マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE12.開演のカルテット

 ……午前1時。草木も眠る丑三つ時。普通、中学生の私達がこの時間に外にいたら補導されてしまうだろう。

 

「皆さん、準備はいいですか?」

 

 キュゥベえを肩に乗せながら、2人の魔法少女に問う。

 落書きの魔女を中央に、3人で三角形を作るように周囲を見回す。場所は夢見タワーの展望台の上だ。

 夢見の魔女が良く出やすいと言われるこのタワーで夢見の魔女を待つ。

 

「えぇ……でも、本当に来るんですの?」

 

「来るよ。ボクはそう信じてる」

 

『皆、気を付けてね』

 

 釣り針は垂らした。魔女を食らう魔女。こんなところに美味しそうな餌があれば、見逃すことは無い筈だ。

 

『――』

 

 あの声だ、上から来る!

 

『来た!』

 

 落書きの魔女をゲートで飲み込み、退場させる。さらにお嬢様がとんでもなく重力の掛かる空間を、私達や夢見の魔女の周りにバリアを張るように作り出す。

 夢見の魔女は逃げ出そうと跳躍するが、重力の強化された空間に差し掛かった所で跳ね返されたように落下する。

 これで、逃がしたりはしない!

 

「行きますよ!皆さん!」

 

 魔力の消費を抑えるために、お嬢様は空間のルールを解除した。見た目はなんの変わりもないので夢見の魔女が気づく要素はない筈。

 妄執の花嫁と同様に、2人をゲートで飲み込み、夢見の魔女の前後に召喚した。

 

「―エクスキューション―!」

 

「アマネパーンチ!」

 

 巨大な斧と、鋼鉄の拳が夢見の魔女に向かって放たれる。

 

『――!』

 

 だが、しかし。

 

「な、なんですって!?」

 

 巨大な斧は、黒い影の剣に受け止められる。さらに鋼鉄の拳は剣とは逆の腕に掴まれていた。

 あの攻撃を御した……!?

 

「っ、退避!」

 

 2人をゲートで回収する。その直後に2人のいた場所を伸びた剣が貫いた。

 

「くっ、何てこと……!」

 

「まさかボク達の攻撃を防ぐなんて……!」

 

 夢見の魔女は相も変わらず虚ろな目で私達を捉えると、左手を私に向けた。

 体が引っ張られるような感覚。私が引っ張られていく方向には、黒い剣!

 

『美亜!』

 

「分かってますっ!」

 

 眼前にゲートを展開してテレキネシスから逃れる。さらについでに残る2人もゲートに飲み込んだ。

 

「お嬢様、合田さん。同じ方向から攻撃出来ますか?」

 

 幾ら強固な魔女だろうと、一点に力を集中させられたら弱いだろう。私のそんな問いに、2人は少しだけ間をおいてから頷いた。

 

「出来るか分かんないけど……やってみるよ!」

 

「このわたくしに不可能はありませんわ!」

 

 頼もしい返事だ。私は2人を夢見の魔女の真後ろへとワープさせる。

 

「―エクスキューション―!」

 

「アマネチョーップ!」

 

 2人が跳躍し、同時に攻撃を放った。

 

『――!』

 

 夢見の魔女はすぐに振り返り黒い剣で防ごうとするが、その威力を殺しきることはできない。魔女の纏うフードが引き裂かれる。

 だが、夢見の魔女もやられてばかりではいない。

 

『――』

 

 魔女が何かを呟くと、お嬢様と合田さんの体が互いに反発するように吹き飛んだ。

 

「きゃぁっ!?」

 

「うわわっ!?」

 

 さらに夢見の魔女は、剣を突き刺すような構えをとる。するとその姿勢のまま、まるで引き寄せられるようにお嬢様へと飛んでいく。

 

「くっ……!」

 

 ガンッ!

 

 お嬢様は黒い剣を斧で受け止めた。互いの得物の刃が欠けるが、つばぜり合いは終わらない。

 

「来てください!私の手下達!」

 

 ブッブーの群れが夢見の魔女の足元に纏わり付き、転倒させる。さらにブーン達は高く舞い上がると、夢見の魔女の鳩尾に向けて突進した。

 

『――!?』

 

 魔女はその激痛に悶えるように転がる。この攻撃が効いているようだ。

 

『――!』

 

 魔女の瞳に、憎悪の色が現れる。纏わり付いていた手下達が、1匹ずつ吹き飛ばされていく。

 でも、今更体勢を整えてももう遅い!

