マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE18.第2回夢見市魔法少女会議

 ズシン、ズシン。

 血に染まった赤い靴が、全てを踏み潰していく。結界を形作るパソコンも、ドレスを着た芋虫の使い魔も。

 ズシン、ズシン。

 一体何が気にくわないのか。駄々をこねるように、我が儘を押し通すように、ガラスの床に足を叩きつける。

 

「うっわぁ……また変な見た目の魔女ですね」

 

 空から伸びる美しい足。太ももから上は存在していないようだ。爪先とかかとは切り取られていて、無理矢理ガラスの靴を履いているのだろう。もっとも、美しかったであろうそのガラスの靴は、返り血や肉片で真っ赤に染まっているのだが。

 

「ガンバロ、ミア!」

 

「はいっ!ユメミ!」

 

 お嬢様の物よりも一回り小さな斧を持ったユメミが、魔女を見て好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 時は3日ほど前まで遡る。

 

「ミンナ、アリガト!」

 

 雨音さんの騒動が一段落した後。ユメミが喋ったのだ。今まで訳のわからない言語しか喋ってこなかった彼女が、意味の通じる言葉を口にした。時刻は明け方。今日は土曜日で学校も無い日なので、彼女から愛理杏奈の情報を得るために一旦お嬢様の家に集まることにした。

 

「……ほんとに、お嬢様なんですね」

 

 聖ドレアン学院のすぐそばにある豪邸。そこに住むのは学園の理事長と、その娘であるお嬢様の二人だけだそうだ。

 

「おほほ、もっと誉めてもよくってよ?」

 

「理事長さんって凄いんですねー」

 

 スルー。片手でキュゥべえの首根っこを持ち、得意気な顔をしたまま固まるお嬢様には目もくれず豪邸を見やる。赤い屋根に白い壁は、朝日に照らされ輝いている。シンプルな色使いでありながら、所々壁に伸びた蔦が歴史を感じさせる。きっと、ずっと前からここにあったのだろう。

 

「おお、ごーじゃすだね」

 

 お嬢様に案内され、館の中へ。壺や絵画の様な骨董品が沢山。火事でも起きた日には、被害総額がとんでもないことになりそうだ。

 

「取り合えず、客室まで案内いたしますわ」

 

 ユメミと雨音さんは、周囲をキョロキョロ見回しながらついてくる。私は2人に聞こえないよう、先頭を歩くお嬢様に問いかけた。

 

「……お嬢様」

 

「何ですの?」

 

 お嬢様は振り替えること無く答える。長い廊下。何処まで歩けば他の階に繋がる階段が現れるのだろう。

 

「お嬢様は、平気なんですか?」

 

 雨音さんがパニックを起こしてしまった。そのお陰で、というのもなんだが、私達は魔女化という現実から目をそらすことが出来た。

 お嬢様も同じようなことを考えていたのかもしれない。言葉足らずな私の質問の意図を汲み取ってくれたようだ。

 

「……平気、というのは嘘になりますわ」

 

 少しだけ歩く速度を早めて、お嬢様の隣へ。私よりも身長の高いお嬢様の横顔は凛々しく、決して折れない芯の様なものを感じ取れた。

 

「でも、わたくしは夢見市を守らなくてはいけませんわ。例えわたくしが魔女になったとしても、この街さえ守れればそれで構いませんの」

 

 それは狂気的なまでの執着。この夢見市への溢れんばかりの愛。

 

「そう、なんですか……」

 

 どうしても、私には理解できなかった。

 ずっとずっと、主人公になることを憧れて生きてきた。そして私は、主人公としての力を手に入れた。

 ……でも、私は何も出来ていない。今まで魔女を倒せてきたのは2人……ユメミも入れるなら3人のお陰だ。私の低すぎる火力では、皆の助けにもなれていない。今の私は、主人公として生きていない。

 

 このまま、死んでしまうのは嫌だ。

 

 死ぬわけではない。姿が変わるだけ。キュゥべえならそう言うのかもしれない。でも、意思も無い化け物を主人公と呼べるだろうか。

 長い長い廊下は続く。3階まで階段を登り、登った先にも長い廊下が待っている。

 私は、私のままエンドロールを迎えたい。

 

「……美亜」

 

 お嬢様が、私の名前を呼んだ。

 隣を見上げると、お嬢様が今までに無いほど優しげな笑みを浮かべていた。

 

「学校が違うとはいえ、わたくしは貴女の先輩ですわ。何か悩んでいることがあるなら、相談しても良いですのよ?」

 

 頭を撫でられた。

 母の温もり。私はそれを覚えているのか、最初から知らないのか。ただただその温度は私の心を溶かしていく。

 

「せん、ぱい……?」

 

「えぇ」

 

 そうだ。お嬢様は中学生としても、魔法少女としても先輩なんだ。いつも馬鹿みたいに喧嘩してるから、意識したことは無かったけど。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 自分の顔が赤くなっていくのがわかる。恥ずかしくて、ちょっとだけ悔しくて。それでも今は、この温もりに触れていたかった。

