「……まぁ、そんな訳で変な男にヤラれたくもないので戦闘民族式交渉術でお引き取りしてもらった訳です」
「なるほど……まぁ、大体はわかった」
鎮守府への帰投後、電は司令室へと赴き、提督に今回のハイエース未遂についてを説明した。頭を痛そうにしているが、まぁ、仕方ないだろう。こんなケース、前例が無いのだから。
大本営からの指示は電が艦娘である事を伏せたままの事件解決。つまりは犯人の独房入り。これには提督も賛成なのだが、面倒な仕事が増えたと思うと軽く頭痛がしてくる訳で。
「で、ある程度気付いてたのなら何で逃げなかったんだ?」
「目の見えない女の子にダッシュで逃げろと」
「あー……オーケーオーケー。分かった、今回の件は電は悪くない。俺が後始末は全部やっておくよ」
「何だか申し訳ないのです」
「気にすんな。今日はもう仕事終わってるしな。警察に事情説明するだけだ」
「まぁ、もう二○○○過ぎてますけどね……」
「お前が迷ったからだろうが……あぁ、退室していいぞ。明日も出撃は無いが鎮守府近海の哨戒はしてもらうからゆっくり休むように」
「そうします」
直死の魔眼を酷使していないため頭痛は酷くないものの、やはり頭痛は辛いものがある。薬を飲んでも治らないのが辛いところなので提督の言葉に従ってすぐに入渠、と言うよりも入浴して寝る事にする。
「あら、電ちゃんも大変ね〜」
「えぇ、ほんと大変なのでぇ!!?」
部屋を出た直後、ナチュラルに電に声をかけてきた槍を持った女性。余りにも自然に馴染んでいたため、電が一瞬気が付かなかったが、気づいた直後に距離を取りながらサングラスを取ってナイフを構える。
だが、構えて相手を直視した所でようやく気が付いた。あれ、この人見覚えある、と。
「えっと……龍田さん、なのです?」
槍を携え、笑顔で電を見る、頭に輪っか型のアンロックユニットの乗せた紫色の髪の女性。
その顔にその頭の輪っか、電は記憶にある一人の女性が頭をよぎり、確認のために口の出した。
「えぇ、そうよ。こっちでは初めまして、ねぇ」
やはり、天龍型の二番艦、天龍の妹に当たる艦、龍田だった。
「良かった……はい、初めまして。それと、お久しぶりなのです。何時からここに?」
「元気そうでなによりだわ〜。建造されたのはつい今朝よ」
「まぁ、元気とは言っても一度沈みましたけどね」
軽い自虐というか重いジョークを交えた言葉も龍田はうふふと笑って受け流す。やはり、この人は何処か掴めない部分がある。
何処とない重圧を感じ、冷や汗を流しつつも、龍田はニコニコと笑っている。この笑顔が何処とない重圧を生み出している。
「どうしたのかしら?ちょっと殺気が漏れているわよ?」
「そっちこそその重い笑顔を止めるのです。じゃないと……」
殺してしまうかも。そこから先の言葉は必要なかった。龍田もその先の言葉は理解していた。
電はポケットにしまったナイフに手を添えて何時でも抜けるように構える。
殺り合いたい。電の中の、最近は形を潜めた殺人衝動が沸々とわいてくる。頭の中で勝手に龍田との殺し合いがシュミレートされる。
ナイフと槍の間合い。ここからの最適な肉薄方法、龍田の死の線。全ての可能性を考慮したシュミレートが。
しかし、ふと龍田の笑顔からは重圧が消えた。
「参ったわ。電ちゃんの殺気で倒れちゃいそう」
「……余裕だったくせに、なのです」
「うふふ、どうだったかしら」
重圧が消えると同時に電の中の殺人衝動が再び形を潜めると同時にナイフから手が離れる。
冷や汗も止まり、前髪をどける振りをして冷や汗を拭う。
「暁ちゃんは泣いちゃったから、電ちゃんはどうなっちゃうのか楽しみだったのよ?」
「暁ちゃんは一番子供だから意地悪はやめるのです……」
「あらあら」
暁が「ぴいいいい」と泣いているのが容易に想像できる。あの長女は一番子供っぽい。
流石に暁を泣かせたのは心に来ているのか、困り顔をしている。が、それでも電に同じことをしているのは性格が悪いのか、人が困るのが楽しいのか。
どっちかは分からないが、Sっ気があるのだけは分かる。確実にドSだろう。そして、槍の扱いに関しては天龍の剣に負けず劣らずだろう。つまりは、飛んでくる砲弾を切り落とせる。
