あと2、3話分は頭の中に構図がありますので。
ではでは、本編をお楽しみください。
「
「そう。なら行きましょうか、
五月蝿く蝉の鳴く初夏、とあるお屋敷で二人が廊下を歩いていた。
一人は長くふんわりとした茶髪を後ろで一つにまとめ、シワ一つない長袖のカッターシャツと紺のスカートをはいた女性。
もう一人は、その女性の一歩後ろを慕うように歩く執事服を着た執事のようなは人だった。
「さて、あの強情娘に会う前に確認しておきましょう。本日はなぜ呼ばれたのかしら?」
「日本経済が抱える負債、それに伴う中小財閥の解体、それに加えて市場に出回っている資金の見直しだったはずです」
「……全く、そんなものを齢十数の娘が考えることじゃないでしょうに」
それが五月蝿い蝉の声のせいなのか、それともいつまでもノロノロと以前と同じ経済政策をし続ける
「奥様、今申し上げたところで結果は変わらないかと」
「………はぁ、そうですね」
女性はため息をつき、頬を伝う汗を拭う。
初夏にもかかわらず、25度を軽く超える気温なのでさすがに汗の一つもかくだろう。
だが、後ろを歩いている執事はそんな素振りを見せもせず、
「奥様、手拭いです」
「本当に用意周到ね。ありがとう杜月」
涼しい顔で女性に手拭いを渡していた。
この二人が向かっている場所は今歩いている屋敷の会議室なる部屋だった。
少し歩くと一人の給仕の女性が見えてきた。その女性は頭を垂れて告げた。
「お待ちしておりました、羽咲
「えぇ、わざわざありがとうございます」
そう言って女性ーー羽咲美怜は給仕の女性のように頭を垂れた。
♤
「全く、融通がきかない方ね」
会議室なる部屋で、久遠飛鳥は苛立ちながらボヤいていた。
先ほどまで国の財政を左右できる財閥の代表者と話をしていたのだが、他の財閥の代表者は賛同する中、一人だけーー羽咲美怜だけは何を言っても否定するのだ。
やれその案は無理だとか、やれ実現不可能だとか、やれ金が足りないだとか。
その反発により、飛鳥の考慮していた案はすべて消え去り、今回はお開きとなったのだ。
せっかく自分の時間を削ってこんなことをしているというのに無駄なことこの上ないし、自分が使用できる時間を削られるというのもあまりいい気はしない。
はぁ、と大きなため息をつき、椅子に座ろうとすると不意に眩暈がした。そのため、椅子に座れず倒れそうになる。
「ぁっ………」
「大丈夫ですか、飛鳥お嬢様」
だが、倒れなかった。なぜなら、執事服を着た、羽咲美怜に杜月と呼ばれていた執事が支えたからだった。
「あ、ありがとう杜月さん」
「いえ、仕事ですから」
恥ずかしそうに頬を少しだけ赤く染める飛鳥に涼しい顔で答える杜月。
ですが、と杜月は付け加える。
「奥様をあまり悪く言わないであげてください。彼の方も、この国のことを考えてのことなのです。ですから」
「そんなの分かってるわよ。だから、こうして苛立ってるんじゃない。もう思いつく案がないから」
「……申し訳ありません。出過ぎた真似を」
「気にしなくていいわよ」
下がっていいわ、と立て続けに飛鳥に告げられ、杜月は部屋を後にする。
奥様ーー羽咲美怜が待機している部屋へ向かおうとしたその時だった。
横を通ろうとしていた給仕の女性が呼び止める。
「あ、あの……杜月様」
「………?はい、なんでしょう」
「お屋敷の玄関に落ちていました」
そう言って給仕の女性は白い封書を手渡し、失礼しますっ!と一目散に何処かに行ってしまう。
杜月は財閥の給仕の女性の中では有名で、かなりの美形だと会ったことのない人たちからは噂が立つぐらいだ。
それでいて立ち振る舞いも執事としては完璧、もう日の打ち所が一切ないと言っても過言ではない。
それはさておき、杜月は手渡された封書に目を移す。
表には何も書かれておらず、後ろに『杜月
「はて、誰からでしょうか……?」
どこかの財閥にいる給仕からの
「とりあえず、開けてみましょう。私宛ですし」
封をされたシールを破らないように綺麗に剥がし、中身の便箋を取り出す。そこには、こう記されていた。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』
悩みとは?と杜月が疑問を浮かべる前に異変は起きた。
その便箋から眩い光が杜月の視界の一面を満たし、杜月から資格を奪う。
その光が収まる頃には、その場に杜月はいなかった。
ーーーーー杜月悠吏はこの瞬間より世界から姿を消した。
♤
突如襲われる浮遊感。視界が潰され、目を閉じている杜月だったが、目がようやく慣れてきて開いてみればそこはーーーー上空4000mという空中だった。
「なるほど……空中ですか」
と虚ろな目で杜月は言った。状況が把握できない云々の話ではなく、もはや現実を見たくないという感じだった。
その時、杜月の脳裏にある言葉がチラついた。
『執事たる者、決して汚れてはならず』
杜月が羽咲美怜の執事になる際、執事の心得を前任の方から教わっていたことだった。
それを思い出した杜月は瞳に色を取り戻し、自分が落ちる先を見据える。そこは比較的岸に近い場所だった。
(この距離なら……いけます)
そう思いながら杜月は体を捻る。捻っているときに周りを見渡す。そこには自分と同じように落下している人が三人と一匹ほどいた。が、そんなことを気にする余裕のない杜月は自分のすることに集中する。
そうしているうちに四人+一匹は水面近くまで来る。そのまま着水するかに思われた。だが杜月は着水する直前に、
水面を裏拳で叩きつけた。
杜月はその衝撃の反動を生かして体を回転させながら着水を回避し、地面に着地する。
そしてすぐさま身なりを整える。
他の三人と一匹はというと、見事な水柱をあげて着水していた。
その光景を茂みの陰から見ていた人物は戦慄していた。
(な、なんか凄いことしている方がいらしたんですけど……大丈夫ですよね!?)
そう心配しつつ祈るのだった。
いかがでしたか?
どう考えても謎だらけになってしまったんですが、おいおい明かしていきます。
では、次回もお楽しみに。
感想、評価、アドバイスetc.など気軽にお願いします。