 

「―ジャッジメント―!」

 

 大上段に大きく振り上げた斧が魔女に向け降り下ろされる。体勢を整えたばかりの魔女は剣で自らの体を庇うが、大威力の必殺技を防ぐことは出来ない。

 ――誰もがそう、思っていた。

 

「―アイギス―!」

 

 そんな誰かの声が聞こえた。赤青黄色緑、それぞれ違う色の宝石で飾られた4枚の盾が飛来し、お嬢様の斧を押し返した。

 

『――』

 

 夢見の魔女は空を見上げる。重力の空間が無いことに気付かれてしまったようだ。

 

『――』

 

 夢見の魔女は床を蹴り、跳躍する。

 

「絶対に、逃さない!」

 

 合田さんの両腕がゴムのように伸び、夢見の魔女の足に絡み付いた。

 

『――!?』

 

 跳躍に失敗した夢見の魔女は落下した。フードを纏っていない状態で。

 

「まさか、コイツがここまでやられるなんてねぇ」

 

 聞き覚えの無い声。何処からか飛んできた黒いドレスの少女が、私達の前に着地する。

 

『君は……!』

 

「アンタ達って強いんだねぇ。まぁ、アタシほどじゃ無いけどさ!」

 

 青いショートの髪に、一房だけ赤い髪。その瞳は、黄色と緑のオッドアイ。色が違うだけの、私と全くおんなじ顔。

 黒いフードを掴んだ少女の周りを、4枚の盾が衛星のように回転する。

 

「あ、愛里杏奈!?」

 

「久しぶりだねぇ真理!なんだい?ぞろぞろ仲間を引き連れてさぁ、アタシとは随分違う対応じゃないか!」

 

 私よりも綺麗な色の瞳は、狂気の色に染まっている。胸元の『!』マークのソウルジェムには一切の穢れがなく、美しい金色に輝いていた。

 

「彼女達は……わたくしの大切な仲間ですわ!害しか成さない貴女とは違いますの!」

 

 お嬢様は斧の柄を地面に突き刺し、叫ぶ。

 

「……へぇ、クソみたいな友情だこと」

 

 愛里杏奈は不愉快そうに吐き捨てる。

 

「一体、何のつもりですか!?」

 

 何故魔女を庇ったのか。何故今現れたのか。そんな色々な意味が混じりあった疑問の言葉をぶつける。

 

「何のつもりだぁ?そりゃあアタシの大切な魔女を守るためさ」

 

 そう言って彼女がいとおしげに撫でたのは、夢見の魔女ではなく黒いフード。

 

『愛里杏奈。君はその魔女を育てるのを止める気はないんだね』

 

 そしてキュゥベえも倒れている少女には目もくれず、愛里杏奈の持つフードに視線を向けていた。

 

「……まさか、夢見の魔女はあの少女じゃ無い?あのフードこそが、夢見の魔女?」

 

「御名答!その通りだよぉ!」

 

 じゃあ、今合田さんに捕まっている少女は……?

 

「全く、苦労したんだぞ?それなりに力のある魔法少女を魔女にするなんてさぁ」

 

「「「!?」」」

 

 魔法少女を、魔女に……?

 

『……どういうつもりだい?』

 

 キュゥベえが、いつもよりも低い声で問いかけた。愛里杏奈と名乗った少女は臆することなく、ただ楽しげに私達を見やる。

 

「何だぁ?その反応は知らなかったみたいだなぁ……」

 

 ククク、耳に残る不快な笑い声。少女は私達が聞き間違えることの無いよう、聞きそびれることの無いよう、大きな声で衝撃の真実を伝える。

 

「魔法少女は、そのソウルジェムが穢れで満ちる時魔女になるんだよぉ!」

 

 ――――――――――――――――――――。

 今、何て?

 魔法少女が、魔女になる。

 そんな、そんなまさか。

 

「信じられないって顔してるなぁ?ならそこにいるキュゥベえに聞いてみるといいさ!そいつは嘘はつかないぞ?」

 

 この自信。勝利を確信した表情。この魔法少女は、嘘をついていない。

 

「……今すぐここから失せなさいっ!愛里杏奈!」

 

 お嬢様の斧が禍々しいオーラを纏い、エクスキューションとは比べ物にならない程巨大化する。

 

「おぉ怖い怖い!安心しな、すぐにいなくなるさ!」

 

 愛里杏奈が天に向かって手を掲げると、夢見タワーの天辺にある針から魔力の波動が発せられる。

 

「おい、イレギュラー」

 

 愛里杏奈は何処か興味深そうに私を見つめる。

 

「オマエ、念願の主人公になれた様じゃないか」

 

「……貴女は、私の何を知っているんですか?」

 

 愛里杏奈はただ愉快そうに笑うと、疑問には答えず叫んだ。

 

「だが残念だったなぁ!この物語はバッドエンドだ!さぁ、悲劇の幕を上げようか!」

 

 夢見市の夜空に広がる魔方陣。その膨大な魔力の影響で空気が震える。

 間違いなくヤバイ代物だ!

 

「皆さん、退避します!」

 

 足元にゲートを展開する。

 展望台に残ったのは、フードを握り締めた黒いドレスの魔法少女だけだった。




6/30 編集しました

やっと杏奈ちゃん登場。魔法少女四重奏、悲劇の開演。12話でした。
ついに明かされた魔法少女の真実。結局倒せなかった夢見の魔女。フードを纏っていた少女の正体とは……!?
また次回、お会いできるのを心待ちにしております。
それでは、お読みいただきありがとうございました!
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