「うっひゃー、こりゃまた変な結界だね」
「ですね、纏まってはいますが……」
翌日。一面コンクリートだらけの灰色の世界を、私と合田さんは歩いていた。折角友達になれそうな魔法少女を見付けたのだから、と魔女退治のお誘いをしたのだ。これから私たちは此処の魔女を倒しにいく。
「それにしても、使い魔達を見ないね」
「合田さんが戦ってきた魔女の結界だと普通にいたんですか?」
私が戦ってきた魔女の結界ではあんまり使い魔達が途中で出てくることはなかった。精々落書きの魔女の時くらいだ。
「そうだね、色々いたよ。ここみたいにあんまり出てこないのもいれば、魔女まで辿り着くのが一苦労、ってのもいたよ」
魔女にも色々な種類があるのだろう。
「……来た」
複数の足音。前方から何か、来る!
『DSacihsautkzii!DSacihsautkzii!』
ボロボロの服を着た人型のぬいぐるみだ。背丈は私たちの半分ほど。丸い頭にぬいぐるみ故の太い手足。その目はボタンで出来ていて、口は縫われている。
そいつは何度も後ろを振り返りながら走っていて、何かから逃げているようだった。
「行くよ!有栖ちゃん!」
「はい!合田さん!」
ソウルジェムに魔力を込め、二人揃って変身する。
合田さんの衣装は、おおよそ魔法少女らしからぬものだ。ロボットアニメのパイロットが着そうなピッチリとしたオレンジ色の服。所々に黒いラインが走っていて、その左肩にはソウルジェムが星の形となっている。
『DSacihsautkzii!?』
3体の使い魔の内1体が私たちに気づいた。そいつは大きく手を振り、仲間に私達の存在を知らせている。
「ふっふっふ!先手必勝だよっ!」
そう言った合田さんの身体が変化した。前腕の尺骨からトゲが生えたのだ。
「喰らえっ!アマネチョーップ!」
素晴らしいネーミングを叫んだ合田さんは高く飛び上がると、そのトゲが何本も生えた腕でチョップを繰り出す。柔らかいぬいぐるみの身体は簡単に針を通し、使い魔は物言わぬゴミとなった。
『DSacihsautkzii』
『DSacihsautkzii』
だがそれにより、残り2体もこちらに気づいた。
「出番ですよ、私の手下達!」
ゲートからプカプカを召喚し、さらにその能力でブーンを生産させる。
「あのぬいぐるみをやっつけてください!」
『『ぶぅぅぅぅぅん!!』』
2体の手下達が突進を繰り出す。使い魔は吹き飛ばされ、壁に激突した。だが、すぐに壁を蹴って手下に向けて跳躍し、飛び蹴りを放つ。
『『ぶぅぅぅう!?』』
それを喰らった私の手下は錐揉み回転しながら吹き飛び、消失した。
「……こいつ、強いですね」
もしかしたら、今までの使い魔達よりも強いかもしれない。魔女には及ばないが、こんなのが大量に集まっていたら間違いなくやばい。
『DSacihsautkzii!』
縫われた口で何かを叫んだ使い魔は私に向かって走り出す。あの構えは、タックル!?
『ぶっぶーっ!』
高速で走り出したブッブーが使い魔の足に激突、使い魔は勢いよく転倒した。
「えっと……―ワンペア―?」
2枚のカードがぬいぐるみを貫く。中からモコモコと綿が溢れだし、使い魔はその動きを止めた。
「確かに、ほかの奴等より強いかも。これは魔女にも気を付けないとね」
合田さんは、今度は踵からトゲを生やして、使い魔を蹴り飛ばした。……強いですね、手下に頼らないと弱い私と違って。
「さぁ、先に進もうか!」
私は頷くと、合田さんを追うように走り出した。
コンクリートの廊下を抜けると、やがて違う色の物が見えてきた。
「ダン、ボール?」
合田さんが不思議そうな声で呟く。目の前に広がったのは、ダンボールで作られたハリボテの街。天井には太陽に似た絵が貼り付けられており、廊下と比べて明るい。
『DBeaalrdmuyr!!』
その街の中心に浮遊しているのは、楽しげな声をあげる魔女。その姿は、先程戦った使い魔に非常に良く似ていた。
ファンタジーに出てくるような『魔女』の服装をしたぬいぐるみ。使い魔よりも一回り程大きい。その手には、日曜朝に活躍していそうなマジカルな杖が握られている。
『DBeaalrdmuyr!!』
その魔女は私たちに気付かずハリボテの街を見下ろしていた。
「あ、あれは!?」
合田さんが結界の空を指差す。その先には、ダンボールで作られたような見た目の巨大な岩石。
―――。
大きな音がして、ダンボールの隕石は街に落ちた。ビルが、タワーが、映画館が潰されていく。そしてさっきと同じ形の使い魔達が、その隕石から逃げていた。
隕石はまるで雨のように振り続いている。そしてその内の1つが使い魔を押し潰そうとした、その時。
『DBeaalrdmuyr!!!』
魔女が隕石と使い魔の間に割って入り、その手に持った杖を振るう。すると隕石は瞬く間に砕け散った。
