マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE5.バラエティ・アイデンティティ

 ……あぁ、退屈だ。窓の外の天気は晴れ。雲ひとつ無い快晴だ。

 

『――』

 

 先生が黒板に何かを書いている。隣の席のそっくりさんは……いや、私以外の皆はしっかりとノートを取っているようだ。

 

「はぁ……」

 

 仕方がないので、私もノートを開いて板書を始めた。

 ニュートンは、木から落ちたリンゴから着想を得たそうだ。引力は全ての物質に存在し、互いに引き寄せあっているのだと。……そんなことは百も承知だ。適当な勉強系バラエティ番組で何度も放送しているのだから。

 

『――』

 

 授業は続く。既に知っていることを繰り返される事の、なんと退屈な事だろう。

 

『ねぇ、キュゥベえ』

 

 テレパシーを使って、足元で丸まっているキュゥベえに話し掛けた。

 

『何か用かい?』

 

『……昨日、なんかお嬢様っぽい魔法少女に会ったんですよ』

 

 キュゥベえはピョン、と跳ねると机の上に乗っかった。

 

『お嬢様……それなら姉斗真理の事だね』

 

 ほう、姉斗真理と言うのかあの腐れお嬢様は。

 

『そしたらいきなり襲われてですね……魔法少女って、そういうものなんですか?』

 

『……そうだね。グリーフシードはとても貴重な物だ。だからそれを手に入れるために、他の魔法少女を邪魔してでも先に魔女を倒そうとする子もいる。もっとも、彼女の場合は少し違うようだけどね』

 

 やっぱり、そうですよねー……。テレビや漫画で見る魔法少女はキラキラと輝いているけど、この白いのが作るシステムはドロドロとしているようだ。

 

『少し違う……って、何がですか?』

 

『一応僕にもプライバシーと言う概念はあるからね。そういった話は本人に聞くといい』

 

 無断で私の家に上がり込んできたくせに、どの口が言うか。

 まぁ、あの腐れお嬢様が対話をする意思は無さそうだしきっと永遠に知ることはないのだろうな。

 

『それじゃあ、もう1人の魔法少女はどんな子ですか?』

 

『もう1人は愛里杏奈って女の子だよ。彼女も真理と同じ学校に通っていた筈だ』

 

 おやおや、私以外の2人は違う学校ですか。……なんか寂しいですねぇ。

 

『君が誰かと戦いたいなら、魔女と一緒に戦えばいいじゃないか。それが君の能力だろう?』

 

 だめだなぁ。キュゥベえは全然わかっていない。私は哀れみの視線を向けながら、首を小さく横に振った。

 

『わかってませんねぇ~、同じ魔法少女と一緒に戦いたいんですよ!』

 

『……それは、君達の言う『あにめ』とやらのイメージかい?わけがわからないよ』

 

 まぁ、別にわかってもらおうとも思ってない。価値観の違いというものもあるのだろう。

 

『……ま、分かってもらわなくて結構ですよ。それより、もう1人の魔法少女について教えてくれませんか?能力が駄目なら、容姿とか』

 

 キュゥベえは少しだけ考えたように黙り混むと、やがて話し始める。

 

『……まぁ、特徴くらいならいいかな。愛里杏奈は2年くらい前にこの街に来た子なんだ。特徴は……黒い服を着ていることかな。それと、君に似た顔立ちをしているよ。髪の色とかは違うけどね』

 

『黒い服……じゃあやっぱり、あの黒いフードの魔法少女が3人目の魔法少女なんですね』

 

 そっちの子とは仲良くやっていきたいものだ。仲間と一緒なら、退屈することも無いだろう。

 

『……いや、黒い服ではあるけど、彼女はフードは付けていなかったよ』

 

『……はい?』

 

 黒いフードじゃない?なら、一体彼女は……?

 

『黒いフードなら……話を聞いたことがあるよ。この街に住む特殊な魔女の事を』

 

『特殊な、魔女?』

 

 特殊な、なんて素敵な言葉。魔法少女の仲間が欲しいけど、魔女の仲間は欲しくないって訳じゃない。味方が増えるのならそれに越したことは無いだろう。是非とも捕まえてみたいものだ。

 

『そうさ。前例が無いわけじゃ無いんだけど、非常に珍しい特性を持っていてね。……彼女は、魔女を喰らう魔女なんだ』

 

 魔女を喰らう、魔女。俗に言う共食いか。……共食いと言うのは語弊があるかもしれないが。

 

『さらにその姿も珍しくてね、黒いフードを被った女の子の姿をしているんだ』

 

 この間出会った嘘つきのカラスは、唇に黒い羽がついていた。キュゥベえの話から察するに、人型の魔女は少ないのだろう。つまり落書きの魔女って結構レア?

