「流石姉斗さんだ」
「容姿端麗、文武両道。彼女こそわが校に相応しい生徒ですわ」
……相応しい?このわたくしが?
聖ドレアン学院中学校は、父親が理事長を勤める学院だ。だから『仕方なく』ここに通っているだけだった。
「ねー、オホホとか訳わかんねーし」
「わかんねーザマスー」
「きゃははっ」
この学院は歴史こそあるものの、今では腐ったミカン共の溜まり場。金さえあれば。そんな学校になってしまった。
……それが、たまらなく嫌だった。この美しい街を腐ったミカン共に汚させるわけにはいかない。ただでさえ急激な都市化によりこの街の美しさが喪われていくというのに。
だけど、権力者の娘とはいえ所詮は中学生。力が、無かったのだ。廃棄処分を行えるような力が。
『僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ!』
その白い何かとの出会いは、きっと運命だったのだろう。力を持たないただのお嬢様を、審判者へと変える契約。
「では、わたくしの願いは」
全ては、この美しい街を守るために。無能揃いの教師も、父親も、PTAも何もしないというのなら、このわたくしが裁きを下しましょう。
「ルールを守らぬ不届き者に、罰を与える力を下さい」
契約は成された。わたくしの手には、罪を切り裂く巨大な斧。
それが、全ての始まり。自分はこの街を汚すものに罰を与える存在。それが人であろうと、魔女であろうと些細な問題なのだ。
「あづーい……」
今日は日曜日。私達は連携を練習するために、3人で魔女を倒しにいくことにした。夏に向かう今の季節、日に日に暑さは勢いを増していく。夢見中学校の制服が、汗で肌に吸い付いている。
「まだ来ないんですかねぇ……」
まぁ、来なくても当然かもしれない。なんせ私は30分前行動をしているのだ。別に、休日に仲間と出掛けるのが初めてで楽しみだったとかではない。……決して。
待ち合わせ場所は、中央の都市部から少し離れた場所にある夢見映画館。入る人より出てくる人が多いと言われるオカルトスポットでもある。映画館の外には、いま上映されているのであろう映画のポスターが貼られていた。
エイの帝国。光届かぬ世界で。『エイランド』。
名も無きニートの、一週間に迫る。『セブン・デイ』。
そんな素晴らしく誰得な映画しか上映されていない。そりゃあお客さんも入らないでしょう。
そんな映画広告を見て時間を潰しながら、2人を待った。
「あら、待たせてしまった様ですわね」
集合時間の10分ほど前か。麦わら帽子を被り、白いワンピースを身に付けた腐れお嬢様がやって来た。この暑い日差しの中でも涼しげな表情だ。
「ぜんっぜん待ってませんよー。集合時間の10分前ですからね」
「そう言う貴女は随分と早いですわね。一体いつから?」
「……20分前?」
私がそう言うと、腐れお嬢様は目を見開く。
「はぁ?貴女ねぇ、天気予報見てませんの?今日の最高気温は32度ですわ。それをずっと外でって……」
腐れお嬢様は鞄から何かを取り出す。マフラーと保冷剤をくっつけたような、凍らせて首元を冷やすタイプのアイテムだ。腐れお嬢様は私の首にそれを巻くと、満足気に頷いた。
「……これで、少しはマシになってのでは?」
何と言うべきか……。あんまり仲の良くない私にこんな事が出来るなんて、お嬢様は余裕があるんですかね。
「……ありがとう、ございます」
少しだけ、照れてしまう。……いかんいかん。これでは私はチョロインだ。私はゴーイングマイウェイなアリスなんです。
「お待たせー!」
手を振りながら走ってきたのはジャージ姿の合田さん。集合時間5分前。皆遅刻することなく集まることが出来たようだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
キュゥベえによると、夢見の魔女が現れる確率は中心の都市部より外縁の未開発区域の方が少ないらしい。だから今回は、なるべく都市部から遠い位置で魔女を探すことにした。
未開発区域にあるのは、さっき集まった夢見映画館に、聖ドレアン学院。あんまり他にも寂れた商店街とかはあるけど、それ以外に目立つものは豊かな自然くらいだ。
「それにしても、どうして風見野をすっ飛ばして夢見市を都市化したのかなぁ」
山々を見ながら、合田さんがふと呟く。そういえば彼女は隣町……風見野から来たんだった。まぁ、私達が歩いているのは風見野とは真逆の外縁なのだが。
「見滝原に開発が来たから、次はこっちかなーって思ってたんだけどね」
見滝原市は、風見野市の隣町。かなり近代化が進んだ街だ。でも、合田さんの言う通り何故か風見野市を飛ばして夢見市が開発されている。どうせなら隣町を発展させていった方が効率的にも良いと思うのだけど……。