何故ここの軽巡は撃つよりも斬る方が強そうなのか。
「じゃあ、私はお風呂に行くのです。龍田さんは?」
「お風呂も入っちゃったし、司令官に部屋を聞いて寝るわ」
それではと電が頭を下げてからドッグへと向かう。
電は服の下で掻いた汗を若干気持ち悪く感じつつも冷や汗を流すために鼻歌を歌いつつ風呂に向かった。
風呂はすぐに入り終わり、栓は抜いておいた。流石にこの後提督が入ると分かっていると何となく抜きたくなった。
髪の毛も痛まないようにドライヤーで乾かして寝間着に着替えた後、制服は妖精さんに渡してベットの上に寝転がった。
思いのほか、初めてとも言える徒手空拳での実戦で緊張したのか、その後、彷徨った事が疲れたのか、すぐに眠気が襲ってきた。
今度、街に行くときは姉妹一緒にと考えていると、電の意識はすぐに落ち、眠りについた。
のだが、その翌日。
「響ちゃんの頭がメロンパンンンンンンン!!?」
かなり奇妙な悪夢を見て目を覚ました。 起きるときの電の絶叫に近い叫びを聞いて隣の部屋の雷が電を心配して転がり込んできた。
「ど、どうしたの電!?」
「い、雷ちゃん……」
息を荒げて寝汗で額に張り付く前髪を退けた電は雷を見ると一息ついた。
「ちょっと響ちゃんの頭が開いて脳みそがメロンパン入れの夢を見ただけなのです」
「あら、そんな事?」
「そんな事って……かなりのグロだったのです」
「だって、みんなそんなもんでしょ?」
えっと電が声を漏らした瞬間、雷の頭がパカっと開いて……
「きゃああああああああああああああ!!?」
電は目が覚めた。
「ゆ、夢……二段落ちとか誰も求めてないのです……」
死の線に犯された視界がこれは現実だと知らせる。そういえば、さっきの夢は死の線が見えていなかった。全身寝汗でぐっしょりだ。
ついでに心臓もバクバク言っている。今思い返しても意味分からない夢だが、相当心臓に悪いしグロイ。
荒い息が部屋の音を支配する。ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が聞こえて朝だと無理矢理理解させられる。とんでもなく嫌な目覚めだ。
荒げた息をなんとか抑えるために胸を抑えながら深呼吸する。
「いなづま~?どうかしたの~?」
すると、ノックもなにも無く姉である暁が子供っぽいパジャマと大き目の人形を抱きかかえたまま目を擦って入ってくる。
死の線が見えることから夢ではない。夢ではないと思う。
「暁ちゃん……こっちに来てほしいのです」
「……?」
暁を呼び寄せる。暁はまだ眠いのか寝ぼけ眼でふらふらと電の方へと寄ってくる。寄ってきた暁を電はそのままギュッと抱きしめる。
「い、電!?」
急な事に暁は声を上げて驚く。
が、電は全く気にせず一度暁を離してから両手を暁の頭に当てて夢で見た通りに開こうとする。
「ぴゃああああああああ!!?」
「よ、良かった……開かないのです」
「良かったじゃないわよ!痛いじゃない!」
「本当に申し訳ない」
「メタルマンは関係ないわよ!」
電が開こうとした部分を暁が抑えながら怒る。まぁ、当然だろう。
「全く……まだ三時よ?私は部屋に帰って寝るわ……ふわぁ」
「えっ……まだ三時なのです?」
「そうよ……おかげで眠いわ……」
「あーっと、大声出してごめんなさいなのです」
「そこよりも頭を開こうとしたことを謝って欲しかったわ……じゃあ、おやすみ〜……」
あくびをしながら部屋を出る暁。出て行ってから部屋の時計を確認したら、確かに短針はまだ三を指していた。それどころか、外はまだ暗い。夜すら明けていなかった。
起床時間は六時。流石にここから寝たら眠気を引きずってしまうだろう。だからと言ってここから起きていたら夜中に眠くなる。かなり微妙な時間だった。ナポレオンじゃあるまいし、目が覚めてしまった今から寝たら三時間睡眠という、この後の生活に致命的な睡眠時間になってしまう。
こうなったら起きてやると電がベッドから降りようとした時、再び扉が開いた。
「いなづまぁ〜……」
「……どうしたのです?」
