――昔から体が弱くて、怪我もしょっちゅうで。もしあのときキュゥベえと契約していなかったなら、こんな風に誰かと笑い合うことも出来なかったんだろうな。
「やーいやーいガーリー子!」
ガリ子。それがボクの……私の渾名だった。特別細かったわけではない、ただ体が弱くて、ひょろひょろしていただけだった。
「やめてよ……」
全てが始まったあの日、小学生だった私は階段で複数の男子に絡まれた。いつもいつも、皆に意地悪するような奴だった。そいつは力も強かったから、誰も私を助けようとする人は居なかった。
「ほらほら、怪我しちゃうぜー?」
男子の内のガタイのいい1人が、元々軽かった私の体を持ち上げた。そして私を掴んだ腕を階段の上に付き出す。男子が手を離したら、私は階段を転がり落ちてしまうだろう。
「や、やめてよ……」
「ギャハハハハッ!お前ら見ろよ!こいつ泣いてやがるぜ!」
ゲラゲラゲラと、男子達は心底可笑しそうな様子で笑った。……悲劇は、その後に訪れた。
「うわわっ!?」
……それは、小さな地震。震度は3も無い。だけどその揺れは、不安定な体勢だった男子のバランスを崩すのには十分な強さを持っていた。
「きゃあっ!?」
腕が、足が、身体中が痛い。男子は踊り場に尻餅を付き、私は階段を転がり落ちた。
「う、うわっ……」
「やべぇ!」
「逃げろ……!」
痛みでピクリとも動けない私を見て、男子達は散り散りになって逃げていった。
……私が見つかったのは、その次の授業が終わった後。男子達は誰も先生に報告しなかったそうだ。
私は腕と足を骨折していた。もう、自分の足で歩くことは出来ないだろうと医者に言われた。
最初はその男子の親の内の1人が学校に圧力を掛けて、事件を隠蔽しようとしていた。その子の親は何処ぞの議員だったようだ。何でも、美……何だっけか。まぁ、そんな名前の国会議員と強い繋がりを持っていたようだ。……だけど、その美何とか議員の汚職事件が公にされると、 マスコミは嬉々として私達の学校にも回ってきた。何でも、その子の親も事件に関与しているようだった。
かくして私への苛めは、匿名ではあったけども全国に広がり、隠蔽に応じようとしていた校長・教師全てが辞職するとんでもない事件になった。
たが、たとえ犯人が罰せられても、私の手足が戻る訳じゃなかった。
日曜朝の正義のヒーローは、どうして必要なときに助けてくれなかったのだろう。皆皆、見て見ぬふり。私はそれがたまらなく嫌だった。
『僕の名前は、キュゥベえ!』
キュゥベえと出会ったのはそれから2年ほど後。車椅子での暮らしにも慣れてきた頃だった。
『君の願いを、何でも1つ叶えてあげる。でもその代わりに、君には魔女と戦う魔法少女になって欲しいんだ!』
魔法少女、正義のヒーロー。私は事件以来、ずっとそういったものに憧れていた。……もう、私の様な人を作り出さないためにも。
「私、正義の――」
そこまで言ってから、ふと迷いが心に生まれた。こんな貧弱な身体では誰かを守ることなんて出来はしない。それに、日曜朝の赤色のリーダーが、ロボットに乗りながらこう叫んでいた。
――ヒーローはやらせてもらうもんじゃない、やろうと思った人がヒーローになるんだ!
誰かに与えられただけの力では意味がない。自分の意思で、ヒーローにならなくてはいけないんだ。だから――
「キュゥベえ、私に――ボクに、丈夫な身体を頂戴。怪我しないような、怪我してもすぐ治るような、そんな頑丈な身体を!」
「……と、言うわけで!」
私の部屋に集まるのは3人の少女。いやぁ、友達なんて呼んだこと無かったからワクワクしますね!
