マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE24.コネクト

 街全体を照らす日の光は、夢見る明星の体を焼いていく。外殻は爛れ、ドロドロとした影の塊が街へと落ちていく。

 いや、影だけじゃなくって……!

 

「ま、真理さん!この魔女も落ちてるよ!」

 

 でも、大丈夫。こんなときのためにゲートの準備をしていたのだから。

 

「皆さん、一回退避しますよ!」

 

 足元に大きなゲートを展開し、落下した魔女のすぐ隣までワープした。

 

『―――!!』

 

 影から聞こえる、泣き叫ぶような声。窓ガラスを割るほどの大きな声は、私達の肌を震わせる。

 影の塊には外殻だったと思われる白い破片が混じっている。影は私達を憎々しげに睨み付けると、その形を変え影の腕を伸ばしてきた。

 

「させない、です!」

 

 ユメミの突き出した剣が伸び、ぐるぐると渦を巻く。それは刃の盾となって影の腕を引き裂いていく。

 だが影の腕は、いくら切り裂かれてもすぐに再生していく。

 

『本体の影を使って腕を修理しているみたいだね。限りはあるだろうけど、これでは防戦一方だ』

 

 魔女はどんどん影の腕を生やしていく。あれが全部再生能力持ちだってことを考えると、憂鬱になってきますね。

 

「なら、一撃で倒した方がよいですわね」

 

 いくら倒しても再生するなら、その大元を潰さなくてはならないだろう。

 

「危ない、美亜ちゃん!」

 

 雨音さんが私を突き飛ばし、私の背後から迫っていた腕を蹴り飛ばした。影の腕は脆く簡単に吹き飛んでいく。

 

「……ふぅ、大丈夫かい?美――」

 

 吹き飛ばされた腕の残骸から、黒いトゲが伸びていく。

 

「っ、雨音さん!」

 

 時間がゆっくりに感じた。何か、どうにかして雨音さんを助けないと!でも、カードを盾にしてもあの攻撃を防げない。

 

 私のゲートの中ではエネルギーが保存される。

 

 そんな事は、通常あり得ないことなんだ。摩擦熱の様に、エネルギーは段々とすり減っていく。でも私の空間ではそんなルールは働いていない。

 

 あの空間は……『何処』なんだろう。

 

 体が勝手に動いていた。天空に巨大なゲートを作り、その中から何かを引っ張り出す。

 

「え、何ですか!?これ!?」

 

 我に返り空を見上げると、巨大なギロチンが落下してきた。

 ギロチンは腕の残骸を押し潰す。トゲは雨音さんに到達する前に崩れ落ちた。

 

「美亜……貴女一体何を……」

 

「わ、私にも分かりませんよ!」

 

 本当に、何がどうなっているのか分からない。私はゲートに処刑マシンを突っ込んだ覚えなんて無い。

 

『このギロチンは……何なんだい?これは、魔女の魔力なのか……?』

 

 キュゥべぇは不思議そうにギロチンを見つめている。ギロチンは木の柱が切断されていて、まともに使うことは出来なさそうだ。

 

「今は、こっち、戦う!」

 

 そんなユメミの声にハッとした私達は魔女に向き直った。魔女は刃の盾に手を伸ばしては、その腕を引き裂かれていた。学習しないのか、学習するほどの力すら残っていないのか。

 

「みんな、力、貸して!」

 

 グリーフシードがどうとか言っていられないだろう。空が赤く染まっていく。早いところ止めをささなければ、本物の夜になってしまう。

 私達は頷き合うと、自らの魔力をユメミに捧げた。

 

「……ありがとう、皆」

 

 ユメミが青い剣を天に掲げる。私達の魔力を受け取った剣は天高く伸びていく。

 

「……さようなら、私」

 

 ユメミがそう呟くと、青空と雲を破り、宇宙から何かが墜ちてくる。

 それは幾つにも別れた青い切っ先。それは流星群の様に光を纏い、夢見る明星を串刺しにした。

 

 

 

 

『あのギロチンは、どうやら魔女の体の一部みたいだ。でも、僕はそんな魔女を見たことがない。それにこのギロチンの付いた魔女が持つ魔力は、真理のものととても良く似ているんだ』

 

「真理の魔力と?」

 

『うん。でも真理は魔女になっていない。だからこれは、この世界の物では無いんだろう』

 

「この世界じゃ無いなら、どの世界だって言うんですか?」

 

『……魔法少女は、やっぱり無限の可能性を秘めているようだ。有栖美亜、僕はずっと、君のゲートの事を疑問に思っていた。あのゲートの先は、何処に繋がっているんだろう、ってね』

 

「キュゥべぇって話長いですね……」

 

『だけど今なら、1つの仮説を立てられる。君は、パラレルワールドって知ってるかい?』

 

