マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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一部編集しました。


SAVE13.少女が夢見た世界

『……今は、考えないようにいたしましょう』

 

 昨日は遅かった。私達は一旦考えるのを止め、次の日の放課後に集まることにした。

 ……でも。

 

「考えないなんて、無理ですよ」

 

 机に伏せながら思い悩む。隣の席に座る筈のそっくりさんがいない。でも、それを気に掛ける人は居なかった。

 

『――』

 

 遠いクラスの音。聞こえるけど、理解できない。そんな声。今まで私は、どうやって授業を受けていたんだっけ?

 

『オマエ、念願の主人公になれた様じゃないか』

 

 私とおんなじ顔の少女は、私を見てそう言った。彼女は私の存在を知っていたようだけど、私は彼女の存在を知らない。

 

「私は……何なんですか?」

 

 その疑問に答えるものは居ない。私はこの誰も居ない教室で、ただただ謎に沈んでいく。

 

『君は独り暮らしなのかい?』

 

 考えれば考えるほど、疑問は涌き出てくる。私はずっと独り暮らしだった。少なくともこの記憶の中では。……私は、誰から生まれた?何処で生まれた?

 何もかもを、知らない。覚えていないんじゃない。そもそも頭の中に無いのだ。

 

『――』

 

 授業は続く。ただ1人、役割を放棄した私を置き去りにして。

 

 

 放課後、私の部屋。

 

「……では、キュゥベえ」

 

 部屋にはキュゥベえと、3人の魔法少女。さらには昨日ふん縛ってきた謎の少女。そこまで広くない部屋だから、人口密度がとても高い。

 

「先に、そこの魔女について話しましょうか。貴方の知っていること、分かっていることを全て答えなさい」

 

 低く、プレッシャーを掛けるような声。キュゥベえには恐怖と言う感情が無いのだろうか、恐れることなくいつもの調子で話し始めた。

 

『夢見の魔女、彼女の力はおそらく引力だと思うよ。もし重力やテレキネシスを操れるのなら、自由に浮遊することだって出来ただろうからね』

 

 なるほど。確かにあの魔女は……と言うより魔女だった少女は浮遊したりしなかった。 もししていればあっという間に逃げられていただろう。

 

「……それじゃあ、この子は何なんですか?」

 

 ロープで縛った夢見の魔女だった少女をキュゥベえの前に出す。少女は何ら抵抗する様子を見せなかった。

 

『その子は、魔女の使い魔の類いだろうね。使い魔の中には人間や他の魔女の死体で作られたものも存在するからね』

 

 ……ある程度の話は分かった。この話題が終わってしまった。私達には、こいつに聞かなくちゃいけないことがある。

 

「魔法少女が魔女になるのは、本当の事ですの?」

 

 直球にお嬢様が問い詰めた。キュゥベえは何も躊躇うことなく、その表情を崩すことなく、そして。

 

『そうだよ』

 

 悪びれもせず疑問に答えた。

 

「ふざけるな!」

 

 ダン!と大きな音がした。勢いよく立ち上がった合田さんが、キュゥベえの首を掴む。

 

『ふざけてなんかいないさ。僕は真実を言ったまでだよ』

 

 首を掴まれたキュゥベえは抵抗することなく、ブラブラと揺れている。

 魔法少女と魔女。その関係。

 私の夢見た魔法少女ライフなんて、無かったとでも言うのか。

 

『君達は、成長途中の女性の事を少女と呼ぶのだろう?だから、やがて魔女になる君達の事を魔法少女と呼んでいる』

 

 何かおかしいことあるかい、と言った。こいつにとって、魔法少女が魔女になることは確定事項なようだ。

 

『僕の役目は、君達の魂を抜き取りソウルジェムへと変えることだ』

 

「魂、だって……?」

 

『そうさ』

 

 合田さんがキュゥベえを放し、座り込んだ。意気消沈、といった所だ。

 

『壊れやすい人間の体のままで戦ってくれなんて、とてもじゃないけど言えないよ。君達の本体はそのソウルジェムで、肉体ってのは外付けのハードウェアでしかないんだ』

 

 解放されたキュゥベえは、机の上にちょこんと乗っかった。

 

『便利だろう?君達の体がどれだけ傷つこうと、本体さえ無事なら魔力で修復することができる』

 

「……そういうことじゃ、無いんだよ!」

 

 負の感情を露にした合田さんが床を殴った。いつも笑顔だった彼女のそんな表情に、私達は何も言えなかった。

 

『ならどういうことなんだい?僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いした筈だ。その本当の姿がどういうものか、説明は省略させて貰ったけどね』

 

 悪意のない邪悪。この得たいの知れない無表情は、一体何を見ているのだろうか。

 

「どうして――」

 

『訊かなかったじゃないか』

 

 お嬢様の言葉を遮ってキュゥベえが言った。

 

『何か今までに不都合があったかい?魂がソウルジェムに変わったことで問題が起きたかい?』

 

 論理的に言うのなら、キュゥベえの言うことは間違ってはいないのかもしれない。だけど、感情を持つ私達がそれを理解することは出来ない。

 

