マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE17.義理義勇のパラダイスロール

「私は、合田さんに助けられたんです!」

 

 自然と、彼女を抱き締める力が強くなる。

 

「合田さんは、私にとってヒーローなんです!」

 

 合田さんの体が小刻みに震える。嬉しいような、悲しいような。そんな複雑な表情。

 

「私、ちゃんとヒーロー出来てたのかな」

 

 ポツリ。こぼれ落ちる言葉。

 その言葉を、何処かへ飛ばされることの無いよう掬う。

 

「間違いなく、雨音さんはヒーローです」

 

 だが、雨音さんが苦しみ始める。ソウルジェムに目をやると、爆発しそうなほど膨らんだ穢れがヒビを入れていた。

 

「もう、私は……ダメ、だよ」

 

 諦めの色が雨音さんに浮かんだ。ソウルジェムから、黒い穢れが溢れ出す。

 

「……させません」

 

 腰から4本のリボンが伸び、ソウルジェムをぐるぐる巻きにして穢れを押さえつけた。

 

「私の大切な友達を、魔女にさせたりしません!」

 

 ろ過する様に、リボンから穢れだけが染み出してくる。穢れは一点に集中し、やがてナニカを形作った。

 

「これは……!?」

 

 お嬢様が驚きの声をあげた。周囲の風景が変わっている。

 全てが銀色に染まった、未来風の都市。

 

「……あ、れ?」

 

 これは間違いなく魔女の結界だ。だけど雨音さんはここにいる。魔女になんか、なっていない!

 

「雨音さん!」

 

 もう一度、その体を強く抱き締めた。ソウルジェムは穢れを失い、美しいオレンジ色に輝いている。

 

『……ワタシハ、ヒーローニハナレナイ』

 

 足音が聞こえた。振り向くと、そこには液体金属で出来た体を持つ長身の人型。

 

『ワタシハアク。コノヨスベテノアク』

 

 魔女の声が聞こえた。後悔、諦め、そして絶望。

 

『ワタシヲタオシテ、セカイヲスクッテ』

 

 目も鼻も口もない銀色の顔が、私達を見下ろした。

 突然、その腕がユメミに向け伸びる。私はゲートを展開し、槍のように放たれたそれを受け流す。吸収こそできないものの、攻撃を異空間に逃すことなら出来る。

 

『――』

 

 間一髪の所で命を助けられたユメミは、へなへなとへたりこんでしまった。

 

「……あれは、ボクなのかい?」

 

 誰に聞くでもなく、雨音さんが呟いた。そんな彼女の問いに答えるため、白い悪魔がその姿を現す。

 

『そうさ。あれは紛れもなく、君自身だ』

 

 いつの間にか背後に居たキュゥべえが語り始める。

 

『君の穢れは、どういうわけだか核を持たないまま魔女になった。あれは君の負の感情の集合体とも言えるだろうね』

 

 魔女に目をやると、手や足の末梢の部分から小さなヒビが入り始めている。少しずつ、しかし確実にこの魔女は自滅への道を歩んでいた。

 

『僕としても初めて見る現象だ。美亜、君は一体、雨音に何をしたんだい?』

 

 私が、したこと?

 私はただソウルジェムを包んでいただけだ。雨音さんの魂を逃すことの無いように。

 これも、魔女の魂を引きずり出す能力の延長なのだろうか。

 

「今はそれについて考えている暇はありませんわ」

 

 お嬢様が、斧を地面に叩きつけ注意を促す。魔女は戦闘体勢に入っている。ギリギリついていく事は出来るが、かなり動きの速い魔女だ。

 

「行きますよ、皆!」

 

 幾つものゲートを展開する。銀色の空に黒い穴が幾つも開き、中から絶望のしもべ達が降り注ぐ。

 

『ぶぅぅぅぅん!』

 

「そーれ、突撃です!」

 

 船にのった『プカプカ』を抱えた『ブーン』が魔女に向け飛行する、そして魔女の上空で車に乗った『ブッブー』を召喚する。

 

