マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE15.黄昏追憶パラダイム

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

『♪』

 

 階段、長すぎませんか?私の前を上る使い魔――とりあえず、ユメミと呼ぶことにした――は楽しげだ。だけど私の足は悲鳴を上げていた。

 ようやくたどり着いた展望台。そこから見下ろす夢見市の夜景は美しかった。

 

「あれ?どうしたの?有栖ちゃん」

 

 双眼鏡を除いていた少女が振り向く。私が探し続けたポニーテールの少女。

 

「合田……さん?」

 

 合田さんは笑っていた。だが、その瞳には光がない。まるで楽しげにするのを命じられているかの様に、虚ろな笑みを浮かべている。

 

『――!』

 

 ユメミが何か叫んでいる。彼女が指差しているのは、合田さんの首筋だ。

 

「あれは……?」

 

 開いた本に案山子が突き刺さっている。そんな様に見える変なマークが、合田さんの首筋に。さっきまではそんなもの無かった筈だ。

 

『魔女の口づけ、だよ』

 

 呼ばれてないのに登場したのはキュゥべえだった。夜景を背に現れたそいつは逆光で真っ黒に染まり、その瞳だけが妖しく光っている。

 

「魔女の口づけ?」

 

『そうさ。君に分かりやすく言うとするなら、魔女の呪いとでも言ったところか。魔女に狙われた人間にはあの紋章が現れ、魔女に操られてしまうんだ』

 

 ……なら、合田さんは今魔女に……?

 

『本来なら魔法少女には効かない筈なんだけど……それだけ今の彼女の精神力は弱まっているのかもしれないね』

 

 私は合田さんの肩を掴み、揺さぶる。

 彼女は全く抵抗するそぶりを見せない。首がガクンガクンと揺れる。今の合田さんは人形の様にしか見えなかった。

 

「痛いなー、どうしたの?」

 

 どれだけ首が揺れても、表情は笑顔のまま。このまま肩を揺さぶり続けたら首が取れてしまうのではないかと思うほど揺れている。

 

『有栖美亜、今の状況は、ひょっとしたら君達にとってはチャンスかも知れないよ。合田雨音の精神はどん底だ。だけど魔女に操られる事で思考が止まっているから、この状態ではこれ以上絶望することはないだろう』

 

 こいつの言うことは信用できないけど、嘘はつかないと言っていた。なら、まだ余裕はある、何とかして彼女を助け出さないと。

 

「……どうして、私にそんなことを?」

 

『……どうして、だろうね』

 

 疑問に疑問で返される。私にとってその返答は予想外だった。こいつは、論理的な行動しかしないと思っていたのに。

 

『僕にもわからない。本来僕は君達を魔女に成長させなければいけないのに』

 

 その無表情から真意を読み取ることは出来ない。キュゥべえはただ視線を下ろしていた。

 

『……わけが、わからないよ』

 

 ガシッ。

 突然、腕を合田さんに掴まれた。

 

「ねぇ、有栖ちゃん。キミも一緒に楽しいところに行こうよ!」

 

 強い、振りほどけない!合田さんの瞳がドロドロと混濁していく。それに合わせ、周囲の風景が歪み始める。

 

『有栖美亜。出来るものなら合田雨音を救うと良い。彼女にはもっと力をつけてから魔女になって欲しいからね』

 

 そのままキュゥべえは何処かへ走り去ってしまった。逃げ足だけは速い奴です。

 楽しげな音楽が聞こえる。広がるのは美しい茜色の空。1つ、2つ、3つ、4つ。沢山の観覧車が立ち並び、その間を蜘蛛の巣のようにジェットコースターのレールが走っている。

 

「あはは、あはは」

 

 くるくる、くるくるり。バレエでも踊るかのように回転しながら合田さんは観覧車に向かっていく。

 

「ま、待ってください!」

 

 私の声は届かない。合田さんは虚ろな笑みを浮かべたまま観覧車に乗り込んだ。私もそれを追って、同じ観覧車に乗ろうとする。

 

『――!』

 

 少し不機嫌そうな顔をしながら、ユメミが首を横に振った。私を止めようとしているのでしょうか。でも、そうこうしているうちに合田さんが乗った観覧車は上へと上がっていってしまう。私はユメミの手を振りほどき、観覧車に乗り込んだ。

 

「ほら、見てごらん」

 

 合田さんが観覧車から地面を見下ろす。罠かもしれない。だけど私の視線は観覧車の外に向いてしまった。

 

 ……そこには、何もなかった。

 

 さっきまで居た結界の地面も、観覧車の入り口や土台も、ジェットコースターのレールも。

 

「あぁ……懐かしいなぁ」

 

 合田さんがうっとりとした表情で呟いた。彼女には、一体何が見えているのでしょうか。

 突然、観覧車が揺れた。私達の乗っている方舟に斧が突き刺さり、そこから外の様子が見える。続いて感じたのは落下するような感覚。このままじゃぺしゃんこになってしまう!