『それに、君たち人間はいつか死ぬ。これは絶対に覆ることの無いこの宇宙の法則だ。それが死から魔女化に変わっただけで、どうしてそんなに怒るんだい?』

 

 キュゥベえを数多のカードが囲む。どれもがその白い悪魔に切っ先を向ける。

 

『……まったく、わけがわからないよ。君たち人類はこの星に無数にいる。どうして個人の死を特別嘆く必要があるんだい?』

 

 こいつとは、分かり合えないのだろう。胸が痛い。魂が濁っていくのを感じる。だから、せめてもの憂さ晴らしにコイツを――

 

「有栖美亜」

 

 肩を掴まれた。お嬢様が首を横に振り、私を止める。

 

「ここでキュゥベえを殺したって、事態は好転しませんわ」

 

「お嬢、様……」

 

「……キュゥベえ、他に、私達に関わることで言っていない事はありますの?」

 

 お嬢様は手を震わせながら、それでも冷静にキュゥベえに問いかける。

 

『ソウルジェムは、魔法を使う以外でもその人の感情によって濁ることがある、ってことくらいかな。僕達インキュベーターの目的や人類との歴史を聞いたって、君達には無駄な時間だろう?』

 

「……そうですわね」

 

 そう言うとお嬢様は変身し、巨大な斧の刃をキュゥベえに向けた。

 

「では、わたくしの目の前から消えなさい、キュゥベえ」

 

 冷たい瞳。冗談ではない、本当にこの部屋ごとキュゥベえを引き裂きそうな怒り。

 

『ふむ、それじゃあ行かせて貰うとするよ。何か用があったら呼んでくれると良い』

 

 キュゥベえはそう言って窓から飛び降りた。猫の様に上手く着地して何処かへ行くのだろう。

 

「……それじゃあ、その子について考えますわよ」

 

 あくまでも冷静に。年長者としての義務感なのだろうか。お嬢様は必死に自分を落ち着かせているようにも見えた。

 お嬢様は夢見の魔女だった少女に視線を向ける。

 

「……待ってくれ」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、合田さんが呟いた。

 

「ごめんね、ちょっと、一人になる」

 

 ふらふらと。映画で見るゾンビのように合田さんは部屋を出て行こうとする。

 

「……待ちなさい、今の貴女を独りには出来ませんわ」

 

 伸ばされた手が、弾かれる。

 

「五月蝿いなぁ!ボクを一人にさせてくれよ!」

 

 バタン、ドアが勢いよく閉まり、部屋が少しだけ揺れる。

 キュゥベえは、感情によってもソウルジェムが濁ると言っていた。なら、今の合田さんは――

 

「追いますわよ!ピエロ!」

 

「分かってますよ!お嬢様!」

 

 再び夜の夢見市へ。絵に描いたように美しい月がビル群を照らす。ネオンや蛍光灯の光が溢れる地上と対照的な黒い空に、邪悪な魔方陣が広がっていた。




13話でした。お読みいただきありがとうございます。
1話で主人公が好き勝手する的なことを書いた記憶がありますが、全然フリーダムじゃありませんね。申し訳ありません。でもきっと見滝原では「作者の私でさえ思い浮かばないような」素晴らしいフリーダムさを見せてくれると思います。出来なかったときには私のクローンナンバーが増えるだけなので大丈夫です。
それでは、また次回。

以下魔女設定↓
夢見の魔女
夢見の魔女。その性質は二律背反。トモグイにより成長する異質な魔女。その見た目は魔法少女ととても良く似ているが、彼女に希望は残っていない。
別名:引力の魔女
真名:Hexe
特徴:魔女を襲う魔女で、人間は襲わない。ヒトとほとんど同じ見てくれをしており、初見では魔法少女と勘違いされてしまうだろう。それなりに一般人の前にも姿を見せるため、夢見市の都市伝説の1つとなっている。黒いフードを纏い黒いミニスカートを履いた少女の姿をしている。瞳の色は虚ろな赤で、髪は白。銀ではなく白。フードは影の様なもので出来ており、その一部をちぎって武器の形に変えることで戦闘を行う。良く使うのはムチの様に伸びたり曲がったりする剣。実は少女が纏うフードが本体で、人間のように見えるものは使い魔。また引力を操る力をもっており、それを利用して相手に近づいたり距離を取ったり出来る。引力の力には制限があり、自由に操れる訳ではない。2つの物質を対象に、それらが引き寄せ合う力を増幅させたり、逆に反発させあったりする。

夢見の魔女の手下
夢見の魔女の手下。その役割は心。魔女が最初に見つけた死体に魔力を与え、生ける屍は使い魔となった。心を持たぬ魔女の代わりに意志疎通を行おうとするが、言葉の壁は厚かった。
別名:引力の魔女の手下(ユメミ)
真名:Yumemi
特徴:引力の魔女の少女の部分。魔女化する前の彼女自身。もうヒトとしての心は無いが、意志疎通を行う意思はあるようだ。他の魔女の使い魔とは比べ物にならないほど強い。
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