SAVE25.喪失少女は兎と出会う
黒いもやを帯びた目玉が沢山浮いている。ひとーつ、ふたーつ。
「数えるのが面倒になってきますよ、ホント」
ケーキのような足元に突き刺さる紫色の針。これが今回の魔女だ。とはいえ、もうこいつ自体は何もやってこないだろう。
目玉は私を睨み付けると、纏った黒いもやを針のようにして伸ばしてきた。
「遅いんですよ!」
私はその場で跳躍して刺突を回避し、それを足場にして近距離戦闘をしかけた。
「―ストレート―!」
私の手の延長線上に5枚のカードが連結し、小さな剣を形作る。
カードの剣は目玉を真っ二つに切り裂いた。切られた目玉から、血液の様に生クリームが吹き出す。
「そろそろ、フィニッシュですよ!」
にじり寄ってくる目玉達を踏み台にして紫色の針……魔女に近づく。針のてっぺんには、抱き合う2人の少女のようなオブジェクトがあった。
「―フルハウス―!」
ゲートから放たれた5枚のカードと共に、カードの剣を魔女の体に突き刺した。
「いっちょあがり!ですね!」
『お見事だね。君も随分と強くなったね』
揺らぎ、消えていく結界の中でキュゥべぇが言った。感情を手に入れたらしいこいつは、私の魔女退治に同行してくる事を選んだ。まぁ、グリーフシードの処理とか色々やってもらうこともあるので便利と言えば便利だが。
「当然ですよ。ってかあんなでっかい魔女倒したのに弱いままなんて嫌ですよ」
ほら、レベルアップ的な。この世界がゲームじゃない事は分かってるつもりだけど、ゲーム脳って怖いんですねぇ。
『今回の魔女も中々の大物だ。結構大きなグリーフシードを落とした筈だよ』
結界が消え去り、見えてくるのはごみ袋が集まったごみ捨て場。丁度ビルの真下にあって、ここで自殺してくる人を待ち構えていたのかもしれない。
私はごみ袋に突き刺さっていたグリーフシードを手に取る。グリーフシードは魔女によってちょっとずつ形が違う。このグリーフシードはロウソクの様な飾りがついていた。
「いやぁ、中々良きものを手に入れましたねぇ」
まぁ、そこまでグリーフシードに困っているわけでは無いんですけどね。それでも貴重なものには変わり無いので、私はそれをゲートの中にしまっておく事にした。
『それで、暗くなってきた様だけど、今晩の宿はどうするつもりなんだい?』
うーん、考えていなかった。ついさっきこの街に到着したのだ。ここの中学校には(魔法で)入学手続きをしておいたが、住む場所を失念していた。
「……ここをキャンプ地としましょうか」
『ごみ捨て場をかい?』
「あなたにはお似合いですねキュゥべぇさん」
『それは酷いんじゃないかな』
それは冗談として。本当にマズイ。出来れば野宿はしたくない。なぜなら私は可愛い可愛い主人公だから。
『わけがわからないよ』
「わからなくて結構です。取り合えずぶらぶら探しましょうかねぇ」
そんなことを言いながらごみ捨て場を後にすると、キュゥべぇが突然叫んだ。
『美亜!また魔女が来たみたいだ!』
「早すぎません!?」
とはいえ折角のグリーフシードを取り逃したくはない。私はキュゥべぇに先導させ、それを走って追いかけることにした。
人ごみを抜け、人気の無い道へ。たどり着いたのは廃工場だった。従業員が居ないのは勿論だが、ここにたむろする様なガラの悪そうな人達も居ない。
『間違いない。ここに魔女の結界があると思うんだけど……』
「だけど……なんなんですか?」
キュゥべぇは首をかしげながら言う。
『どうにも不可解だ。ここの魔女は何処かからやって来たんじゃなくて、急に現れたみたいなんだ』
突然現れた?それはもしかして、魔法少女が、魔女に……?
