直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

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タイトル通り、再び南西諸島沖の攻略になります


南西諸島沖 前編

 新たなる海域、南西諸島沖の奪還及び占領作戦は惜しくも失敗と終わった。主力艦隊は未だにあの海域を我が物顔で占拠している。

 この戦争は、現在進行形で深海凄艦側に有利は偏っている。その理由は、深海凄艦の底を見せない戦力だろう。既に、倒した深海凄艦の数は百を優に超す。だと言うのに、人類は日本近海すら奪還できていない。

 さらに、深海凄艦の本拠地があるとされる太平洋沖、あ号基地と名付けられたそれは、人工衛星からの映像だけでも、百、いや、千を超える、戦艦、空母、さらには謎の艦種までもが目撃されている。そして、浮遊要塞という、馬鹿げた存在も。

 対して、深海凄艦と渡り合える艦娘の数は百と少し。さらに、艦娘の力に関しては第二次世界大戦で活躍した軍艦までしか確認出来ていないため、その内打ち止めがくるだろう。

 現代艦、護衛艦の類が艦娘となったのなら、もう少し戦いは楽になっただろう。しかし、護衛艦の艦娘は存在していない。

 この戦いは、終わりの見えない無尽蔵の軍を持つ異形の相手と有限の資材と人材しかいない人類側の、とても戦力が偏った生存競争となっている。

 それを知ってか知らいでか、民衆は艦娘の運用には反対をしている。何でも、幼い女の子や、女性を戦場に赴かせてお偉いさんは指令室でふんぞり返っているのが気に食わないとか何とか。

 だが、艦娘の協力無しにはこの戦争は勝つことは出来ない。なのに反対するとは、少しでもいい人で居たいというエゴなのか、この生存競争を諦めているという事なのか。

 そんな民衆だが、最近はエスカレートしてデモや艦娘の存在そのものを否定する組織まで発足し始めた。それは、ブイン基地にも影響している。

 

「ったく……誰が命張って戦ってると思ってやがるんだ」

 

 提督は、後方で指揮を取るため、基本的には体を鍛える必要はない。だが、彼がそれでも朝の鍛錬を止めない理由は、鎮守府のあちこちに張られた艦娘を解体しろ、や今すぐ戦争を止めろ、等と無茶苦茶な事が書かれた張り紙を剥がすためだ。

 既に、人類最後の切り札であり、黒歴史である核弾頭によるあ号基地への焦土作戦は失敗に終わっている。これが指し示すのは、人類にはもう打つべき手段が艦娘に頼るという事だけだという事だ。

 それが分かっている 筈なのにこんな事をする。タダの烏合の衆の集まりなのか、テロリストの集まりなのか、偽善者の集まりなのか。

 艦娘の存在の否定は自分たちの恩人に対して仇で返すという事であり、受理された場合は後は絶滅を待つだけだと何故分からないのか。前線で指揮を取る彼にとっては、それが最大の疑問であり、悔しさだった。

 自分の住む街が深海凄艦に襲われ、廃墟となってしまったあの時。血を流し、手足をもがれ、それでも命を懸けて人々の救助を優先しながらも敵を撃退した六人の艦娘の存在を、彼は覚えている。

 遅かった。お前たちが速く来ていれば。そんな事は微塵も思わなかった。自分たちを助けるために、民間人を無視したらすぐに勝てる相手に背を向け盾となり戦った彼女達は、まさしく英雄だった。そして、既に死んでしまった人たちの骸を前に悔しがり、涙を流す彼女達を見て、彼女達と戦いたいと必死に思い、今、この場に立っている。

 だからこそ、こんな心にもない張り紙を張る人間が、彼は許せなかったし、自分の指揮する艦娘には見せたくなかった。こうやって、朝練と称して張り紙を剥がすのも、そのためだった。

 

「……今日も南西諸島沖の奪還作戦か」

 

 大本営から命令されているのは南西諸島沖の奪還。敵艦に戦艦と重巡がいないため、駆逐艦での攻略も比較的楽に可能だが、軽巡二隻と雷巡が一隻。どれも駆逐艦にとっては主砲一発の直撃で痛手となってしまう。

 そして、駆逐艦は魚雷という強みがあるが、当たる確率は高いとは言えない。だが、電の直死の魔眼だけは別だ。

 彼女の魔眼なら戦艦だろうが空母だろうが、インファイトに持ち込めば確実に沈めることが出来る。しかし、そのためにはゼロ距離まで接近する必要がある。

 電の危険を少なくするため。そのための作戦。作戦とは言えない作戦。

 主砲、魚雷、対空機銃、武器と言う武器を全て取っ払い、空いた部分に缶を積めるだけ積む、電の完全近距離決戦装備案。恐らく、最高速度は島風に追い付く程になるだろう。電の最高速度は三十八ノット。これに最新型の缶を組み込めば、駆逐艦の中でもかなりの速さを誇るだろう。

