マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE23.終演のクインテット

 流れ星が落ちるまでに3回願いを唱えれば、その願いは成就するらしい。もしその迷信が本当なのだとしたら、今日だけで幾つの願いが叶うのだろう。

 

「キリがありませんわ!」

 

 巨大化した斧の一閃が、無数に湧いた光を肉塊に変える。

 

「っ、なんだいこの身体能力は!?」

 

 聖職者の様な服を着た人形達が、陣形を組みながら雨音さんに飛びかかる。

 

「アマネッ!」

 

 ユメミが聖職者の服を掴み、投げ飛ばした。すごい馬鹿力だ。

 

「手錠の魔女!やっちゃってください!」

 

 私がそう言うと、巨大な手錠が街を薙ぎ払い使い魔達を粉砕する。私はだいぶ良い魔女を仲間にしたようだ。

 

「……さて、一段落つきましたわね」

 

 手錠の魔女をゲートに仕舞ってから呟いた。

 まだまだ使い魔はいるが、波が一旦引いたようだ。この間に体制を建て直したい。

 夢見る明星は高空から私達を見下ろしている。あんな高さにいたのでは、こちらの攻撃は届きそうにない。

 

「……そういえば、キュゥべぇは何処に行ったのかな」

 

 雨音さんがふと呟いた。

 あんなやつ居なくたって構わないが、何と言うか……ほっとけない、気もする。うん、復讐は自分の手で、ってね!

 

「私、探してきます!」

 

「一人はダメですわ。わたくしも行きます」

 

「ボクも行くよ」

 

「ワタシモ、イクヨ」

 

 皆で頷く。少しずつ隕石の範囲は近づいてくる。それなのに、ちっとも絶望感なんて沸かなかった。

 

 

 あの魔女は、今まで見てきた魔女の中でも特別だ。街1つを飲み込む規模で現実世界に干渉する。そんなことが出来るのはあのワルプルギスの夜くらいだろう。もっともあの魔女が隕石を降らせたことは無いが。

 

『相変わらず外部との通信は出来ない、か』

 

 僕たちインキュベーターのネットワークに接続できない。それは僕が、あまりにも長い間魔女の結界にいたせいなのかもしれない。

 

『美亜、真理』

 

 そして雨音にユメミ。どうしてだろう、彼女達の名前を想うと、何処かが痛くなる。それは罪悪感か、それとも別の感情か。

 ……感情、か。

 僕たちインキュベーターにとってそれは、極めて稀な精神疾患でしか無かった。……長い間他のインキュベーターと通信しなかった結果、僕には自我というものが芽生えてしまったらしい。

 

『もう一度だけ、君達に……』

 

 隕石が目の前までやってくる。計算上、落下地点は今僕のいるここだろう。

 

 死にたくない。

 

 あぁ、そうか、そう言うことか。

 どうして魔法少女達が僕を恨むのか、ずっと疑問に思っていた。

 

『……わけが、わかったよ』

 

 目を閉じて、その時を待つ。僕の罪が絶たれるその瞬間を。

 

「―シャッフル―!」

 

 聞きなれた声に目を開くと、53枚のカードが隕石に向かって飛び、粉々に粉砕した。

 

「ふふふ、もう低火力だなんて言わせませんよ!」

 

 そう言った美亜は僕を抱え、皆の元に戻った。

 触れた彼女の腕は暖かい。それは、僕が初めて感じた温もりだった。

 

 

「キュゥべぇを捕獲しました!」

 

 私はキュゥべぇを抱き抱えダッシュ。いやぁ、隕石を破壊したのは爽快でしたね。グリーフシードが必須ですけど。

 

『……どうして、僕を助けたんだい』

 

 キュゥべぇは不思議そうに私に聞いてきた。相も変わらず口元も動かないポーカーフェイスで、何を考えているのか良くわからない。

 

「……あなたは、私を魔法少女にしてくれました。その恩返し、ですよ」

 

 キュゥべぇはきょとん、とした表情で私を見つめる。『わけがわからない』とでも言いたげだ。

 

『……僕は、君達に恩返しをされる資格はないよ』

 

 キュゥべぇはそう言うと、私から目を反らした。

 ……なんか、いつもとだいぶ雰囲気違いますね。

 

「いいんですよ、だまーって受け取っておけば!」

 

 それでもキュゥべぇは、納得いかない様子だ。

 

『……僕は今まで、何人もの少女を絶望させてきた。それは決して許されることじゃない』

 

「その通りですわ」

 

 キュゥべぇの言葉を断ち切るような、冷たい声。

 

「わたくしは絶対に、貴方を許しませんわ」

 

 真理は刺すような視線を夢見る明星に向けたまま言う。

 

「だけど――今までこの街を守る事が出来たのは貴方のお陰。それは事実ですわ」

 

 その街を蝕む存在も、元を辿ればキュゥべぇのせいだ。でも、悪人や事件、事故。魔女が関わっていない災厄は幾つもある。都市伝説こそ多いものの、この街で事件が少なかったのは真理が魔法少女になったからなのかもしれない。

 

「さぁ、キュゥべぇ。貴方も考えなさい。あの魔女を倒す方法を」

 

