われた通り、ソウルジェムを前に付きだしその場でくるくると回る。……うん、夢見タワーの方向が一番反応してるかな。

 ソウルジェムを頼りに足を進めていく。夢見タワーは、この夢見市で一番高い建物だ。周りを幾つかのビルに囲まれている。その様子は何処かストーン・ヘンジの様に見えて、観光スポットとしてそれなりに人気らしい。

 夢見タワーの足元。背の低いビルの群れ。その路地裏で、ソウルジェムが強い反応を示した。

 

「……ここ、ですね」

 

 目の前に変な紋章が現れ、世界が描かれていく。玩具箱の様な不思議な景観。

 

『気を付けてね。ここはもう魔女の結界の中なんだ』

 

「……結界?」

 

 ファンタジーのお話でしか聞かないような単語に、思わず首をかしげる。キュゥべえはそんな私の様子を見て、追加で説明してくれた。

 

『魔女は世界に呪いを振り撒く存在だ。そして普段は、自分の住処となる結界の中に隠れているんだよ。だから、普通の人間には見つけられないし、倒すことだって出来ないんだ』

 

 そうだったんですね。声に出さない反応。魔女とやらは意外に臆病らしい。

 私は迷路のような結界を進んでいく。

 

『ぶぅぅぅぅぅぅん!!』

 

 高速で動く何かとすれ違った。いたずらで書かれたような拙い飛行機と、それに乗る幼い少女の様な何か。

 

「っ!あれが、魔女……!?」

 

『いや、あれは魔女じゃないよ。魔女の手下とでも言うべき存在なんだ』

 

 取り巻きまでいるとは……。あんまり取り巻き付きのボスって好きじゃあないんですよね。

 

『手下は放おっておくと人を喰らって、親である元の魔女と同じ姿になるんだ』

 

「それは……厄介なものですね」

 

 私は2枚のカードを魔女の手下に向かって投げた。鋭く、そして速い刃は魔女の手下を貫通する。そのまま手下は動かなくなった。

 

「……弱っ」

 

『まぁ、所詮は使い魔だからね。素質の高い君が苦戦するようなものじゃないさ……ほら、気を付けて。魔女のお出ましだよ』

 

 さっきの手下を追いかけてきたのだろうか。『魔女』が姿を表す。

 

『―――――!』

 

 よくわからない叫び声。ピエロの様な顔をした、私より一回り大きな少女。

 

「あはははっ。楽しみましょう?魔女さんっ!」

 

 小さいゲートを幾つも周囲に展開する。魔女は使い魔を殺した私に憤っているのだろうか。

 これが最初のボス戦。退屈だけはさせないで欲しいものですね。




一部修正しました。

お読みいただきありがとうございます。この小説は、色々とフリーダムな主人公がまどマギの世界を掻き回すものです。
前半はオリジナルの舞台、夢見市で繰り広げられます。見滝原の出番はずっと先になるかと。
拙い文章ではありますが、お付きあい頂けると幸いです。


↓キャラ設定となります。
有栖 美亜 アリス ミア
夢見市の魔法少女。魔法少女としては新米だが、かなりの素質があり能力は高い。自由な性格で相手を茶化すのが好き。どちらかと言えば外道。
黒髪のショートに一房だけある白い前髪が特徴。右目が赤、左目が黒のオッドアイ。おしゃれには興味が薄く休日でも夢見中学校の制服を着ていることが多い。
ジェムの色はどどめ色。このお話の中でどどめ色は青っぽいグレーのような黒のような色。魔法少女化したときの服装はピエロが被るような先が二つに別れた帽子に白と黒のアリス服。腰からは触手のように4本のリボンが生えており、その先にはそれぞれスペードが1つ、ハートが2つ、ダイヤが3つ、クラブが4つ描かれている。
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