杏奈は一瞬で魔法少女に変身する。彼女の周囲を回る4枚の盾は、全てを拒絶する壁のようだ。
「杏奈!もう、やめてください!」
私は変身せずに訴える。彼女はこの街を破壊した張本人だ。でも……根っからの悪人には見えないのだ。きっと、希望論ではあるけれど、彼女と分かり合えるのではないだろうか。
「杏奈……か。お前が初めてだよ、アタシの名前を呼んだのは」
杏奈は一瞬だけ視線を下げ、元に戻す。その目に宿るのは覚悟。何を犠牲にしてでも、突き進むという意思。
「だが、もう何もかもが遅いのさ!じきにこの世界は破滅する。その邪魔はさせない!やれ、夜明けの魔女の使い魔共!」
杏奈の合図で、光輝く少女達が動き出す。
槍を持った少女が私めがけて突きを放つ。すると雨音さんの腕が横から伸びて槍を殴り、軌道を変えた。
「油断大敵、だよ。美亜ちゃん」
「詰めが甘いですわ」
お嬢様が斧を横に薙ぐ。斬撃は衝撃波となり光輝く少女達の胴体を真っ二つに切り裂いた。
「ワタシハ、ミンナトイッショニタタカウ!」
ユメミが小型の斧を杏奈に向けて投げる。
「ケッ、いち使い魔ごときが調子にのってんじゃねぇよ!」
斧は盾に弾かれ、ユメミの元に戻る。あの盾をどうにかしないと、こちらの攻撃は届きそうにない。
「私は……やるしか、ないんですね」
ソウルジェムに魔力を込め、魔法少女としての姿に変わる。杏奈と良く似たドレス。私は彼女のそっくりさんだった。でも今の私には、『私』がある。
「私はイレギュラーでも出来損ないでもない、
杏奈の死角になるようにゲートを生み出し、カードを発射する。いくら強力なガード能力でも、感知できていない攻撃に反応できるわけ――
「ムダだよ、ムダ」
杏奈は何も反応していない。盾が自動的に動き、カードを弾き飛ばしたのだ。
「な、何で……!?」
「考えてるヒマ、無いかも!」
右手をドリルの様に変形させた雨音さんが凄まじいスピードで殴りかかる。だがその攻撃も、超速で反応した盾に阻まれた。おかしい、私も全てが終わった後に、やっと理解できた程のスピードだったのに。
彼女の脅威となるものに反応して勝手にガードされるとでもいうのだろうか。
「このアタシに傷をつけるなんて不可能さ。お前らはただ諦めて、この世の終わりを鑑賞するんだな」
時間稼ぎに特化した能力……。守りは固いけど、彼女自身の攻撃力はそこまで高くないのだろう。
「私、諦めが悪いんですよ」
盾の数は4枚、それなら!
私は懐から5枚のカードを取りだし、ゲートに投げ入れる。今まで飛ばしてきたカード達も、非戦闘時にひたすら投げ入れたものだった。どうやらこのゲートの中では、エネルギーが失われることがないらしい。
「―フルハウス―!」
5方向からカードが襲いかかる。4枚の盾は1枚ずつカードを防ぐ。そして残りの1枚は、
「甘いッ!このアタシにそんな手は通用しないよ!」
周囲を漂う穢れが盾の形になり、カードを受け止めた。
「甘いのは――そっちです!」
『ぶぅぅぅぅぅぅん!!』
杏奈の足元に展開されたゲートから溢れだす手下達。たった4枚の盾では、全ての攻撃を防ぐことなど不可能だ。
「ぐっ!」
手下達の体当たりを受け、杏奈は苦しげな呻き声をあげた。
「っ、ククク……少しはやるようじゃないか。だが、少し出来る程度だ!」
4枚の盾が、手下達を殴る。圧倒的な固さは、鈍器として十分な役割を果たした。
「アタシが攻撃できないとでも思ったか?」
杏奈の手に穢れが集まり、巨大な両手剣が現れる。輪郭すらおぼつかない霧の剣だが、その質量がひしひしと伝わってくる。
「ざァーんねんでしたァ!」
剣が降り下ろされる。その直前に私は、ゲートから取り出した黒い宝石とソウルジェムを重ねた。
轟音が鳴り響く。
「っ、美亜!?」
「美亜ちゃん!?」
土煙の中、杏奈の高笑いが聞こえた。
「クハハハハハ……ハ?」
次の瞬間、幾つもの手錠が杏奈の体を拘束する。あの巨大な剣が直撃したのにも関わらず、私の召喚した手錠の魔女は少し傷がつく程度で済んだようだ。
「ッ、お前、1体何を!?」
杏奈の瞳に写るのは、巨大な金属の魔女に守られた私の姿。
「私の『友達』が、庇ってくれたんですよ」
この魔女達も、私にとって大切な友達だ。
「さぁ、手錠の魔女!あのわんこ達の出番ですよ!」
私の指示を聞いた手錠の魔女は、手下達を召喚する。拳銃に犬の手足が生えたような使い魔達。この子達には感覚器官が無いため、誤射ばかりする。……なら、感覚器官の代わりを用意すればいいのだ。
『ぶっぶーーー!』
ゲートから飛び出した落書きの魔女の手下達が乗り物を捨て、拳銃犬に乗っかる。これが、私にしか出来ない戦い方。落書きの魔女の手下達のネーミングセンスに従って、拳銃の騎兵達を『バンバン』と呼ぶことにしようか。
「バンバン達、整列!狙いは愛里杏奈、射てぇっ!」
拳銃の騎兵達が一斉に銃撃を始める。この手下達にはリロードという概念が無い。そのため弾幕が途切れることはない!信長さんもびっくりですね!