 キュゥべぇはしばらく真理の背中を見つめていた。

 相も変わらず隕石は降り注ぎ、結界に開いた穴は少し日光が差した後に閉じていく。

 

『……似たような魔女を見たことはあるけど、この魔女自体と出会うのは初めての事だ。データが足りない以上、この魔女に対する正確な対処法を考察することは不可能だ』

 

 ……まぁ、こんなのと何度も出会っていては、キュゥべぇだってただでは済まないだろう。今のところあの魔女はただ浮かんでいるだけで、攻撃らしい攻撃をしてくることはない。

 

「美亜、逃げる準備をしておきなさい」

 

「了解です!」

 

 キュゥべぇを肩に乗せ、すぐにゲートを展開できるように準備しておく。とりあえず様子見、と言ったころか。

 

「真理さん、まさか……」

 

「考えても分からないなら、先ずは殴ってみるしかありませんわ!雨音、ユメミ、2人には使い魔達の処理をお願いしますわ」

 

 意外とこのお嬢様は脳筋なようだ。でも、いくら考えていたって状況は進展しない。戦っていけば、何かが見つかるかもしれない。

 

「リョウカイ、ダヨ!」

 

 ユメミと雨音さんが頷く。真理が片手をあげると、私たちの体が上に落ちていく。

 

「……ちょっと酔うかもしれませんわ」

 

「え」

 

 今度は魔女に向かって落下していく。真理が制御しているとはいえ、これは怖い。

 

「おー!ジェットコースターみたいだね!」

 

「いや、気持ち悪いですってこれ!」

 

「ヒャッホー!」

 

「っ、来ますわ!」

 

 私達を狙い済ましたかのように隕石が落下してくる。

 

「任せて!」

 

 雨音さんの腕がドリルに変化し、伸びる。それは隕石を易々と貫通し、砕いた。

 

『気を付けて!こっちにも来てるよ!』

 

 目玉に白い羽根が付いた、何処かで見たような使い魔の姿。それは私たちの姿を見ると、その形を変化させた。

 

「っ、どういうことだい!?」

 

 私達の前に浮かぶのは、私達。こいつ、まさか私達を真似て……!?

 

『――――!』

 

 耳に残る不快な笑い声。雨音さんに似た使い魔が両腕にトゲを生やし、伸ばす。

 

「っ、能力までコピーするのかい!?」

 

 真理は私達を浮遊させるので精一杯だ。私が、真理を守っておかないと!

 

「ミア、ウシロ!」

 

 振り向くと、そこには私めがけて飛来するトランプ達。

 

「雨音さん、雨音さんの偽者はお願いします!」

 

 私も同じ数のトランプを投げて相殺する。私と同じゲートから、私にそっくりな偽者が現れた。

 偽者はニヤリと笑うと、新しいゲートを広げる。その中から現れたのは、真理さんを真似た偽者。

 

「ワタシニマカセテ!」

 

 ユメミが真理の偽者に切りかかる。斧と斧がぶつかり合い、火花が散る。

 ユメミは魔法少女では無いけど、その身体能力は高い。偽者なんかにはきっと負けないだろう。

 

『――――!』

 

 私の偽者が笑いながらカードを飛ばしてくる。カードは軌道を変えながら、私を追尾してくる。

 

「私の真似だけじゃ、私には勝てませんよ!」

 

 私には、偽者には無い『仲間』がいる。

 ゲートから伸びる2本の巨大な手錠。1つは飛び回るカードを打ち砕き、もう1つは偽者の体に巻き付いた。

 

「これで終わりです!」

 

 私は数枚のカードを纏めて飛ばす。カードは偽者の体内に深々と突き刺さると四方八方に飛び、偽者の体を内側から引き裂いた。

 

「ふぅ」

 

 一息ついてから、他の皆に目をやる。雨音さんも、ユメミも、偽者なんかには負けない。もうとっくに倒していたようだ。

 

「助かりましたわ、皆。そろそろ、魔女に近づきますわ」

 

 上に下に落ちながら進み、夢見る明星の真上に到達した。

 隕石はこの魔女には降ってこないようだ、これなら心置きなく魔女を攻撃できる。

 

「では、行きますわ!」

 

 私達にかかる重力が強くなり、落下し始める。最初に真理が、巨大化した斧を魔女の体に叩きつけた。

 魔女の外殻に亀裂が入り、その中身が露出する。幾つもの瞳が私達を見つめる。真っ黒で歪んだ、一寸の明かりもない空間。

 そこから影の腕が伸び、真理を掴まえる。

 

「真理!」

 

 カードを腕に向けて投げる。隙間無く一列に並んだカードは刃となり、影の腕を切り落とす。

 

「……か、感謝しますわ」

 

 夢見る明星の外殻に着地する。真理は何やら耳を真っ赤にして、そっぽを向いていた。

 

「っ、皆、あれ!」

 

 雨音さんが、魔女の体に入った亀裂を指差す。外殻が伸び、亀裂を覆い隠していく。

 

「っ、傷が……」

 

 自身を修復する能力、ですか!?