 

『彼女はこの街に生息しているから、『夢見の魔女』と呼ばれているね。……僕も情報を持ってる訳じゃないから、彼女には謎が多いんだ。その性質、能力は何一つ分かっていない』

 

 夢見の魔女。この街に住む希少な魔女。是非ともこの私が仲間にしてあげましょう。

 私はそう決意すると、授業の退屈さを紛らわせるために眠りに落ちた。

 

『……君は本当に、何のために学校に来ているんだい?』

 

 

 生徒が寝ているというのに注意されることもなく、放課後が訪れる。ソウルジェムはピンチだ。何とかして魔女を見つけなくては。

 

『それじゃあ、行こうか』

 

 キュゥベえは私の腕を使って肩に乗る。おんなじサイズの猫よりも軽い気がした。

 

「今日こそは魔女に会いたいですね……」

 

 そしてあわよくば新しい仲間を!……そういえば、落書きの魔女を召喚した際にはソウルジェムが浄化されたけど、他の魔女でも浄化されるのだろうか。

 

「うーん、ちょっと怖いですねぇ」

 

 確実に浄化される保証はない。もし穢れを餌にしているとするなら浄化はされると思うけど……。

 

「……ま、その時になったら考えます」

 

 うんうん、考えたって分かんないことを考えるのは時間の無駄だ。今は魔女探しに専念することにしよう。丁度、ソウルジェムに反応があったようだし。

 

 この間と同じ夢見タワーの近く。繁華街には集まりやすいのかもしれない。

 ソウルジェムの反応が強くなり、目の前に紋章が現れる。落書きの魔女の時とは違う、蟲の羽が付いたマイクのような模様。

 

『来るよ!気を付けて!』

 

 キュゥベえがそう言うのと同時に、凄まじい爆音と熱気か私たちを包んだ。

 

『uooooooooo!!』

 

『Flegeltaaaaaaan!!』

 

『kawaiioooooooo!!』

 

 ……なんだこれ。本当に何ですかコレ!?

 広がったのはライブ会場のような結界。そこら中に壊れたパソコンが捨てられている。

 

「ってか、五月蝿いですねぇ……」

 

 まだ魔女も使い魔も出てきていないと言うのにとんでもない音量だ。ここにずっといたら耳がおかしくなってしまう。

 

「っ、速攻で終わらせますよ!」

 

 周囲に数枚のカードを浮遊させ、私を追尾するゲートを展開。そこから落書きの魔女の手下達を呼び寄せる。

 

『ぶぅぅぅぅん!』

 

 ……こっちも結構五月蝿いが。

 壊れたパソコンで出来た壁。落書きだらけの床。そんな荒廃した結界なのだが、1匹たりとも使い魔が出てこない。何処かに集まっているのでしょうか?

 

「……あれは」

 

 やっと見つけた使い魔達は1ヶ所に集まっていた。パソコンの山の上で歌っているのはシンデレラのようなドレスを着たセミ。……多分、セミ。頭はセミだが、その美しい羽は蝶の物だ。両手はマイクの様な形をしている。

 そしてその周囲には、様々な色のTシャツを着た、下半身が懐中電灯になったセミの化け物が大量にいる。

 

『『『Flegeltanhaoretachinoyome!!』』』

 

 ……ええい五月蝿い。焼き払ってしまいたい。

 

 

『……本当に行くのかい?』

 

「本当に、って、キミがボクにその話を持ってきたんだろう?」

 

 夢見市の外。風見野市から夢見タワーを見上げる少女と、一匹の白い生き物。

 

『気を付けるといい。確かに夢見市に現れる魔女は多いけど、それは危険な事でもあるんだ』

 

「大丈夫大丈夫!ボクは無敵だよ?それにね、正義のヒーローってのは負けたりしないんだから!」

 

『わけがわからないよ……まぁ、死なない程度に頑張るといい。合田雨音』

 

「ハッハッハッ!任せておきなよ!」

 

 雨音と呼ばれた少女は笑い、オレンジ色のソウルジェムを天に掲げた。

 

 ……酷く暗い、曇天に。




お読みいただきありがとうございます。5話でした。
一気に魔法少女達の情報が出てきました。ボクッ娘って可愛いですよね。
それではまた次回、お会いできたら嬉しいです。
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