マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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一部修正・改変しました。


SAVE6.ハコニワの承認欲求

『peroperositaiooooooo!!』

 

 ……五月蝿い。そして暑苦しい。

 

「さっさと消えてくださいよっ!」

 

 両手をゴミの山の上で歌う魔女に向ける。その指示に従い、飛行機に乗った落書きの魔女の手下達が突進を始めた。

 

『『『ぶぅぅぅぅん!』』』

 

『『『uoooooooooo!!』』』

 

 だが、その大きな音に阻まれ弾かれる。

 使い魔達の声援が音の壁を作っているようだ。その凄まじい音圧は手下達の突進だけでなく、私の飛ばしたカードも通さない。

 

『あの壁はかなり厄介だね、どうするんだい?美亜』

 

 だがいくら攻撃しても、魔女や使い魔がこちらに敵意を向ける気配はない。というか最早私たちに気づいてすらいない。自分達のライブに全神経を集中させているようだ。

 近づくことも遠くから攻撃することも出来ない強固な壁。でも私には、それを破る力がある。

 

「壁を突破できないのなら、壁の内側から攻撃すれば良いんですよっ!」

 

 音の壁の向こう側にゲートを展開し、さらにそれと繋がっているもう1つのゲートを私のすぐそばに作成した。

 このゲートの中に攻撃すれば、その攻撃は壁の内側にまで届く。

 

『~~~~~♪』

 

 美しい声がゲートの中から聞こえてきた。あのセミの声だろうか。手下達の声が邪魔で聞こえていなかったようだ。

 

 ……美しい。

 

 意識が朦朧としてくる。その声を聞いているのが心地いい。なんて、素敵な声なのだろう。

 私はフラフラと、歌姫の元へ近づいていく。爆音の壁なんて気にならなかった。もっと、もっとその声を聞いていたい。

 

『美亜!?だめだ、目を覚まして!』

 

「……Flegel、様……」

 

『ぶぅぅぅぅん!』

 

 膝に痛みが。手下のダイナミック膝カックンにより、私は正気を取り戻す。いけない、もう少しで魔女の罠に引っ掛かるところだった。

 

「ありがとうございます。もう、やられたりしませんよ!」

 

 腰のリボンを伸ばして、ゲートの中へ。壁の向こうにあるゲートからリボンが飛び出し、魔女の身体に突き刺さる。

 だが、リボンは何も掴まない。それどころか体内から押し出されてしまった。

 

「な……!?」

 

 この魔女には効かないのだろうか?いや、もしかしたらある程度弱ってないといけないのかもしれない。

 

「作戦変更です!」

 

 リボンを引っ込め、こちら側のゲートを閉じる。そして向こう側のゲートから落書きの魔女の手下達を召喚した。

 

『ぶっぶーーー!!』

 

 ライブ会場は大騒ぎだ。いきなり車に乗った幼女達が走り回ったのだから。

 

『『『iesuroritanootacchi!!』』』

 

 訳のわからない事をわめき散らしながら、魔女の使い魔達がボールに変えられていく。

 

「残るは貴女だけですよ?魔女さん!」

 

 魔女は私を睨み付ける。そりゃパーティーを邪魔されたら誰だって怒る。

 

「あはははっ!私と楽しいパーティーをしましょう?」

 

 魔女を5つのゲートで取り囲む。

 

「―フルハウス―!」

 

 2枚、そして3枚と連続してカードが発射される。豪華過ぎるドレスのせいで魔女は回避できず、その身体には風穴が開いた。

 

『~~~#』

 

 歌いながらキレるという器用な芸を見せてくれた魔女に、4枚のカードをプレゼント。私の周囲に浮遊していたカード達がセミの羽を引き裂いていく。

 

『♪!♪♪!』

 

 残った羽の根元と腹部を擦り合わせ、魔女が音波を発生させた。音の波はバブルリングの様に見える形となって私を襲う。

 

「ぐっ……」

 

 肌がビリビリと震える。近くで花火が爆発した様な、音の暴力。

 

「……っ、五月蝿いって、言ってるんですよ!」

 

 魔女と私の間にゲートを展開し、音波を飲み込む。そして無駄だと悟った魔女が歌唱を止めたタイミングで、ゲートの出口を魔女に向けて展開。飲み込んだ音を解き放った。

 

『#♪#♪♪#♪?!』

 

 その想像を絶する音波に歌った本人である魔女が吹き飛ばされた。

 

「歌ってる最中じゃなければ五月蝿いだけでしょう?音痴さんめ!」

 

 魔女は私の言葉にショックを受けたのか、それとも元々瀕死なのか、ピクピクと足を震わせている。

 

「それじゃあ、あなたも私の友達になりましょうそうしましょう!」

 

 腰のリボンを魔女に向けて伸ばす。

 先端を尖らせたリボンは深々と魔女の身体に突き刺さり、そのまま魔女は溶解してしまった。……グリーフシードを、落とすことすらなく。

 

「……そん、な……」

 

 魔女の結界が消えていく。あの五月蝿いライブハウスはもう何処にもない。そして、私の身体が崩れ落ちた。

 

「……っ?」

 

 身体が重い。手からこぼれ落ちたソウルジェムは真っ黒だ。

 

「何、で……?」

 

『……すべての魔女がグリーフシードを落とすとは限らない。どうやらこの魔女はその類いだった様だね』

 

「グリーフシードが貴重って、そういう……」

 

 魔女を倒しても落とさない場合があるなんて。

 

「嫌だ、私は、まだ……!」

 

 そうだ、私は主人公なんだ。こんな所で物語を終わらせるわけにはいかない。……いかない、のに。

 

「身体が……」

 

「何をしてるんだい?」

 

