「まぁ、そんなんだから男に逃げられるんだよ」
「16なのに3回目の結婚って……」
「ま、俺達は儲かるから良いけどな」
「どうせ今回も、新郎不在で中止だろ?」
「んじゃ別に、準備しなくたって良いよなー」
そんな男達の、笑い声が聞こえた。
妄執に囚われた哀れな花嫁は、その虚ろな眼窩を私達に向ける。怒り、妬み、そしてどうしようもなく重い感情が、プレッシャーとなって私達を押さえつける。
『konodorobounekog!』
魔女は何かを叫ぶと、その腕に持ったブーケを投げつけてきた。
「何を――」
高速で飛んできた合田さんに体をさらわれる。直後私のいた場所で、爆発が起きた。
枯れたアネモネの花びらが、ヒラヒラと暗い地面へ舞い落ちる。
「ふぅ、危ない危ない。大丈夫かい?」
袖で額の汗を拭いながら、合田さんが言った。
「た、助かりました。あれ、爆弾なんですね」
「そうみたいですわね。まぁその程度、わたくしの敵ではありませんわ!」
お嬢様は放たれたステンドグラスを足場にしながら跳躍し、魔女の真上まで到達する。だが。
『shknojmhssen!』
バッテンの紙止めで飾られた魔女のツインテールが、ムチのようにお嬢様へと伸びる。
「しまっ――」
「させません!」
お嬢様の眼前にゲートを展開し、ツインテールが入り込む前にそれを閉じた。そしてお嬢様を、私の隣にワープさせる。
「……一応、お礼を言っておきますわ」
ふふん、と得意気な顔でお嬢様を見る私の頭を、雨音さんが小突いた。
「はいはい、いちゃつくのはまた後でね」
「「いちゃついて無いです(わ)!」」
台詞が被った。私達はぐぬぬと唸りながら睨み合う。
「あはは、息ぴったりだね。ま、それよりも今は魔女をどうにかしようか」
魔女は今までのものよりも大きい。4本の手には爆弾、足元ではステンドグラスの弾幕が張られており近づくのも難しい。
「これは……連携を取っていかないと厳しそうですね」
一人で挑むのには苦戦するだろう。それだけこの魔女は強い。だけど、夢見の魔女程ではない。
「美亜ちゃんの能力は、どっちかって言ったらサポート寄りだね。あのワープホールがあれば一気に近づいたり、逃げたり出来ると思う」
「なら、わたくしと合田さんがピエロの魔法でワープして攻撃、すぐに再びワープして逃げる。これで良いですわね?」
私は頷いた。残念ながら私のカードは火力に乏しい。シャッフルを使えばそりゃあ火力は出るけど、あれは魔力の消費が大きすぎて危ないだろう。
「では、行きます!」
「「オッケー!(ええ!)」」
2人の眼前にゲートを展開する。その出口は魔女の真上に。さらに魔女の攻撃対象が2人に向かないよう、ブッブー達を召喚して魔女の回りを走らせる。
2人はゲートに飛び込み、すぐに魔女の頭上へ。
「―エクスキューション―!」
「アマネキィーック!」
「助太刀しますよ!―フォーカード―!」
周囲の空気が重くなる。お嬢様がこの空間の重力を強くしたのだろう。お嬢様の斧が巨大化し、それを大上段に構えたまま落下していく。合田さんの足はドリルのような形に変化した。重力が増したことによって2人の落下速度は速くなり、火力も上がっていく。さらに合田さんの足とお嬢様の斧に、4枚のカードがまとわりついた。
『shknojmhssen!』
足元を走り回る使い魔への攻撃を取り止め、魔女の視線は2人へと向く。そしてツインテールが2人を突き刺そうと襲い掛かる。
「―ツーペア―!やらせはしません!」
カードを2枚ずつツインテールに向けて発射。魔女の髪の毛は頑丈なのか切り裂くことは出来なかったが、カードの勢いを殺しきれず攻撃を外す。
そこに、2人の渾身の一撃が炸裂した。4枚のカードが追加で攻撃を行い、傷はより深く、より複雑なものになる。
『sgonohtorhktekuret!』
魔女は叫び声を上げる。2人の攻撃は魔女の体を引き裂き、貫いた。
「オッケーです!」
お嬢様が掛けていた重力が元に戻り、私は2人を自分の側へとワープさせた。
魔女が憎々しげな視線をこちらに向け、すぐに4つのブーケを投擲してくる。でも。
「不意打ちならいざ知らず、堂々と来る飛び道具は私に通用しませんよ!」
私達の壁になるようにゲートを展開してブーケを飲み込む。そしてすぐに飲み込んだブーケを、魔女に向けて発射し返す。
『ァ……ィ………シ……テ』
最後に、魔女が何か呟いた気がした。しっかりとした、意味のある言葉を。……でも、きっと聞き間違いなのだろう。魔女はそのまま爆発に飲まれていった。
「や、やったかい?」
煙が晴れると、そこにミイラはいなかった。ただ教会は残っているようだ。ステンドグラスは生えてこない。
「……結局、使い魔は出て来なかったですわね」
確かに、この空間では1度も使い魔を見なかった。元々いないのか、それとも働かないのか。今になっては分からないことだ。
「ですねー。さて、グリーフシードは何処に落ちてるんでしょう」
教会の周囲を回っても、それらしきものは見つからない。もしかしたら、教会の中にあるのかも?
