マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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悪徳の街(偽りの街)


SAVE20.悪徳の街

「お願いします!ユメミっ!」

 

「リョウカイッ!」

 

 ユメミがお嬢様から貰った小振りな斧で、魔女の体を引き裂く。魔法の靴を履いた魔女は足踏みを止め、何も言うことなく消えていった。

 

「それにしても……」

 

 ユメミが私の頭を撫でている。あくまで、私の姉であるという設定を崩したくないようだ。

 

「やめてくださいってば!私はユメミの妹じゃありませんって!」

 

 だが何度言っても、

 

「テレチャッテ」

 

 そう、返されるばかりだった。

 

「はぁ……何なんですかもう」

 

 魔女が落としたグリーフシードを拾う。セミの死骸に突き刺さるガラスの靴。それはまるでセミの背中から生えるキノコの様にも見えた。

 結界が消え、元の世界に戻る。ここは夢見タワー近くの路地裏。どうも外から来る魔女はこのタワーを……正確にはこの魔方陣を目指しているようだ。

 

「さて、帰りましょうか」

 

「ウン!」

 

 ユメミには家がない。まぁ、魔女の使い魔なのだから当然だ。だから暫く私の家で寝泊まりすることになっている。独り暮らしだし、寂しさを紛らわせる事が出来るので嫌なことは無い。

 都市部の一角にある私の家に帰ろうとした、その時だった。

 

『美亜!』

 

 物陰から話し掛けてくるキュゥべえの声。その白い体は所々汚れている。疲れが溜まっているのか、少し震えていた。

 

「ど、どうしたんですか、キュゥべえ?」

 

 直ぐに駆け寄って抱き上げる。キュゥべえは周囲をキョロキョロと見回し、付近に誰も居ないことを確認してから話し始めた。

 

『大変だ。夢見の魔女が完成してしまった』

 

 ……へ?

 

「え、夢見の魔女って、完成したって、」

 

 確か、夢見の魔女が成長すると――

 

『世界を滅ぼす魔女が、完成してしまったんだ』

 

 私達は遅すぎた。勿論、あの会議の後私達自身でも愛里杏奈を探した。だけど、何かが彼女を隠蔽しているかの様に見つけられない。手がかりすらない。

 

「っ……お嬢様達に報告は?」

 

『まだなんだ。さっきから、この街の住人に追われているんだ』

 

 キュゥべえが?キュゥべえは素質の無い人間には見られなかった筈。つまり、この街の人間に素質が……?いや、キュゥべえ自身が素質を持つ人間は少ないと言っていた。なら、どういうこと?

 

『詳しいことは後で説明するから、2人の元に連れていってくれるかい?』

 

 今は……キュゥべえを信じるしかない。意図的な隠し事をしているとしても、嘘はつかないのがキュゥべえだ。

 

「……わかりました。行きましょう、ユメミ!」

 

「ウン!」

 

 私は片手でキュゥべえを抱え、もう片方の手でユメミと手を繋ぎ異空間に飛び込む。

 お嬢様の部屋に出口を展開し、転がり込んだ。

 

「いきなりどうしましたの?」

 

 タイミング良く部屋にいたお嬢様が聞いてくる。

 

『愛里杏奈の居場所を見つけたよ』

 

 キュゥべえからその言葉を聞くなり、お嬢様は直ぐにスマホを手にした。今この部屋にいない雨音さんを呼んだようだ。

 

「……えぇ。待ってますわ」

 

 通話を終えたお嬢様はスマホを机に置くと、キュゥべえと向かい合う。

 

「詳しい話を聞かせてもらいますわ」

 

 キュゥベエは頷くと、話し始めた。愛里杏奈が夢見映画館に居たこと、夢見の魔女が完成したこと、……そして恐らく、愛里杏奈が私達を誘い出そうとしていること。

 

「ごめん!今来たよ!」

 

 お嬢様の部屋の扉が開き、雨音さんが入って来た。肩で息をしている。全速力で走ってきたのだろう。

 

「愛里杏奈が見つかりましたわ。夢見映画館に行きますわよ」

 

 お嬢様の簡潔な説明に雨音さんが頷いた。

 

「それじゃあ、行きますよ」

 

 大きめのゲートを展開し、全員で飛び込んだ。

 

 

