マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

24 / 27
わらい、わらい、わらう


SAVE22.笑い、嘲笑い、嗤う

 杏奈は一瞬で魔法少女に変身する。彼女の周囲を回る4枚の盾は、全てを拒絶する壁のようだ。

 

「杏奈!もう、やめてください!」

 

 私は変身せずに訴える。彼女はこの街を破壊した張本人だ。でも……根っからの悪人には見えないのだ。きっと、希望論ではあるけれど、彼女と分かり合えるのではないだろうか。

 

「杏奈……か。お前が初めてだよ、アタシの名前を呼んだのは」

 

 杏奈は一瞬だけ視線を下げ、元に戻す。その目に宿るのは覚悟。何を犠牲にしてでも、突き進むという意思。

 

「だが、もう何もかもが遅いのさ!じきにこの世界は破滅する。その邪魔はさせない!やれ、夜明けの魔女の使い魔共!」

 

 杏奈の合図で、光輝く少女達が動き出す。

 槍を持った少女が私めがけて突きを放つ。すると雨音さんの腕が横から伸びて槍を殴り、軌道を変えた。

 

「油断大敵、だよ。美亜ちゃん」

 

「詰めが甘いですわ」

 

 お嬢様が斧を横に薙ぐ。斬撃は衝撃波となり光輝く少女達の胴体を真っ二つに切り裂いた。

 

「ワタシハ、ミンナトイッショニタタカウ!」

 

 ユメミが小型の斧を杏奈に向けて投げる。

 

「ケッ、いち使い魔ごときが調子にのってんじゃねぇよ!」

 

 斧は盾に弾かれ、ユメミの元に戻る。あの盾をどうにかしないと、こちらの攻撃は届きそうにない。

 

「私は……やるしか、ないんですね」

 

 ソウルジェムに魔力を込め、魔法少女としての姿に変わる。杏奈と良く似たドレス。私は彼女のそっくりさんだった。でも今の私には、『私』がある。

 

「私はイレギュラーでも出来損ないでもない、有栖美亜(主人公)なんです!」

 

 杏奈の死角になるようにゲートを生み出し、カードを発射する。いくら強力なガード能力でも、感知できていない攻撃に反応できるわけ――

 

「ムダだよ、ムダ」

 

 杏奈は何も反応していない。盾が自動的に動き、カードを弾き飛ばしたのだ。

 

「な、何で……!?」

 

「考えてるヒマ、無いかも!」

 

 右手をドリルの様に変形させた雨音さんが凄まじいスピードで殴りかかる。だがその攻撃も、超速で反応した盾に阻まれた。おかしい、私も全てが終わった後に、やっと理解できた程のスピードだったのに。

 彼女の脅威となるものに反応して勝手にガードされるとでもいうのだろうか。

 

「このアタシに傷をつけるなんて不可能さ。お前らはただ諦めて、この世の終わりを鑑賞するんだな」

 

 時間稼ぎに特化した能力……。守りは固いけど、彼女自身の攻撃力はそこまで高くないのだろう。

 

「私、諦めが悪いんですよ」

 

 盾の数は4枚、それなら!

 私は懐から5枚のカードを取りだし、ゲートに投げ入れる。今まで飛ばしてきたカード達も、非戦闘時にひたすら投げ入れたものだった。どうやらこのゲートの中では、エネルギーが失われることがないらしい。

 

「―フルハウス―!」

 

 5方向からカードが襲いかかる。4枚の盾は1枚ずつカードを防ぐ。そして残りの1枚は、

 

「甘いッ!このアタシにそんな手は通用しないよ!」

 

 周囲を漂う穢れが盾の形になり、カードを受け止めた。

 

「甘いのは――そっちです!」

 

『ぶぅぅぅぅぅぅん!!』

 

 杏奈の足元に展開されたゲートから溢れだす手下達。たった4枚の盾では、全ての攻撃を防ぐことなど不可能だ。

 

「ぐっ!」

 

 手下達の体当たりを受け、杏奈は苦しげな呻き声をあげた。

 

「っ、ククク……少しはやるようじゃないか。だが、少し出来る程度だ!」

 

 4枚の盾が、手下達を殴る。圧倒的な固さは、鈍器として十分な役割を果たした。

 

「アタシが攻撃できないとでも思ったか?」

 

 杏奈の手に穢れが集まり、巨大な両手剣が現れる。輪郭すらおぼつかない霧の剣だが、その質量がひしひしと伝わってくる。

 

「ざァーんねんでしたァ!」

 

 剣が降り下ろされる。その直前に私は、ゲートから取り出した黒い宝石とソウルジェムを重ねた。

 

 轟音が鳴り響く。

 

「っ、美亜!?」

 

「美亜ちゃん!?」

 

 土煙の中、杏奈の高笑いが聞こえた。

 