 これなら、電の被弾はかなり少なくなるが、電に積め込むほど、缶は無い。今ある缶は電の艤装に組み込んだ強化型本式缶だけだ。後は自分達で作らなくてはならない。

 汗をタオルで拭きながら、忙しそうに走り回る妖精さんに張り紙の処理を頼み、頭を一撫でしながら食堂へ向かう。

 

「ひ、響、それ近づけないで!」

「皆食べたんだ。暁も……」

「ぴゃああああああああああああああああ!!?」

「……朝から元気だなお前ら」

 

 響が雷に暁を羽交い絞めさせてスプーン一杯分残ったマーマイトを暁の口にねじ込んでいた。

 マーマイトを無理矢理食べさせられた暁は顔色を白黒させ、解放された瞬間、水を飲みに走りに行った。電はあくびをしながらパンを齧っていた。目隠しをしながら。

 

「おはよう、電。昨日の傷は大丈夫か?」

「入渠したから完治しているのです」

「そうか。ならよかった」

「それはそうと司令官さん。司令官さんの分のトースト、マーマイトたっぷり塗られてましたよ?」

 

 はいこれ。と電が提督に差し出したトーストは表面が真っ黒になっていた。しかも、どこか生臭い。よく見たら電のトーストも表面が真っ黒。

 えっ、と声を漏らして電の方を見たら、諦めろと言いたいのか、視線を察して首を横に振った。だが、電を普通にトーストを頬張っている。なら、普通に食べれるのではと思い、トーストを口に近づける。

 ゴクリ、と無意識の内に唾を飲む。マーマイト。その実態は知らないが、スプーン一杯で暁が涙目になるレベル。と、ここまで考えて、暁は舌もお子様だから、平気なのでは、と考えた。電は普通に食べているし。

 

「いただきます」

 

 サクッと一口。その瞬間、口の中に とんでもない味が広まった。

 納豆と醤油と塩辛と八丁味噌を混ぜた様な、混沌とした味が口の中に広まり……

 

「おぇっ」

「まぁ、それが普通なのです。私も大量に塗ったらおえってなるのです」

 

 トーストを齧りながら水を求めて水道へ向かう提督を見ることもできず、電は自分の分のトーストを食べ終えたのだった。

 

 

****

 

 

 今日も今日とて航海日和。海猫が五月蠅く鳴く鎮守府から再び第六駆逐隊の四人が出撃する。水面を波紋を生みながら滑り、今日は複縦陣、旗艦は電に戻っている。

 装備は変わらず、電には缶と三連装魚雷、そして主砲。雷は三連装魚雷二つに吹雪型の主砲。響と暁は三連装魚雷に主砲、そして電探だ。

 魚雷の数を減らし、代わりに他の装備を積む。余り多くの装備や機関を組み込めない駆逐艦はどうしても魚雷を犠牲にしなければならなくなる。

 空から陽の光を浴び、少し暑いものの、海を滑る彼女達に真正面から当たる潮風は丁度いい冷たさで、快適な旅になる。

 電はイヤホンを艤装の収納スペースから引っ張り出し片耳に着けて目を閉じながら昨日と同じ進路を生き、響は何時の間にかボルシチを紙の皿によそって一人で食べている。

 姉ながらフリーダムだと感想を持ち、極力頭痛を起こさないために目を閉じながら航海をする。

 暁と雷は主砲を何時でも撃てるように構えながら周りを警戒している。

 そんな感じで数時間。電達は南西諸島沖に到着した。前回は二時の方向へ移動したので、今回は十時の方へと移動する。 恐らくこちらが敵主力艦隊の居る海域だろう。

 

「全艦、取り舵。十時の方向なのです」

『よーそろー』

「うらー」

 

 迷うことなく十時の方向へと移動を始め、電も目を開け、肉眼での目視に切り替える。

 頭痛が電を襲い、気分が悪くはなるものの、もう慣れた物。鼻歌を歌いながら主砲を何時でも撃てるように構え、移動する。

 

「……電。前方に敵の艦有り。数は三。前衛艦隊ね」

「こっちも同じだ。どうする?」

「突撃して真正面から殲滅します。こちらの射程距離に入り次第砲雷撃戦開始。許しさえもらえれば私が突っ込むのです」

「じゃあ、敵の砲撃確認後、電を中心とした輪形陣に陣を組み替えて全員で突撃。近距離までは一緒に突っ込んで、途中から私たちは離れるわ」

「私はそれでいいわ。響は?」

「……前はああでもしないと流れを握られるから黙ってたけど、電一人に突っ込ませるのは危険極まりない……けど、確かにそれが相手を逃す可能性も低いだろう。突っ込む間は私達がヘイトを稼げばいい。ただ、戦艦が出てきたら却下だ。副砲でも私達には危険すぎる」

「それは分かってるのです。戦艦に突っ込むほど馬鹿ではないのです」

「ならいいよ。私はサポートするだけだ」

 

 作戦は纏まり、電が機関を最大にし、残る三人も機関を最大。一気に加速する。

 それから数分後、敵艦隊を肉眼で目撃した。

 昨日、戦ったホ級、イ級二隻の計三隻の艦隊だ。あちらも電達を既に発見し、主砲を構えている。

 両者共に射程距離は同じ。全力で海の上を走り、徐々に開戦が近づく。

 