 街は明らかに異常だった。都市部の住人が、虚ろな目をして何かを探している。きっと、彼らはキュゥベエを探しているのだろう。

 

「なんか、不気味だね……」

 

 雨音さんが呟いた。確かに不気味だ。まるでゾンビの映画を見ているよう。まぁ、もしこれが映画なのだとしたらオーディションを行った人はよっぽど無能なのだろう。ゾンビの様になっている人は、いくつかのパターンがあれど同じ顔の物が多い。

 

「つきましたわ」

 

 ワープを繰り返し、夢見映画館にたどり着いた。すると私達の到着を待っていたかのように、愛里杏奈が建物から出てくる。魔法少女には変身していないようで、お嬢様と同じ学校の制服を着ていた。

 

「ククク、待ってたぞ?」

 

 邪悪な笑みを浮かべた彼女の隣には、夢見中学校に居た私の『そっくりさん』。

 

「っ!?何で、ここに……!?」

 

 愛里杏奈は私の驚いた顔を心底楽しそうに見つめ、ニンマリと笑う。

 

「びっくりだよなぁ?なんせここには、同じ顔の人間が3人もいるんだ」

 

 ……ずっと、疑問に思っていた。

 夢見市には、そっくりな人が多い。

 

「なぁ……一体どれが『オリジナル』なんだろうな」

 

 夢見市は、周辺と違う天気が広がる。

 

「一体、何処から何処までが、『本物』なんだろうな」

 

 夢見市には、素質を……『魂』を持つ人間が少ない。

 

「愛里杏奈、まさか、この街は……!」

 

 お嬢様が変身し、斧の切っ先を愛里杏奈に向けた。

 

「おぉ怖い怖い」

 

 わざとらしい口振りで、手振りで、愛里杏奈は私達を嘲笑う。

 ぐにゃりと空の景色が歪む。晴れた青空が真っ暗になり、夕暮れになり、雨が降り、雪が降り、そしてまた晴れる。

 夢見映画館の中から、沢山の人間が出てくる。それは、皆私と同じ顔をしていた。

 

「不思議だよなぁ?なんでこの街に、やたらとそっくりなやつが多いのか」

 

 愛里杏奈の言葉が、鎖のように絡み付いてくる。

 

「それはなぁ、イレギュラー」

 

 ピシッ。

 空にヒビが入り、真っ黒なスクリーンが顔を覗かせる。

 

「この夢見市が、魔女の結界だからだよ!」

 

 ヒビが広がり、青空が砕け散る。替わりに広がるのは黒い空。星一つ無い闇。

 その闇を流れていくのは文字の羅列。

 

Albertine

Anja

 

 私達には読めない文字。でも、それが何なのかは分かる。

 

Gauner

Fidelio

 

 大量に現れた、私のそっくりさん達が呻き出す。

 

『――!!』

 

 そしてその背中から、虫が脱皮するように何かが飛び出した。

 

「……やっぱりオマエは『不良品』だな」

 

 あるものは杖を、あるものは槍を、あるものは弓を。様々な武器を持った、光輝く少女達。彼女達は元の体を投げ捨て、夢見の魔女に跪く。

 

「不良、品?」

 

 嘘だ。そんな筈はない。私は私だ、だって――!

 

「もう、気づいてんだろ?」

 

 楽しそうに、踊るように、歌うように。

 愛里杏奈は、声高々に叫ぶ。

 

「オマエは、魔女の使い魔だ!」

 

 ……。

 そうだ。私には何もなかった。家族も、友人も、過去の思い出も。そんなものは、使い魔には必要ないから。

 私に与えられた役割は、ただ主人公を夢見るだけの一般人。役割を果たすために必要の無いものなど、用意されていない。

 

「っ、デタラメを言うな!美亜ちゃんは、使い魔なんかじゃない!」

 

 一瞬で変身した雨音さんが、愛里杏奈に殴りかかる。両腕は鬼の金棒の様に大きくなり、トゲが生えている。

 

「デタラメじゃないさ」

 

 愛里杏奈は攻撃を躱そうともしない。横から入った輝く少女が、その槍で打撃を受け止める。

 さらにその後ろから、弓を持った少女が矢を放った。

 

「サセナイッ!」

 

 ユメミが雨音さんを引っ張り、矢は地面に突き刺さった。

 

Flegel

Moppel

 

