新人戦の最終日である五日目。
昨日に一高を襲ったアクシデント。そして特例による代役選手での予選再開。
観客席が予想外の展開による困惑と高揚が混ざり合った空気に包まれる中、延期されていたモノリス・コード予選第三戦、一高と八高の選手がそれぞれ森林ステージに姿を現した。
「いよいよ、ですね……」
「美月、どうしてあなたが緊張しているのよ?」
正しく言葉通りに固唾を呑んで見守っている美月に、深雪が呆れた様子で話しかける。
一般者用の観客席に座ってモノリス・コードを観戦しているのは、試合に出場している三人と森崎を除いたいつものメンバー。
深雪、ほのか、雫、エリカ、美月、レオの六人だ。
深雪を筆頭に誰もが美少女という言葉が似合う五人。
必然的に一番端に座ることになった唯一の男子であるレオ。
普通の男子ならば役得と言わんばかりに無意味に自慢気になるか、或いは気後れしてしまうか。
レオは、そのどちらでも無く。
ただ少し、ほんの少しばかり悔しそうな、そして羨ましそうな視線をステージの三人に送っていた。
「やっぱり、アンタも出たかった?」
それを目敏く察したのは、珍しくレオの隣に座っているエリカだ。
男子が一人だけの場合、本来なら率先してもう片方の端の席に座って軟派な男から友人達をガードしそうな性格なのだが、何故か今回はそうはしなかった。
なので、いまもう片方の端の席に座っているのは雫だ。
こちらはエリカのような威嚇ではなく完全な無関心によって異性へのガードを発動させている。
レオは一瞬目を白黒させたが、観念したように「……まぁな」と小さく頷いた。
「頭じゃあ、わかっちゃいるんだけどな……」
「心が納得しない、か。でも達也君もかなり悩んだって言ってたじゃん。アンタにするか、雅季にするかで」
昨夜のホテルでモノリス・コードの出場が急遽決定した達也と雅季は、友人達に一通りその経緯を説明した。
エリカの言葉は、その時に達也が雑談として話した内容であった。
「アンタも本当ならあそこに出られるぐらいの実力はあると思うわよ。今回は機会が無かっただけ、雅季風に言うなら縁が無かっただけね」
普段より少しだけ柔らかい口調。
レオは本当に珍しいものを見たかのように、まじまじとエリカを見た。
あのエリカに慰められるとは、本当に予想していなかった。
だがここでそれを口にするほど、レオは人の機微がわからない人間でも無かった。
「お前が言うんなら、そうなんだろうな。なら“今回は”縁が無かったっつーことで、潔く諦めるさ」
今回は、という言葉を強調するレオに、
「ふーん、じゃあ全然期待しないで待っているわ」
内心で「あたしの柄じゃないなぁ、こういうの」と自嘲しつつ、エリカは小さく笑った。
「……まぁ、サンキューな」
最後にレオが小声で言った礼は、はたしてエリカにまで届いただろうか。
流石に気恥ずかしくて横を振り向かず、レオは試合会場を見るふりを続けた。
レオも、そしてエリカも言葉を発しないまま、少しだけ時間が過ぎていき――。
「――あ、紫。今日も来たんだ」
それを破ったのは、エリカの方だった。
レオがエリカの方を見ると、エリカはレオの向こう側に視線を向けている。
「来ましたわ、エリカ」
そして、レオだけでなく深雪達もそちらに振り向いた。
そこにいたのは八雲紫だ。相変わらず日傘を差して日陰を作っている。
紫は一瞬だけ美月の肩が震えたことに気付いたが、何事も無かったようにレオの隣に歩み寄る。
「お隣、いいかしら?」
「おう、いいぜ」
許可を得て、紫は“何故か”空いていたレオの隣の席に座った。
ちなみに他の席はほぼ満席なのだが、誰もレオの隣が空いていることを気にする者はいなかった。
「紫、雅季がモノリス・コードに出ることになったのって知ってる?」
「ええ、知っています。だから見に来たのです。――『結代雅季』の試合を」
エリカの問いに紫は答える。
その答えにどれだけの意味が込められているのか、誰も察することは出来ない。
そんな事など露知らず、雫とほのかが頷き合う。
「それなら、丁度いいタイミング」
「うん、そうだね」
