突然、BGMが流れる。全方位から聞こえてくるような音で、音源が見つからない。
『――!』
ユメミが観覧車のてっぺんを指差す。そこには、所謂ケンタウロスに近い姿をした化け物が立っていた。
「来ましたわね!」
ライオンの様な体の首から、首なしの案山子が刺さった女性の上半身が生えている。両手にはブリキで出来た巨大な拳、顔は同じ素材で作られた仮面に隠されている。こいつがここの魔女なのだろう。音楽まで流して随分と力が入っているようだ。そいつは高く跳躍して私達の目の前に着地すると、右手を高く上げ、左手を腰に当てるポーズをとった。
「「……」」
この魔女もハリボテのヒーローと同じタイプなのだろうか。だけど、この結界に助けを求める人は居ない。
ツギハギの魔女は私達を指差し、何かを叫んでいる。まるで、私達が魔女だとでも言うように。
「……自分が魔女になった事に、気づいていないんですかね」
魔女になり、自我が残るのかは知らない。だけど今までの魔女にそんな様子は見受けられなかった。そのどれもが、自らの本能に溺れた獣だった。
この魔女も、きっと在りし日の記憶にすがっているだけなのだろう。魔女の体の少女の部分は、きっと彼女の最後の拠り所なんだ。
魔女はライオンの前肢をお嬢様に向かって振り下ろす。お嬢様は斧で軌道を反らしたため無事だったが、その鋭い爪が結界の地面に突き刺さる。
「さっさと終わらせてあげますわ!」
お嬢様はバックステップで一旦距離をとり、斧を大上段に構え突進する。ただでさえ重いその斬撃にスピードが加わり、高い破壊力を生み出す。だが、魔女は腹部に突き刺さっていた案山子を抜くと、それを剣のように扱い斬撃を受け止めた。
「負け、ませんわ!」
さらに力を込める。案山子の細い体では直ぐに限界が訪れ、ポキリと小さな音を立てて真っ二つに割れた。
「っ、危ない!」
慌ててお嬢様をゲートに回収。一瞬の後に地面から抜けた前肢が虚空を切り裂く。
「助かりましたわ」
そう言いながら勝手に出てくるお嬢様。まぁ出口を用意しておいたのは私なんですけどね。
攻撃を回避された魔女は、4本の足で地団駄を踏む。だがそれも一瞬だ。魔女はジャンプして私達の真上まで来ると、両の拳を私達に向ける。
「何を――!」
ロケットパンチだ!両の拳に火が付き、ミサイルのように発射される。
だけど、私に遠距離攻撃は無力!すぐさまゲートを展開し、その2つのミサイルを飲み込んだ。
ロケットパンチを飛ばした魔女の手は肘から先が無い。つまり、もう発射できる弾は無い。
「トドメですわ!―エクスキューション―!」
巨大化した斧を手に跳躍し、魔女の脳天に斬撃が叩き込まれた。だが、魔女の体は真っ二つにならず斬撃は女性の体のへその辺りで止められる。
「……やりましたの?」
斧を引き抜き、お嬢様が私の隣に戻ってくる。魔女はピクピクと痙攣したままだ。割れた少女の頭からブリキの仮面が転がり落ちる。
「さ、さぁ……」
少女の顔は、とても美しかった。真っ二つに割られたことでその内部が見えているが、魔法少女だった頃の彼女はさぞ美人だったのだろう。
警戒を解かずに魔女の様子を見る。すると、
バキッ、ギシャッ、グシャッ。
そんな不快な音が聞こえる。魔女の割れた体から、何かが生えてくる。
「かん、らんしゃ……ですの?」
魔女の上半身は完全に二つに割れ、まるで腕のようにも見える。代わりに胴体として現れたのは普通の人の身長ほどの、小型の観覧車だ。
「っ、来ますわ!」
観覧車のゴンドラが一斉に開き、中からレールが飛び出してくる。
レールは私達を縛り付けようと体に巻き付いてくる。だけど観覧車のサイズに合わせた小型のレールだ。そこまで耐久力は無い。
「柔らか過ぎますよ!」
5枚のカードを扇子の様に持ち、レールを切り裂きながら魔女に近づいていく。私の役割は所謂露払い。魔女に有効な攻撃手段を持っているのはお嬢様だけですから。
そうして魔女の目の前まで近づく。魔女は接近してきた私を迎え撃とうとその爪で私を――
「させませんわ!」
切り裂く前に、割り込んできた斧に腕を切り落とされる。4本の足で支えられていた体はバランスを失い、前のめりに倒れた。開いていたゴンドラの出口が床に塞がれた事でレールが出てくることは無くなる。
それでも、この魔女は戦い続ける。今度は逆側の扉が開く。本来は開かないように封鎖されているが、それを無理矢理力付くで突破したのだ。
「うっへぇ、根性ありますね!」
開かれた扉から飛び出すのは小さな花火だ。その程度、と思って伸ばした右腕が爆発に飲み込まれた。
「が……っ!?」
痛みや熱が脊椎を走り、脳へ伝わる。今まで経験したことの無いような酷い苦痛に、私はへたり込んでしまう。
「有栖美亜!」
魔女は移動することなく、ただひたすらに花火を周囲に飛ばし続けている。騒音、光、煙。美しい黄昏の楽園に、カラフルな霧が出てきたようだ。
お嬢様は私の手を引き花火の範囲から逃がすと、右腕を見る。
「大丈夫……じゃあ、無いですわね」
繋がってこそいるものの、肉はえぐれ骨は砕け、血液が止めどなく流れ続けている。
「ま、まだ、やれます!」
痛みで頭がどうにかなってしまいそうだけど、ここで騒いだって何も解決しない。
「私は、まだ恩を返せていないんです!」
がむしゃらにカードを飛ばしても、燃やされて塵になるばかり。あの花火をどうにかしないと攻撃できそうもない。
花火は絶えること無く放たれ続けている。弾切れは期待できそうにもない。待っているだけじゃ、何も進まない。
考えろ、私。あの花火を無力化するにはどうすれば良い。
ゲート、トランプ、魔女。私の魔法では有効な手段はない。……でも、お嬢様の魔法なら。空間のルールを決められるのなら、ものを燃やすのに必要な酸素の濃度を下げることだって出来る筈!
