直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

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この話は前後編ではありません


殺人艦『電』

 雷が目を覚ましたのは数時間後のドックの中だった。お湯が張られ、湯気が視界を霞ませる部屋の中で天井を見ながら目覚めた雷は何でここにいるのかと疑問に思った。

 手には入渠時間を知らせるアラーム。残り一時間弱。まだまだ二桁に入ったばかりの練度でこの時間は可笑しいんじゃないか?と思った矢先に左肩から右脇腹にかけて鋭い痛みを感じた。頭を動かすのも億劫で手で触って確認したら何やら生暖かい何かを触った。

 手を上げてそれを確認したら血だった。それを見て雷は何があったのかを全て思い出した。

 電の後頭部をアスファルトにダンクした後、雷は一度意識を取り戻し、丁度駆け付けて来た暁と響に応急処置をされてからジープに電と共に乗せられたのだった。確か、響が脱腸してるとかなり青い顔をして呟きながら治療していたのを覚えている。きっと、ダンクした時にはみ出たのだろう。それから、何分なのか何時間なのかは分からないが、その間に風呂に投げ込まれて放置されたのだろう。

 まだ傷は塞がっていない。が、出血はかなり収まっている。はみ出した腸も戻っている。入渠様々だ。内臓も斬られてたらもっと入渠時間長かったんだろうなぁ、なんて考えながら雷はズルズルと浴槽の中に滑っていき、口までお湯に浸かる。

 お湯を確認したら真っ赤だった。全部血だ。まぁ、脱腸状態で放り込まれたらこうもなるだろう。なんて思ってると頭がクラクラしてきた。

 あ、これ血が足りないや。明らかに流し過ぎている血を確認すると、雷は何とか顔を浴槽の外に出してから気絶した。暁が高速修復材を持ってドックに入ったら青い顔して浴槽を真っ赤に染めて気絶している雷を見て悲鳴を上げたのは言うまでもないだろう。

 

 

****

 

 

 雷が復活したのはそれから一時間後。高速修復材で傷も治って血もそれなりに増えた雷は青い顔をしながらも着替えてから司令室へと向かい、提督が用意した椅子に座って電の事について聞いていた。

 

「……電が殺害したのは五人。その五人は元々素行が悪く、万引き、暴行等の常習犯だった」

「それでも、民間人を殺害したのは変わらない」

「おかげ様で今、鎮守府の前にはマスコミとデモが大量だ。大本営も一時的にここは出撃も遠征も禁止。ほとぼりが冷めるまでは鎮守府の中で暮らせとのお察しだ。幸い、食料は運んでくれるらしい」

 

 提督が少しだけ窓を開けてみれば、男女、老若男女の罵声や怒声が聞こえてくる。それを聞いて雷は悲しそうな顔を、提督は怒りに満ちた顔を浮かべる。が、何をしても変わらない。提督は窓を閉め、鍵をする。マスコミが潜入してくる可能性も考え、カーテンも閉める。

 電の民間人殺害。艦娘の民間人殺害は初めての事であり、上層部、政府も艦娘を人間として刑を与えるのか、兵器として処分するのか。どちらを取るべきかを悩んでいる。

 人間として刑を与えられた場合は確実に軍事裁判にかけられ、終身刑、死刑すらあり得る。兵器として処分された場合は、確実に解体。殺処分されてしまう。

 それを雷に伝えると、雷はさらに青い顔をして提督に詰め寄った。

 