二人の言葉とほぼ同時に、試合開始を告げるアナウンスが会場に流れた。
「いよいよ、だね……」
「幹比古、緊張し過ぎるなよ」
奇しくも美月と同じように固唾を飲んで試合開始を待つ幹比古に、達也が声を掛ける。
達也に続いて雅季も幹比古に声を掛けた。
「そうそう。ほら、よく言うじゃん、敵はじゃがいもだと思えって」
「……いや、言わないから。敵じゃなくて観客だからね、それは」
「うーん、じゃがいもって言えば、肉じゃがが食べたくなってきたな。ホテルのメニューに肉じゃがってあったっけ?」
「……雅季、お前はリラックスし過ぎだ」
「ハハ……本当に場馴れしているっていうか、動じないよね」
試合開始直前にそんなことを言い出す雅季に、達也と幹比古の呆れた視線が注がれる。
そんな雅季を見て、幹比古は苦笑しながらも自然と肩の力を抜いていた。
それに気付いた達也が、幹比古と同じく少しだけ苦笑を浮かべる。
雅季の言動は狙ってやっているのか、それとも素なのか、達也にはわからない。
どちらにしろ、幹比古の過度な緊張が解けたのは確かだった。
程良い緊張感に身を包む幹比古。
落ち着いている達也。
自然体の雅季。
三者三様の在り方のまま、やがてその時がやって来る。
試合開始を告げる合図、それと同時に達也と幹比古は疾駆して森の中へと姿を消した。
ディフェンスとしてモノリスの前に佇む雅季。
試合開始と同時に、達也と幹比古が駆け出して森の中に消えて数分が経過している。
雅季の様子は案の定、ずっと変わらず自然体のままだ。
試合を見ている他者からすれば落ち着いていると見られるだろうが、当然だ。
(八高のオフェンス、あの調子ならここに来るのにあと五分ぐらいかな)
達也も幹比古も、そして八高の選手三人すらも、雅季は五人の現在位置をしっかりと把握しているのだから。
一度でも縁を結んでしまえば、『結代』はその縁を感じ取れる。モノリス・コードの試合会場ぐらいならば、雅季の範囲内だ。
そして、たとえ相手がこちらの名前も容姿も知らなくても、『結代』は自身に向けられた縁を全て感じ取る。
雅季に奇襲など到底不可能、隠れて近づくことすら出来ない。
こういった戦いにおいて雅季に居場所を探られないようにするには、お互いに面識が無い状態で全く意識しないこと。つまり本当の遭遇戦ぐらいだ。
だが、モノリス・コードではそれすらも不可能。
出場選手が決められている競技ならば、相手は必ず雅季を『自分の相手選手』として認識する。
認識してしまえば、意識してしまう。
意識されてしまえば、雅季は縁を感じ取れる。
特に自分に向けられた意志ならば、縁として自然とそれを感じ取れる。
こと索敵に限れば、一部の例外を除いて雅季の『縁を結ぶ程度の能力』は達也の『
その一部の例外も、たとえば完全な遭遇戦のようなものか、或いは幻想郷にいる『無意識を操る程度の能力』を持つ古明地こいしのような“無縁”となれる存在ぐらいだろう。
余談だが、こいしが少しでも意識を持っている状態ならば雅季も僅かながら縁を感じることが出来るが、完全な無意識状態では縁は途切れてしまう。
対して達也の『
ただし、達也自身にはそれが「古明地こいし」だとは認識できず、「そこに何かがいる」程度にしかわからないが。
ついでに言えば、『縁を司る程度の能力』を持つ神様、天御社玉姫ならばこいしがどんな状態だろうと縁を感じ取れるし、それがこいしだと普通にわかる。
流石は「運命の赤い糸」の謳い文句でハリウッドデビューし、更にはキリスト教圏とのコラボ企画で世界シェアを獲得したメジャーな神様の信仰力である。
閑話休題。
達也が八高のモノリスを開放し、幹比古がオフェンスの一人を足止めしている中。
「――ようやく来たな」
雅季がポツリと呟くと同時に、左手に持った携帯端末形態の汎用型CADを片手で操作する。
雅季が魔法式を構築するのと、八高のオフェンスが森から飛び出してきたのは全くの同時だった。
八高選手が一高のモノリスまでたどり着いた途端、大型台風クラスの強風が襲いかかった。
「くっ!?」