『ぶっぶーーーー!』

 

 車に乗った手下の群れが魔女を取り囲み、体の一部を盗んでいく。だが、使い魔が盗んだ銀色の破片は直ぐに魔女の元へと飛んで戻ってしまう。

 

「くっ……」

 

「私に任せなさいな!―ジャッジメント―!」

 

 巨大な斧を振り下ろし、魔女に向け斬撃を放つ。その圧倒的な切断力は魔女の体を真っ二つに切り裂いた。

 

『モット、バツヲ。モット、サバキヲ』

 

 だが、切られたそばから水銀の体が接着し再生する。その体には傷ひとつ残っていない。ただ、末梢から広がるヒビだけは治っていなかった。

 

『――!』

 

 立ち上がったユメミが魔女に向け殴りかかった。巨大な手錠を押し返す程の剛力が、金属の体を襲う。

 

『――――!』

 

 跳躍に捻りを加えた大威力のパンチ。それは見事に魔女の細い腹部を捉え、大きな風穴が開く。

 しかしその傷も、即座に再生してしまった。

 強力な再生能力だ。一撃で欠片すら残さないほど消し炭にするしか無いのだろうか。

 

『ぶっぶー!』

 

「……?」

 

 ブッブーが足元までやって来て、何かを見せて来た。それは魔女の欠片。足の先の部分であろう。ヒビだらけで、元の体のような光沢も柔らかさも無い。そして、魔女に向かって飛ぼうともしていない。

 

「そっか、ヒビの部分は再生しないんですね!」

 

 ありがとう、とお礼を言うと、手下は照れた様子で何処かへ走り去ってしまった。

 

「って、えぇ!?勝手に行かないでくださいよ!」

 

 だが、時すでに遅し。手下は乗り物を飛行機に変更し、ぶぅぅぅぅん!という奇声をあげながら飛んでいってしまった。

 心配ではあるが、魔女をどうにかしないといけない。ヒビは既に肘や膝の辺りまで進行している。そこを狙えば、魔女の動きを封じることが出来るはず。

 

「さてさて、ここは私が格好良く――」

 

 カードを投擲しようとした腕を捕まれた。

 

「待って」

 

 腕を掴んだのは雨音さんだった。既に魔法少女に変身している。肩に輝くソウルジェムには一切の穢れが無い。

 

「あれは、ボクなんだよね。……なら、ボクに任せてくれないかな」

 

 雨音さんを止めるため口を開こうとして……やめた。雨音さんはきっと止まらない。表情はいつものような明るさを取り戻している。何の心配もない。

 

「……お願いします、雨音さん」

 

 私の言葉が嬉しかったのだろうか。雨音さんはパァッと顔を輝かせた。

 

「うん!任せておくれよ!」

 

 そして彼女は魔女と対峙した。魔女もいきなり襲いかかること無く、もう一人の自分を見つめている。

 

「ねぇ、いつまで悪者ごっこを続けるんだい?」

 

 挑発するように雨音さんが言う。だが魔女に言葉は届かない。それでも何かを言っている事は理解できるのか、魔女が応える。

 

『ワタシハアク。アクニハサバキヲ』

 

 とんちんかんな受け答え。彼女はあくまでも自らの断罪を望むようだった。

 

「ボク達は悪なんかじゃない。ヒーローになったじゃないか。本質なんてどうでもいいだろ?」

 

 自分に言い聞かせるように。両手を広げ雨音さんが言った。

 

『チガウ、ワタシハアク。オマエモアク。アク、アク、アク!』

 

 言葉が通じたのか、魔女が頭を抱え始めた。ヒビの進行が速くなり、ボロボロと崩れ始める。

 

「やろうと思った人がヒーローになるんだよ。悪の力だって、良いことに使っていけば良いじゃないか」

 

『ウルサイ!』

 

 魔女が叫んだ。他の魔女とは明らかに違う。この魔女には心があった。一筋の小さい光が魔女とソウルジェムを繋いでいる。雨音さんは、自分の心と戦っている。

 

