轟音が鳴り響く。土煙が晴れると、ボロボロになった夢見映画館があった。
「おー、危ない危ない」
台詞とは裏腹に、余裕そうな声音で杏奈が笑った。
「だが!このアタシに!そんな重い攻撃は当たらないよ!」
杏奈が手を挙げると、光輝く少女達が一斉に飛びかかってきた。
「後悔させてあげますわ!」
再びお嬢様の斧に魔力が集まる。でも、これ以上魔力を消費するのは――!
「っ、お嬢様!」
「だめだよ真理さん!」
お嬢様の手を掴み、魔法の靴から奪ったグリーフシードを無理矢理押し付ける。雨音さんとユメミも一緒に押さえつけてくれた。
「いきなり何を!?」
「黙って魔力回復してください!」
お嬢様のティアラに付けられたソウルジェムから穢れが消えていく。だがどうしても、完璧に綺麗にすることは出来なかった。
「っ、使い魔風情が何をするんですの?わたくしは貴女なんかの手を借りは……」
お嬢様は憎々しげに……見えるように、私を睨み付ける。でもその瞳の奥には迷いが見える。本気で抵抗しているわけではない。
「……お嬢様、私は使い魔です。……でも、私は……お嬢様の仲間で居たい。それじゃあ、ダメですか?」
私は人間じゃない。でも、私は魔法少女だ。最初の出会いこそ最悪だったけど、お嬢様と仲間になることが出来た……と、私は思っている。
「貴女は……」
お嬢様はため息をつくと、斧を元の大きさに戻す。お嬢様から溢れ出ていた禍々しいオーラも消え去った。
「……卑怯ですわ。ほんとに」
グリーフシードも限界まで穢れを吸ったようだ。私がそれを投げると、キュゥべが背中の口でそれを飲み込んだ。
「おーおー、そうだ、回復しといた方が良いぞ」
杏奈は笑いながら言った。今度は攻める仕草は見せていない。光輝く少女達は杏奈を守るように周囲を囲っている。
「何てったってお前らは、この最高のショーの御客様なんだからなぁ」
杏奈が指を鳴らす。次の瞬間、周囲を囲っていた光の少女達が夢見の魔女を――正確には夢見の魔女を纏うそっくりさんをそれぞれの武器で突き刺した。
『ガ……カハッ………ァ』
夢見の魔女が、そっくりさんを掴み浮遊する。そして大きくそのフードを開き、
「……ま、まさか!?」
雨音さんか叫ぶ。このあと何が起こるのか、容易に想像がついた。
夢見の魔女が、そっくりさんを飲み込んだ。
「ソンナ……」
何度も、何度も噛み砕く。死骸を材料に作られた私達にも、しっかり血液はある。激しいその咀嚼は、周囲に赤い雨を降らせた。
「ッハハハハハ!さぁ魔法少女達、拍手で迎えるが良い!この魔女が、彼女こそが!この下らない世界に終止符を打つ存在なのだ!」
黒いフードはドロドロに溶け、球体となって固まった。そしてその黒い皮が剥がれ落ちていき、光輝く本当の姿が現れる。
魔女は空高くへと上昇し、巨大化を始めた。それと同時に都市部の方から、いくつもの光が生まれてくる。
「あの使い魔達と同じ……ですのね」
都市部にいたエキストラ達も光輝く少女になったのだろう。目を懲らしてみれば、生まれた光輝く少女達が何かを取り囲んでいた。一体は千手観音の様にいくつもの手を持った仮面の魔女、もう一方は鏡から、女性の右半身が出ている魔女。2体の魔女はすぐに殺され、その名前を天に連ねた。
Gabriela
Rafael
Johanna(Johannes)
Escher
そしてその魔力は夢見の魔女……いや、夢見の魔女が進化したまた別の魔女に吸収された。
「アタシはずっと虐げられてきた……でもそれも今日で終わりさ!アタシの世界に朝が来るんだ!」
白く輝く球体。その上下には天使に付いているような光輪が1つずつ。それは魔女ではなく、まるで神の様にも思える。
あぁ、ハンプティ・ダンプティ。
『夢見る明星……』
キュゥべえが呟いた。この真っ黒な空が広がる結界に浮かぶあの魔女は、確かに星に見える。その輝きが、私達の影を作っていた。
「……今回お前達を呼んだのは他でもない、取引がしたかったからだ」
