全てを断ち切る膨大な斬撃は、夢見映画館を跡形もなく破壊した。だがその攻撃が愛里杏奈に当たることはなかった。彼女はその攻撃を易々と回避し、余裕の笑みを浮かべている。
「絶大な威力、広い攻撃範囲、素晴らしい魔法じゃないか。だがいかんせん遅すぎる。脳みそパッパラパーな魔女ならともかく、このアタシがそれで倒されると思うか?」
静かに憤怒の火を灯したお嬢様は、憎々しげに答える。
「なら、当たるまで切り裂くだけですわ!―
今度はその巨大な斧を横に薙ぐ。愛里杏奈は余裕を持って跳躍し、回避。だが反応が遅れた使い魔達が真っ二つに切断されていく。
「っ、ダメだ真理さん!それ以上魔力を使ったら――!」
「五月蝿いですわっ!」
憎悪が膨張していくように、斧は瘴気を吸収してさらに巨大になっていく。そしてそれに応じて、お嬢様のソウルジェムも穢れに侵食されていく。
「貴女だけは許しませんわ!たとえ魔女になったとしても、この街を汚すものは許さない!」
一閃。
それは余りにも遅い斬撃だった。だがその範囲から愛里杏奈が抜け出すことはできなかった。
街ごと凪ぎ払うような刃の波。タワーが、ビルが、学校が。それだけには留まらず、辺りの山々を消滅させていく。
ピシッ。
それは余りにも小さな音。斬撃の轟音に掻き消された、最後の命の音だった。
魔女の結界が広がる。紫とオレンジの混ざった夕焼けの空。私達が立っているのは、中世で活躍していたようなコロッセオの観客席だ。
「真理、さん……!?」
コロッセオの中心には、巨大な
「マリ……」
ここにいるのは私と、雨音さんとユメミ。光輝く使い魔の少女達は、真っ黒な人型の使い魔達に捕まっている。
愛里杏奈と夢見の魔女は居ない。既にあの黒い人型にやられてしまったのか、それとも逃げ出したのか。少なくとも愛里杏奈は生きては居ないだろう。彼女はお嬢様の最後の一撃で消滅していた。
「お嬢様……なんで、こんな……」
黒い人型達の塊が光輝く少女をギロチンまで運んでいく。少女の首が、その汚れた刃に撥ね飛ばされた、その時のこと。
『――――!』
それは獣のような叫び声。撥ね飛ばされた首が、地面から飛び出した金属の檻に入っていく。
「あれが……真理さんの魔女……!」
断頭台の頭に、2本の斧が付いている。それはまるでクワガタの牙のようにも見えた。断頭台の後ろには、金属の檻が幾つも連結し、百足の様な体を作っていた。無数にある足は黒い人型をしている。人型達に頭はない。あれはきっと、処刑された者の末路なのだろう。
『――――!』
断頭台に取り付けられたドクロの眼窩が人型の行列を見つめる。農作物を収穫する機械のように、断頭台が人型の頭を刈り取っていく。
「っ、目を覚ましてください!お嬢様っ!」
観客席から飛び出し、魔女の前に立つ。魔女は一瞬だけ無感動な眼窩をこちらに向けると、興味を失ったかのように再び使い魔達を睨み付ける。
使い魔は地面から浮かび上がるように生まれ、すぐに魔女に食べられてしまう。魔女に食べられる為だけに生まれてきているようだ。
「……もう、止めてください!」
『……無駄だよ。魔女となった彼女に、君の声が届くことはない』
私の後ろから声が聞こえた。キュゥべえは無表情に――なのに何処か悲しそうに呟いた。
「な、なんでそんなことが分かるんですか!?」
まだ希望はあるはずなんだ。絶対に諦めない。お嬢様には泣いて土下座をしてもらわなくちゃいけないんです!
