道行く人が私を見る。皆皆同じ顔。そして誰もが何事もなかったかのように消えていく。
ネオンの明かりが、残像と重なって人の形に見えてくる。バレエのような、あるいは何処かの部族のような、もしくはブレイクダンスのような踊りで街を練り歩く。
「合田さん……」
お嬢様と手分けして探し始めて2時間ほど。未だに合田さんは見つかっていない。
私は夜の街を走り続ける。学校、ビル群、映画館。もう殆どの場所を探した気がする。
さらにはソウルジェムから複数の魔女の気配。突然魔女の数が増えたのだ。
『――』
『――』
私とすれ違う、名前もない誰かの会話。理解できないのに、理解できる。
『さっきオレンジの子がタワーに向かったね』
そんなことを言っていた気がする。確かに、まだ夢見タワー自体は調べていなかった。
「……行きますか」
走る、走る、走る。2次元と3次元の混じった様なビル群を抜け、タワーの足元に。とっくに閉館時間は過ぎていて、入り口には同じ顔の警備員が2人。
私はゲートに飛び込み、タワーの内部に出る。私の魔法があれば、タワーに侵入する事は造作もない。入り口の警備員は、私の姿が一瞬で消えたにも関わらず何の反応も見せなかった。
「真っ暗ですね」
おそらく電気はついていないのだろう。エレベーターやエスカレーターも動いてはいなさそうだ。階段を走っていくしかない。
そう思い立ち、非常階段と書かれたドアを開いた。
「――っ!?」
目の前に広がるのは、階段ではない。 鉄格子に挟まれた道の広がる真っ暗な空間だ。振り向いても、元いた場所は何処にもない。
『ガガガガガガ』
奇声を発しながら、何かがこちらに走ってきた。
パン、パン。
2発の銃声。だが銃弾はどちらも私のいる方向とは全く別の場所にあたる。
トリガーや持ち手がなく、犬のような4本の足が生えた拳銃の使い魔。どうやら安全装置は付いていないようだ。目も耳もない上に走り続けているこの使い魔が銃弾を当てられるとは到底思えない。
『ガガガガガガ』
リロードという概念がないのか、使い魔は弾を乱射する。どれも変な方向に飛ぶばかりだけど、いつかは偶々こちらに飛んできそうだ。
「こんなときに……っ」
4枚のカードを投げつける。全てのカードが犬の足に突き刺さり、そいつは走ることをやめる。
「構ってる暇は、無いんですよ!」
ブッブーを5体ほど召喚し、使い魔を処理させた。
この魔女の結界は迷路のようになっているらしい。暗い空間に道が浮かび、落ちることがないよう鉄格子で囲まれている。道の外には針の山や血の池。昔話に出てくるような、地獄そのものの光景が広がっていた。
「壁が鉄格子だったのが間違いですね」
私のゲートは、視界の範囲内ならどこにでも作れるしどこにでも出られる。だから、 曲がりくねった迷路を無視してワープを繰り返せばすぐにゴールにつけるだろう。
『ガガガガガガ』
『ぶっぶーー!』
途中何匹も使い魔が現れるが、ブッブー達が処理してくれる。とても優秀な手下達だ。
やがてたどり着く迷路の終着点。取調室にありそうな、重厚な鉄の扉を開く。
『『『ガガガガガガ』』』
真っ黒な空、赤い海。扉の先には、そんな普通じゃ考えられないような色をした崖が広がっている。
そこで私を待ち構えていたのは、総勢50匹は越えそうな程の大量の使い魔。そいつらは私に気づくと、一斉に銃を乱射し始める。
……のだが。
これだけ大量の弾を射っても、私や手下に掠りすらしない。寧ろ同士討ちによってどんどん数が減っていくようだ。
「まぁ、無能なら無能で都合が良いですよ」
右手をあげて、振り下ろす。それを合図にブッブー達が使い魔達に飛び込んでいった。
……さて、一体魔女は何処に……?
私の見える範囲にそれらしき存在は居ない。どうしたものか、と考えていると。
「うわっ!?」
突然海から現れた巨大な手錠が、モーニングスターのように私のいた場所を叩きつける。
「あれが、魔女……!?」
海からは8本の手錠が、巨大な蛸の触手のように現れた。そしてその中心に、警察犬の様な頭部が浮かび上がる。
8本の手錠は私を狙って叩きつけを行う。私がそれを回避する度に、代わりに攻撃を受けた崖が弱っていくのを感じる。
「―ツーペア―!」
犬の頭に向けて4つのゲートからカードを発射。だが、全て手錠に遮られてしまう。
手錠はかなり頑丈なようだ。どうにかして無力化しておきたいが……。
「――っ!」
8本の手錠が同時に伸びる。手錠を躱した先に、もうひとつの手錠!
