曙の梅雨グラフィックを見てぱっと思いついて適当に書きなぐっただけの息抜き。本当に短いし内容なんてないよ

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曙が提督に傘を届けに行くだけの話

 

 

 

 梅雨というものはひたすらに憂鬱である。夏が近づく直前に大量の水分をまき散らし、ただでさえ気温が高くなる毎日に湿度の上昇というダブルアタックを仕掛けてくるのだ。おかげで服の中も下着の中もベタベタして最悪だ。

 

「このクソ雨雲」

 

 第七駆逐隊の寮室で、本日非番の曙は窓の外を睨みながら言う。他の仲間たちは遠征または出撃中。先日通常よりも多く任務が重なり、連続で出撃した曙には臨時の休暇が与えられ今に至る。

 

 が、せっかく与えられた休暇もこれではつまらなさすぎる。街に出ようも濡れると萎えるし、傘だって持つから買い物をしても疲労だけがたまるだろう。せっかくの休日は寮内で過ごすことになりそうだった。

 

 窓を少し開け、もう少し詳しく外の様子を伺う。雨の音がザーザーと鼓膜を叩き、雨特有の匂いが部屋に入り込む。それまでなら嫌いではないのだが、次に来るのはむわりとした熱気。それさえなければまだましだったろうにと曙は思う。

 

 何気なしに外を見てみると、レインコートを着た夕立が楽しそうに走り回っている。その後ろを傘をさして追いかける時雨の姿。本当に犬みたいに楽しそうにしているなと思う。だが、雨でもあんな風にはしゃぎまわれる

夕立がちょっと羨ましいとも思う。自分じゃあんなに無邪気な姿を晒すことなんてできない。

 

 ほんの少し正確に癖がある自分に向けてため息を吐くと、窓を閉めて部屋に戻る。何をしようかと考え、まだ読み終わってない文庫本でも読もうかと思ったときだった。部屋のドアをノックする音が聞こえ、続けて聞き覚えのある艦娘の声。

 

「曙さん、いらっしゃいますか? 大淀です」

「大淀さん? はい、今開けます」

 

 何事かと思い、曙はドアを開ける。前には書類を抱えて、どうにか仕事の合間に来れたと様子の大淀が立っていた。

 

「突然ごめんなさいね。今日非番ってのは知ってるんだけど、どうしてもお願いしたいことがあって」

「なんですか?」

「今提督が仕事で外にいるんですが、朝は雨が降ってなかったので傘を持ってないんです。駅まで迎えに行ってもらえないでしょうか?」

「えっ……」

 

 曙は思わず行ってしまった。いや、突っ込みたいところが大量にあるのだから無理もない。まず仕事で外にいるのはわかる。だがなぜ電車で行くのだろうかと思う。一端の海軍提督が電車移動とはどういうことだろうか。専用車の一台や二台はあるのに。

 

「運動不足解消のためだそうです」

「ああそう……」

 

 曙はどうしようかと思う。一瞬非番なのになぜ行かなければならないのだろうかと思ったが、部屋に引きこもるより仕事があったほうがまだ楽な気がしたからひとまずOKを出すことにした。

 

「わかりました。どうせ暇なので」

「助かります。傘はこれを使ってください」

 

 と、大淀が提督用の青い傘を差し出す。やたらと立派な物で、柄を持っただけで普通のとは違うのがわかった。

 

「それじゃあ私はまだ仕事がありますので、あとはお願いしますね。提督が来るのは三十分後です」

 

 そう言い残して大淀はそそくさと次の仕事に向かった。さて、どうしたものかと曙は思いつつ、シューズボックスの中を開ける。いつものローファーに手を伸ばし、しかしそれだと濡れて厄介なことになると考え、中を見てみる。するといつだったか潮が買った赤い長靴が目に入り、それを取り出す。本人今は留守中であるが、「曙ちゃんも使っていいよ」といっていたのを思い出した。少し忍びないが、事後報告で許してもらおうと足を入れてみる。自分とピッタリのサイズに満足する。

 

(足のサイズ同じでも、あの胸の差はどこでついたのかしら)

 

 そう思いながら曙は傘立ての中から適当な傘を取り出す。意図せずして長靴と同じ赤い色の傘だった。ちょっとだけラッキーと思い、部屋から出る。扉の施錠をしっかりして廊下に出ると、まっすぐに外へと出た。

 

 

 

 