危うく身体が吹き飛ばされそうになり、咄嗟にしゃがみこんで姿勢を低くすることで何とか身を守る。
それでも、一瞬でも気を緩めたら吹き飛ばされそうな強風だ。
気流操作の魔法、ただし四高が奇襲で仕掛けたものとは比べ物にならない規模と強度。
完全に身動きを封じられ、八高選手は辛うじて顔を上げる。
そこに、特化型CADを自分に向けている雅季を見つけた。
目を見開いて驚きが声としてあがる前に、雅季はCADの、森崎から借用した特化型CADのトリガーを引いた。
二工程の加速系魔法が、八高選手の干渉力を上回ってその身体を前後に揺さぶった。
急激に意識が薄れていく中で、八高選手は確かに見た。
雅季が右手に特化型CAD、そして左手には汎用型CADを持っていることを。
(CADの、同時、そう、さ……)
愕然とした思いを抱いたまま八高選手の意識は闇に包まれ……雅季が感じ取れる縁が一つ減った。
CADの同時操作。
「CADの同時操作、だと?」
「どこまで多才なんだ、あいつは……」
一高本部でモニターを見ていた服部は驚きの声をあげ、摩利に至ってはもはや呆れるしかないと言わんばかりに首を横に振る。
真由美も摩利に同感だ。いや、真由美だけでなく他の幹部達も。
「本当、達也君の『
先ほど達也が見せた『
アイス・ピラーズ・ブレイクで散々見せられた雅季の意外性と実力に、更に底があったとは……。
また、観客席でも衝撃は同様だ。
「CADの同時操作!?」
「結代君も!!」
深雪やほのかが驚きの声をあげ、あれがどれだけ難しい技術か身をもって知っている雫も言葉を失っている。
「凄い、すぐに倒しちゃった……」
「……なあ、やっぱりオレ、出る幕なかったんじゃね?」
「……ノーコメントで」
美月が呟いた隣で、唖然としたレオのボヤキにエリカはコメントを控える。
そんなレオ達の隣に座っている紫だけが、唯一それを当然のように受け止めていたが、誰もが会場に目が釘付けだったため、それに気付けなかった。
特化型CADで八高選手を倒した雅季は、気を失っている八高選手のヘルメットを脱がせる。
大会ルールにより、ヘルメットを脱がされた相手は失格扱いとなり、それ以上の行動を禁止される。
これで残る八高選手は二人。
無論、その位置も雅季にはわかっているが、すぐに向かうような真似はしない。
(“アリバイ工作”は必要だよな)
見えないはずのものが見えるように動けば、おそらく不審に思われる。
まさか人の縁を感じ取れるとは夢にも思わないだろうが、だからこそ自分達に納得できる答えを得られるまで様々な勢力が探りを入れてくるかもしれない。
ならば、あらかじめ“わかりやすく納得できる答え”を用意してやればいい。
雅季は目を瞑り、意識を少しだけ幻想側へ傾け、
それだけで雅季は『精霊』と接することができる。
起動式など不要。普段から幻想と接している雅季には、それが当たり前なのだ。
「そこらへんの精霊さんや、ここらへんにいる人の場所を教えて」
友人と接するような気軽さで、雅季は周囲を漂う精霊達に尋ねた。
現代魔法の解釈によれば、精霊とは実体を離れ情報の海を漂う情報体。
だが幻想を知る者としては、精霊とは妖怪や妖精、そして神様の雛形。
それでも、本当はこうして“対話”することも可能なのだ。
雅季の“お願い”に、精霊達が動き出す。
人に感じ取れぬ
一瞬だけ、人には認識できない程のほんの僅かに森が明暗に点滅する。
――あっちにいるよ。
――こっちにいるよ。
そうして風の精霊や光の精霊、影の精霊などが得た人の居場所を雅季に教えた。
「どーもねー」
魔法師達はきっと古式魔法だと“勘違い”するだろうな、と思いながら、雅季は精霊達が教えてくれた、そして縁を感じる森の中へと走り出した。
雅季の思惑通り、深雪達も、真由美達も、将輝達も、そして他の魔法師達も、抱いた驚きは同様だった。
「まさか、古式魔法……?」
雅季が森の中へ走り去っていった後を、信じられないといった表情で深雪は見つめ続ける。
ほのか達も思いは一緒であるらしく、口を開いたまま深雪と同じ方向を見ている。
だが魔法師としての感覚が正常ならば、雅季の周囲には