 

「さぁ、着きましたわ」

 

 お嬢様が扉を開けた。大人数で泊まることを想定した客室なのか、ベッドが複数おいてある。天井から吊るされたシャンデリアはゴージャス過ぎること無く、上品な輝きを放っていた。

 

「スゴイ!ヒロイ!」

 

 ユメミは興奮した様子で部屋を見渡す。4人で会議をするには広すぎる。泊まるにしても半分以下で十分な広さだろう。

 

「こっちですわ」

 

 お嬢様に案内されたのは窓際の机。椅子が4つついている。近くにはこの為に用意したのかホワイトボードが置いてあった。

 

「おぉー、ごーじゃすだよ」

 

 さっきから雨音さんがごーじゃすしか言わない。そわそわしていて、どうにも落ち着かないのかもしれない。まぁ、私もこんな豪邸に来るのは初めての事だ。そわそわしても仕方がないだろう。

 

『ギャッ』

 

 お嬢様は部屋の中にあった籠にキュゥべえを入れると、逃げられないように鍵をかけた。

 

 紅茶にクッキー。取り合えず当たり障りの無いものが机の上に出される。

 

「さて、それでは第2回、魔法少女会議を始めますわ」

 

 わー。

 拍手をしたのは私だけだった。恥ずかしい。

 四角い机の上には籠に入ったキュゥべえ。それを囲むように私達が座っている。

 

「さて、ユメミ。でしたっけ?わたくしの言葉がわかりますか?」

 

 お嬢様が優しげに言った。優しさが込められているわけではない。ただ怖がられないようにしている事が分かる。

 

「ワカル、マス!」

 

「わかります、だよ」

 

「ワカリマス!」

 

 雨音さんの手助けもあり、ユメミは質問に答えられた。

 お嬢様はその様子を見て満足げに頷くと、ユメミへの質問を始める。

 

「貴女と一緒にいた女の子が何処にいるのか分かりますか?」

 

 愛理杏奈。今日は彼女に出会わなかった。夢見の魔女を育成し、最強の魔女の誕生を目論む魔法少女。私達は、彼女の事を知らなさすぎる。

 

「ワカラナイ」

 

 残念ながら、ユメミは知らなかった様だ。

 

「そう……」

 

 露骨に残念そうな顔をしたお嬢様は、紅茶を一口飲んだ。

 

「そういえば、お嬢様は愛理杏奈と知り合いなんですか?」

 

 最初に彼女が出てきたとき、お嬢様は彼女の名前を呼んだ。つまり、前から面識があったということに?

 

「知り合い……そうですわね、彼女は聖ドレアン学院の生徒ですわ。それに、1度だけ会ったことがありますわ」

 

 お嬢様が語ったのは、私とお嬢様が最初に会った時のような、魔法少女としては良くある展開。その時はまだ夢見の魔女を育成していることは知らなかった様だ。

 

「一体、いつから夢見の魔女を育てているのかな」

 

 雨音さんが呟いた。

 だが誰も答える人は居ない。……いや。1匹だけ聞かれないと答えない生き物がいる。

 

「……キュゥべえ、あなたなら知っているのではなくて?」

 

 魔法少女に変身した状態で、キュゥべえの閉じ込められた籠を持ちあげるお嬢様。まるで悪鬼羅刹のようだ。

 

『それがものを聞く態度かい?残念だよ。君達人間は知的生命体だと思っていたんだけど――』

 

 ミシリ。

 籠が歪んでいく。中にいるキュゥべえも、何かに潰されるようにもがき苦しんでいる。

 

「おっと失礼。拷問の方がお好き?」

 

 お嬢様は笑っていた。だが目は笑っていない。変なこと言ったらこのまま潰すぞという殺意が手に取るように分かる。

 

『ま、まずは話し合おうじゃないか!』

 

 キュゥべえがそう言うと、お嬢様は籠にかけていた魔法を解除した。気圧でも高めていたのだろうか。

 

『知っているよ。彼女が夢見の魔女を育て始めたのは、2年前からだ』

 

 2年前。2年もあれば、相当な数の魔女を食べているのではないだろうか。それだけ多くの魔女を狩っていたらユメミがあんなに強いのにも納得はいく。

 

「2年前……ちょうど、夢見市の都市化か始まった年ですわね」

 

 夢見の魔女の誕生。それに合わせるように都市化が?魔女は人の集まる場所を好むようだ。なんだかどうにも都合が良すぎる気がしてくる。

 

「……分かりましたわ。それでは、あと幾つかの質問には答えて頂きますわ。先ずは1つ目。あの魔方陣について、分かることを答えなさい」

 

 お嬢様は立ち上がり窓際まで移動すると、カーテンを開けた。窓から夢見市上空の魔方陣を指差す。魔方陣は少しずつ小さくなっているようだ。魔法少女にしか見えないのか、あんなに目立つ物なのにニュースになっているのを見たことがない。