「イレギュラー、お前には分かるだろう?お前にはあのエンドロールが読めるんだろう?」

 

Schatzi

Baldur

 

 空を流れるエンドロール。 私は、それを理解できてしまう。あの文字が……名前が何であるかを。

 

「それはな、オマエがこの結界の使い魔だからだよ」

 

Helene

Udo

 

 エンドロール。出番を終えた役者達が、最後に輝く舞台。この物語を作り上げてきた役者達の墓標。

 

Alexandra

Silvester

 

Dorothy

Oz

Toto

 

Friederike

Flora

 

 私が倒してきた、魔女の名前が流れていく。

 

「オマエだけじゃない、この街そのものが、魔女によって用意された舞台なんだよ!」

 

 タワーも、ビルも、そしてこの映画館も。

 そう、この街は魔女の結界。夢見の魔女が、餌を引き寄せるために作り出した偽りの街。

 

「ククク、ハハハハハハッ!」

 

 愛里杏奈はただ楽しそうに笑うだけ。だが突然、その片腕が吹き飛ぶ。

 

「ハハハ――あ?」

 

 巨大化した斧が、彼女の右腕を断ち切った。

 

「この街を壊したのは、貴女ですの?」

 

 怒り、嘆き、憎悪。黒い感情がぐるぐると回り、お嬢様の瞳の中で渦を巻く。

 

「そうだ、と言ったらどうする?」

 

 片腕を失っていることを気にすることもなく、愛里杏奈は挑発するように言った。

 

「絶対に、許しませんわ」

 

 お嬢様の斧に憎悪が集まっていき、ビルよりも大きな斧へとその姿を変えた。

 

「わたくしは貴女を許さない。貴女に裁きを下しましょう。―断罪の一振り(コート・オブ・アームズ)―ッ!」




テストが終わったので投稿再開。20話でした。
またもやルート分岐が入ります。次の投稿も遅くなりそうで申し訳ないです。
それでは、また次回お会いできたらと思います。

以下設定↓
夢見タワー
夢見タワー。その役割は開演。結界の中心にそびえる巨大なタワーと、それを囲う高層ビルのセット。この街の魔力を操作して、結界の外から魔女を引き寄せる。
別名:引力の魔女の手下(ブタイ)
真名:Fabian
特徴:街の中心に立つ夢見タワーと、ストーン・ヘンジの様にそれを囲むビル群。それらは地下で繋がっており、1つの使い魔である。他の使い魔と比べて異様に大きい。魔力の流れを調整することで、結界の外から魔女の餌となる魔女を誘き寄せる。無能揃いの使い魔の中ではかなり有能。なお攻撃手段を持たない。

夢見映画館
夢見映画館。その役割はオーディション。古くさく、上映しているものも古いB級映画だらけの映画館。魔女や使い魔、人間の死体を元にエキストラを生産し夢見市の人口を増やすが、面倒臭いのか同じ姿のものばかり作成する。
別名:引力の魔女の手下(シケンカン)
真名:Lümmel
特徴:街の片隅にある寂れた映画館。この結界に迷い込んだ人間や使い魔等の死体をリサイクルして、エキストラを作り出す。一々違った顔のものを作るのは面倒臭いので幾つかのパターンを繰返し作っている。そのため夢見市にはそっくりさんが一杯。

夢見る人々
夢見る人々。その役割はエキストラ。夢なき街で夢見る人々。何時かは自分が主役になれると信じて疑わない。だが意思も魂も持たないこのエキストラに主役が回ってくることは永遠に無いだろう。
別名:引力の魔女の手下(ナナシ)
真名:Wurzel
特徴:この街に住む半分くらいの住人がこの使い魔。夢見映画館によって生産される。見た目は幾つかのパターンに別れているが、パターンがそんなに多くないためそっくりさんが多い。毎日毎日夢のない台本を繰り返すだけの大根役者。

引力の魔女結界
夢見市自体がこの魔女の結界である。正確に言えば、元々あった夢見市という寂れた街をこの魔女の結界で上書きしたもの。突然完成した夢見タワーや、周囲のビル。映画館などはこの魔女が作り上げたもの。また夢見市の人口の半分ほどはこの魔女の使い魔である。巨大なため不完全な作りで、他の魔女や人間が自由に出入り出来る。夢見の魔女はこの偽りの街で餌を待ち構える。
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