 私は窓に掴まる合田さんを無理矢理離すと、ゲートの中に飛び込み、観覧車の中から脱出した。

 

「間に合いましたわ。大丈夫ですの?」

 

「あやうくぺしゃんこですよ!腐れお嬢様っ!」

 

 巨大な観覧車を切り裂いたのは腐れお嬢様の斧だ。その隣には頬を膨らませたユメミが立っている。

 

「このわたくしが助けて差し上げたのに随分な態度ですわね。……それに、この使い魔はどうしたんですの?」

 

 お嬢様が敵意のこもった視線をユメミに向けた。ユメミは身ぶり手振りを加えて何かを伝えようとするが、お嬢様も私も彼女が何を言っているのか分からない。

 

「いやぁ、付いてきてくれるって言うので……」

 

「貴女ねぇ、いくら人の姿をしていても、彼女は使い魔ですわ。使い魔は魔法少女の敵ですのよ?」

 

 確かにそうかもしれない。だけど私は魔女と共に戦う力を持っている。

 私がそれを伝えようと口を開いたとき、ユラリと何かが立ち上がる。

 

「ひどいなー、せっかく楽しんでたのに……」

 

 表情は笑顔のまま。その瞳は笑っていない。合田さんがお嬢様に掴みかかった。

 

「な、何ですの!?」

 

 一瞬狼狽えたお嬢様は、合田さんの首に刻まれた口づけを見ると表情はを険しくさせた。

 

「これは、魔女の口づけ……?」

 

「はい、キュゥべえもそう言ってました」

 

「……なら、ここの魔女を倒さなくてはいけませんわね」

 

 お嬢様曰く、魔女の口づけを解くためにはその呪いをかけた魔女を倒すか、撃退しなくてはいけないようだ。

 

「……ユメミ、合田さんを見ててください」

 

 私がそう言うと、通じたのかユメミが頷いた。そしてそのまま合田さんを捕まえ、動きを止めさせる。

 

「……まぁ、信用したわけではありませんわ。もし彼女に何かしたら、貴女の命はないと思いなさい」

 

 お嬢様が斧の切っ先をユメミに向ける。ユメミはガタガタと震えながら必死に頷いていた。

 

「はぁ……本当に、貴女が魔法少女になってから調子が狂わされてばかりですわ」

 

 呆れたように、そして少しだけ恨めしそうにお嬢様がため息をついた。

 そんな私達の耳に、ガタガタという音が聞こえる。そう、まるで電車が走る音のような――

 

「っ、お嬢様!」

 

 私はとっさにお嬢様を突き飛ばした。私とお嬢様の間を高速で何かが走り去る。

 

「あれは――!」

 

 ジェットコースターだ。鮫のような凶悪な顔が描かれている。でも、こっちにレールは走っていなかった筈。よく見ると、レールがジェットコースターの進む方向に生えている。あれでこっちまで走ってきたようですね。

 

「来ますわ!」

 

 突進を回避されたジェットコースターは方向を変え、再びこちらに突っ込んでくる。

 

「―ツーペア―!」

 

 ジャンプしてジェットコースターを飛び越えながら、誰も乗っていない客席に向けて4枚のカードを発射。椅子がボロボロになるが、ジェットコースターの動きは止まらない。

 

「―ジャッジメント―!」

 

 お嬢様がジェットコースターの正面に立ち、巨大な斧を一振り。その斬撃に勢いよく突っ込んでいったジェットコースターは半分に割れ、走らなくなった。

 

「……こいつが魔女、というわけでは無さそうですわね」

 

 ジェットコースターはピクリとも動かないが、結界が消えたりはしない。一体、魔女はどこに……?

 黄昏の空に浮かぶ太陽が動くことはない。いくら現実の空と似ていても、それは偽りの空なのだ。天気も、そして時間も外の世界とは全く別に進んでいく。

 

 オマエは所詮、エキストラだ。

 

 そんな誰かの笑い声が何処かから聞こえた気がした。




遅くなりました。15話です。あらすじにも書きましたが12話を一部編集しました。
ちょっとずつ夢見市の真実やキュゥべえの企みが明らかに……なるはずなのですがペース配分の失敗によりとんでもないことになりそうです。
それでは、また次回お会いできたらと思います。
ではでは。
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