マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE2.無知との遭遇

 現れた魔女は、こちらをじっと見つめている。何をするつもりかは分からないけど、私は油断しないで魔女から目を離さないでおく。

 

『――!』

 

 魔女は突然なにかを叫ぶと、走り去っていく。

 

「えっ!?逃げた!?」

 

 見た目に反して素早い魔女は、直ぐに私の視界から消えてしまった。

 ……ボスが逃げるってどうなんですかねぇ。

 

「……これでお仕事は終わりになるんですか?」

 

 私はぐでーっとした感じでキュゥべえに問いかけた。何と言うか……萎えるわー。

 

『まだまだ仕事は終わらないよ。それに、まだこの結界は消えていない。魔女は近くにいるはずだ』

 

 そうなのだろうか。私はあんまり結界とかをよく知らないから、この変な生き物の言うことを信じる他無いのだが。

 

「はぁ……私の折角の晴れ舞台を、よくもかくれんぼなんかで邪魔してくれましたねぇ」

 

 これから楽しいヒーローライフが待っていると思っていたのに。

 私は展開していたゲートを閉じると、足元に大きめのものを1つ作り出した。当然私の体は重力により異空間へと落ちていく。

 

「さてさて、何処にいるんでしょうねぇ」

 

 どどめ色の異空間から、幾つもの小さなゲートを使って外の世界を覗く。今の私には無数の目があるのだ。……ほら、ゲートの内の1つから、箱の影で体育座りをしていた魔女が見える。

 

「覚悟、してくださいねっ!」

 

 今の私には、戦い方が分かる。ずっとそうしてきたかのように、魔力の流れが手に取るように分かる。

 私は4枚のカードをばら蒔く。それらは私の周囲を衛星の様に回転し始めた。

 

『――!?―!?』

 

 魔女はゲートから飛び出た私を見て跳び跳ねると、再び走り出した。私が右腕を魔女に向けて伸ばすと、私の周囲を回っていたカード達が魔女に襲いかかる。

 首を、腕を、腹を、足を。それぞれのカードがダメージを与えていく。だが切断するまでにはいかなかったようで、血のような何かを流しながらも魔女は走り続けていた。

 

『―――!!』

 

 魔女は突然立ち止まると、床に何かを書き始めた。この結界に入った直後に見た使い魔と似た姿のものだ。

 

『ぶっぶーー!』

 

 クラクションの音……のつもりなのだろうか。魔女の落書きはふわりと浮き出ると、立派な使い魔になった。もしかして:無限湧き?

 

「っ、冗談じゃありません!」

 

 経験値なんて無さそうなリアル魔法少女ライフにおいて、使い魔召喚なんて無駄にリソースを消費するだけじゃないですか!

 私は使い魔の周囲3方向にゲートを出現させると、その中から1枚ずつカードを飛ばす。

 

「消え去れっ!―スリーカード―!」

 

 3方向からの同時攻撃なんて、使い魔ごときに避けられるわけが無いだろう。案の定使い魔は3枚のカードに細切れにされた。

 

「いくら召喚したってムダですよ?……そんなお子ちゃまみたいな格好だから、おつむもよろしくないんですかねぇ?」

 

 魔女に言葉が通じるかは分からないが、そんな私の言葉に魔女は地団駄を踏んだ。ニュアンスから馬鹿にされていることを悟ったのかもしれない。

 

「ってな訳でぇ、さっさと消えちゃって下さいよっ!―ツーペア―!」

 

 今度は4つのゲートを出現させた。魔女はゲートをキョロキョロと見回し、やがて逃げ場が無いことに気づく。すると。

 

『―――――――』

 

 ……泣き始めた。

 えっ、何ですか?もしかしてマジで泣いてますか?……ってか、え?いや本当に思考が纏まりません。魔女ってそんなに悪いやつじゃなかったり?……い、いやいや。確かにアニメとかではたまに見る展開ですけどまさかねぇ。うん、でも泣いてると攻撃しづらくって――。

 

「がっ!?」

 

 背中に、衝撃。

 

『ぶぅぅぅぅぅぅぅん!!』

 

 いつの間にか周囲を使い魔に囲まれている。よく魔女を見てみると、そいつは泣いたフリをしながら必死で落書きしていた。

 

「こんっのぉぉぉっ!」

 

 絶対にぶっ殺してやらぁ。

 

「この私の良心をムダにするなんて……実に愚かですよ!」

 

 私の周囲を囲むように、53のゲートが現れる。

 

「持ってけドロボー!―シャッフル―!」

 

 そして53枚のトランプが全方向へと放たれた。私を囲んでいた使い魔達は勿論、落書きに夢中で攻撃を避けられなかった魔女の体が切り裂かれていく。

 

「っ……はぁ、はぁ……」

 

 今の攻撃は相当な魔力を使ったのだろう。体がだるくて重い。使い魔は皆倒すことが出来たが、魔女だけはまだ立っていた。だがもう走る気力も無いようで、ゆっくりと地を這うように私から逃げようとしていた。

 

「ぜったい、ぜぇーったいに逃がしたりしませんよ!」

 

 私を貶めた罪は重いのだ。潔く、そして悪役らしく美しく死ぬがよい。

 その時、私の中に言葉が浮かんだ。

 