「クハハハハハ……ハ?」

 

 次の瞬間、幾つもの手錠が杏奈の体を拘束する。あの巨大な剣が直撃したのにも関わらず、私の召喚した手錠の魔女は少し傷がつく程度で済んだようだ。

 

「ッ、お前、1体何を!?」

 

 杏奈の瞳に写るのは、巨大な金属の魔女に守られた私の姿。

 

「私の『友達』が、庇ってくれたんですよ」

 

 この魔女達も、私にとって大切な友達だ。

 

「さぁ、手錠の魔女!あのわんこ達の出番ですよ!」

 

 私の指示を聞いた手錠の魔女は、手下達を召喚する。拳銃に犬の手足が生えたような使い魔達。この子達には感覚器官が無いため、誤射ばかりする。……なら、感覚器官の代わりを用意すればいいのだ。

 

『ぶっぶーーー!』

 

 ゲートから飛び出した落書きの魔女の手下達が乗り物を捨て、拳銃犬に乗っかる。これが、私にしか出来ない戦い方。落書きの魔女の手下達のネーミングセンスに従って、拳銃の騎兵達を『バンバン』と呼ぶことにしようか。

 

「バンバン達、整列!狙いは愛里杏奈、射てぇっ!」

 

 拳銃の騎兵達が一斉に銃撃を始める。この手下達にはリロードという概念が無い。そのため弾幕が途切れることはない!信長さんもびっくりですね!

 

「クソがぁ……っ!」

 

 杏奈は4枚の盾を並べ、銃撃を防ぐ防壁を作り出した。これで盾は使えまい。そして――

 

「美亜!誉めて差し上げますわ!」

 

 自らの魔法で空中に浮かんだ真理が、重力と共に斧を叩きつける。

 

「チッ、耐えられるか!?」

 

 杏奈は防壁に使われていた盾を2枚使って斧の攻撃を受け止める。

 結論から言うと、斧の攻撃は耐えられた。

 

「今です!手錠の魔女!」

 

 巨大な手錠が盾を殴り付ける。それは何時だったか見たアニメのヒーローの、必殺技のパンチのようにも見えた。

 

「な――」

 

 絶え間無い銃撃で弱っていた盾が砕け、杏奈の体が吹っ飛ぶ。

 

「が、かは……っ……」

 

 そして彼女の体に、壊された夢見映画館の鉄筋が突き刺さった。

 

「ッ、アンナ!」

 

 それは今まで付き添ってきた情なのだろうか、ユメミは心配そうな視線を杏奈に向けた。

 

「……アタシの負け、か」

 

 杏奈の変身が解ける。鉄筋が突き刺さった腹部から、血がドクドクと流れ落ちていく。

 

「杏奈、あの魔女を止めてください!そして……私達と一緒に――」

 

「断る」

 

 私の最後の頼みは、速攻で断られてしまった。取りつく島もないようだ。

 

「……なら、わたくしがこの手で引導を渡してあげますわ」

 

 愛里杏奈は真理を見て、変わらねぇなと呟くと、目を閉じて語り始めた。

 

「……もう、夜明けの魔女は止まらない。とっくにアタシの支配から逃れているみたいだ」

 

「……どういう、ことだい」

 

「言った通りさ。あの魔女は誰にも操れない。ただ世界を滅ぼすまで止まらない」

 

 今も隕石は降り続け、その範囲は広がっている。そろそろ私達のいる外縁部にも到達しそうだ。

 

「さよならだ、魔法少女達。さぁ、アタシが魔女にならないうちに殺すんだな」

 

 そう言った彼女のソウルジェムは段々と黒く濁っていく。穢れが霧のようになって周囲に広がっていくが、それでも穢れていくスピードの方が速いようだ。

 

「……私がやります」

 

 ジョーカーのカードを片手に、彼女の前に立った。

 

「美亜……任せましたわ」

 

 真理は斧を下ろし、夜明けの魔女の方を向いた。

 

「さようなら、杏奈。私を産み出してくれた人」

 

 ジョーカーのカードはまっすぐ飛び、ソウルジェムに突き刺さった。

 

 パリン。

 

 命が終わる音がした。




22話でした。前編も残るはあと2、3話。後少し、このおかしな街にお付き合い頂けたら幸いです。

以下今回登場した使い魔の設定です↓
拳銃の騎兵(バンバン)
拳銃の騎兵。その役割は戦闘支援。有栖美亜の手によって産み出された、どの魔女の手下でもない使い魔。集団で相手を取り囲み、絶えない弾幕で殲滅する。
別名:有栖美亜の手下
特徴:手錠の魔女の手下に、落書きの魔女の手下が乗った使い魔。落書きの魔女の手下が操作しているため誤射は殆ど無い。何より数が多くその火力は申し分無い。欠点は非常にうるさいこと。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。