 市街地を歩くのはそうそう珍しくないことではあるが、雨の日となると少し違う印象を受けた。人通りは少ないし、すれ違う人はみんな憂鬱そうな顔で歩くし、道端にできた水たまりは鏡になっていたりと多種多様である。いつもなら艦娘が市街地を歩いているということでじろじろ見られたりするのだが。他の市民は雨でそれどころではないらしい。

 

 ただ、駅に続く表通りに近づくにつれ、人の数が増えていく。この分だと歩道は傘をさした人々で埋め尽くされているだろう。それを思うとやはりげんなりし、曙は駅へと続く大通りには出ず、近道を行くことにした。

 

 路地と路地の間を抜けていくこの道は、漣に教えてもらった。表と違い、薄暗いこの路地を抜けていくのはなんというか、わくわくしてしまう。そう、秘密基地のようだ。

 

「にゃー」

 

 と、頭の上から猫の鳴き声がして、曙は思わず見上げてしまう。そこにはビルを囲む塀の上に乗った猫が一匹。傘をさして気が付かなかったが、じっと曙のことを見ていた。

 

「なによあんた、濡れてるの?」

 

 と思った曙だったが、上を見るとビルの屋根が意外と長くせり出していて、雨が当たることは少ないようだった。曙のことをじっと見つめた猫は、飽きたのか毛づくろいをはじめた。

 

「暢気なものね。こっちはせっかくの非番が雨でつまらないわ」

 

 曙は猫に手を伸ばし、無抵抗だったからそっと顎を撫でてやる。気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らし、思わず唇が吊り上がる。

 

 何度か体を撫でまわしたのち、曙は駅に向けて歩き出す。ここまで来ればもう遠くない。駅の目の前にあるビルの隙間から顔を出せば、駅はすぐそこだ。

 

 ビルの隙間を抜け、表通りに出る。傘を差した人々が雨から逃れようとそそくさと歩いている。その喧騒の中に曙は身を投じ、大通りの向こうの駅を目指すべく信号を待つ。時計を見ると提督の到着時間まであと十分ほどだった。

 

 信号が青になり、一斉に人々が歩き始める。それに合わせて曙も歩き出す。反対側から歩いてくる人にぶつからないように体を捻り、あと一歩で渡り終えるところだった。

 

「にゃー」

 

 と、さっき聞いた聞き覚えのある猫の声。曙はまさかと思って振り返ると、さっきの猫が踏まれそうになりながら交差点を渡るべく横断歩道に出たところだった。なぜわざわざ追いかけてきたのか、と思う曙は信号が点滅しているのに気が付く。直後信号が赤に変わって猫がようやく横断歩道の半分まで差し掛かったのを見て、曙の体は反射に押し出された。

 

 まず体全体を急速回頭。次に自分の鍛え上げた脚力で地面を蹴る。艦娘になってからのトレーニングは伊達ではない。これでも陸上運動は駆逐艦娘の中ではトップなのが自慢なのだ。

 だが、それでも傘を持っていては空気抵抗になっていては話にならない。傘を放り出し、身軽になったところでさらなる加速を仕掛ける。止まっていた車が走り出す気配。見るな、考えるな。曙は右手を伸ばす。猫の首根っこを掴むことに成功し、両手に抱える。だが本能的に悟る。走ったら間に合わない。迷わずジャンプ。まるでアメフトのタッチダウンのように宙を舞い、曙は歩道に転がり込むことに成功した。

 

「っつぅ……」

 

 だが、代償は大きかった。うつぶせに飛び込んだものだから容赦なく服はびしょ濡れになり、セーラー服の一部が破けてリボンが地面に落ちる。その様は周囲の市民たちの多くに見られ、杞憂の目で見る者もいれば見て見ぬふりをする者、状況を理解しつつも関わろうとしない者と多種多様である。一生の恥だ。おまけに放り投げた自分の傘は大破という散々な結果になった。

 

 が、胸に抱いた猫と提督の傘だけは守り切った。とは言うが、猫はともかくなぜ提督の傘も守れたかは曙自信分からなかった。

 

「にゃーん」

 

 と腕の中で鳴く猫。曙はその頭をそっとなでてやると、すべてどうでもいい気がした。

 

 

 

 

 一仕事を終え、鎮守府最寄り駅に到着した提督は改札口を抜けて曙を探す。大淀の話ではもう居るはず。提督はきょろきょろと周囲を見回し、駅構内を支える柱の下に自分の使っている傘の一部分が見えて、そこに曙がいると察した。