 昨日の敵は今日の友。

 

 少年漫画の王道展開。ライバルや強敵が改心して、共闘していくやつ。

 私はその言葉の導くままに、体を動かした。

 

『有栖美亜。その力は……!?』

 

 腰の4本のリボンが伸び、魔女の体に突き刺さった。それは、私がキュゥベえと契約したときの光景と何処か似ていた。

 やがてリボンは何かを掴むと、それを魔女の体から引き抜いた。

 

「な、何ですか……これ?」

 

 何処かソウルジェムに似た雰囲気を持つ黒い宝石。中心は四角く檻のようで、上下は私のソウルジェムよりも鋭くとがっている。これでダーツが出来そうだ。

 魔女の体は、まるで核を失ったスライムのようにドロドロと溶けていった。

 主を失った魔女の結界は、周囲に溶け込むように消え去った。場所は変わらず、路地裏のまま。ビルの隙間から見える大通りでは忙しなく人が動いていて、さっきまでの戦いがまるで夢であったかの様にも思える。……それでも、私の手に握られた黒い宝石は確かにそこにあった。

 

 

「それで、これは一体何なんですか?キュゥベえ?」

 

 自宅に戻る。キュゥベえの体をタオルで拭いてあげながら、机の上に置いた黒い宝石を指差して言った。

 

『うーん……グリーフシードには似てると思うんだけど……』

 

 グリーフシード?また知らない単語だ。専門用語が多すぎてさっぱりだ。この白い生き物は、何かを隠しているのかもしれない。

 

『それで出来るかは分からないけど、とりあえずグリーフシードの説明はしておくべきだよね』

 

 キュゥベえはそう言うと、机の上の宝石をまじまじと見つめながら話始めた。

 

『君のソウルジェムを見てごらん』

 

 キュゥベえに言われた通り、私は指輪に変形させていたソウルジェムを手にのせた。薄汚いどどめ色の宝石は、かなり分かりにくいがさっきよりも暗く濁っている感じがした。

 

『ソウルジェムは、魔法を使う度に濁っていく。それを穢れと言うんだ』

 

 穢れ。確かにそんな表現がしっくり来る。ただ濁っているわけではない、見ていると何処か不快な気分になる濁りだ。

 

『そしてその穢れを取り除くのが、グリーフシードと言うわけさ』

 

 キュゥベえは黒い宝石を加えてこっちにやって来た。

 

『……もっとも、これはグリーフシードとはまた別の物のようだけどね。グリーフシードは、本来魔女の卵とでも言うべき存在なんだけど……こればっかりは、実際に使ってみた方がいいかもしれない。さぁ、美亜。君のソウルジェムをこれに近づけてごらん』

 

 私は頷くと、キュゥベえの言う通りにソウルジェムと黒い宝石をぶつけた。

 

「……っ」

 

 ソウルジェムから、どす黒いナニカが飛び出した。それはまるで手の様な形をとると、黒い宝石を握りつぶす。

 

「え、これってマズイやつじゃあ……!?」

 

 グリーフシードからありとあらゆる負の感情が溢れだし、私の部屋はあの玩具箱に早変わりした。ソウルジェムはすっかりと綺麗になっている。

 

「ど、どうするんですかキュゥベえ!?」

 

『……いや、きっと大丈夫だと思うよ』

 

 やけに冷静なキュゥベえは、この結界を観察するように周囲を見回していた。私が振り向くと、そこにはさっき戦った『落書きの魔女』が居た。

 

「っ!?」

 

 私は直ぐに魔力を展開し、魔法少女としての姿に変わる。だが、魔女は何かを待っているかのようにそこを動かなかった。

 

「……もう、騙されませんよ?」

 

 トランプを投げるフリをしながら脅してみても、魔女はただ純粋な目で私を見るだけだ。

 

『きっとこれは、君のもたらした奇跡の1つなんだろうね』

 

「……奇跡?」

 

『そうだよ。君は僕との契約で、主人公となる資格を手にいれた。……ほら、あるだろう?主人公にしか起こらないような、都合のいい展開』

 

 素晴らしいご都合主義。明らかに主人公より強い人が倒せなかった敵でも、『主人公』なら倒すことが出来る。そんな、ふしぎなことを引き起こす力。

 

『有栖美亜。君が手にいれた力は、所謂主人公補正というものらしい』




最強のチート能力……時間停止?未来予知?いえいえ。創作物に置いて一番強力な力は、『主人公補正』なのです。

次回は夢見市についてのお話です。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!

↓キャラ設定(追加)
有栖美亜
キュゥべえへの願いは『人生を退屈しない素敵なものに変える』こと。
契約の結果、つまらない世界からの脱出口となるゲートを作成する能力と、主人公にありがちな『王道』な力を手に入れた。
王道の汎用性は高く、どんな強大な敵にも逆転しうる幸運や、戦った好敵手達の力をコピーする能力など様々な奇跡を引き起こせる。
能力が強力な一方で本人の戦闘力はそこまで高くない。せいぜい魔力を込め切れ味の鋭くなったトランプをゲートから発射したりして死角や全方向から攻撃を仕掛けるくらい。ゲートで相手の射撃系の攻撃を相手に向けてワープさせることもできる。
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