「第一回、夢見市魔法少女会議~」
「わーわー!」
合田さんは私の台詞に合わせて拍手を送ってくれた。腐れお嬢様は釈然としない表情でソワソワしている。
「……それで?この茶番に意味はありますの?」
「無いですね」
「だと思いましたわ……」
腐れお嬢様が呆れ顔で頭を押さえた。
夢見の魔女を倒すために、私達は協力関係を築くことになった。
だけど前回、私達は全く歯が立たなかった。3人でソロプレイをしても倒せないのなら、ちゃんと戦術を組んで、協力していかなければならないだろう。それを考えるための、魔法少女会議だ。
「ではでは。ここで1つ提案なんですけど、先ずは皆で自己紹介しませんか?強力な相手と戦うのに、味方の名前も能力も分からないんじゃ不便でしょうが無いですから」
私がそう言うと、2人は頷いた。腐れお嬢様の方は少し嫌そうだったけど、私の言ってることが間違ってはいないから口撃出来ないのだろう。
「んじゃ、まずは私からですね。私は有栖美亜。市立夢見中学校の1年生ですよ。能力は……ワープできるゲートの作成です。後、魔女を味方につけられます」
「……魔女を、味方にですって?」
まぁ、信じては貰えないだろう。この力に関しては見せた方が早そうだ。
「まぁ、信じられないってのは分かります。見せてあげますよ。おいで、落書きの魔女!」
ゲートを開く。ゲートから魔女の結界が広がっていく。
『……』
登場したのは、ジト目で私を見る魔女。なんだか機嫌が悪そうだ。しばらく出番無かったですからね、使い魔より登場してませんからね。
「これは、君の仲間の魔女なのかい?」
「はい、ほら、挨拶してくださいな」
私がそう言うと、魔女は2人へ向けてお辞儀をした。
「にわかには信じがたいですが、信じる他無さそうですわね」
私は再びゲートを開き、魔女を異空間に帰す。彼女にはこの中で使い魔の召喚を続けてもらっている。
「……それじゃあ、次はボクの番だね。ボクは合田雨音。市立風見野中学校の2年生だよ。ボクの魔法は、自分の身体の性質を変える事が出来るんだ。鋼鉄みたいに固くしたり、液体みたいにして狭いところに入ったり。やろうと思えば色々出来るよ」
なるほど、金属音がしたりトゲが生えたりしたのはその魔法の力だったんですね。正直、強くはなさそうですけど応用はすっごく効きそうです。
「……はぁ。あんまり敵対する恐れのある魔法少女に情報を渡したくは無いのですが……仕方ありませんわ」
腐れお嬢様はコホンと咳払いをすると、何やら偉そうに自己紹介を始める。
「わたくしの名前は姉斗真理。聖ドレアン学院中学校の3年生ですわ。貴女達の中ではわたくしが最上級生。さぁ、崇め奉りなさい!」
「あ、そーゆーの良いんで能力教えてくれませんか?腐れお嬢様」
「いい加減その腐れお嬢様と言うのを止めてくださる?わたくしは姉斗真理ですわ」
この野郎。自分のことは棚にあげやがって。……決めました。こいつが私をウジピエロと呼ぶ限り私は腐れお嬢様と呼んでやります!
「私の能力は、空間のルールを定めることが出来ますわ」
空間のルールを定める?