「三、二、一……全艦、一斉射!!」

 

 電の指示が走り、四人が同 時に主砲を発射する。さらに相手もほぼ同時に主砲を発射。

 砲弾は空中ですれ違い、電達の方へと落ちてくる。

 

「機関そのまま!面舵、一時の方向!!着弾エリアから離脱します!!」

 

 電が方向を少しだけ変え、機関をそのままに突っ走る。それに暁達は遅れることなくついていき、砲弾の着弾エリアから抜け出す。

 殺人衝動を抑えながら電は次の行動を頭の中でくみ上げる。どうやったら姉達と無傷で勝てるかを模索する。

 

「全艦、第四戦速!陣系を単縦陣に変更後、魚雷発射後に最大戦速で前進します!」

 

 再び電の指示が飛び、電を先頭に単縦陣に陣形を変更。すぐに陣形の変更は完了し、反航戦になりながら体の向きを横に変えて魚雷管を海面に向ける。

 

「全艦、雷撃、さらに最大戦速!」

 

 狙いを付け、敵の動きを先読みし、四人が全く同時に魚雷を発射する。海中を電達よりも先に魚雷が先行し、その間に電達は全速で敵との距離を詰める。

 

「敵と交錯に紛れて私が近接戦闘を仕掛けます!私が近接戦闘に入ったら少し距離を取って何時でも動けるように待機を!主砲、用意!構え……撃て!!」

 

 直後、爆音。電達の砲門から発射された砲弾は二隻の駆逐イ級に直撃。爆炎をあげ、一隻の駆逐イ級が海へ沈む。さらに追い打ちをかけるように魚雷が到来。ホ級は避けたものの、もう一隻のイ級に直撃。爆発が起き、轟沈。

 残り一隻。だが、気は抜かない。もしもホ級の砲弾が盾もなしに直撃したらどうなるかわからない。最悪、一発轟沈すらあり得る。

 両者が主砲の再装填が終わる前に交錯する。その瞬間、電は片手を海面に突っ込み、体勢を強引に低くして強制的に進行方向を正反対に変える。そのまま機関最大にしてホ級を追うが、相手も最大戦速で移動しているため追いつけない。

 舌打ちし、電は前回もパージした装甲を一つだけ再びパージ。頭痛は気にせず、手に持って思いっきりぶん投げる。投げられた装甲は回転していき、ホ級に直撃。死の線を切り裂き、ホ級の体が何かわからない液体を噴出しながら真っ二つになり、轟沈する。

 

「ふぅ……敵全艦轟沈確認。暁ちゃん、電探には?」

「敵反応無し。私達の勝ちよ」

『よし、じゃあ、周りを探索してから同じ方向に進軍だ』

「了解なのです」

 

 電は通信を切って一息つき、暁と響に周りの捜索を任せてからパージした装甲が落ちた部分に向かう。

 やはりとでも言うべきか、鉄で出来た装甲は暗い海の底へと沈んでいた。これはまた小破かな、と溜息をついていると、雷が寄ってきた。

 

「電、さっきの攻撃、装甲を投げてたのよね?」

「そうなのです。それが何か?」

「いや、装甲ってパージすると頭が凄く痛かったような……」

「あんな頭痛、この眼……えっと、直死の魔眼?を酷使してたら日常茶飯事なのです」

「そ、そう……やっぱりかなり辛いのね」

「もう一年の付き合いになるのでそれなりに慣れたのです」

 

 雷も誤って自分の艤装を切断した際に電が装甲をパージした時とほぼ同じ痛みを味わったが、慣れるとか慣れないの痛みでは無かったのは覚えている。その痛みを慣れたという辺り、直死の魔眼を酷使した場合の頭痛がどれほどの物か、時間にして数分しか魔眼を使っていない雷には分からない。

 

「電、ここからすぐの所で反応が一つだけ急に現れたわ」

『こっちでも確認した。間違いない、艦娘だ』

「了解なのです。皆で向かいます」

 

 己の手を引き暁達の後ろを付いて行く電の背中が、雷にとってはとても大きく見えた。

 逃げた自分と逃げるのを止め立ち向かった妹。軍艦の頃の記憶にある電は、どこか弱々しく、しかし根本はしっかりしている妹だった。だが、今は弱々しさは欠片も見当たらず、力強さを感じる。

 もし、あの時直死の魔眼を受け入れ、電の横に並んで戦う決意をしていたのなら。雷には若干の後悔が付き纏っていた。




何だか、初めてマトモな砲雷撃戦をした気がします。と、言うか海軍にも詳しくない&砲撃戦を書いたことがないため、これでいいのかどうかすら分かりませぬ

そして、新しい仲間ですが、第六駆逐隊と言えばあの人です。答えは明日の更新で

ちなみに、既に出す艦娘は決まっております。現状は第六駆逐隊を含め、十六人の艦娘を出す予定です。増える予定はありませんが、もしかしたら二、三人減るかもしれません
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