マリス・イン・アナザーランド   作:Die-O-Ki-Sin

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SAVE8.その性質は二律背反

 ただひとつの汚れもない、白い髪。

 その虚ろな瞳は静脈血を思わせるような暗い赤。

 夢なき街で夢見る少女。

 

 夢見の魔女。その性質は二律背反。

 

『――!』

 

 黒い剣が伸びる。私達は地面を蹴り跳躍。その一瞬の後に、剣は私達の居た空間を引き裂いた。

 

「こいつが魔女!?どうみたって魔法少女にしか見えないよ!?」

 

「でも、キュゥベえが言ってました!この子は、かなり珍しい魔女だって!」

 

 夢見の魔女が剣を持った腕を上げる。それに付随して、剣は合田さんに向け襲いかかる。

 

「合田さん!?」

 

「大丈夫、さっ!」

 

 両手をクロスさせ防御の体制へ。ムチのようにしなった剣が合田さんに触れる。

 

 ガキッ。

 

 金属の欠けるような音がした。合田さんにぶつかった黒い剣が刃こぼれしている。

 

『――?』

 

 魔女も驚いたような顔で合田さんを見つめていた。

 

「甘いよ!そんなの豆腐より柔らかいね!」

 

 踵からトゲを生やし、合田さんは回転しながら踵落としを仕掛ける。

 

『――!』

 

 夢見の魔女はフードに付いたマントで自分の身体を覆った。合田さんの踵が魔女に突き刺さる。

 

「どうだっ!」

 

 だが、しかし。

 

『――!』

 

 合田さんの体が吹き飛んだ。反発しあう磁石の様に、何の脈絡もなく。

 

「うわ、うわわわっ!?」

 

「合田さん!」

 

 合田さんをキャッチするようにゲートを展開して、私の隣までワープさせた。

 

「い、いやぁ助かったよ!」

 

 合田さんは笑顔を崩さず、頭を掻いていた。だがその瞳は真剣に魔女を見据えている。

 一方の魔女は特にダメージを受けた様子はない。少女へのダメージはあのフードに吸収されたのだろう。

 

「今、跳ね返されたんですか?」

 

「うーん……何だろ、跳ね返されたってよりは、押し出されたって感じかな」

 

 一体、この魔女はどんな力を持っているのでしょうか。……それに、夢見の魔女の使い魔らしき存在が見当たらないのも気になります。

 

『……』

 

「「……」」

 

 互いに様子を見て睨み合う。魔女は殺気こそ向けては来ないものの、その強大な敵意が私達にプレッシャーを掛ける。

 戦闘が停滞した。だがその静寂は、直ぐに破られる。

 

「―ジャッジメント―!」

 

 斬撃が魔女に向け放たれた。その衝撃で土埃が舞い、視界が遮られる。

 

「この間のグリーフシードは返してもらいますわ!」

 

 私達の目の前に少女が降り立つ。凄まじい重量の斧のせいか、小さな地響きが起こる。

 

「あ、あぁーっ!腐れお嬢様!」

 

 ぴくり、と耳が動く。腐れお嬢様は青筋を立てながら私を睨み付けた。

 

「腐れ、ですってぇ……!?」

 

 おお、怖い怖い。魔女のプレッシャーより悪寒がします。

 

「……まだこの街に居たのね、ウジピエロ」

 

「かっちーん」

 

 ウジピエロだぁ?

 

「私はっ、『アリス』なんですっ!ウジでも無きゃピエロでも無いんですよ!」

 

「あらあら、貴女のような雑魚にはウジがお似合いですわ」

 

「何ですって!?」

 

「「ぐぬぬぬぬぬ……」」

 

 互いに威嚇し合う。そんな私達の肩を掴み、合田さんが割って入った。

 

「ちょ、待った待った!2人とも、魔女の前なんだってば!」

 

 肩を掴む手を弾いた腐れお嬢様は、合田さんも睨み付ける。

 

「……何ですの、貴女?」

 

「それは後で説明するからさっ、ほら!」

 

 しぶしぶと、私達は夢見の魔女に目を向けた。

 

『……』

 

 煤を浴びた少女は腕を押さえながらフラフラと立ち上がった。あの一撃を喰らって立っていられるなんて。

 

『――』

 

 夢見の魔女が何かを呟いた。

 

「――っ!?」

 

 すると、私の体が腐れお嬢様に引き寄せられた。……ムカつく、とても柔らかい。

 

「な、ななな何ですの!?は、ハレンチですわ!」

 

「脳みそピンク色なんですか腐れお嬢様っ!好きでこんな事になった訳じゃないですよ!」

 