「そ、そんな!電は正気を失っていたのよ!?」

「凝り固まった思考のお偉いさんが直死の魔眼なんて不確定な物を判決に加える訳がない」

「じゃあ、魔眼の事をちゃんと証明したら……」

「俺だってやれるんならやっている!だけど、そんなオカルトを信用してくれるほど、国民は、政府は、軍事裁判は甘くないんだ!国民が見るのは民間人を殺した極悪非道の兵器が犯罪者として処理されたのか、お天道様の下を歩いているのか、その二択だけだ!政府はそんな国民の顔色を伺って判決を決める!例え、それが人類の未来を消す事と同義だとしてもな!!俺一人じゃどうにも出来やしない!!俺だって電は正気じゃなかった、殺人は本望じゃなかったと証拠を纏めて上の奴らの顔面に叩きつけてやりたいさ!!だけどな、直死の魔眼の殺人衝動で正気を失って殺人を犯しました、なんて事実を、オカルトまみれの事実を受け入れちゃくれねぇんだよ!!直死の魔眼が一つの病気として、障害として認められでもしない限りな!!」

 

 立ち上がり、慟哭。息を切らし叫んだ提督の迫力に押され、雷は息をするのも忘れてただただ後ろへ下がり、膝が何かに当たり、腰が降ろされる。椅子に座っていた。

 提督は短くすまない。と謝ると椅子に座った。最早、提督自身何を言っているのか分からなかった。ただ、自らの中にある思いを、怒りを雷にぶつけてしまった。それだけだった。

 自己嫌悪しながらも提督は引き出しから一つの鍵を取り出すと、雷へと投げ渡す。

 

「電の独房の鍵だ。一応、第六駆逐隊の全員には合鍵を渡してある。面会は好きにしてくれ。脱獄させようとしても無理だからな」

「……わかった」

 

 雷は提督に何も言えず、部屋から出た。

 ドアにもたれて腰が落ちる。嫌な悪夢を見ているようだった。電が、深海凄艦の手ではなく、人間の手によって殺される。守るべき対象に殺される。これを悪夢と言わずに何と言うか。

 国民は分からない。艦娘の辛さを。政府は分かっていない。艦娘の必要さを。軍は分かっているが、庇えない。電が罪を犯したのは事実だから。

 深海凄艦と相打ちする覚悟は出来ている。これは艦娘全員に言えることだ。だが、人間に殺される事は覚悟していない。出来る訳がない。

 涙が零れそうになる。何で、何で人として、それに近いものとして生きるチャンスをあんなよく分からない眼のせいで壊されなきゃいけない。こんな事なら、あの時直死の魔眼で電の魔眼を殺しておけばよかったと思える。だが、過去には戻れない。

 泣き出してしまいそうになった時、背中のドアから男の声が聞こえた。怒鳴り声や、笑い声ではない。泣き声。悔しさに満ちた泣き声が響いてきた。

 その声につられて雷も泣いてしまいそうだった。だが、ぐっと堪えて立ち上がり、雷は鍵を握りしめて独房へと向かった。まずは、電に会いたい。その一心で。

 電の独房は普通の独房とは違い、かなり厳重な独房だった。懲罰房ではないが、この部屋の中は鋼鉄で四方を覆われ、強化ガラスで姿を見ることができ、そこに空いた穴から会話が出来るのみの部屋だったと把握している。

 独房の鍵を開け、中に入ると、中は真っ暗で、手探りで電気を着けると、部屋の中に明かりが灯る。

 目の前にはガラス。椅子も乱雑に置かれ、その先には四角い鋼鉄の箱。その真ん中に、電はいた。

 両手を椅子の後ろで組んでロープとワイヤーで縛られ、足は椅子に括りつけられ、ロープとワイヤーで縛られている。目は目隠しで封じられ、唯一自由に使えるのは口だけ。

 封印、と言ってもいいかも知れない電の現状に、雷は息を呑んでしまう。ここまでやる必要はあるのかと。

 

「……誰、なのです?」

「……わ、私よ。雷よ」

「あぁ、雷ちゃん。一体どうしたのですか?」

 

 どうした、ではない。電に会いたくて来たのに。それしか有り得ないのに。

 

「……ちょ、調子はどう?」

 

 何も言う事ができず、捻り出せたのはその一言だった。見ればわかるのに。

 

「最低なのです」

 

 知ってる。

 

「そ、そう……」

 