『ワタシハ悪だ!悪なんだ!私が殺してきたのは、魔法少女なんだ!ヒトゴロシが正義のヒーローになれるわけ、ナイ!』

 

 魔女の姿が歪む。

 形だけは雨音さんとおんなじの、真っ黒な影。穢れそのものが雨音さんを真似たようだ。

 

「魔女を、助けてあげようよ」

 

 雨音さんが魔女に近づいていく。

 

「苦しいだろう?辛いだろう?ボクにも分かるよ。ボク達は同じ合田雨音なんだから」

 

 魔女は雨音さんから逃げるように後ずさる。

 

「他の魔女だって、きっとそうなんだ。だから、その苦しみから解放させてあげようよ」

 

 雨音さんが、魔女を抱き締めた。

 魔女に突き刺されるかもしれない。ソウルジェムを砕かれるかもしれない。それでも雨音さんは臆すること無く魔女に触れた。

 

『ヒトゴロシ、ヒトゴロシ、人殺し!』

 

「そうかもしれない。でも、それがボク達の在り方、ボク達なりの人助けだろう?」

 

 魔女が、姿を変え雨音さんを突き飛ばした。

 細身で長身な水銀の魔女、そして雨音さんが、互いに駆け出す。

 

『ヒトゴロシィィィィッ!』

 

「いい加減、駄々こねるのをやめなよ!」

 

 そして互いに、その拳を突き出した。

 

「お疲れ様。もう、気は晴れたかい?」

 

 水銀の魔女の体躯は大きかった。大きすぎたゆえに、雨音さんの体を大きく外した。ヒビだらけの体は軌道を変えることすら出来なかった。

 雨音さんは、その拳で魔女の頭部を捉えた。小さなヒビ達が連鎖し、繋がり、魔女の体は砕け散った。

 表情の無い魔女。だけど最後の一瞬だけは、何処か笑っているように見えた。

 

 

 結界が消える。展望台から見える外の景色は、少しだけ明るくなっている。夜明けがやって来たんだ。

 当然の事だと思うが、魔女がグリーフシードを落とすことは無かった。やっぱりグリーフシードの材料はソウルジェムなのだろう。

 

『……面白い事象を観察できたよ。ありがとう、美亜』

 

 キュゥべえはただそれだけ言い残し、展望台を

 

「何処に行くんですの?キュゥべえ?」

 

 出ようとしたところをお嬢様に掴まっていた。

 

『え、いやもう話すこと無いだろう?』

 

「わたくし達には、大有りですわ」

 

 お嬢様が怖い顔をしながら階段を降りていった。残された私達はそんな様子を見て、つい笑ってしまった。

 

『……ステキ』

 

 ユメミが、ふと言葉をこぼした。

 

「「っ!?しゃべったぁぁぁぁっ!?」」

 

 そんなこんなで。

 私達は気づいていなかった。昨日……というか一昨日、私達は展望台の上で戦った。なのに展望台には何の傷も残っていなかった。

 朝日を迎えた街並みは美しかった。まるで、誰かが絵に描いたように。




真なる我との戦い。17話でした。
今回の相手は弱体化した水銀の魔女。核がなくても相当強いです。
さて、無事(?)合田雨音の救出に成功した美亜達。だけどまだまだ問題は山積み。ユメミが言葉を覚えたことにより、物語が大きく動き出す(筈の)18話。投稿は遅くなりそうです。ごめんなさい(;>_<;)

以下魔女設定↓
偽悪の怪人
偽悪の怪人。その性質は義勇。液体金属で出来た体を持つ魔女。核を持たないこの魔女は、時間と共にその体を崩壊させていく。だが僅かに残った時間を惜しむこと無く、真の勇気を問う試験を行う。
別名:水銀の魔女(2回目)
特徴:有栖美亜の能力により魂がソウルジェムを出ず、穢れだけが実体を持ち動き出したもの。核となる魂やグリーフシードを持たないが、彼女も合田雨音であることに違いはない。自らを悪だと定め、魔法少女に勇気を問いただす。
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