 さらにひっついたまま言い争う私達が、合田さんに引き寄せられる。

 

「ちょ、ちょっ!?いやぁ、そんなにモテると困っちゃうなぁ~」

 

「合田さんまでピンクだった!?」

 

「ハッハッハ、冗談だって。……でも、めんどくさそうな能力だね」

 

 私達自体が磁石になってしまったかのように、いくら押しても離れることができない。

 夢見の魔女は私達が動けないことを確認すると、さっきまで戦っていた魔女――ハリボテのヒーローに向き直った。

 

『――』

 

 彼女のフードが巨大化した。黒い影が形を変え、まるで化け物の頭の様になる。

 

「まさか、トモグイですか……!?」

 

 竜の頭の様な形となったフードは、グリーフシードごと魔女の身体を飲み込んだ。

 

「ボ、ボク達のグリーフシードが!?」

 

「マジですか……」

 

 満足げな笑みを浮かべた夢見の魔女は、魔女の結界の消失に合わせて姿を消した。

 同時に、私達を引き寄せあっていた謎の力が無くなる。

 

「また、やってくれましたわね……」

 

 変身を解いた腐れお嬢様は、悔しげに壁を殴った。

 私達も変身を解く。路地裏に視線を向ける人は居なかった。

 

「また、ってのはどういうことだい?」

 

「……前にもやられたのですわ。覚えているでしょう?ウジピエロ。あのカラスみたいな魔女ですわ」

 

 あぁ、あの時の魔女。どこぞの偉そうな人のせいで撤退したからあの後どうなったかは知らないんですよね。

 

「あぁ、嘘つきのカラスですか」

 

「嘘つきの……?まぁ、良いですわ。貴女を追い出した後、夢見の魔女に乱入されて横取りされたのですわ、今日と同じようにね」

 

 腐れお嬢様はそのまま、じとっとした視線を合田さんに向けた。

 

「……それで?貴女は誰ですの?」

 

「ボクは合田雨音。隣の風見野市から来たんだけど……この街って、凄いみたいだね」

 

 どういった意味での『すごい』かは容易に想像が付くと思ったのだが、腐れお嬢様は何かを勘違いしたのか勢い良く首を縦に振る。

 

「えぇ、えぇ。そうですわ!この街の美しさは言葉では表現しきれませんわ!美しい山々、清く澄んだ小川……あの夢見タワーとやらを作成した人は何を考えているのかしら。あんなものが無くたって、この街は十二分に美しいのですわ!他にも――」

 

 何かのスイッチを入れてしまったのか、腐れお嬢様は嬉々とした表情で夢見市の魅力について語っていた。

 

『やぁ、皆集まっているようだね』

 

 そんな私達の前に白い生き物が現れた。

 

「それで――あら、キュゥベえ?どうかしましたの?」

 

『今日は、君達にお願いがあって来たんだ』

 

 キュゥベえは表情を崩さぬまま、3人の魔法少女に向けて言った。

 

『夢見の魔女を、倒して欲しいんだ』

 

 あの子を……倒す?

 

『夢見の魔女は、今まで何体もの魔女を食らってきた。普通魔女は人間を食べることによってエネルギーを得て、強くなる。でもこの魔女は魔女を食らうことで、普通よりも強大なエネルギーを得ているんだ』

 

 トモグイを繰り返す度に、どんどん強くなっていくと言うのか。ただでさえ私達が3人揃っても倒せなかったと言うのに。

 

『……このまま魔女を食べ続ければ、取り返しのつかないことになる。夢見の魔女は強大な魔女に転生して、世界を滅ぼしてしまうかもしれないね』

 

 冗談じゃない。

 やっと手にいれた『主人公』の座を、明け渡すことなんて出来やしない。

 

「頼まれなくても、そのつもりでしたわ」

 

「……私も、主人公ですから。世界の危機に立ち向かうのは当然です」

 

「ボクもやるよ。まだ間に合う内に、手を打たせてもらうとしよう」

 

 私達は視線を交わし合い……笑った。

 

「まぁ、不本意だけど。よろしくお願いしますわ、2人とも」

 

「ま、どーしてもって言うなら仕方ないですねぇ」

 

「もう、美亜ちゃん。ちゃんと仲良くしないと駄目だろう?」

 

 合田さんが、少しだけ怖い顔で言った。




雨音ちゃんは苦労人。8話でした。ついに魔法少女3人が集合。残る1人は何処に?夢見の魔女討伐を依頼したキュゥベえの真意とは?次回、投稿遅くなります!彼女達の物語はこれからだ!

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました!
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