「無いですねー……」
「一応、教会の中にも入ってみようか」
大きな扉を開き、教会の中へ。そこで私達を待っていたのは、2つの死体だった。
「っ……」
若い男女の死体。女性の方はツインテールで、私達と同じくらいの年齢に見える。……腐敗が激しいから確実ではないけど。
2人は手を繋ぐように倒れていた。手を繋いでいない方の手のひらで、キラリと輝くものを見つける。
「……グリーフシード、みたいだね」
男性の手、結婚指輪が入っていそうな箱にグリーフシードが入っている。女性の方の手には、散り散りになった宝石の欠片のような物が握られていた。
何でこんなところに、人の死体が?結界に迷い混んだ人間は食べられてしまうものだと思っていたが、そうとは限らないのかもしれない。
「さて、では今回の戦いを元に、戦術を組み立てましょうか」
場所は再び私の部屋に。中央の机にノートを置き、それを囲むように座る。
「基本は美亜ちゃんの能力を使いながら、ヒットアンドアウェイを繰り返す事になるかな」
それが安全で確実な気がする。
「そうですね。ただ、私は遠距離攻撃なら防げるんですけど、どうも近距離戦が苦手でして……」
鉄砲の玉も、爆弾も、ビームでも。全てゲートで飲み込んでしまえば問題ない。ただ、至近距離で戦闘を行った場合ゲートの展開よりも向こうの攻撃が先に来てしまうだろう。
「そうですわね……一応貴女が召喚できる使い魔でカバーは出来そうですが、いざというときに助けにいくことも考えなくてはいけませんわ」
近距離戦が得意な2人の内どちらかが来てくれれば、私が距離をとる時間ができる。
決戦は明日の夜。まずは落書きの魔女を使って、夢見の魔女を誘い出そうか。
11話でした。魔女戦があっさりしすぎて悩みますね。魔女の強さを表現したいですが、あまり長すぎるとグダグダしてしまいますし……。
さてさて、今回もお読みいただきありがとうございました!
以下魔女設定↓
妄執の花嫁
妄執の花嫁。その性質は純愛。来るはずの無い花婿を待ち続ける魔女。詐欺師と泥棒猫が大嫌いで、ブーケに隠した爆弾で消し炭にしようとする。
別名:ブーケの魔女
特徴:所々が焦げた花嫁衣装を纏うミイラの魔女。目玉は無く、その顔には虚ろな眼窩が2つ。手は4本あり、それぞれが枯れたアネモネのブーケを持っている。下半身は教会と一体化していて、常にステンドグラスが発射されている。ブーケには爆弾が隠されており、それを投げることで攻撃を行う。髪型はツインテールで、×の形の髪止めで飾られている。
飾る雄蜂
飾る雄蜂。その役割はフラッシュモブ。仕事をしないことで有名な雄蜂の化け物。舞台の装飾とサプライズの役割を受け持つが、式の前日になってもなんの仕事もしていない。
別名:ブーケの魔女の手下
役割:妄執の花嫁の結界にて無数に飛び回るタキシードを着た蜂の使い魔。使い魔らしく仕事をしない。魔女は男に飢えている筈なのだが、この使い魔には反応しないようだ。たまーにやる気を出して魔女のブーケを装填する。ずっとサボっていたため本編未登場。
ブーケの魔女結界
六角形のステンドグラスがそこら中に捨てられた、墓地の様な景色。屋外であり空の色は赤青紫のマーブルになっている。小さな洞穴の様なものが複数点在し、そこから使い魔が召喚される。