 

『あれは、魔女を呼ぶスピードを早める術式だね。あれを使って魔女を集めて、夢見の魔女を成長させようとしているんだろう』

 

 魔女の出現頻度が上がったのはあの魔方陣のせいでしたか。あれをマスター出来れば便利かもしれないけど……。

 

『あれは愛理杏奈自身の奇跡がもたらした産物だ。君達に使える魔法ではないね』

 

 私の考えていることが分かったのか、キュゥべえが先回りして言った。

 

「魔女を呼び寄せる奇跡、ねぇ……一体、どんなことを願って魔法少女になったんだか」

 

 雨音さんが呆れた様な声で言った。あんな中二病こじらせたサイコさんの願いなんて考えるだけムダだと思う。

 

「2つ目ですわ。今、愛理杏奈は何処にいますの?」

 

『それは僕にもわからないよ』

 

 キュゥべえは籠の中に慣れたのか、ごろーんと寝そべりながら言った。ムカツクのでお嬢様から籠をかっさらい、シェイクしてみる。

 

『うぇっ、ちょ、おぁっ!やめ、あり、美亜っ!』

 

 ぐったりしてきた所で机の上に置いた。さっきまでとはまた別の意味で寝そべっている。

 

『……君達に恨まれるような事をしたかい?』

 

「恨まれるような事しかしてませんわ」

 

 バッサリと。お嬢様はキュゥべえからの反論を引き裂いた。

 

『君達はいつもそうだ。事実を知ると、どうしてかその責任を僕に押し付ける。わけがわからないよ』

 

 わけがわからないのはこちらの方だ。このマスコットの思考回路はどうなっているんだろうか。きっと、感情なんて持ち合わせて無いのだろうな。

 ……その割にはやけに感情的な反応が帰ってくるけど。

 

「キュゥべえ、愛理杏奈を探してきなさい」

 

 お嬢様が籠を開け、キュゥべえを取り出した。首根っこを掴んでいる上にキュゥべえが抵抗しないため、まるで猫か何かの死体を持っているようで薄気味悪い。

 

『僕はあくまで中立の立場に――』

 

「役立たずには死んで貰いますわ」

 

 いつのまにか、キュゥべえの首に斧の刃が押し当てられている。どちらかが僅かでも動いたら、可愛らしい肉まんが完成してしまいそうだ。

 

『喜んで探してくるよ!』

 

 するり、ぴょん、ぴょん。

 お嬢様の手を抜けたキュゥべえは窓から外に逃げていく。感情は無いくせに生存本能だけはしっかりあるのだろうか。

 

「……そういえば、ユメミ」

 

 1つだけ気になることがあった。私は向かい側に座ったユメミに話しかけた。

 

「ナニ?」

 

「どうして、私を助けてくれたんですか?」

 

 正義の猟犬と戦っていた時。ユメミに助けられなければ、私はあそこで死んでいたかもしれない。でも、ユメミが私を助ける理由が浮かばなかった。

 

「ダッテ、ワタシ、オネエチャンダカラ」

 

 ……うん?

 まだやっぱり言葉を理解できていないのか、返ってきたのは意味不明な答えだった。

 

「お姉ちゃん?」

 

「ウン!」

 

 ユメミは、虚ろな瞳のままとびきりの笑顔で言った。

 

「アネ、イモウト、タスケル。アタリマエ、ダヨ?」




18話でした。次こそは遅くなります。
毎度お読み頂きありがとうございます!今回は色々と説明する回になりました。長い上に分かりづらい文章で申し訳ありません(;>_<;)

以下序盤しか出なかった上に今後も出番の無いかわいそうな魔女の設定↓

怒りん坊の魔法靴
怒りん坊の魔法靴。その性質は強情。ガラスの靴を履いた片足だけの魔女。数多の命を踏み潰したその靴は赤色に染まっていて、蹂躙を喜ぶ舞いを続ける。音痴と義妹が大嫌い。
別名:ガラスの靴の魔女
特徴:マネキンの様な巨大な脚が空から伸び、ガラスの靴を履いている。太ももから上は存在しない。その爪先とかかとは切り取られている。頭がないため何処に何があるかもわからず、ただ近づくものを踏み潰そうと足踏みを続ける。

歌う姫君
歌う姫君。その役割は後片付け。綺麗なドレスを纏った芋虫の化け物。魔女が踏み散らかしたゴミの片付けをするため、そのドレスは汚れている。
別名:ガラスの靴の魔女の手下
特徴:シンデレラの様なドレスを纏った芋虫の化け物。体に突き刺さった箒を器用に使って掃除を行う。だが這うように移動するほか無いため、ドレスは血や肉片で汚れている。歌うことは大好きだが、歌うと音痴が嫌いな魔女に踏み潰されてしまう。

ガラスの靴の魔女結界
パソコンが積み重なり、柱や階段を形作っている。床や壁は美しいガラスで作られているが、芋虫達の掃除の後がべっとりと残っている。
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