理解しがたい能力だ。合田さんのように分かりやすい方が良かったんですけど。
「たとえば、『この空間では上に落ちる』とか、『この空間では酸素量が増える』とか。広範囲に私の定めたルールを強制できるのですわ」
わぁ……。随分と偉そうな能力だ。お嬢様ってのは伊達じゃないのかもしれません。
「さて。それじゃあ自己紹介が終わったところで、先ずはあの魔女の情報について話し合おうか」
3人で1つの机を囲む。机に置かれたノートに、合田さんが『夢見の魔女について』と見出しを書いた。
「ボクはこの街に来たばかりだったし、殆ど情報を持ってない。だから、あの魔女について教えてくれると嬉しいな」
「そうですねー……」
夢見の魔女。この間見たネットでは、夢見市の都市伝説はその全てが2年前から始まっている。だから、夢見の魔女が現れたのも2年ほど前かもしれない。……まぁ、他の都市伝説の影響で観光に来る人が増え、相対的に目撃数が増えたと言う可能性もあるが。
「わたくしも、あまり夢見の魔女については知りませんわ。前々から噂だけは聞いていましたが……」
ささいな事でも情報を出し合い、ノートに纏めた。
「……っていうか、キュゥベえに聞いたら良くないですか?」
キュゥベえは沢山の魔法少女を産み出しているそうだから、魔法少女の戦う相手である魔女について詳しくてもおかしくは無いだろう。
『呼んだかい?有栖美亜』
何処からともなく現れた白い生き物は、机の上にちょこんと座った。
「良いタイミングですよ。夢見の魔女について、知ってることを教えてくれませんか?」
『……本来、過度なアドバイスはしちゃいけないんだけどね。今回は状況が状況だ。僕の知っている事なら答えよう』
キュゥベえは触手で机の上のサブレを掴むと、それを口に放り込んだ。
「……それ、気に入ったんですか?」
『そういうわけではないけど、折角そこにあるのだから食べないのは勿体無いだろう?』
そう言う割には美味しそうにサブレを口に運んでいた。
「それでは、あの魔女の能力や特徴について教えてくださるかしら?」
『そうだね、僕も正確に理解できた訳じゃないんだけど。彼女の力は重力や、テレキネシスあたりだと推測できるかな。それなら君達を一ヶ所に固めたり出来たことにも説明はつく』
確かに、その辺の能力なのだろう。
「……ボクが跳ね返されるとき、引っ張られるってよりは押し出された様な感覚があったんだ。だから、あの魔女の能力はテレキネシスなんじゃないかな?」
魔女の能力……テレキネシス(?)とノートに書き込む。
「テレキネシスってどう対処すれば良いんですの?」
『それは僕に聞かれても困るなぁ』
まぁ、そんな簡単に答えが貰えるわけはないか。キュゥベえはあくまで辞書のような物。手にいれた単語をどう使うかは私達次第なのだ。
「あのとき、最初に私が腐れお嬢様にくっついて、その後合田さんにくっつきましたよね」
「……それが、どうかしたのかい?」
「もし、私達を一ヶ所に集めたかったのなら最初から腐れお嬢様を中心にして集めれば良かったと思うんです」
だからあの能力は、少ない数にしか効果を発揮できないのでは無いだろうか。
「なるほど、ウジピエロの癖に頭は回るんですのね」
「だーかーらーっ!私はウジでもピエロでもありません!」
そんな風に時おり口論しながらも会議は進んでいった。
お読みいただきありがとうございます。9話でした。
魔法少女達の能力とかの説明回ですね。次回はちゃんと魔法少女ライフするかと思われます。
それでは、また次回お会いできたらと思います。
以下キャラ設定↓(姉斗真理は次回)
合田 雨音 アイダ アマネ
三人目に登場した魔法少女。魔法少女歴は姉斗の後輩、美亜の先輩といった感じ。魔法少女としての素質は高いわけではないが、格闘術には覚えがあり肉弾戦を得意とする。ボクっ娘(重要)。
茶色のポニーテール。普段着はジャージ。瞳の色はワインレッド。
キュゥベえへの願いは『もっと丈夫な体が欲しい』。生まれつき体が弱かった彼女は、ヒーローに憧れていた。
契約の結果、自身の『体の性質を変える』力を手にいれた。腕を硬化させることでパンチの威力を高めたり、体を柔らかくすることで狭い場所に入ったりもできる。使い方によってはちょっとグロい。
ジェムの色は赤みがかったオレンジ。魔法少女としての服はオレンジのぴっちりスーツの様なもの。伸縮自在で能力に適応している。また、スーツには黒色のラインが入っている。