「っ、離してください!」
巨大な手錠は、私の腕と胴体を挟み拘束する。どれだけ力を入れても外れる気がしない。
魔女は2本の手錠を絡め、ひとつの巨大な鈍器に変える。あれで、押し潰す気なのだろう。
ここまでなんですか……?
魔女は手錠を高く掲げ、私めがけて振り下ろした。
『――!』
だが、その魔女の渾身の一撃は突然前を横切った何かに防がれる。
「んな……っ!?」
『……』
虚ろな赤い瞳、白い髪。黒い服を着た少女が、巨大な手錠を押し返す。自力で抜け出してきたのだろうか、夢見の魔女だった少女がそこにいた。
「何、で……」
使い魔も人間を食らう。なら、魔女を食らう魔女の使い魔も魔女を食らうのだろうか。
……丁度良い、利用させてもらいますよ!
押し返された手錠が魔女の頭部に激突。それに怯んだ魔女が私の拘束を解除する。
目眩でもしているのかフラフラしている魔女の頭部に向けて、再び4枚のカードを発射した。
「……どう、ですか?」
魔女の頭部が――正確には、魔女が被っていた物が吹き飛ばされた。
「……!」
犬の頭を被っていたのは、拳銃の銃口。使い魔たちとはまた別の種類の拳銃だ。
魔女はその銃口を私に向けると、再び手錠を叩きつけてくる。
「って発射しないんですか!?」
手錠を跳躍して回避し、それを足場に魔女に近づいていく。途中で手錠を揺らして妨害してきたが、既に私は魔女の頭の上!
「―フォーカード―!」
私に纏わり付く4枚のカードは、私に近づく敵を自動で攻撃する。いくら固くても、何回も刺されればただでは済まないでしょう。
びびこそ入らないものの、魔女の鋼鉄の体には傷が出来ていく。業を煮やした魔女が、8本の手錠を自分の頭部へ向けて叩き下ろす。
「かかった!」
すぐさまゲートを展開して脱出。私のいなくなった魔女の頭部に、8本の鈍器が降り注ぐ。
その銃口は歪み、ボディはへこみだらけに。魔女はもう虫の息だろう。
「それじゃあ、久々にやってみますか!」
魔女は魔法少女の成れの果て。なら、私のやるコレはどうなのだろうか。魔女を救えているわけではないだろう。だが、果たして殺されるのとどちらがマシか。
4本のリボンが伸び、魔女の体を貫いた。
結界は消えていく。私の手には、2丁の拳銃の様な飾りのついた黒い宝石。
目の前の階段は、まさしく夢見タワーの物だろう。
『――』
後ろから声が聞こえた。夢見の魔女の使い魔だ。彼女は私の服の裾を掴んだまま離そうとしない。
「……あなたも一緒に来ますか?」
それはほんの気紛れだった。まさか使い魔と会話ができるなんて思っても見なかったのだから。
『――!』
だが使い魔は、花が咲いたような笑顔で勢いよく頷いた。
「!……それじゃあ、行きましょうか」
長い長い階段を2人で駆け上がっていく。階段は展望台のあるフロアまで出口はない。きっと、合田さんは展望台に居る筈だ。
ガラス張りの壁から覗く夢見市は、昨日と全く同じように明るかった。
お読みいただきありがとうございます。14話でした。もしかしたら今後の更新ペースは遅くなるかもしれないです。
以下魔女設定です↓
正義の猟犬
正義の猟犬。その性質は抑圧。全ては自分の支配の元に。この魔女を倒すには、決して尽きない反抗心が必要になるだろう。
別名:手錠の魔女
特徴:犬に似た首の下から、タコの足のように手錠が生えている魔女。手錠とはいえ魔法少女に比べると大きいため、腕と胴体を挟むようにして拘束する。なお犬の頭は被り物の様なもので、本来の頭は発射できない拳銃(ニューナンブ式)の銃口。機械的な外見を持つ魔女。
走る拳銃
走る拳銃。その役割は増援。一人では立ち向かえない巨大な悪でも、正義が集まれば打ち倒すことができる。なお正義でない彼女達に敵を打ち倒すことは出来ない。
別名:手錠の魔女の手下
特徴:持ち手が無く、犬のような4本足の付いた拳銃の使い魔。大きさはドーベルマンほど。魔女と異なり弾丸を発射できるが、目が無いためいつも見当違いな場所に飛び味方を撃ち抜く。でも一発だけなら誤射かもしれない。ちなみにトカレフ型とマカロフ型がおり、誤射をするのは主にトカレフ型。
手錠の魔女結界
金属の檻で覆われた巨大な迷路のような空間。道の外には針の山や血の池がある。魔女がいる空間は通路とは違い開放的で、崖の上になっている。海の色は赤く、空は真っ暗だが何処かから明かりが来ているようで明るい。魔女は海の中から攻撃を仕掛けてくる。