 その時、魔女のすぐ隣を隕石が落ちていった。

 

『……あれは!』

 

 隕石は結界の空を突き破って落ちてくる。その際に、少しだけ日光が魔女の体を照らした。

 

「焦げて、いるんですの……?」

 

 日光の当たったところから煙が出ている。日光の当たっている場所は、外殻が再生していない。

 

『この魔女は、日の光に弱いのかい?』

 

「わたくしに聞かれても困りますわ。……でも、その様ですわね」

 

 結界に開いた穴は閉じる。外殻から出ていた煙はなくなり、すぐに残っていた亀裂が塞がった。

 

「でも、日の光なんて、どうやって……」

 

 雨音さんが呟いた。

 この結界がある限り、この魔女が日光を浴びることはない。魔女の自己再生を防ぐためには結界を破壊しなくちゃいけない。でも、そんな手段があるのだろうか。

 

『魔女の結界を破壊することはほぼ不可能だ。途方もない魔力が必要になるだろうね。もし結界を破壊できるとしたら、それは奇跡の力だけだ』

 

 奇跡。魔法少女が生まれる瞬間に叶えられる、たった1つの希望。でももう私達は魔法少女だ。奇跡を起こすことなんて……。

 

「……ネエ、キュゥべぇ」

 

 ユメミが、私の肩に乗ったキュゥべぇに話しかけた。

 

『どうしたんだい?』

 

 ユメミは少し沈黙し、夢見映画館を一瞬だけ見てからキュゥべぇに言った。

 

「ワタシ、マホウショウジョニナル」

 

 胸を手に当て、覚悟を決めた表情を見せるユメミ。瞳は虚ろな赤のままだが、そこには確かに彼女の意志があった。

 

『……魔法少女になるということは、いずれ世界を呪う魔女になるということだ。それでも君は、本当に良いのかい?』

 

 声に抑揚はない、表情も動かない。なのに少しだけ、キュゥべぇが葛藤している様に見えた。

 

「待ちなさいキュゥべぇ、彼女は使い魔ですわ、魔法少女になれるわけが――」

 

「なれますよ、真理」

 

 そう、私は使い魔だった。何らかの過程で心を手にいれてしまった、不良品。でもそのお陰で、私は魔法少女になる資格が手に入った。

 

『そうだね。有栖美亜と言う前例がある。心、つまり魂。ソウルジェムの材料となるものがあるのなら、どんな存在にだって魔法少女になる資格がある。でも、僕は……』

 

「イイヨ」

 

 キュゥべぇの言葉を遮る様にユメミが言った。

 

「ドンナミライガマッテイテモ、私ハソレを乗り越える!」

 

 キュゥべぇはしばらくユメミの瞳を見つめ……頷いた。

 

『ユメミ、使い魔でありながら魂を手にした君は、その魂を糧に何を望む?』

 

 ユメミは叫んだ。自分の迷いを振り払うように、2度と戻れぬ世界へ一歩、踏み出すために。

 

「この結界を破る力、この夜を終わらせる力を!」

 

 ユメミの体が光輝き、その中からソウルジェムが生まれる。青を基調に、様々な色が混じ合うオパールの様な宝石。

 

『君の祈りはエントロピーを凌駕した。解き放ってごらん、その新しい力を!』

 

 光の中から青い剣が伸び、結界の空を貫いた。黒いスクリーンにヒビが入り、粉々になって消えていく。

 小さな宝石の煌めく、星空のような青いフード。服装は、夢見の魔女であったときの姿に似ている。

 

「この夜を、終わらせよう!」

 

 夜が明け、日の光が夢見る街を目覚めさせる。その眩しい光の中、ユメミは光の宿った赤い瞳と共に笑みを浮かべた。




5人目の魔法少女誕生。今回もお読みいただきありがとうございます。23話でした。次回、前編の最終回です。次の投稿は早くなると思います。それではまた次回、お会い出来たら幸いです。

以下キャラ設定↓

ユメミ
元・夢見の魔女の手下。夢見の魔女になった、或間夢見の死体を元に作られた。元々かなり強い使い魔であったため身体能力はかなり高い。言葉を覚えたばかりであるため、片言で拙い日本語を話す。

白い髪に、赤い瞳。キュゥべえと契約した後は瞳に光が宿った。服は夢見の魔女であった頃から着ていた黒いブレザーの様な服とミニスカートしか持っていない。

キュゥべえへの願いは、『夜を終わらせる力』。夜明けの魔女結界を打ち破るために契約した。契約の結果手にいれたのは『呪いの否定』。使い魔や魔女結界など、魔女によって産み出された全てを否定し、消滅させる。対魔法少女戦ではほぼ役に立たないが、美亜の様に魔女が戦力の一部になっている相手に対しては強い。

ソウルジェムはオパールの様に様々な色が混じっている。魔法少女としての装備はフードの色以外は夢見の魔女と同じ。フードは暗い夜空の様な青をしている。また細かい宝石が無数に織り込まれており、まるで満点の星空のようにも見える。武器は剣。夜空の様な暗い青の刀身と金色の持ち手を持つ。武器はこれ1つの為投げたりは出来ないが、伸縮自在であり便利。
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