つまり雅季は現代魔法だけでなく、精霊魔法も使ってみせたのだ。
「いったい、どんだけ引き出しがあるのよ、雅季の奴……」
「俺、来年出れっかな……」
エリカが溜め息混じりに、レオが乾いた声でそれぞれボヤくのを聞き流しながら、
(わかりきっているのに聞く必要があるなんて、『結代』も大変ね)
真実を知る紫は、『能力』を悟らせないよう工夫する雅季に、薄らと小さい笑みを浮かべた。
雅季がこちらに近づいてくるのを、幹比古は精霊を介して感知する。
(それが、結代家の『魔法』かい、雅季……)
幹比古は雅季が何をしたのか、感覚で理解していた。
精霊を“使役”するのではなく、精霊と“対話”する。
それが雅季の行った『魔法』だ。
幹比古も精霊と触れ合うことにより、精霊から何かを聞いたりすることはある。
だが雅季のやったことはそれ以上、簡易ながらも精霊との意思疎通をやってのけた。
使役するわけではないので、幹比古のように精霊を介した魔法が使えるわけではない。五感同調も同様だ。
だが、少なくとも吉田家では精霊とあそこまで明瞭に意思疎通を図ることなど出来ない。
また魔法の基幹からして違いがある。雅季は吉田家の術式のように精霊を喚起した訳ではない。
周囲に
それは神道、そして神道における神楽や祈祷に通ずるものがある。
神楽は人が神に奉納するための演舞、つまり神との交流の場であり。
祈祷は人が神に祈願するもの、つまり神にお願いするということ。
つまり雅季のやったことは、精霊を神として祈祷する、普段から神職が行っていることの
実際の神楽のような儀式を
幹比古のような精霊魔法ではないので、直接的な事象改変を伴うこともない。
だが、精霊は森羅万象に在る。
それらに人探しのような簡単な祈願なら行えるというのなら、索敵という面では非常に脅威だ。
達也の言った古式魔法の奇襲力も意味を成さない。
もし今回のように幹比古が隠れながら雅季に魔法を使ったとしても、雅季には幹比古の居場所がわかってしまうだろう。
他ならぬ精霊自身が幹比古の居場所を雅季に教えるに違いないのだから。
(精霊を用いて人を探し出す魔法なんて……君は、結代家は、どこまでも結代家なんだね)
古事記、日本書紀にもその名が記される結代大社。
その神職を延々と、吉田家や藤林家、水無瀬家といった古式の名家よりも遥かに長い時を紡いできた結代家。
その本髄である縁結びに対する結代家の在り方を、幹比古は垣間見たような気がした。
……もし雅季が幹比古の推測した魔法の解釈を聞けば、頭を掻きながら困ったようにこう答えることだろう。
「神楽とか祈祷とか、そんな大層なもんじゃないんだけどなぁ。……ま、いっか」
幹比古は意識を試合に戻す。
八高選手は幹比古の精霊魔法『木霊迷路』によって森の中をグルグルと回り続けている。
超高周波音と超低周波音を交互に浴びせられ、三半規管を狂わされ方向感覚を失っている。
そこへ真っ直ぐに向かってきている雅季。
雅季の意図は明白、ここにいるもう一人のオフェンスの無力化だ。
相手の位置を探れるからこそ、こうやってモノリスから離れることも出来る。
ディフェンスでありながら、迎撃というオフェンスにも回れる。
ならば、遊撃としてやる事は決まっている。
(いいよ、雅季。僕がフォローする)
幹比古は『木霊迷路』から別の魔法へと切り替えた。
真っ直ぐ歩いている――ように本人は思っているが、実際には彼方此方を行ったり来たりしている八高選手。
「くそっ、一高の陣地はまだなのか……!?」
苛立ちを声に出して気持ちを紛らわせる。
おかしいと思いつつも、自分が思い込みの罠にはまっているとは気づかない。
だが、変化は突然。
唐突に耳鳴りが止んだ。
今まで中々消えずに鬱陶しかった超音波が消えたことに、八高選手は思わず足を止める。
そして、足を止めた途端、何かが頭へ落ちてくると同時に視界が遮られた。
「ッ!?」
咄嗟に頭を振り払い、落ちてきたものの正体を見る。
それは、葉っぱだった。
周囲の木々から舞い落ちる緑葉の。それが八高選手へ降り注ぎ、頭や顔、ヘルメットの中にまで入り込む。
