執事も異世界から来るそうですよ?   作:夜明けの月

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執事、人外認定を受ける

「なんっなのよこれは!!どうしていきなり水浸しにならなきゃいけないわけ!?」

 

「全く同意だクソッタレ。下手すりゃ死んでゲームオーバーもありえたぞ。まだ石の中の方がマシだぜ」

 

「……石の中では動けないでしょう?」

 

「俺は動ける」

 

「……そう、身勝手ね。それで」

 

見るからに怒り心頭な久遠飛鳥は、近くにいた学ランの少年から静かに直立する杜月に目を向ける。

 

「あなた……羽咲さんのところの執事よね?どうしてここに?」

 

「さぁ?私にもさっぱりです」

 

「……え?」

 

「原因として考えられるのは、あなたのお屋敷の給仕の方から頂いた手紙、ですかね。もちろん私宛の」

 

「……それ、私と一緒よね?ということはあなたも……」

 

杜月の発言で何かを感じ取ったのか、ブツブツと呟き始める飛鳥。

杜月は、飛鳥が思考に耽っているとわかると周りを見渡す。

 

一面が緑で包まれており、さしずめ森林の中心部といったところだろう。

周りからは幾つかの鳥のさえずりが聞こえてくる。そよぐ風が杜月の肩まである髪をなびかせる。

 

見渡している途中、不意にあるものが目に入る。それは茂みからほんの少し出ている青い何かでーーー。

 

「ふむ………」

 

杜月はその一点を集中してみる。だが、その青い何かは動く気配すらないのでただの置物か何かだろうと仮定付けて飛鳥に目を戻す。

 

そこでは、さっきまで思考に耽っていたのは何処へやら、再度学ランの少年と話していた。

 

「で、同じようにここにいるってことは、お前らにもあの手紙が?」

 

(お前ら……ということは彼も受け取ったということですか)

 

ふむ、と顎に手を当てて状況を整理しようとするが、とりあえず話だけは聞いておこうと思いとどまり二人を見る。

 

「そうだけど、そのお前っていうのやめてくれないかしら。私には久遠飛鳥という名前があるの、以後気をつけて。それで、そこの猫を抱えているあなたは?」

 

はて、猫を抱えている人なんていましたか?と杜月は問いかけそうになったが、飛鳥の視線が向いた方向を見ると、そこにはしゃがんで猫を抱きか抱えているボブカットの少女がいた。

 

「………春日部耀。以下同文」

 

「そう、よろしく春日部さん。それで、そこの野蛮で凶暴そうなあなたは?」

 

「高圧的な自己紹介ありがとよお嬢様。見たまんまの野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよ、お嬢様」

 

「………取扱説明書をくれたら考えてあげるわ」

 

不敵に笑う学ラン少年、十六夜は売り言葉に買い言葉といったように告げる。飛鳥は案の定、嫌な顔をしてそれに応じたが。

 

「はぁ……それで、一応あなたも自己紹介しておいてもらえるかしら」

 

「はい、了解いたしました。私は羽咲財閥に仕える執事、杜月悠吏でございます。ただのしがない執事ですので、使い勝手のいい召使いとでも思ってくださると幸いです」

 

「「「…………はぁ?」」」

 

杜月の自己紹介に納得できない点があったのか、顔を顰めて否定的な声を上げる。

 

「ヤハハ!面白い冗談だな。お前だけ濡れてないのを見ると、どうにかして池に落ちないようにしたな?」

 

「そういえば、あなたは噂されてたわね。身体能力が尋常じゃないだとか」

 

「……視界の端に見えたけど、あなた裏拳で水面叩いてたような………」

 

「「「じとー……………」」」

 

「な、なぜそのような目で見るのですか……?といっても、水面叩いて着水回避なんて誰でも」

 

「「「無理だろ(でしょ)」」」

 

「そ、そんなことは……」

 

表情を引きつらせて抗議しようとする杜月だったが、それは他の三人はジト目で杜月を見るだけだった。

 

飛鳥と耀はしばらくジト目を続けたが、十六夜は早々にやめて新しく話を切り出す。

 

「で、話は変わるがどうして誰もいないんだ?案内人とかいるもんだろ普通」

 

「……確かにそうね」

 

「………………私は………異常、なのですか………?」

 

「「さっさと戻ってこい執事服」」

 

話が進もうとしているにもかかわらず、虚ろな目で空を見ている杜月に対して、十六夜と飛鳥は後頭部を思いっきり叩く。

 

それを横目で眺めていた耀は、とある茂みを指差す。

 

「多分、あそこ」

 

その指差した先には杜月が発見していた青い何かがあり、耀が指をさした瞬間、ガサッと茂みが揺れた。

 

「なんだ、お前も見つけてたのか」

 

「お前もって春日部さんだけじゃないわ。私も見つけてたわよ」

 

「あ、私も気づいていましたよ」

 

「そこの人外執事は兎も角、他のはおもしれえぜ」

 

「人外執事……ですと………!?」

 

十六夜の心のない発言にガックリと項垂れる杜月だが、他の三人は最早気にとめる気もないのか茂みを見たまま視線を移さない。

 

それに耐えきれなくなったのか、状況を傍観していた人物が茂みから現れた。

 

「や、やだなあ御四人様。そんな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「………………人外」

 