笑っていない、至極真面目な顔。杏奈が打ち出した言葉は、全く予想外の事だった。
「……なぁ、アタシと一緒に来ないか?」
鋭く、冷たく、そして泣きそうな視線。杏奈は笑わずに、私達に誘いをかけた。
「……いまさら命乞いですの?命乞いの仕方、教えてあげましょうか?」
お嬢様の怒りのこもった視線を向けられても、杏奈は表情ひとつ変えなかった。
「アタシはこの世界を破壊する。そしてもう一度作り直す。誰にでも陽の当たる、暖かい世界を」
まさかの綺麗事。それでも杏奈の表情は真面目で、どうしても嘘をついているようには見えなかった。
「君は、そんな事が出来ると思っているのかい?」
雨音さんが問いかけた。
「あぁ、出来るとも。そのための魔法だろ?」
自信満々に、何の躊躇いもなく杏奈は言い切る。
「……貴女の作る世界が素晴らしいものだとしても、わたくしはそれを許しませんわ」
そしてお嬢様も、何の躊躇いもなくその誘いを断った。
「誰を敵に回そうとも、わたくしはこの街と共にある。この街の無い世界なんて耐えられませんわ」
それを聞いた杏奈は、ただ悲しげに、しかし納得した表情で頷いた。
「そうかい、まぁアンタはそう言うと思ってたよ。……それで?他の三人は?」
夢見る明星はただ不気味に沈黙を守っている。まるで杏奈からの命令を待っているようだ。
「ボクも、君には付いていけない。何てったってボクは正義のヒーローだからさ、今あるこの世界を守ることが、ボクのすべき事なんだよ」
雨音さんも、迷うことなくそう答えた。
「……ワタシ、コノマチガスキ。チョットシカスンデナイケド」
ユメミは杏奈から視線をそらし、そう言った。
「……へぇ、お前までそう言うのか」
杏奈はがっかりしたように呟いた。そして諦めたような視線を私に向ける。きっと彼女はもう分かっているんだ、私の答えを。
「……私は、あなたにはついていけません」
私も、迷うことはなかった。
「私はニセモノです。でも私は皆と出会って、この世界が好きになりました。夢見市だけじゃない。色んな街に行って、色んな人に会って、色んなものを見てみたい。……だから、私はこの世界を守って見せます」
杏奈は顔を抑え、小さく笑う。
「あぁ、そうかい。やっぱりアタシは要らない子かい」
彼女の胸元のソウルジェムが黒く濁っては、その穢れが放出されていく。穢れは黒い霧となり、私達を囲む。
「お前達も、アタシと友達にはなってくれないんだな」
杏奈が片手を上げた。その途端、都市部から轟音が聞こえる。
「っ、何ですの!?」
真っ黒なスクリーンの空を突き破り、天空から何かが降り注ぐ。それは巨大な岩の塊、隕石と呼ばれるものだ。
幾つもの隕石が夢見市に落ち、ビルを、タワーを、学校を破壊していく。隕石が開けた結界の穴からは日光が差し、それが夢見る明星の外殻を焼く。
穴は直ぐに塞がるが、絶えず新しい穴が開けられる。
「永く続いた恐竜の時代は、隕石により滅びたとする説がある。どうだい?なかなか洒落が効いていると思わないか?お前ら人類は、知性の無い獣と同じ道を辿るのさ!」
狂ったような高笑いが響く。
街には新しい使い魔達が湧き出す。目玉と白い羽根で作られた代役達は光輝く少女を真似して破壊を始める。聖職者の様な服を着た人形達は何かを探し求めるように街を練り歩く。
「……始めよう、魔法少女達。お前らはアタシにとってのラスボス。そして勝つのは、この
ラスボス戦、開始。
21話でした。今回もお読みいただきありがとうございます。
未だ活躍していない主人公に活躍の場はあるのでしょうか。きっと主人公補正でなんやかんやしてくれるはずです。序盤活躍できなかったりするのも『王道』ですよね。
それではまた次回、お会いできたらと思います。
ではでは。
以下魔女設定↓
夢見る明星
夢見る明星。その性質は終演。堕ちた希望は還らない。これでお話は一旦の終わり。そしてもう一度作り直そう。暖かい世界を、希望に満ち溢れた世界を。天から星々が降り注ぐ中、少女達はいつまでも夢を見る。
別名:夜明けの魔女
真名:???