季節が秋ならいざ知らず、夏にこれほどの落ち葉が落ちてくるはずがない。
況してや八高選手の周りにだけ落ちてくるなど自然現象では有り得ない。
疑いようもなく、それは魔法によるものだ。
「このっ!」
片手で落ち葉を落としながら、空いた手で汎用型CADを操作する。
この葉っぱに攻撃性は全く見当たらない、本当にただの落ち葉だ。
それだけに、遊ばれている気がしてならない――。
「舐めやがって……吹き飛ばしてやる!」
八高選手は葉っぱの降り注ぐ木々を見上げながら、起動式を読み込み。
「――残念、上じゃなくて後ろな」
背後から声が聞こえてくると同時に、急激に意識が混濁した。
「な……」
後ろへ振り向こうとするが、もはや身体にそれだけの力が入らない。
自分を倒した相手選手の顔すら見ること適わず、八高選手は落ち葉の上に倒れ込み、そのまま意識を失った。
八高選手が倒れたのを確認して、雅季は特化型CADを構えていた手を下ろす。
そして、ゆっくりと右後ろへと振り返った。
雅季の視線の先、その木陰から姿を現す幹比古。
二人は互いに歩み寄ると、
「ナイスフォロー」
「ナイスキル」
ニヤリと笑って、ハイタッチを交わした。
「達也は?」
幹比古が問い掛けると、雅季は目を瞑って
雅季の
幹比古にはそれが聞こえない、おそらくテレパシーの類だろう。
興味深そうに幹比古が見つめる中、雅季はゆっくりと目を開いて答えた。
「達也なら八高のモノリスでコードを打ち込んでいるみたいだね。ディフェンスは少し離れたところで動いてないってさ」
それを聞いて、幹比古は安心したように、そして嬉しそうに口元を綻ばせた。
「そうか――勝ったね」
「勝ったな」
雅季も大きく頷いた。
達也はモノリスにコードを打ち込みながら、イデア経由で“観ていた”雅季の戦いぶりを振り返っていた。
(驚いたな、ここまでやるとは……)
CADの同時操作、精霊魔法による精度の高い索敵。
それに、瞬く間に相手を無力化して見せた手際の良さ。
魔法力だけではない。
技術力も戦闘力も、全てがハイレベルで安定しており、達也としては純粋な称賛しか出てこない。
(雅季と幹比古、この二人なら三高相手でも勝機は充分にある。いや――)
達也は小さく首を横に振り、
「勝ってみせるさ」
五百十二文字目のコードを打ち込んだ。
試合終了のサイレンが鳴り響く。
一高の応援団が座る観客席からあがる歓声の中、ゆっくりと一高の校旗が掲揚されていく。
頂点まで達した校旗を風がたなびかせ、翻る一高の校章が、一高の勝利を高らかに謳っていた。
基地病院の病室では、モノリス・コードの試合をモニターで中継している。
「ふぅ……」
試合終了に安堵の息を吐く森崎。
それをモノリス・コードに出場していた他の二人が生暖かい視線で見ていることに、森崎は気付かない。
本人は腐れ縁と公言しているが、何だかんだ言って森崎と雅季が行動を共にすることが多いのは周知の事実だ。
こうやって心配するあたり、やっぱり仲は良さそうだ。
二人はそう思うと互いに目配せして、後で森崎をからかおうと目で語り合う。
だが、それは早とちりというもの。
実は森崎の心配しているところは、彼らの予想の斜め上を突き破っていた。
「あいつ、CAD投げなかったな……」
「……は?」
本当に良かった、と言わんばかりに胸を撫で下ろす森崎と、変な言葉を聞いた気がする二人。
同時に、二人の視線が「何言ってんだコイツ」という変なものを見る目に変わっていたことにも、森崎はやっぱり気付かなかった。
幹比古「このじゃがいも野郎!!」
達也&雅季「何か違う……」
雅季と精霊のトークショー。
本当は幹比古が精霊と触れ合えるのと同じ方法です。
ただ少しだけ“雅季が”精霊側に歩み寄ったので、幹比古以上に意思疎通が図れるだけです。
なので、幹比古の解釈は雅季からすれば大げさなのですが、むしろそうやって勝手に解釈してくれた方が都合が良かったり。
とりあえず、森崎は一安心しています。
……あと三試合も残っていますけどね(嗤)
次回あたり、東方キャラが出るかも(ボソ)