「お嬢様!魔女の周囲から酸素を消してください!」
私がそう言うと、お嬢様は頷く。そして直ぐに両の手のひらを魔女に向けた。
ゴンドラから放たれた花火が次々と消火されていく。魔女の近くで呼吸こそ出来なくなるものの、攻撃が可能になる。
「消えろ!ツギハギのお姫様!」
魔女の上空に巨大なゲートを展開。落下させるのは、さっき飛ばされたロケットパンチ。おまけにカード達も雨のように降らせてあげましょう。
ぐしゃり。
鉄筋だらけの観覧車が歪み、体には数多ものカードが突き刺さる。魔女はピクリとも動かなくなった。
グリーフシードを残し、黄昏の楽園が消えていく。元の明かりの無い展望台には、ユメミを含め4人の少女。
「ぁ……あぁ、ボク、は……!」
魔女の口づけから解放された合田さんの顔から、笑顔が失われていく。
彼女がポトリと落としたオレンジ色の宝石は既に真っ黒に成りかかっていた。
「合田さん!」
私は倒れそうになる合田さんの体を支えた。
「あれ……美亜、ちゃん?どうして、ここに……?」
グリーフシードを投げる、ユメミはそれをキャッチすると、合田さんのソウルジェムに近づけた。グリーフシードがソウルジェムの穢れを吸い取っていくが、一向に穢れが取れる気配はない。
「そんなことはどうでも良いですわ!今は自分の心配をしなさいな!」
お嬢様も、ポケットからグリーフシードを幾つか出して合田さんのソウルジェムに近づける。
「ボクには……私には、心配される権利なんて無いんだよ」
合田さんが弱々しい顔をして笑った。ソウルジェムの穢れがいっそう強くなっていく。
「私は……正義の味方になりたかった。でも、魔法少女が魔女の卵だっていうなら、私は、私の、やって来たことは――!」
私は、合田さんの体を抱き締めた。
「私は――」
彼女に救われた。今ここで戦えるのは合田さんのお陰なんだ。でも、それ以上に合田さんは大切な仲間だから。
絶対に、救って見せる。
遅くなりました。
この先2つのルートに分岐します。一方は即バッドエンドなんですけどね。次の投稿はバッドエンドの方にする予定です。一体何田さんが魔女化するのでしょうか……。
以下魔女設定です↓
ツギハギのプリンセス
ツギハギのプリンセス。その性質は自己愛。自分の事を愛してやまないこの魔女は、自らのおかれた状況には目を向けない。その身体に刻み付けられた縫い跡を指摘すれば、この魔女は真実にたどり着き消えていくだろう。
別名:遊園地の魔女
特徴:下半身がライオンの首と繋がり、両手がブリキのロボットの様な姿になった少女の姿の魔女。それぞれの部位の境目には縫い目がついている。腹部には首なしの案山子が突き刺さっている。また、少女の素顔はブリキの仮面に隠され見ることはできない。ライオンの前足で引っ掻いてきたり、突き刺さった案山子を振り回したり、ロケットパンチを放ったりと多彩な攻撃手段を持つ。
ツギハギのプリンセス(第2形態)
ツギハギのプリンセス。その性質は自己愛。受け止めきれなかった思いは呪いとなって魔女の胎内を回り続ける。もう言葉は届かない。もう思考は止まらない。この魔女は永遠に回りながら辛い現実を夢見続ける。
別名:遊園地の魔女(ヘイエン)
特徴:所謂第2形態。少女の上半身が割れ小型の観覧車が生えている。この状態ではほぼ移動せず、ゴンドラの中から様々な物を取り出して攻撃する。一応ライオンの足でも攻撃できるが、頭でっかちでアンバランスな状態なので少し妨害するだけでスッ転ぶ。飛ばしてくるものはレールや花火。本編では登場しなかったが鼠のぬいぐるみやポップコーンまで飛んでくる。
廻る方舟
廻る方舟。その役割は追憶。黄昏の遊園地で永遠に回り続ける観覧車。魔女を恐ろしい現実から逃がすために、かつての思い出を見下ろさせる。
別名:遊園地の魔女の手下(オモイデ)
特徴:巨大な観覧車型の使い魔。数は少ないものの複数存在している。ひとたび窓から下を覗いてしまうと、永遠に思い出の中に閉じ込められる事になる。
轟く方舟
轟く方舟。その役割は現実逃避。魔女を恐ろしい現実から逃がすための乗り物。だがレールの外に出ることは出来ず、魔女を逃がすことはできない。
別名:遊園地の魔女の手下(ニゲアシ)
特徴:黄昏の遊園地を走り続けるジェットコースター。決められたレールを走り続けるだけだが、たまに侵入者に遊んでもらおうと突進してくることがある。走り続けているため乗るのは至難の技だが、もし乗車できれば比較的美しいこの魔女の結界を見学することができる。
遊園地の魔女結界
永遠に夕暮れ時の遊園地。観覧車型の使い魔が複数存在している他、ジェットコースター用のレールが蜘蛛の巣のようにそこら中に交差している。それ以外の遊具は無い。