「ええ、まぁ。もう1つの世界、でしたっけ?っていうかスルーですかそうですか」

 

『そうだよ。もう1つ、と言うのは語弊があるかもしれないね。世界は様々な選択肢で分岐していて、その結果出来た幾つもの世界が平行に並んでいるんだ』

 

「つまり、パラレルワールドが幾つもある、と」

 

『そう。時間軸、と言っても良いかな。話を戻すと、君のゲートに繋がっている空間は、時間軸と時間軸の境目だと考えられる。残念ながら、推測の域を出ないんだけどね』

 

「……わけがわからないよ」

 

『僕にだってわからないさ。それと、ここで駄弁っていても良いのかい?そろそろ挨拶に行くべきだろう』

 

 そう、でしたね。

 

「先日、1年前に行方不明となった百合吾あぐりさんが死体となって発見されました。ここ1年で、同じように少女が行方不明となる事件が多発しており――」

 

 私はテレビを消し、服を着替えた。もう、この街に夢見中学校はない。あれも夢見の魔女が作り出したものなのだから当然だ。だから今私が着ているのは、新しい学校の制服。

 

「見滝原中学校、ですか」

 

『見滝原にはここ最近、異常なまでに魔女が集まってきているらしい。それと――ワルプルギスの夜も近づいてきてるみたいだ』

 

 私は新しい世界を知りたかった。魔女の結界の中で生を受け、その中で死んでいる予定だった命。だけど折角生き延びたのだ。使い魔生をエンジョイしたいのだ。

 ま、今はそんな事は良いんです!

 

「行きますよ、キュゥべぇ」

 

 私は半壊したアパートを飛び出し、真理の豪邸へやって来た。

 

「本当に、行くのですわね」

 

 真理は少し心配そうに私の頭を撫でた。

 

「もし魔法少女に会っても、安易に自分の力を明かしては行けませんわ。もしかしたら戦うことになるかもしれないですわ。それに――」

 

「まぁまぁ真理さん、心配なのは分かるけどさ、美亜ちゃんは強いから大丈夫だよ!」

 

 そう言った雨音さんはリュックサックを背負っている。雨音さんはこれから風見野市に戻るみたいだ。

 夢見る明星を倒した後、この街に現れる魔女は半分以下になった。元々雨音さんは夢見市の異変を調べるために来ていたようだ。

 

「辛ければ、戻ってくる。お姉ちゃん、待ってる」

 

 ユメミは家族も家もないから、しばらく真理のお世話になる。なんと意外にも料理が上手で、このまま家でシェフをやってくれても良い、と真理がこっそり言っていた。

 

「ふふ、皆、ありがとうございます」

 

 この街で出会った、かけがえのない仲間達。目の前に広がるのはそれぞれ違う道だけど、私達は強い絆で繋がっている。

 

『美亜、雨音、そろそろバスが来る時間だよ』

 

 もう、そんな時間ですか。もう少しだけ話していたかった。

 

「そっか、もうか。まぁでもそこまで遠い街じゃ無いからね、連休でもあったら遊びにいくよ」

 

「そうですね!」

 

「ええ、待ってますわ」

 

「待ってる、またね!」

 

『真理、ユメミ、今までありがとう』

 

 私と雨音さんは手を振りながら、真理の豪邸を後にした。キュウべぇは私の肩に乗っかったまま動いては居なかったが、その無機質な表情は何処か寂しげだった。

 

 

「はぁー、風見野かぁ……」

 

 バス停からバスに乗る。風見野を経由して見滝原に向かうバスの中、雨音さんが吐き出すように呟いた。

 

「嫌なんですか?」

 

「嫌って訳じゃないけど……」

 

 雨音さんが首を横に振る。漫画とかで見るような、『やれやれ』といったポーズ。

 

「実は風見野にはもう一人魔法少女が要るんだけどさ、その子ってほら、使い魔倒さないタイプの人だからさ」

 

「あー……」

 

 雨音さんの言いたいことは分かる。ほっとけないのだろう。使い魔も、その魔法少女の事も。

 バスは走り続ける。偽りの近代化が崩れ、元の自然が目立つようになった夢見市を背に。

 

 いつかまた、皆で集まりたい。その時は魔女狩りなんかじゃなくて、カラオケに行ったり、ゲームセンターに行ったり。

 見滝原まではまだまだ時間がかかるだろう。私は目をつむり、そんな日常の夢を見た。




これにて夢見市編は完結となります。これまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました!

まだまだ謎な部分も多いかと思われますが、それは見滝原編での伏線、ということで。
伏線と言うものを張ってみたくて始めたこの作品ですが、しっかり出来た気がしません。やたらと感情的だったキュウべぇに、絵にかいたような空。なんにせよコレジャナイ感が凄いです。

それでは、このような拙い作品を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
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