『理由は分からないけど、いつも以上に気を付けてね、美亜』
「当然です!」
廃工場の扉を蹴破る。そこにあったのは絵本の様な紋章に飾られた、結界への入り口。
「行きますよ!」
私はキュゥべぇを肩に乗せ、その結界に飛び込もうとした。
だがその瞬間、結界が消えてしまったのだ。
「ちょっ、えぇっ!?」
そして結界の中から一人の少女が現れ、倒れた。
「え、あ、だ、大丈夫ですか!?」
私はその少女に駆け寄る。金髪で、ドリルのような髪のツインテール。
その手には、今にも孵化してしまいそうに穢れたソウルジェムが握られている。
「あな、たは……?」
金髪の少女は弱々しく私を見上げた。
私はゲートの中から、さっき倒した魔女のグリーフシードを取り出す。
「っ、それ、は……!」
「大丈夫ですよ、安心してください」
グリーフシードをソウルジェムに重ねると瞬時に穢れが消え去り、ソウルジェムは元の輝きを取り戻す。
「えっと、ありがとう。助かったわ」
ソウルジェムが魔力を取り戻したことで体調も良くなったのか、金髪の少女は起き上がった。
「私の名前は巴マミ、魔法少女みたいだけど、貴女は?」
なるほどなるほど。私の名前をご所望か。私は穢れが一杯になったグリーフシードをキュゥべぇに向けて投げる。
「私の名前は有栖美亜、違う街から来た魔法少女です」
そう言って、彼女の前で変身して見せる。穢らわしいどどめ色のソウルジェムは今日も元気に輝いている。
「そう。どうして、私を助けてくれたの?」
巴さんを助けた理由、かぁ。
それはとっても不純なものだ。私は、私の約束を果たしただけ。
「昔、とある先輩魔法少女と約束したんです」
「……?」
ともあれ、これで約束は果たしました。
そのままその場を去ろうと背を向けたとき、巴さんに呼び止められた。
「いやぁ、ケーキまで貰っちゃって悪いですね」
断じてケーキと紅茶につられた訳ではない。巴さんの顔を立ててあげただけです。
『誰に対して言い訳をしてるんだい?』
「さっきからナチュラルに心を読まないでくれます?」
私とキュゥべぇのそんなやり取りを見て、巴さんはおかしそうに笑った。
「ふふっ、今日のキュゥべぇ、ちょっと元気みたいね」
『……いや、それは僕じゃないよ』
頭のなかに響くもう1つの声。何処からともなく現れた2体目のキュゥべぇが机の上にちょこんと乗っかった。
「え?キュゥべぇが……2人?」
2体のキュゥべぇは互いの瞳をみつめあう。感動の再会ですねわかりま――
『……どうして君がここにいるんだい?』
もう1体のキュゥべぇが怪訝そうに言った。どうやら歓迎されていない?
『やぁ、久しぶりだね。君達と会うのは丁度2年ぶりなのかな』
互いに無表情。キュゥべぇには個体差と言うものがないようで、見分けは全くつかない。
「ちょ、ちょっとキュゥべぇ、どういうことなの?貴方、何人も居たの?」
巴さんはキュゥべぇが複数いることを知らなかったようだ。まぁ、私も知らなかったんですけどね。
『そうさ。魔女は世界中にいるからね。1つの体ではとても足りないよ』
ってことはこの白いのは世界中に湧いているんですね。もし1ヶ所に集めたときにはおぞましいことになりそうだ。
『君とははじめまして、になるんだね。よろしくね、巴マミ』
そんな素晴らしい営業スマイルを見せたキュゥべぇに対し、巴さんもまた笑顔で答える。
「えぇ、よろしくね。キュゥべぇ……あ、でもこっちのキュゥべぇと区別が……」
巴さんは私についてきたキュゥべぇと、この街にいたキュゥべぇを交互に見やった。
「キュゥべぇAとかキュゥべぇBとかでいいんじゃないですか?」
『ゲームじゃないんだから……』
「そうよ、有栖さん。なんならキュゥべぇアインとかキュゥべぇツヴァイとか……」
『訳がわからないよ』
……だめだ。本当にどっちがどっちだか分からなくなる。
『まぁ、無理に区別しなくても良いんじゃないかな』
私の近くにいるキュゥべぇがそう言った。まぁ、出来ないものをするのも面倒だ。どちらの近くにいるのかである程度の区別は出来るだろう。……それに、こっちのキュゥべぇにはあちらにはない感情があるのだ。
「ふふ、まぁ、何か良い案が思い付いたら……ってことで」
2匹のキュゥべぇを見て優しげな微笑みを浮かべた巴さんは、私に向き直った。
「そう言えば有栖さんは他の街から着たのよね?なら、その制服は?」
巴さんが指しているのは私の着ている服だ。私が着ているのは見滝原中学校の制服。他の街から来た筈の子が持っているのはおかしいだろう。