『僕は何度も見てきた。魔法少女が魔女になる瞬間を。そして君のように説得しようとして……殺された者達を』
「……だと、しても」
私は主人公なんだ。たとえ前例が無くたって、私はお嬢様の心を取り戻してみせる。
「そんなに騒いでたら、私の声が聞こえないでしょう」
私は暴れ続けるお嬢様に視線を向けた。
「……ボクも手伝うよ。真理さんには色々とお世話になったからね」
「ワタシモ、マリ、タスケル!」
雨音さんとユメミが魔法少女に変身する。魔女は巨大で、私1人では戦えない。だけど私達なら、彼女を止められるはずなんだ。
「ちゃんと私の話、聞いてもらいますから」
空中に無数のゲートを展開する。夕焼けの空にいくつも黒い穴が開く。その穴から、落書きの魔女の手下達が降り注ぐ。
『ぶぅぅぅぅぅん!』
飛行機に乗った手下達が低空飛行をしながら、黒い使い魔達を蹴散らしていく。
『――!』
新たな敵と見なされたのか、それとも獲物を横取りされたことに憤ってか、魔女が獣のように吼える。
「いくよ、真理さん!」
魔女が手下達に気をとられている隙に、雨音さんが跳躍。ドリルの様な形に変形させた右足で蹴りを入れる。
「っ!?」
蹴りは胴体――金属の檻に激突した。しかしその鋼鉄の体には傷ひとつついていない。
「固すぎるよ!?」
「ダイジョウブ!ワタシガヤルヨ!」
ユメミは小さな斧を片手に、雨音さんとバトンタッチするように魔女に飛び込み、頭部のギロチンを切り裂く。
『――!?』
刃の部分こそ無事だが、木製の柱を片方失う。あれでは刃を引き上げることはできないだろう。
「どうですかお嬢様!私達には勝てませんよ!」
ギロチンにつかまり、髑髏に向けて叫ぶ。髑髏の虚ろな眼窩に赤い光が宿り、私の姿を捉える。
「だから――だからっ!早く土下座してください!じゃないと、許してあげませんよ!?」
『――!』
魔女が叫ぶ。同時に、魔女の足になっていた首なしの使い魔が胴体から離れて私を捕まえた。
「っ!?は、離してくださいっ!」
魔女が私を見下ろす。ギロチンの刃を引き上げることは出来ず、檻の入り口が私の真上に来る。
「美亜ちゃん!?」
「ミア!?」
檻の入り口が私を飲み込む。そして、視界が黒く塗りつぶされた。
……揺れている?ここは、一体……?
ぼんやりと周囲の景色が見えてくる。私は、街のジオラマの中で眠っていたようだ。
「っ、みんなは!?」
檻の外を見やる。そして……言葉を失った。
「あ……ぁ……」
魔女の斧は血に濡れている。その下には、真っ二つにされた雨音さんの死体。
そして私のいる檻の下には、ユメミだった肉塊。
魔女は暫く周囲を見渡し、敵対する存在が居ないことを確認すると地下へと戻っていく。夕焼けの空は見えなくなり、私の目の前に広がるのは暗闇だけ。きっと今地上では、あの無意味な処刑が続いているのだろう。
「……お嬢様……」
この声は届かない。届いたとしても……もう遅い。
雨音さんも、ユメミも死んでしまった。何もかも、無くなってしまった。
真っ暗なジオラマに寝転ぶ。私の手から何かが転がっていった。
「……あぁ」
ソウルジェムだ。元々酷く醜い色をした私のソウルジェムは、2度と見られぬような色をしている。血のような赤に、泣き叫ぶような青。毒々しく宝石を蝕む緑色。……そしてそれら全てを飲み込むような、
「……やっぱり、私は不良品だ」
あいつの言うとおりだった。私は主人公にはなれなかった。何一つとして、救えなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
世界が割れる。私のソウルジェムが砕け散る。たとえ作られた存在だとしても、皆と過ごした時間は確かに幸せだった。
もう一度、あの日々を過ごしたい。この先に待つ
赤青緑。3色の光に包まれた世界に私は居た。
『これはこれは、如何なさいましたか?女王陛下』
玉座に座る私のとなりで、白兎が恭しく礼をした。その顔には目も鼻も口もなく、かえしのついた鋭い槍だけが生えていた。
『……なんでもないわ』
バッドエンドは許さない。ラスボスは倒されなくてはいけない。
だから私は待ち続ける。私を倒して、ハッピーエンドを手にしてくれる
投稿が遅れて申し訳ないです。バッドエンドルートでした。本編は次回です。美亜の魔女の本格的な登場は後編になります。
以下魔女設定です↓
審判の魔女
審判の魔女。その性質は過保護。全てはこの街を守るために。街に不必要なすべての生物を狩り尽くし、やがて自らの命も食らい尽くす凶暴な魔女。
真名:Franziska
特徴:頭部がギロチンに、体は金属の檻が連結して出来たムカデの様な姿をした魔女。檻の中には自然溢れる街のジオラマが閉じ込められている。頭部のギロチンには人のものよりも大きい髑髏がついており、これが頭にあたる。無数にある足は主に黒い人型の何かで出来ている。
審判の魔女の手下
審判の魔女の手下。その役割は罪人。魔女に裁かれる為だけに生まれる使い魔。結界内に迷い混んだモノを掴まえて、一緒に魔女に食べられようとする。
真名:Wilhelm
特徴:黒い人型の使い魔。某名探偵漫画の犯人じみた見た目をしている。生まれては魔女に食べられることを繰り返す。魔女の足の材料はこいつだったりする。
審判の魔女結界
周囲を囲まれた闘技場のような結界。中心には魔女が擬態したギロチンが置かれていて、生まれた使い魔達がギロチンに向かって行進する。