夢見市は小さな街だ。……いや、小さな街の筈だった。
『召喚』した魔女には、とりあえず異空間の中に入ってもらっている。本当に味方になってくれたようで、私の言うことを素直に聞いてくれた。
今、私はパソコンを使って市の公式ホームページを見ている。
夢見市はここ1、2年で急速『過ぎる』成長を遂げた。具体的に言うのであれば、ついこの間まで何もなかった土地に、いつの間にかタワーが出来ていたり。それが他でもない、夢見タワーだ。タワーの周囲を囲むビル群もほぼ同時に建った。また今の人口は2年前と比べると約2倍となっている。確かに元々の人口は少なかったが、たった2年でそこまで街が成長するのは、明らかに異常だった。
『この街に魔女が集まってくるのは、そんな急速な変化が原因なのかもしれないね』
私の隣でサイトを見ていたキュゥベえがそう呟いた。
私は公式ホームページを閉じると、巨大掲示板の、とあるスレッドを開く。
悪魔の街、夢見市に行ったけど質問ある?
スレッドのタイトルは、そんな少しふざけたようなものだった。
私の住んでる街が悪魔の街と呼ばれていることに驚きながら、ページを読み進めていく。今まで調べたことなかったから知らなかったが、どうやら夢見市には幾つもの都市伝説なるものが存在しているらしい。
「ドッペルゲンガー、局地的な天気の違い、そして……黒いフードの魔法少女?」
私以外にも、この街に魔法少女は居るのだろうか。……いるのだろう。実際に見た人がいるらしいし。
私としては、ドッペルゲンガーが気になった。どうやらもう1人の自分に出会うと言うわけではなく、夢見市では同じ顔の人間とよく出会うと言うのだ。それも異常な頻度で。例えばさっきすれ違った人とそっくりな人が前から歩いてきたり。
……よくよく考えてみれば、私にそっくりな人間に会った事がある気がする。その子は私と違って両目とも黒色であったが。
そんな幾つもの都市伝説から、ネットでは夢見市自体が都市伝説の様に扱われているようだった。
「まぁ確かに……よくよく考えてみれば可笑しなものばっかりですよねぇ……」
今どき田舎でも見ないようなB級映画が上映される映画館に、そっくりさんだらけの中学校。……そういえば、私の通う市立夢見中学校と違って私立の聖ドレアン学院付属中学校ではそっくりさんを見なかった気がする。
『確かに、この街には不可解なことが多いね』
キュゥベえは部屋の窓から空を見上げ、呟いた。
『実は、この街にいる女の子の殆どが魔法少女の素質を持っていないんだ。他の街なら素質が低くても、もっと沢山居るんだけどね』
なるほど、最初に駄目で元々と言ったのはそのせいでしたか。
「……そういえば、この街に私以外の魔法少女はいるんですか?」
私はパソコンの電源を切り、2人分の紅茶とお茶菓子を用意しながらキュゥベえに問いかけた。
『あぁ。この街には君を含めて3人の魔法少女が居るよ』
ってことはその内の1人が黒いフードの魔法少女なのだろう。
私がキュゥベえに紅茶とお茶菓子を勧めると、キュゥベえはありがとう、と言いながら紅茶を飲む。よくもまぁ、触手を器用に扱うものだ。
「……そういえば兎とか猫って紅茶飲むんですかね」
自分で出しておきながら随分な疑問だが、実際のところどうなのだろうか。私はキュゥベえに早く答えろよ的な視線を投げ掛ける。キュゥベえは視線を察したのか、食べかけのサブレをお皿の上に一先ず置くと、話し始めた。
「君達はいつもそうだ。確かに僕の見た目は君達の言う兎や猫に似ているけど、僕は知的生命体だよ?」
何か気に入らないことでもあるのだろうか。心なしかキュゥベえが早口になっている気がした。
「あー……そうですよねー……」
この件に関しては触れないでおこう。なんか地雷を踏んでしまったようだ。
『分かってくれればいいんだ。そうだ、有栖美亜。これは皆にしてるアドバイスなんだけど、魔女はいつ現れるか分からない。だから、あらかじめグリーフシードを貯めておくべきだと僕は思うよ』
確かにキュゥベえの言う通りだ。せっかく手にいれた魔法の力が使えなくなるのはごめんだ。
次の日。私は学校で授業を受けていた。面白くもない授業、面白くもないクラスメイト。それでも私は、ここに居るのが役目なのだ。
隣に座る私にそっくりな女の子が立ち上がり、教科書を読み上げた。
『―――』
どうしてだか知らないけど、その声は遠くて、私の耳に入ってくることは無かった。
放課後、私はキュゥベえを肩に乗せ街を歩き回った。だけど残念なことに1匹たりとも魔女を見つけることは出来なかった。
幸いにも今日は金曜日なので、明日は学校がない。だから思う存分魔女を狩りに行けるだろう。
「ま、明日やりますよー明日」