「ま、お偉いさんは何を考えているのか分からない、って事ですわ」
お偉いさんが何を言うか。まぁ、確かに夢見市の開発について政府や自治体からは何も発表されていない。それが何となく……不気味だった。
「……来ました」
ソウルジェムが淡く光を放つ。こちらが動かなくてもその光はだんだんと強さを増していく。
「っていうか、こっちに来てる……?」
ここはギリギリ夢見市といった場所。つまりこの魔女は、他の街からやって来たのだろう。
紋章が現れた。魔女の結界の入り口だ。紋章は、導火線が付いて逆さになったブーケのような形をしている。
「準備はオッケーですか?」
「勿論ですわ」
「いつでも行けるよ!」
私達は魔法少女へと変身し、結界の中に飛び込んだ。
「……なんか、臭っ」
合田さんが鼻を摘まみながら言った。確かに酷い臭いだ。色々なものが腐ったような、不快な臭い。
「……ごみ溜めの様ですわ」
ごみ溜め。確かに臭いはそうだ。だが景観はごみ溜めのそれではなかった。
黒い土の床。そこら中に散らばるのは六角形のステンドグラス。また、墓石が幾つも無造作に突き刺さっている。
「お墓、って感じですかね」
墓石の感じからして、日本のお寺ではなく西洋のものに似ている。
空は赤青紫の入り交じったマーブルで、見つめていると目が回りそうだ。
「……行きましょう、皆さん」
私達は頷き合うと、暗い結界の中へ足を進めた。土の床は、一部が道のように白く変色していた。罠の恐れもあるが、とりあえずはこれに頼る他無いだろう。
「……あれは?」
合田さんが見つけたのは、小さな洞穴の様なもの。墓石の下に作られている。
「ちょっと突っついてみよっか」
「止めなさいな、変なもの出てきたらどうするつもりですの?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、手をわきわきさせる合田さんの首根っこをお嬢様が掴んでいた。
「ちぇー」
しょぼん、といった表現がしっくり来る表情で、合田さんは洞穴を諦めたようだ。
ヒュン。
そんな風を切るような音がした。音の方向を見ると、入り口辺りに落ちていた六角形のステンドグラスが。何処かから飛んできたのだろうか。
「皆さん、あれ……!」
私達の歩いてきた道の先に、建物が見える。窓のステンドグラスや周囲に散乱した十字架等から、あれは教会の様なものだと思われる。ただ、普通の教会とは違う点が1つ。
『wtshshnnpunno!wtshshnnpunno!』
ウェディングドレスを纏ったミイラの魔女が生えている。というより教会自体も魔女の一部なのだろう。ステンドグラスが割れ、辺りに向けて飛ばされてはまた新しいステンドグラスが生えてくる。
「うわぁ……」
その魔女は、人間に近い形をしていた。だがその眼窩には何もなく、虚ろな黒が広がるばかり。4本ある手には赤や青の花が。色は違うが同じ形の花だ。
「あれは、アネモネですわね」
飛んでくるステンドグラスを避けつつ、お嬢様が呟いた。
魔女の発言を一部修正(hを入れる)しました。
10話でした。お楽しみ頂けましたか?
魔女戦は次回になります。ごめんなさい……。
今回出てきた映画は、実在するもののもじりだったりします。なお内容は全くの別物だったり。
最近魔女の喋らせ方がネタ切れ気味です。魔女文字が使えたら良かったのに……!というわけでこれ以降は魔女のしゃべり方が被っていくかも知れないです。申し訳ありません。
さてさて、長くなってしまいましたが、また次回お会いできるのを心待ちにしております。
以下キャラ設定↓
姉斗 真理 アネト マリ
夢見市の魔法少女。美亜の先輩に当たる。夢見市を縄張りとしており、他の魔法少女の事を敵視している。名家のお嬢様らしく偉そうだが、困ってる善良な一般人を見捨てられない性分。その一方でマナーやルールを守らない人間はたとえ魔法の力を持ってなくても裁く。
金髪のツインテール。普段着は白いワンピース。もちろんオーダーメイド。瞳の色は翠。
キュゥべえへの願いは『ルールを守らぬ不届き者に罰を与える力を』。お嬢様校の理事長の娘の彼女はギャルの増加によって夢見市が汚されていくことを憂いていた。
契約の結果、『空間のルールを決める』能力を得た。『この空間では上に落ちる』や『この空間では気温が2倍になる』など重力や温度等を支配し、戦闘を有利に進める。その一方で相手に直接干渉することが出来ないため、使いこなすには知恵が必要。
ジェムの色は青っぽい白。魔法少女としての姿は司祭の様な露出の少ない服。頭には銀色に輝くティアラが乗っている。自分の背丈ほどある巨大な斧を持っている。