「あっは、取りつく島もないですね♪というか最後の方は私のことにすら目に入れてないのですがそれは………」

 

バンザーイと降参の態度を取る黒ウサギなる少女。黒ウサギという少女は奇抜な服を着込み、頭上に以上としか思えないものを生やしていた。

 

それに興味を持った耀は、静かに彼女の背後に回ってそれを鷲掴みにする。

 

そう、頭に生えているウサギのような耳を。

 

「えい」

 

「フギャア!?」

 

すると、黒ウサギからは女の子とは到底思えないというか出しちゃいけないような悲鳴が発せられる。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!!触るだけならまだしも、黒ウサギの素敵耳を遠慮無用にしかも初対面で引っこ抜くとは一体どういうことですか!?」

 

「好奇し…………触り心地を確かめたくて」

 

「触り心地というレベルの力じゃないのですが!?」

 

「……前言撤回。好奇心のなせる技」

 

「最初から素直にそう言ってください!」

 

そう言いつつ、耀の手から逃れる黒ウサギ。だがしかし、逃げた先に問題児(十六夜と飛鳥)が待機していた。

 

「へぇ、本物なのか」

 

「ふーん、本物、ね」

 

「へ、あ、あのぅ………」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる二人に表情を引きつらせる黒ウサギ。このあと起こるであろうことを予測し、目を巡らせて未だ黒ウサギの耳に興味を持っていない杜月に目をつける。

 

だが、その頼みの綱の杜月は人外執事と初対面の人に呼ばれたことがショックなのか、虚ろな目で湖を眺めながら、

 

「………………人、外…………執事」

 

と体育座りでボソボソと呟いていた。

 

その直後、黒ウサギの出してはいけないような悲鳴が辺り一面に響き渡ったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あり得ないのですよ。状況の収集に小一時間もかかるなんて……!」

 

「早くしろ。じゃないと」

 

「分かりました、分かりましたからそれだけはやめてください!」

 

十六夜が脅すと、黒ウサギは慌てふためきそれをやめさせようと早口で言った。

 

「いいですか、定例文で言いますよ?言いますよ?はい、言います!ようこそ、箱庭へ!」

 

黒ウサギは両腕を広げて笑顔で告げた。耀が手を挙げて黒ウサギに質問する。

 

「……箱庭って何?」

 

「よくぞ聞いてくれました!箱庭とは、己の力、知恵、勇気を修羅神仏が競い合うギフトゲームを行うために作られたこの世界のことです!ちなみに、皆さんにはオモシロおかしく過ごしていただくために呼ばせていただきました!」

 

「で、そのギフトゲームってのはなんなのかしら?」

 

「はいな!ギフトゲームというのは、己が持つ修羅神仏より与えられし恩恵を行使して競うゲームのことです。ギフトゲームでは勝利すれば、ゲームの難易度に相応しいチップが受け取れます」

 

「チップってことは、報酬ってことか?」

 

「はい、その解釈でほぼほぼ合ってます。ちなみに、そのチップには色々な物を賭けられます。お金、骨董品、武器、己のギフト、人材などなどなんでもありです」

 

黒ウサギの説明を聞いていく三人は、チップにかけられる物を聞いてギョッとする。

 

黒ウサギは確かに言ったのだ、ゲームのチップに人一人賭けることができると。

 

「……人を賭けるってどういうことなの?」

 

「ええっと……それ相応というか物凄い難易度になるかもですが、賭けられるのは真実です」

 

「そんな………そんなの非人道的だわ!!」

 

「ええ、そうですね。ですが、それが箱庭です(・・・・・・・)

 

黒ウサギの真剣な眼差しに気圧される三人は確信させられる。

 

ここは、人外魔境(そういう場所)なのだと。

 

そんな時、無言を決め込んでいた杜月が挙手する。

 

「ならば質問です。どうして貴女は、こんな非人道的な世界に私たちのようなここよりは比較的人道的な世界で生きてきた人間を呼び出したのですか?普通なら、ここに相応しい非人道的な世界で生きてきた人を呼んだほうがよかったのではないですか?」

 

「……………私自身の判断ではどうとも言えません。すみません」

 

いつぞやの給仕の女性のように頭を垂れて謝罪するが、杜月は見逃さなかった。頭を下げる一瞬の時だったが、黒ウサギの目が泳いだことを。

 

杜月は目を鋭くして黒ウサギを睨むように見る。焦っている様子はなく、そして落ち着いている様子でもない。杜月に予測できたのは、黒ウサギが何かに迷っている、ということだけだった。

 

そんな憶測だけで話ができるわけもなく、杜月はすみませんと軽く頭を下げて質問を終える。ちなみに、十六夜たちはそこら辺にあった手頃な石に座っているが、杜月は相変わらず直立したままだ。

 

「では、皆様を箱庭の世界へと案内「ちょっと待てよ」………はい?」

 

気分を切り替えて歩き出そうとした黒ウサギを十六夜がとめる。何をするのかと疑問に思っていると、彼はおもむろに立ち上がり黒ウサギの背後の先にあるであろう箱庭を見据えて言った。

 

 

 

 

「この世界は、面白いか?」

 

 

 

 

そのなんとも快楽主義の彼らしい言葉に黒ウサギは満面の笑みで答える。

 

「ーーーYes!箱庭のギフトゲームは人知を超えた神魔の遊戯。よって、外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

 

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