『……明日やろうは馬鹿野郎って言葉を聴いたことがあるよ』
「あーあー聞こえなーい」
そもそも魔女が居ないのだから仕方がないだろう。
私は冷蔵庫の中から今日の分の冷凍食品を取り出すと、それをレンジの中に放り込む。
『そういえば君は、独り暮らしなのかい?』
「独り?そうですよ。ずっとずっと独り暮らしです」
いつ頃からこの暮らしが始まったのだろう。私の記憶の中に、私以外の人間は居ない。……普通に考えれば、たしかにおかしい。私の親は何処に居るのだろうか。
『なるほどね……』
やっぱりか、通信ができないのは、そんなキュゥベえの小さな呟きは、電子レンジから発せられた音に掻き消された。
今日の冷凍食品は、焼きそば。何だかんだ言って麺類は楽だ。……米でもパンでもチンするだけなのだが。
「いただきます」
焼きそばを食べながら、テレビを見る。テレビでは下らないニュースが流れている。なになにさんの猫が見つかったとか、街の南で怪現象が!?とか。
「ローカルニュースって平和ですよね」
キュゥベえは答えなかった。何か考え事をしているようだ。
少しムッと来た私は考えに夢中で周囲が見えていないキュゥベえの触手を結んでおくことにした。うん可愛い可愛い(笑)。
……はぁ。
『続いてのニュースです。夢見タワー前の商店街にて、タバコが勢いよく燃焼する事故が発生しました』
へぇ……。ニュースによると、歩きタバコをしていた男性の持っていたタバコが急に大炎上。あわや大火事になる所だったらしい。今までの私ならフシギナハナシダナー、で終わっていただろう。でも、魔法少女になってこのニュースを見てみると、随分と『臭ってくる』。
「突然、勢いよく燃焼ねぇ……」
十中八九、魔女か魔法少女の仕業だろう。前者はともかく後者の場合はいまいち何がしたいのかよくわからないけど。
「不思議ですね、キュゥベ……あれ?」
いつの間にか、キュゥベえは何処かへ行ってしまったようだ。他にも魔法少女がいるらしいから、もしかしたらそっちに行っているのかもしれない。
「……浮気者め」
冗談半分にそんなことを呟きながら、私は焼きそばの最後の一口を口に入れた。
『やぁ、久しぶりだね。姉斗真理』
月明かりが照らす豪邸の1部屋。ベランダで月を見ながらコーヒーの香りを味わっていた少女は、突如現れた白い生き物に視線を向けた。
「あらあら。お久し振りですわ、キュゥベえ」
翠色の瞳を持つ金髪の少女は、手に持ったコーヒーを机に置くとキュゥベえを抱き抱える。
『君に報告しておくべきかと思ってね。また1人、この夢見市に魔法少女が増えたよ』
「……あらあら。またライバルが増えたと言うことですわね」
真理と呼ばれた少女は、罰だ、とでも言わんばかりにキュゥベえの頭を強く撫でる。
『そういえば、今日の事件は君の仕業かい?』
キュゥベえが指したのは、タバコの炎上『事件』。真理はニタリとした顔でキュゥベえを見ると、さもおかしそうに語り始めた。
「えぇ。この街では歩きタバコは禁止されていますわ。ルールを守らない不届きものなんて、燃え尽きてしまって当然ですのよ」
『相変わらず、ルールが何よりも大事なんだね』
「えぇ」
真理は愛おしげな瞳を街へ向けた。夢見タワーやその周辺は、ネオンの電飾のおかげか夜になっても明るいままだ。一方で街の外周はまだ発達しておらず、街灯すらもない真っ暗な闇が広がっている。
「この街を汚すものは許しませんわ。たとえ魔女であっても、人であっても……魔法少女であってもね」
あの男が死ななかったのが残念ですわ。と恐ろしい言葉を漏らした真理は、月を見上げた。
それはまるで、絵に描いた様に美しい月だった。
「……ところでキュゥベえ、その頭はどうしたのかしら?」
『えっ?……有栖美亜ぁっ!?』
3話でした。3話にして早速キャラ崩壊です(キュゥベえ)。主人公補正という言葉の前にはどんな無茶も許されると思ってきた今日この頃。
さて、最後に登場したのは1体誰なのでしょうか。とりあえず金髪のお嬢様ってチョロインな気がします。
さて、今回もお読みいただきありがとうございました!
舞台設定↓
夢見市
風見野市の隣町。見滝原程ではないものの近代化が進んでおり、高層ビルもそれなりにある。
市の中心にある夢見タワーは高くはないものの、ストーンヘンジの様に周りをビルに囲まれた景色は特徴的であり、観光地になっている。
所謂都市伝説の様な物は多い。夢見タワーとビルの並びが何かしらの意味を持っている。夢見市ではドッペルゲンガーが出やすい。そして気味の悪い化け物と、それを何も言わずに倒していく黒い服の少女。などなど。
ここ数年で急速『すぎる』成長を遂げており、この街自体が都市伝説とも言われている。