天空の城で聖杯を求める冒険者一行

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昔書いた短編です。


天空の城にて

「ふぅ。城といっても中は随分と異質なのね。内装は完全に城を意識していないわ。これを造ったのは人間じゃないみたい。そう思わない?ホーマー」

 パラディンの少女に問いかけたのは赤い呪衣を着たドクトルマグスの少女、フィリア・トッドだ。彼女は持っている剣を杖代わりにして床に魔方陣を描く真似をしている。

 

 パラディンの少女、ホーマー・ブラックウッドが応える。

「私は建築の知識については門外漢なのですが、確かに異様ですね。それにモンスターの種類が少し今までの階層とは違います。騎士の怪物など金属質な部分を持つモンスターが多いと見受けられます。怪物であっても生物である以上、生身のはずなのにどのような原理で動いているのか不思議ですね」

 

 ホーマーの発言に反応するようにパーティの1人でアルケミストのステラ・クーンツが発言する。

「恐らくは、この城を造り上げた上帝の仕業だろうね。今までの発言や記録の断片からぼんやりと見えてきたよ。この城の秘密が」

 そう言って彼女は懐からキセルを取り出し葉を詰めながら言葉を続ける。

「ハイラガート興国の歴史に、災厄により大地が滅び、残った人々は空に逃げたってあるだろ。いつの時代にも天才ってやつはいるもんだねぇ。今の時代でも不可能な技術だってのに、空飛ぶ城ってやつを造っちまったんだよ。動力が何とか、駆動がなにとか、そんな難しいことは聴かないでおくれ。あたしゃあくまで錬金術師であって、機械技師なんかじゃないんだからね」

 話しながらもステラはうまそうに紫煙を吐き出し、地図の確認をしている。

「で、ココからが、問題だ。空に逃げた以上大地に平穏が訪れるまで空に居続けなくちゃならない。この城の様子を見る限り、プラントなどの自立生産施設はないみたいだから、まず1つめの問題として食糧難が出てくるね。2つめの問題は何年、何十年、下手をすると何百年も空にいなくちゃならない。そうなると必ず出てくるものがある。それは何だね?ミザリー君」

 突然ダークハンターであるミザリーに話を振る。ほれきたよとうんざりした様子でミザリー・キャロルは応える。

「あれだろ。難しいことはよくわかんないけど、要は大地に帰れないことへの不安が大きくなるってことだろ?」

 キセルから火の粉を飛ばしながらステラは言う。

「うん。大体いいね、その不安も問題になる。3つめの問題は退屈ってやつだよ。生産施設もないし、人がそんなにいるわけでもない。必ずどこかで行き詰まりになるんだ。それらすべてを回避するために上帝ってやつが選んだのが…」

 

「不死…ですね」

 ステラの後をバードのコリー・バラードがつなぐ。

「そう。不死だ。それさえあれば今さらっと挙げた問題は大体解決するからね。まあ、退屈についてはどう対処してたのかは分からないけどね。それでもって上帝は天才的な機械技師ときてる。それなら後は分かるだろ?」

「そっか。城の居住者すべてを機械へと変えたわけね。機械なら、空腹で死んだり、病気で死ぬこともない、退屈だと思うことも出来ないから…」

 悲しそうにフィリアがつぶやく。

「城を徘徊してる機械の類はたぶん、それらの成れの果てなんじゃないかね。そしていまだに上帝の研究は終わっていない。その証拠に、樹海で全滅したパーティが城へ連れ去られたりとか、そういう伝説があるだろう?あれは本当のことだと思うね。冒険者の死体から今も不死を研究している。こんなところか。ああ、迷宮中で出くわしたキマイラやスキュレーもその一端であると考えられるね」

 

 そういい終えるとキセルから灰を落とし、包みにしまい、懐に戻す。

「まあ、君たちがこれらの背景を深く考える必要はないさ。それより私個人としては、聖杯の力によってホーマー君が元の姿に戻れるのかに興味があるね」

「あたしとしてもホーマーを戻すことが先決だね。」

「悲しい話だけど、私もホーマーをもとに戻すことが今の最重要課題だわ」

「私は、聖杯を早く病床の王に献上しなくてはなりませんね。」

「ホーマーさん。少しは自分のことを気にかけてください。随分と女性らしい仕草をしてるし」

 あきれ気味にコリーが言う。

「こればかりは仕方のない問題だと思っているので。戻れなくてもそんなに問題はないと思うのですけどね」

「君が元に戻れないと困る人間が少なくとも2人はいるんだがねぇ。まったく騎士様とやらは本当に鈍い。フィリア嬢もさぞ苦労しそうだね」

 ステラはフィリアに耳打ちをする。

 しかしフィリアはそんなものには当に慣れたとばかりに、

「それについては覚悟しています。必ずあの人を振り向かせて見せますわ」

「うん。その意気だね。少女よ」

「まあ、あたしは全力でそれを阻止するけどな」

 ミザリーはポツリとつぶやく。

「ホーマーはあたしの幼馴染なのに、なんであんな、泥棒猫が…」

 

 ホーマーは懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。

「よし、休憩は終わりですね。そろそろ探索を再開しましょうか。現在は23階、上帝の言葉どおりなら凶悪な怪物が出るそうですからね。みなさん、気をつけていきましょう」

 一行の探索は続く。

 




初見ジャガーノートに蹴散らされたのも今となってはいい思い出。


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