「あぁ。私、見滝原中学校に転校することになってるんです。私くらいの年の子が学校行かずにブラブラしてたら、何か言われそうなので……」
「そう、なら、暫くこの街に住むのね」
「あー……その事なんですけどね……」
私はこの街にやって来たのは良いが、住む場所を失念していたことを伝える。その話を聞いた巴さんの瞳が、僅かに輝いた気がした。
「あらあら、うっかりしてるのね」
「えへへ、お恥ずかしながら……」
「なら……住む場所が見つかるまで、私の家に泊まってみない?」
ケーキ、広い部屋、戦力。それは私にとって、とても都合の良い提案だった。
今回から見滝原編になります。今作品でのマミさんはちょろめです。はたして主人公はフリーダムさを発揮できるのでしょうか。
それではまた次回、お会いできたら嬉しいです。
魔女設定↓
バースデーケーキの魔女
バースデーケーキの魔女。その性質は喪失。喪ったものを忘れられず、何時までも誕生日会を続ける魔女。涙を流しろうそくの火を消そうとするが、油の涙は火の勢いを更に強くする。
特徴:巨大な紫色の針の上部に、幾つもの瞳がくっつきキノコの様な形になっている。体はバースデーケーキの様な結界に突き刺さっており、一つ一つの瞳が油の涙を流している。この油は強力な酸でもあり、金属で出来た物なら一瞬で溶かしてしまう他、肌に触れると火傷する。
バースデーケーキの魔女の手下(悪魔達)
バースデーケーキの魔女の手下。その役割は八つ当たり。復讐出来なかった臆病な魔女のために作られた、ろうそくの様な姿をした的。彼らの火を全て消すことが出来れば魔女の未練は消え去るが、魔女の流す油の雨がそれを許さない。
特徴:針金の手足が生えた人間ほどの大きさのろうそく。火の強さに合わせてこの使い魔も強くなる。ろうそくの火を飛ばすこともできるが、火が消えてしまうと動けなくなってしまう。数は10体。少ない代わりに他の魔女の使い魔よりは強い。
バースデーケーキの魔女(再誕)
バースデーケーキの魔女。その性質は喪失。全てのしがらみを失い、元の姿を取り戻した魔女。もう悲しむことはない。ただ絶望的な救いの中で、自らの終わりを待ち続ける。
特徴:使い魔の火が全て消え、復讐を果たした魔女の本当の姿。くっついていた瞳は全て転がり落ち、紫色の針だけが残る。針の先には、抱き合う2人の少女を象ったオブジェがついている。
バースデーケーキの魔女の手下(再誕)
バースデーケーキの魔女の手下。その役割は駄々こね。まだ復讐は終わらせない。どうしても残ってしまった魔女の怨嗟が瞳に取り付き動き出した。その目に写る全てを破壊するまで止まらない。
特徴:バースデーケーキの魔女から零れ落ちた瞳。黒いオーラを纏っており、それを触手のように伸ばして突き刺したり巻き付いたりする。その目に写る全てを無差別に攻撃するため、魔女自身もこの使い魔に殺されてしまう。
バースデーケーキの魔女結界
ガレキや不法投棄された様なごみ袋で溢れた廃墟のような結界。ごみ袋の中は失敗したバースデーケーキの材料。クリームやイチゴなどが入っているが、すでに腐っている。魔女のいる空間は巨大なバースデーケーキの様なステージ。魔女はそのケーキに突き刺さっている。
絵本の魔女
絵本の魔女。その性質は邪知。悪意の無い邪悪の結晶。絵の中の世界から幻を呼び出し襲わせる。
特徴:ハードカバーの絵本の魔女。幼児向けの物でページ数は少ない。相手が恐れるものに合わせて、ページを変えて幻を召喚する。本編では結界しか出てこなかった。
絵本の魔女の手下(目安箱)
絵本の魔女の手下。その役割はアンケート。侵入者が恐れるものを読み取る。だが極度の面倒くさがり屋で、魔女の元に情報を届けようとしない。
特徴:結界の中に複数設置された監視カメラの様な姿の使い魔。虫のように6本の足が生えている。そのカメラに映されたものは心の奥底にあるトラウマを読み取られてしまうが、魔女に報告しようとしない。そのためわざわざ魔女が結果を見に来る。
絵本の魔女の手下(悪夢の権化)
絵本の魔女の手下。その役割はトラウマ。目安箱のデータを元に、魔女によって召喚される幻の使い魔。実体は無いため倒すことは出来ない。
特徴:絵本の魔女によって召喚される幻の使い魔。霧のような体を持ち、触れることは出来ないが触れられる事もない。本来の姿は誰も知らない。倒す必要もないが、この使い魔をスルーして魔女に突っ込む勇気が必要となる。
絵本の魔女結界
図書館の様な迷路で、天井が見えない。本棚一つ一つに監視カメラの使い魔が設置されている。魔女は自らの部屋を持たず結界内を巡っている。