 

「曙、すまんな。またせ……」

 

 と、顔を出した提督は言葉を失う。目の前にいるのは確かに曙だったが、どういうわけか体育座で、セーラー服はボロボロでしかもびしょ濡れ。そのせいで中のキャミソールがうっすらと見えていて、非常に目のやり場に困る格好になっていた。それに加えて腕の中にいる猫。いったい何があったのかと小一時間聞いてみたい身なりだったが、すべてをあきらめたかのような曙の表情を見て何も聞かないでおこうと誓う。

 

「…………帰るか」

 

 曙は何も答えず、ただゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 帰り道。提督は曙が守ってくれた傘を差し、隣には提督の上着を羽織った曙が不機嫌そうな顔をしながら並んで歩く。胸に抱くのは例の猫。提督はそれだけで大方の状況を察したから多くは語らなかった。

 

「私はもう濡れてるから一人で使いなさいよ。左肩濡れてるじゃない」

 

 不意に曙がそういう。だが提督はか弱き乙女を雨の中一人晒して自分だけ傘に入るなどという無粋な行為をするほど愚かではないので軽く曙の発言を返す。

 

「知らないのか? 左肩濡らし健康法だ」

「何よそれ」

「鎮守府の極秘健康法だ。効能は艦娘の体が濡れなくなる」

「だから私はもう濡れてるって言ってるでしょうが」

「気にすんな。これ以上濡れることはない。それにその猫だってまた濡らすことになるぞ」

 

 曙は抱いている猫に目を向ける。助けてやった恩も知らず、前足をぺろぺろと舐めまわしている。こいつめ、鎮守府に帰ったら体を洗って生涯ネズミ捕りのタダ働きをさせてやる。

 

「ありがとな、曙」

「ふん。非番の暇つぶしくらいにはなったわ」

「間宮連れて行ってやるよ」

 

 提督はそっと曙の頭に手を置いてやる。一瞬体が硬直したが、優しい手にすぐ曙は力が抜けていくのがわかった。この男はずるい奴だ。そんな風に優しくするから、散々な目に遭っても許せてしまうのだから。

 

 曙は少しだけ赤くなった顔を見られないように、顔を背けて鎮守府へと向かった。

 

 

 

 

 他の艦娘にぼろぼろの曙を見せないために、提督は自分用のシャワールームを曙に貸した後に鳳翔さんに事情を話し、予備の制服と下着をもって脱衣所に向かう。入ってみるとスモークガラスの向こうからシャワーの流れ出る音。洗濯籠に放り込まれた彼女の制服と下着を持ち上げ、後で鳳翔さんに縫ってもらおうと考える。さて、着替えを脱衣所に置こうとした、その時である。

 

「こら、汚れてるんだから逃げるんじゃないの!」

「ぎにゃー! にゃにゃー!!」

「ばっか、さっきは雨にぬれても平気だったくせに……っていたたた! 爪立てるなぁ!」

 

 どたどたと騒がしいシャワールーム。曙の奮闘が簡単に脳内再生されてしまう。なんだかんだで面倒見のいい子だ。自分の気持ちを表に出せないのがちょっと難ありだが、それもまた良いものだ。

 

 すると、突然シャワールームの扉が開いて湯気が脱衣所に流れ込む。何事かと見てみると、あの野良猫がドアノブに器用に捕まり、自分の体重を使って見事に開けて脱走を図ったのだ。そしてそれを追いかけるために飛び出す曙。言うまでもなく、全裸である。

 

「あっ……」

 

 脱衣所に足を踏み出したところで提督の存在に気が付いた曙は硬直する。そんな彼女を提督は冷静に観察し、スレンダーではあるがどうも骨が多く見える彼女の体について一言。

 

「曙。もうちょい物食べた方がいいぞ」

「…………こっ」

 

 真っ赤になっていく曙の体。そして曙が右手に抱えるのは風呂桶。提督は次に待っている台詞と自分の末路を予測し、素直に受け入れることにした。

 

「このクソ提督うぅううう!!」

 

 絶叫とすこーん、と風呂桶の直撃する音。うーん、自分はこの場合無実だよなぁと提督は思いながら脱衣所の床に倒れこみ、後の処理を適当な艦娘に任せることにして意識を放り投げた。

 

 外で降っていた雨は、いつの間にか止んでいた。

 


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