 出来る事なら、この強化ガラスをふっ飛ばして電の拘束を解いて逃げ出してやりたい。だが、そんな事はできない。艤装は提督の許可が無ければ妖精さんに無理矢理解除されるし、爆弾も武器庫、妖精さんの管理下にある。それに、このガラスは特別製。C4でも吹き飛ばせないだろう。何せ、艦娘を閉じ込めるための独房なのだから。

 

「……そ、その、大丈夫だから。ぜったい、絶対ここから出して……」

「無理なのです。私がこうなるのは四回目。今度こそ駄目なのです」

「え……?よ、四回目?」

 

 何を言っているのか分からなかった。四回?四回も人を殺したのか?雷の心の中の疑問に答えるように電は口を開いた。

 

「一回目は何も分からず殺したい衝動で最初の提督を殺したのです。だけど、心が不安定だと最初から分かっていたこと、初犯だったこと、提督が私を犯そうとした事で無罪放免。けど、独房にはぶち込まれたのです。二回目は演習で、演習相手の艦娘と相手の提督を諸共吹き飛ばしました。これも情緒不安定だった事で謹慎は年単位。よく覚えてないのです。三度目は私の直死の魔眼の事を知った科学者が兵器に転用しようとした結果、人を見たせいで私が暴走。何も考えられずに科学者と近くにいた軍のお偉いさんを殺してそのまま独房行き。けど、次に配属される鎮守府で真面目に、人を殺す事なく深海凄艦撲滅まで戦えば無罪放免という条件でここに配属されたのです。まぁ、その結果がこれなのです。この後死刑になるのはもう結構前から決まってるのです。そういう約束だったから」

 

 電の過去。電が第六駆の中では一番最初に建造されたのは知っていた。だが、ここまで壮絶な、殺人衝動と付き合ってきた過去を持っているのは知らなかった。

 直死の魔眼の恐ろしさ。いや、殺人衝動の恐ろしさを今初めて知った気がする。それと同時に、電はもう、何があっても絶対に助けることが出来ないのだと理解した。理解してしまった。

 

「艦娘として産まれてから数年。同期の吹雪ちゃん達は皆、普通の艦娘なのに、私だけ何でって何度も思ったのです。まぁ、この眼を持った時点で手遅れなのは変わらなかったのです」

「え、ちょ、吹雪が同期って……電ってまさか」

「もう帰って欲しいのです。余り話していると未練が残っちゃうのです」

「ッ……分かったわ。その、また来るわね」

 

 雷が寂しそうに独房を去る。電気はドアが閉められると同時に自動で消された。

 ふと、先程口を滑らせた事から過去を思い出す。同期の吹雪、睦月、五月雨はこの眼を恐怖の対象として見ていた。荒潮、漣も内心では怖がっていた。

 核の炎の中から産まれた六人の艦娘。敵陣の真ん中で生を受けた六人による艦隊で、電たった一人が手刀だけで深海凄艦を殺して道を作り、本土へと辿り着いた。

 建造された、というのは嘘だ。その直後に犯した提督殺しを公表しないための。だから、電の目覚めはバーナーで焼かれた記憶ではなく、地獄の中で背中合わせで戦った記憶だ。

 クソッタレな人生。いや、艦娘生だった。

 望む事はただ一つだけ。たった一つだけの、当たり前な願い。

 

「次に目が覚めた世界は……平和な世界がいいな」




完結っぽいですが、まだ続きます。テレビアニメ的に言うと、ここでアニメはここで最終回ですが、次に劇場版がある感じです。次回からは時間を少し飛ばし、とある作戦へと入ります。それが、この作品の最後の話になります

そして、電の過去ですが、かなりややこしいです。普通の軍人がこんな事やらかしたら即死刑レベルです。電は直死の魔眼という例外があり、あくまで軍内で起こったことのため、揉み消して隠蔽していましたが、今回ばかりは軍も庇いきれません
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