『DSacihsautkzii!』
使い魔は何度も頭を下げると、そのまま走り去っていく。私達がさっきエンカウントしたのは今みたいに逃げていった奴なのだろう。
「……いや、この魔女は何がしたいんだい?」
魔女の結界は、魔女に都合がいい空間になるのだと思っていたけど、あの隕石じゃあ不便でしょうがなさそうだ。
「あれ、隕石とまりましたね」
あのぬいぐるみ達が逃げたあとから隕石は全く降らなくなった。まるで使い魔を逃がす為だけに、魔女に使い魔を助けさせるために降っていたかのように。
「……自作自演ってやつかい?」
「いや、ヒーローショーって奴ですかね?」
どちらにせよほとんど同じ意味なのだが。
仕事を終えた魔女は満足げに小躍りすると、天井からぶら下がるブランコに腰掛けた。
『DSacihsautkzii』
遠くからそんな声が聞こえた。天井を見上げると、逃げる人形達が太陽の絵を天井から外していた。何をしているのだろうか、そんな事を思いながら見ていると、使い魔達は絵の裏と表を入れ換えた。
「太陽の絵の裏側に月の絵が書いてあるんだね」
書かれていたのは月。満月に丸を重ねて切り取ったような、三日月に近い形をしている。そして絵が貼り付けられた途端、ハリボテの街は闇に閉ざされた。
『Zzz……』
魔女は鼻?にあたる部分からちょうちんを生やしている。眠っているのだろうか。
「なんか良くわかんないけど、今がチャンスみたいだね!」
そう言って合田さんは飛び出した。私はゲートに入ると、魔女の真後ろに出口を作り飛び出す。これで挟み撃ちができる。
「―ツーペア―」
合田さんは巨大化させた右腕で魔女の頭部を殴り、ブランコ毎ハリボテの街へと落下させていく。さらに落下していく魔女に、4枚のカードが追い討ちをかける。
『!?!?!?』
魔女は頭からビルに激突し、ピクリとも動かなくなった。
「って……えぇっ!?これで終わりかい?」
「い、いや!死んだふりをしているのかもしれません!」
だが一向に魔女が動く気配は無い。ここまで来たら本当に死んでいるか、よっぽど我慢強いかだろう。
私達はこっそりと魔女に近づき、その様子を見る。魔女の腹部からグリーフシードが見えている。本当に死んでいるようだ。
「……なんか、弱すぎない?」
「使い魔の方が強かったですね」
そんな会話をしながら、合田さんがグリーフシードに手を伸ばした時の事だった。
『――!』
合田さんが後ろに飛ぶ。
地面に、黒い何かが突き刺さった。もう少し反応が遅れていたらそれは合田さんの腕を貫通していただろう。
『――』
魔女と私達の間に、黒いフードの少女が降り立つ。突き刺さった黒い何かはムチのように曲がりながら少女の元へと戻り、剣のような形をとった。
「なんだい?キミも魔法少女かい?……横取りなんていけないね、正義の味方の風上にも置けないよ」
『――』
少女は、何も答えない。……違う、何かを言っているが、その言語が理解できないのだ。
「違います、合田さん」
黒いフードの少女。私は彼女の事を知っている。
「あれは、『夢見の魔女』です!」
頭の悪そうなサブタイを目指した7話です。お楽しみいただけましたでしょうか。
ついに夢見の魔女が登場しました。お話はここからが本番となります。これからもお付き合いただけるととても嬉しいです。
それではまた次回、お会いできたらと思います。
以下魔女設定↓
ハリボテのヒーロー
ハリボテのヒーロー。その性質は自己満足。『魔法少女』に憧れて、ハリボテの撮影セットの中でヒーローショーを続けるぬいぐるみの魔女。今日も手下のピンチに颯爽と駆けつけ、台本通りに世界を救う。ほんとは誰よりも弱い魔女。
別名:おもちゃの杖の魔女
特徴:女児向けアニメに出てきそうな可愛いドレスを着たぬいぐるみの魔女。顔は大きなとんがり帽子の影に隠れていて見えないが、ボタンの目と縫われた口がある。『まほうのつえ』を持っていて、それを一振りするだけで天から星が降り注ぐ。全部手下がやってくれてるだけだけど。
逃げる人形
逃げる人形。その役割は弱者。主の事が大好きで、いつも弱者の演技をしてくれる。魔女と良く似たぬいぐるみの身体を持つが、魔女よりもずっと強い。
別名:おもちゃの杖の魔女の手下
特徴:魔女より一回り小さなぬいぐるみ。帽子と杖が無くて服が貧相な事以外はほとんど魔女とおんなじ姿。魔女の『まほう』の手伝いや、ピンチに陥る弱者の役をこなす働き者。魔女よりも強く、魔女が倒されると激昂し、連携攻撃を仕掛けてくる。攻撃方法は肉弾戦。
おもちゃの杖の魔女の結界
コンクリートの壁に周囲を囲まれた広い部屋で、ダンボールの様な材質で作られたビルが立ち並んでいる。時間によって天井にかかれた月と太陽を手下が入れ換える。