扉からひょっこりと顔を出したのは暁だった。何でまたここに?と疑問に思うが、その顔は何処か情けない。
あ、これは。と電が察する。姉妹の中で一番子供っぽい暁。そんな彼女が寝ぼけてここまで来たあとに戻ろうとして半ば意識が覚醒したなら。
「その、一緒に寝てくれない……?」
「……こっち来るのです」
呆れながらも電は再び布団に潜り込んで隣を叩く。暁はぱぁっと笑顔になってぬいぐるみを壁に置いてから電の横に寝っ転がり、そのまま電に抱き着く。
抱き着いた暁の背中をトントンと軽く叩いたらすぐに暁は寝息を立て始めた。何とも子供っぽい姉なのかと呆れた溜め息をつくが、こんなのも悪くないかなと思う。
暁の温もりが何だか心地よく、電もまたうつらうつらとしてくる。これはまた一眠りするのもいいか。と眠気に負けた思考になり、暁を抱き枕にしながら目を閉じる。
こんな姉だが、誰よりも妹達の事を心配してくれているいい姉だ。あと二人の姉もフリーダムだがキチンとしてるし、ロリおかんだし、本当に姉に恵まれたと電は思う。
いつかこんな戦争を終わらせて四人でまったりと暮らすというのも悪くない。そんな事を考えていると、眠気を覚ますようにラッパの音が脳に響いてくる。目を開ければ外からは陽の光が指し、鳥の声もさっきよりよく聞こえてくる。
時計の短針は六を指し、いつの間にか三時間経っている。ここでやっと、いつの間にか寝ていたのだと電は寝ぼけた頭で理解する。それと同時に頭痛が思い出したかのように襲ってくる。
起床ラッパが鳴り響く中、暁は間抜けな顔で電に抱き着きながら寝ている。何で目が覚めないのかと思いながらも腕の中の暁を揺らす。だが、起きない。
このお子様は、と呆れると同時に、部屋の扉がノックされる。
「誰なのです?」
『響だよ。電、そこに暁は来てないかい?』
「来てるのですよ」
『じゃあ、入ってもいいかい?起こすの手伝うよ』
「お願いするのです」
電の返事を聞くと、まだ寝巻き姿の響が入ってくる。
巨大なハリセンを装備して。
「えっ!?」
「電、暁を引き剥がして離れるんだ」
朝っぱらからのフリーダムに電が若干引きながらも暁を引き剥がしてベッドから降りる。響はそれを確認してから暁をベッドの中央に動かしてゴルフの構えのようにハリセンの先を下に、その真正面に暁の頭を捉え、数回軽く振って調子を確認してから振り上げる。
あ、これはマジの一発だと電が把握すると同時に耳を塞ぐ。多分、凄いうるさい。
「起きろ、ばかつき!」
その瞬間、響が全力でハリセンを振りぬく。
「ぴい!!?」
「うるさっ……!」
トンデモなく重い破裂音が響いて暁の悲鳴が遅れて響く。耳を塞いでもかなり五月蝿いのに、直撃した暁の頭の中ではどんな衝撃と音が反響してるのか、考えたくなかった。
くらくらするのか暁は頭を抑え唸りながらも上半身を起こす。
「響ぃ!!その起こし方は二度としないでって言ったわよね!!?」
「ははは、何のことかな」
「ちょっ、怒るわよ!?」
「喧嘩かな?なら、私はこのハリセンで戦うよ」
「あ、ちょっと洒落になってないからやめましょ、だからその振りかぶったハリセンは下ろして、ね?ね?」
「そぉい!!」
「ぴゃあぁ!!」
再びの破裂音。この姉二人は、と電が呆れているが、二人は構わず口論。どうやら、暁の目は完全に覚めているようだが、響が楽しがって何度も頭にハリセンを落としている。
「うるさぁい!!」
その喧嘩は着替えた雷が額に青筋浮かべて腕まくりしながら突撃してくるまで続いた。
ちなみに、暁は一発、響は多めに五発の拳骨をくらって、再びベッドの上で寝そうになったのは特筆すべきことではないだろう。
今回、新たに仲間に加わったのは天龍型の怖い方こと、龍田さんです。現状、近距離戦では、電の一撃必殺を抜きにしたら一番強いかもしれないのが彼女です
あと、最後の部分はたまには、ほのぼのする話を書いてもいいんじゃないかな?と思った結果書きました。まぁ、こういう描写が無いと第六の四人が実はそこまで仲が良くない疑惑とか湧くかもしれませんので……w
なお、響は完全にフリーダム化した模様