 ハキハキとした少女の声だ。表の路地から、裏路地の私を見つめている。

 ポニーテールの少女は私の手に握られたソウルジェムを見て、驚きの声をあげた。

 

『君は……』

 

「キュゥベえ?それにキミは、魔法少女じゃないか!?それにそのソウルジェムは……。グリーフシードは、どうしたんだい?」

 

 彼女は私に駆け寄ると、上体を起こしてくれた。

 

「さっき倒したんですけど……落とさなくって……」

 

 幸いにも口は動く。意思を伝えられる。

 

「……」

 

 少女は何も言わず頷くと、ポケットから黒い宝石を取り出した。

 

「それ、は……」

 

 彼女の出したグリーフシードに、穢れが取り込まれていく。身体に絡み付くような重りが離れていく気がした。

 あの黒い腕は出てこない。やっぱり、私が取り出すアレは普通のグリーフシードとは違うようだ。

 

「……ごめんなさい、貴重な物を」

 

「いいっていいって!キミ、魔法少女になって日が浅いでしょ?グリーフシードは貯めとかないとダメだよ?」

 

 彼女の言う通りだ。……というか、あの嘘つきのカラスのグリーフシードが取れていたらこんなことには……ぐぬぬ。

 

「本当に、ありがとうございました」

 

 あの腐れお嬢様絶対に潰す。そんな事を心に誓いながら、救世主に頭を下げた。

 

「えっと……」

 

 何か、お礼をしなくては。とはいえ魔法少女に役立ちそうなものは何一つ持っていないし、彼女についてよく知らないから何をあげたら喜んでくれるのかもわからない。

 

「あなたが、愛里杏奈さんですか?」

 

 とりあえず名前から。彼女はグリーフシードを持っていたから十中八九魔法少女なのだろう。キュゥベえの話によると腐れお嬢様の他にもう一人魔法少女が居た。なら彼女は――

 

「いや?ボクは杏奈って子じゃないよ?」

 

 きょとんとした顔で返された。

 

「……え?」

 

『一体、君は誰なんだい?』

 

 私が疑問そうな顔をしていると、彼女は名前を名乗ってくれた。

 

「ボクの名前は合田雨音。宜しくね、新人さん……っていうかキュゥベえ、ボクもキミと契約したんだから知ってるでしょ?」

 

 そう言って爽やかな笑みを浮かべた合田さんは私に向け右手を伸ばした。

 

「私、有栖美亜って言います。宜しくお願いします、合田さん!」

 

 私はその手を握り返す。そう、これですよ私の求めていた魔法少女ライフは!

 

「あ、そうだ。何かお礼をしないと……」

 

 私がそう言うと、合田さんは首を横に振った。

 

「いやいや、ボクは困ってる人を助けただけだからさ、お礼なんて要らないんだよ」

 

 この人は聖人か何かだろうか。彼女の笑顔は、快晴の空よりも眩しかった。

 

「で、でも……!」

 

 それでも貰いっぱなしと言うわけにはいかない。

 

「……じゃあ、さ」

 

 合田さんは空を見上げる。見上げた先には暗いビルの影と、明るい空のコントラスト。くっきりと別れた光と影。

 

「もし、キミの前に困っている魔法少女がいたら、同じ様に助けてあげてくれないかな」

 

 

 彼女は最後まで自身への代価を求めなかった。ドロドロとした魔法少女のシステムの中でも、あんなにいい子がいるなんて。

 

「……連絡先もゲットしちゃいましたし」

 

 去り際に彼女は電話番号の書かれたメモを渡してくれた。何か困ったことがあったら連絡してくれ、と。

 

「あれが、ヒーローって人なんですかねぇ」

 

『まぁ、一定数そんな子はいるよ。皆のヒーローを目指そうとする子がね』

 

 私は、まだそんな明るい存在にはなれそうになかった。




キュゥベえを登場させるのを忘れていたため、一部修正させていただきました。申し訳ありませんでした。

イケメンヒロイン雨音ちゃん登場。6話でした。
毎度お読みいただきありがとうございます!殺伐とした魔法少女ライフですが、たまには爽やかな子がいても良いと思うんです。……結末は決まってるんですけどね。
それでは、また次回お会いできたらと思います。

以下魔女設定↓
偶像の歌姫
偶像の歌姫。その性質は承認欲求。きらびやかなドレスを纏う蟲の魔女。もっともっと有名に、ずっとずっと歌っていたい。この魔女は自分の歌を認めない者が大嫌い。
別名:セミの魔女
特徴:シンデレラの様なドレスの胸元からセミの頭が生えたような姿の魔女。背中に七色に輝く美しい羽がついている。手や足は蟲の物で、両手はマイクの様な形になっている。この魔女の歌声を聴いたものは魔女に魅了されてしまうが……?尚鳴くことができるセミはオスだけ。つまりこいつは(以下略)。

踊る愚者
踊る愚者。その役割は狂信。魔女の周囲を囲み、腹部の懐中電灯で魔女を照らす熱狂的な使い魔。魔女に向け大きな鳴き声で声援を贈るが、その声援が魔女の歌声を掻き消してしまう。
別名:セミの魔女の手下
特徴:カラフルな色のTシャツを着たセミと蛍が混ざったような虫の使い魔。その背中からは卵のような形の何かが生えている。魔女に向けて大音量の声援を贈る。その音波が壁となるせいで魔女に近づくことは難しいが、魔女の歌声も壁の外に漏れでない。結果として魔女の邪魔になっている。やっぱりセミはオスしか鳴かないので(以下略)。

セミの魔女結界
壊れたパソコンが大量にあるライブハウスのような空間。そのパソコンの山の上で魔女が歌っている。結界内は爆音と熱気に包まれているため、長い間居ると心身に影響を及ぼす。
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