特徴:魔法少女の魔女が無数の魔女を喰らい、成長した姿。ワルプルギスの夜やヒュアデスの暁に並ぶ巨大な魔女。元の姿も元の心も跡形も無く消え去り、ただ夢見市の空で夢を見続ける魔女。白く輝く球体の上下に光輪がついた姿をしている。この魔女が出現すると夢見市の空は結界に覆われ夜のごとく暗くなるが、この魔女の後光が太陽のように地面を照らす。引力を操る力は強力になっており、大気圏外から小惑星を引き寄せ隕石の様に降らせている。
夢見る少女
夢見る少女。その役割はエンドロール。いつかどこかで見たような姿の、元よりあった魔力の一部。この先に待つ希望のために結界内の全ての命を奪い、空に流れるエンドロールに変えてしまう。その能力は高く、魔法少女にも匹敵するだろう。
別名:夜明けの魔女の手下(オツカイ)
真名:Blümchen
特徴:夜明けの魔女の覚醒に合わせ、夢見る人々が変化した使い魔。影魔法少女の様な姿をしている人型のもので、影魔法少女とは違いこちらは光輝いている。使い魔にしてはかなり高い戦闘能力を持ち、並みの魔法少女程の魔力を持っている。武器は様々。彼女達に殺された命は彼女達の手によって結界の空へと連れ去られ、エンドロールに名を連ねる事になる。
夢見る瞳
夢見る瞳。その役割は代役。いつかどこかで見たような姿の、トモグイされた魔力の一部。その目が映したことを夢見て、なりきることで夢を叶えようとする。
別名:夜明けの魔女の手下(モホウ)
真名:Dreamy Fidelio
特徴:欺く瞳と似た姿を持つ使い魔で、トモグイされた魔力の一部。黒かった羽は白い天使のような羽になっている。能力は強化されており、主以外のものを見る知能がついたお陰で様々な者をコピーする。
夢見る人形
夢見る人形。その役割は舞台の警備。いつかどこかで見たような姿の、トモグイされた魔力の一部。大好きな主と結ばれる事を夢見るが、主はもう何処にもいない。それでも主を探し続けて、夢見る町をさ迷い続ける。
別名:夜明けの魔女の手下(アイガン)
真名:Dreamy Baldur
特徴:逃げる人形と似た姿を持つ使い魔。みすぼらしい服を着ていた逃げる人形とは異なり、聖職者の様な服を着ている。もう何処にも居ない主を探して町を歩き、主でなかったものに八つ当たりをする困ったちゃん。
夜明けの魔女の結界
ワルプルギスの夜とは異なり、この魔女は結界を作成する。夢見市をまるごと飲み込む巨大な結界。空は真っ黒なスクリーンになっており、結界内で命を落とした者の名前がエンドロールとなって流れていく。
以下の2体はボツになった挙げ句使い魔達の噛ませ犬にされたかわいそうな子達です。思い付いたのが遅かったんや……。
未熟な太陽
未熟な太陽。その性質はせっかち。一刻も早く神になるため、絶望を望んだ魔法少女の成れの果て。希望に満ちた終わりを迎えた魂は、その見た目だけは立派な神へと変化した。
別名:蛇の目の魔女
真名:Gabriela
特徴:「へびのめ」ではなく「じゃのめ」の魔女。半分が銀色の太陽、半分が金色の月を象った仮面に、金銀入り交じった無数の腕が生えた魔女。足は生えておらず、下の方に生えている手を使って頑張って歩く。その神々しく強そうな見た目とは裏腹に攻撃手段は少なく、手を使ってタイヤのように回転して轢き殺すことしか出来ない。実は神々しい仮面は背中。魔女の顔は仮面の裏側にあるへびの目に似た1つ目。ちなみに手の数は1万は下らない(本人談)。
祈り呪う偽神官
祈り呪う偽神官。その役割はサバト。伝承に伝わる魔女の姿を真似た使い魔。もちろん不思議な力など持っているはずは無い。無意味な儀式を永遠に続ける粘土の人形。
別名:蛇の目の魔女の手下
真名:Rafael
特徴:四つん這いになったムキムキな人形の上に骨と皮だけしか無さそうなガリガリの人形か跨がっている。どちらも仮面をつけており、ムキムキな方は月を、ガリガリは太陽を象っている。奴隷のような格好をしたムキムキに対し、ガリガリは貴族の様な服装をしてムチを持っている。攻撃手段はこのムチのみ。体当たりもしてくるがガリガリが被害を被るだけである。
蛇の目の魔女結界
原住民を思わせる装飾で飾られ、古代エジプトを彷彿とさせる象形文字が書かれた木々が生えた森。魔女は森の中心の焚き木の上にいる。その周囲では何体もの使い魔が呪文を呟きながら、地面にハチドリの絵を描き続ける。
嘆きの鏡
嘆きの鏡。その性質は不平等。体の半分が鏡に埋まった魔女。右半分と左半分の体は仲が悪く、どちらが外に出るかでいつも喧嘩しているらしい。
別名: もう一人の魔女
真名:Johanna(Johannes)
特徴:体の半分が鏡に埋まっている魔女。右と左の半身ではそれぞれ違った特性を持ち、たまに体を入れ換える。右の体は手足の無い彫刻の様な女性の体。黒曜石の様な素材で出来ており、念動力で結界内の物を投げつけてきたり、呪詛に満ちた叫びで攻撃してくる。左半身は手と足のある大理石の男性。1本ずつしかない手足で器用に近距離戦を仕掛けてくる。
笑い貶す壺
笑い貶す壺。その役割は騙し絵。黒い背景の前に立つと向かい合う夫婦のようにも見える不思議な壺。けたたましい声で魔女の左右非対称な姿を嘲笑い、魔女の念動力で投げられる。
別名:もう一人の魔女の手下
真名:Escher
特徴:騙し絵として有名なあの壺とおんなじ形をしている。壺の中にあるのは下品な笑い声をあげる口だけ。ただ五月蝿いだけで何もしないが、魔女が投げる武器として沢山生産されている。
もう一人の魔女結界
美術館の様に赤い絨毯が敷かれた屋内の結界。そのほとんどが階段で構成されているが、登ったと思ったら下の階に到着したりと騙し絵の様に不条理な構造になっている。魔女もたまに迷う。