「クソがぁ……っ!」
杏奈は4枚の盾を並べ、銃撃を防ぐ防壁を作り出した。これで盾は使えまい。そして――
「美亜!誉めて差し上げますわ!」
自らの魔法で空中に浮かんだ真理が、重力と共に斧を叩きつける。
「チッ、耐えられるか!?」
杏奈は防壁に使われていた盾を2枚使って斧の攻撃を受け止める。
結論から言うと、斧の攻撃は耐えられた。
「今です!手錠の魔女!」
巨大な手錠が盾を殴り付ける。それは何時だったか見たアニメのヒーローの、必殺技のパンチのようにも見えた。
「な――」
絶え間無い銃撃で弱っていた盾が砕け、杏奈の体が吹っ飛ぶ。
「が、かは……っ……」
そして彼女の体に、壊された夢見映画館の鉄筋が突き刺さった。
「ッ、アンナ!」
それは今まで付き添ってきた情なのだろうか、ユメミは心配そうな視線を杏奈に向けた。
「……アタシの負け、か」
杏奈の変身が解ける。鉄筋が突き刺さった腹部から、血がドクドクと流れ落ちていく。
「杏奈、あの魔女を止めてください!そして……私達と一緒に――」
「断る」
私の最後の頼みは、速攻で断られてしまった。取りつく島もないようだ。
「……なら、わたくしがこの手で引導を渡してあげますわ」
愛里杏奈は真理を見て、変わらねぇなと呟くと、目を閉じて語り始めた。
「……もう、夜明けの魔女は止まらない。とっくにアタシの支配から逃れているみたいだ」
「……どういう、ことだい」
「言った通りさ。あの魔女は誰にも操れない。ただ世界を滅ぼすまで止まらない」
今も隕石は降り続け、その範囲は広がっている。そろそろ私達のいる外縁部にも到達しそうだ。
「さよならだ、魔法少女達。さぁ、アタシが魔女にならないうちに殺すんだな」
そう言った彼女のソウルジェムは段々と黒く濁っていく。穢れが霧のようになって周囲に広がっていくが、それでも穢れていくスピードの方が速いようだ。
「……私がやります」
ジョーカーのカードを片手に、彼女の前に立った。
「美亜……任せましたわ」
真理は斧を下ろし、夜明けの魔女の方を向いた。
「さようなら、杏奈。私を産み出してくれた人」
ジョーカーのカードはまっすぐ飛び、ソウルジェムに突き刺さった。
パリン。
命が終わる音がした。
22話でした。前編も残るはあと2、3話。後少し、このおかしな街にお付き合い頂けたら幸いです。
以下今回登場した使い魔の設定です↓
拳銃の騎兵(バンバン)
拳銃の騎兵。その役割は戦闘支援。有栖美亜の手によって産み出された、どの魔女の手下でもない使い魔。集団で相手を取り囲み、絶えない弾幕で殲滅する。
別名:有栖美亜の手下
特徴:手錠の魔女の手下に、落書きの魔女の手下が乗った使い魔。落書きの魔女の手下が操作しているため誤射は殆ど無い。何より数が多くその火力は申し分無い。欠点は非常にうるさいこと。